第十三話 撃たれた
緊迫というのは匂いを持っているようで、忠次はその懐かしい匂いを感じ取っていた。だが、それはアレクサンデルも同じで、そしてアレクサンデルはベルの姿をしている忠次を瞬時に庇った。何が起きても少女を守れるように、と。
少々薄汚れた服装の男たちが、店内に雪崩れ込んできた。そこにいたお針子の一人が、思わず声を上げる。
「うわ!?」
それを気に入らないのか、邪魔だと言わんばかりに侵入してきた男たちの一人がお針子を突き飛ばした。デザイナーもお針子たちもアレクサンデルも忠次も、そこに男たちの敵意が確としてあることを認識する。
ようやく背中から顔を出した忠次とアレクサンデルが飛び出す前に、一人の男が歩み出た。目深に被ったつばの広い帽子に、外套ですっかり口元から足元まで隠している。
「よう、兄さん。ちょっとツラぁ貸してもらえるか? お嬢ちゃんもな」
「貴様、何を」
「おっと、動くなよ。銃くらい見て分かるだろう?」
歩み出た外套の男の手元に注目が集まる。握りしめた黒鉄の短銃は、アレクサンデルへと銃口を向けていた。
ほぼ同時に、他の男たちも同型の短銃を見せつけるように手にする。忠次の見立てでは主格の外套の男のほか、ざっと五人。武装した集団の前に、非武装のデザイナーやお針子までいては、さすがにアレクサンデルも動けない。背後にベル——守らなくてはならない『お荷物』までいるのだから、忠次は歯噛みする。
(飛び出たところで無意味、それはあれくの旦那も分かってるだろう。隙を見つけて、ってところか)
予想どおり、アレクサンデルは両手を挙げ、侵入者の要求を呑む。
「分かった、我々だけでいいのなら」
「ご理解が早くて助かるよ。その前に」
外套の男は、こともなげに暴挙に出る。
黒鉄の銃口が下を向いた。しまわれるのかと思いきや、つんざく発砲音がしたころには、アレクサンデルの左太ももが撃ち抜かれていた。
滲み出る傷口を押さえ、アレクサンデルが膝を突く。
「ぐうぅ!?」
「あれく様!」
短い悲鳴がいくつも生まれる。だが、男たちは気にしない。
「騒ぐな、足に一発撃たれたくらいで死にやしねぇよ。さ、お暇しましょうか」
他の男たちは痛みに呻くアレクサンデルの体を強引に押し出し、店外へと連れていく。忠次もそれに従うほかなく、少女の姿では今は何もできない怒りを抑え、自身の背中を乱暴に押されても黙って従う。店の床に落ちた血溜まりから目を逸らし、デザイナーとお針子たちへ最後に愛想笑いを浮かべてみせた。
ブティックの外に乗りつけた馬車にアレクサンデルと忠次は放り込まれ、同乗した男たちに監視されながら、乗り心地最悪の狭い車内で耐える。
青ざめた顔の少女ベルティーユ——忠次は、ひたすらに頭を働かせていた。
久しぶりの馴染んだ空気に、口角を密かに上げながら。
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