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ハコブネ  作者: こーひーめーかー
第三章
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第三章 010 襲来

「あり、ばば……? アリババって、()()?」

()()かは分からんですけど、フルネームは”アリババ二世(にせい)”です」


「二世……」


 アリババに息子が?? そんな下らない事を考えた。絶対無関係だ。

 さて、そんな彼は、この大都市の住民なのだろうか。俺にはそうは思えなかった。彼は、白い布を纏っている訳だが、他の人間はもっと凝った服を着ている。俺の前世でよく見たような、若者らしい服だ。それに比べてコイツは白地の布一枚……。靴すら履いていない……。


「あ、あのさぁ」


「はい?」


「あ、いや、何でもない」


 ちょっと威圧された。俺は尻込みする。顔面そっくりな癖に圧がつえぇな……。


「ねぇねぇ! なんか用なん?」

「え……あ、いや……そ、そういう訳では……」


「ん?」


 おやどうしたんだ? 天羽に話し掛けられるなり(ども)っちまって……ははは、おいおい女子に免疫ねぇのかぁ。ビビらず会話すりゃあ良いのに~。緊張感出しちまう方がキモがられるんだぞ~?


「アハハ! ヤバッ! 反応、にとリンとおんなじナンだけど! どこまで似ての! アハハ!」

「え」


「……何だか不愉快ですね……まぁいいっすけど」


「……で? ホントに何の用事何だ? エレベーターの弁償なら勘弁だぞ……」


「……さっき言ったんだけどなぁ……ちゃんと聞けよ」

「てめぇ」


「兄弟ゲンカすンなし」



「さっきお二人が、”ギンモウさん”を倒すだとか、そんな事言ってたでしょ……それを止めに来たんですよ」

「……いや、そういう訳には行かねぇんだ」


「どうしても?」

「ん。おう……じゃ、じゃあ何で逆にダメなんだよ」

「そりゃあだって、”ギンモウさん”はこの街の統括者で……”動力源”だからっすよ」


「ど、動力……? ギンモウって生き物じゃねぇの?」


「半分生き物で半分人口知能なんす……”AI”ってご存知っすか?」


「あ、あぁ……」


「”ギンモウさん”がもし退治なんてされたら、この施設は統括者を失うだけでなく、存続自体も出来なくなってしまう。困る人多いんですよ。なんせこの都市には、一万人の方が暮らしてるんす」


「一万……」


 ”シャーポン”の時も似たような展開だったな……。フロップリズムが他者の生命線になっているパターン……。あの時は結局、ジャーポン自身が極悪人で、子供の引き取り先も見つかったから良かったが……一万人か……。


「外に住むとかできない感じなん?」


「外……えっと、そ、それはど、どういうことでしょうか、えっと」

「あ。ウチの名前? 天羽めろんね!」

「あ……天羽、さん……」

「固すぎ! てか”めろん”って呼んでくんない?? ウチ、ソッチの方が好きなんだよね!」

「え、っと、じゃあ……めろんさん……へ、へへへ」


 おい。何俺より仲良くなってんだ。同じ顔なだけ、余計ムカつくな……。

 まぁそれは良いんだ……うん、良いんだ、俺は元々女子と仲良く出来るタイプじゃねぇし……話を戻さねぇと……イチャイチャしてる場合じゃねぇ。


「な、なぁアリババ……! ギンモウは何処に居るんだ……?? 一旦会っておきたいんだけどさ……」


 ジャーポンとは規模が異なるとはいえ、どんな状況にも何か打開策、ないし折り合いの付け所がある筈だ……。そういうのを発想するにも、やはりギンモウの情報が欲しい。


 ……さて、アリババは怪訝な顔をした。天羽との会話を邪魔されたからか? コイツは本当に性欲丸出しだな。俺とそっくりだ。


「……あの、言っときますけど、”ギンモウさん”は呼び捨てにしない方が良いです」

「えぇ?」

「”通報”されるんですよ。悪いことは言わないんで、この街に居る間だけでも敬称付けときましょ。他所の家に行った時に目上の人を呼び捨てにするんすか? あ、友達の家とか行ったことないか、貴方みたいなタイプは」

「……”俺みたいなタイプ”だぁ? お前も似たようなモンだろ! 人の顔でデレデレしやがって! 去勢の一つでも考えてみたらどうだ?? お前の遺伝子なんて後世に要らねぇんだよ! ばか!」


「二人とも早口すぎン? やっぱ似てるよね?? ウケる~」


「似てない!」

「に、似てないで、すよ~。へ、へへへ……笑顔可愛い……」

「いぇ~い! いいっしょ?」


「と、というか、ボクも”さん付け”したくてしてる訳じゃないっす……」


「え? そうなんか?」

「……その話は後にしましょう……取り敢えず話せる所に行きましょう……街の人がコッチ見てます」

「あ」


 言われるまで気付けなかった。男女問わずが、無機質な眼差しをコチラに向け、また携帯電話(スマホ)の様な機械のカメラレンズも、容赦なくコチラに向けてきている。


「何してンの? あの人達」

「証拠写真でも撮る気なんでしょう……ギンモウさんへの反逆思想の有無は、街の人が相互で監視し合ってるんす」


「なんか昔を思い出すわ……」


 学校時代のあの頃の景色。悪意は眼に宿る。そんな事を肌で実感していた時期があった。見るだけで痴漢だの言われるが、ある種”見るだけイジメ”というのもありえるだろう。


 そんな事を考えていると、アリババと天羽が歩き出した。俺も遅れて後を追う。その間、ずっとカメラレンズが、俺たちに向けられ続けたのだった。



「ゴホン! ここまで来れば人もあまり来ないので……こっからは”ギンモウ”と呼びましょう」

「……なんか今更怖ぇんだけど」

「大丈夫。ココが穴場なのは長年かけて知ってるんで」

「あっそう」


「でさ! ギンモウは何処居ンの? どんな奴なん?」


 俺が聞く前に天羽が尋ねた。もう大分慣れて来たらしい。

 さて一方のアリババは、長く黙って何かを考える。まぁこんな一般町民に居場所が知れてる様な存在ではないんだろう。やはり手分けして探すしかないか。


 俺がやや諦めに入った時、アリババが指を一本立てた。なんだ? まさか報酬金でも要求する気か? 指一本の相場はいくらだ? 百万? 一億? 交渉の初期値は慎重にいかなくては……足元を見られてしまう。


「げ、現金な奴だな……一万で良いか?」


「違うっすよ。”上”に居るんです」


「…………ん? 上……って、ココが最上階じゃねぇの?」


「ボクもそう思います……けど、ボクの記憶が確かなら、ボクは上の階からこの街に降りてきました。ほんと、記憶が確かなら、ですけどね」


「……そ、そっか……で? 隠された四階があんのか、それとも屋上があんのかは知らねぇけどさ、どうやって昇りゃあ良いんだ?? 方法ねぇのか?」

「そう! そこめっちゃ重要じゃンね!」


「……それを覚えてないんすよね」


 う~ん困るなぁ。結果迷宮入りじゃねぇか……。でも、エレベーターにも表記は無かったし……。


「ねぇねぇ! あーし考えたんだけどさ! フレア様に飛んでって貰ったら良いンじゃね?」

「あ。それ名案だわ」


「フレア……? えっと、上に行かねぇんすか?」


「あぁ、仲間が来るまで待つ……」


「……まぁ賢明だと思うっすよ」


「よぉしそうと決まれば待つ感じで! てかウチ観光したいんだけど!」

「か、観光ぉ? 金なんてねぇぞ」


「……この街で暮らすのに金は要らないっすよ」


「え?」

「そうなン?」


「えぇ……遊ぶのにも、食べるのにも、映画見るのにも……金と言う概念そのものが無いです」

「楽園じゃん! え! 速く行こ!」


「お、おう……でもさぁ町民に通報されたらどうする? 俺ら部外者だぞ?」


「部外者ってだけなら大丈夫だと思うっすよ……あくまで彼らは、反逆思想を取り締まるだけ、みたいな感じなので」


「よし! じゃあ今だけは”ギンモウ様万歳精神”で行くしかないっしょ! れつごーれつごー!」


「お前も現金な奴だな…………なぁ、アリババ」

「何すか?」


「金の概念無いのに、何でお前、金の事知ってんだ?」


「は?」


 ふと浮かんだ疑問だった。何故だろうという単調な疑問。しかしアリババは、即答することなく黙り込んでしまった。どうして? 余計に疑問が生まれる。



 その時だった。上空から、”豪快な野太い歌声”が聞こえて来た。何度も聞いた事がある、”アイツの歌声”だった。


「あ。何か居るくね? 建物の上……!」


 天羽が上空を指差した。俺もつられて、ゆっくり視線を上げる。

 そして、視界に”二つの人影”を捉えたのだ。



「フハハハ! 今度は何じゃァこりゃァ! すげェ景色だぜェ!! なぁ()()()()()()!!」

「はい。本当で御座いますわね」


「フハハハ! よォよォ! 親玉ってのは何処だァ?! 宣戦布告だぜェ!! フハハハ!」


 その時、”緊急サイレン音”が大都市に鳴り響いた。空襲警報のような不気味な不協和音と、何とも聞き取りにくいアナウンス。これが”通報”というモノなのだろうか。



「な、なぁ! アリババ! 通報されたら何が起きんだ!? あ、アリババ……?」

「あれ? え? アイツどこ行ったン??」


 アリババが消えた。よく見れば、街中の人々も一切居なくなっている。何が起きようとしているのか。俺は思わず大通りに飛び出して、街を精一杯に見渡してみる。


 その時、俺たち以外の人影を一つ見つけた。


 あれは、騎馬兵だ。例えるなら武田騎馬隊。いや、一口に騎馬兵とは言えない。あれは()()()()()()だ。鎧を纏ったケンタウロスである。

 そして何より、その者が背負っている旗には、”六芒星のマーク”が描かれているのだった。

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