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98.手紙と相談⑦

――――コトッ



「・・・可愛い飾りだね」


革袋から何が出てくるのかドキドキしていたけど、ユリウスが取り出して机の上に置いたのは、黄色い丸石のついた、青色の房飾りだった。



「これは映像記録ができる魔法工具だ」



ユリウスが何やら呪文を唱えると、黄色い丸石が光り、机の上に立体映像が映し出された。

観劇の時に見たブラックドラゴンはこんな感じで映し出されていたのかもしれない。


特殊なゴーグルなどの機材もないのにARのような3D立体映像が写真のようなきれいな解像度で見えるのはやはり不思議だ。



「クロヒョウですか?」

「クロヒョウの魔獣だ」


真っ黒の毛並みに、鋭く長い牙と爪、黄色で鋭い瞳、素早さと力強さを感じさせる体躯は、『前の世界』の動物園で見たことがあるクロヒョウの姿に似ていた。

聞いてみれば、クロヒョウはクロヒョウでも、魔素保有量が多く魔法を使うことが魔獣だった。

正直、見た目だけでは魔獣と普通の動物の見分けはできそうにない。



「実物は5倍ほどの大きさだ。手紙に書かれていた傷の形状から考えられる、襲撃したであろう魔獣だ」



机の上に映し出されたのは、動物園で売られている子供が抱えられるような人形サイズだったので、これの5倍と考えると、『前の世界』のクロヒョウと同じくらいの大きさだろう。


これが、シキの両親を襲った魔獣・・・


立体映像のクロヒョウは鋭い牙が並ぶ口を開けた状態の静止画。


ひと噛みで生き物を殺せそうなその口をみて、身震いした。



「手紙に書かれていた傷口の形状は、大きく分けて2パターン。2本の大きな鋭い牙が特徴的な噛み傷と、鋭く太い3本の爪による引っ搔き傷。ディルタニア家の護衛が襲撃を受けても姿を確認できないほどの素早さと隠密能力を持つ魔獣と考えたのだが、ローキはどう思う?」


「我々も魔獣であれば、クロヒョウだろうという考えです。顎の大きさ、歯の並びからネコ科であること、隠密能力が動物の中でも優れている点でも可能性は高いです。しかし・・・」


「野生のクロヒョウが町中に出現することは考えられない。襲撃した生き物がクロヒョウだったとしても、後ろで操る者がいると考えている。違うか?」



「その通りです。魔獣のクロヒョウと契約している何者かがいる。もしくは、クロヒョウの獣人族の線で捜索しています」


ローキの話を聞いて、ユリウスは頷いた。



「私の意見も同じだ。クロヒョウの生息地はキルネル国とエアルドラゴニア国の国境付近に広がる森。契約者はキルネル国かエアルドラゴニア国の人間である可能性が高いな。獣人族であれば、住んでいるのはピード国。クロヒョウの魔獣は戦闘力が高いことから、エアルドラゴニア国内の人間が契約していれば国の機関に届ける必要があるから把握することはできるが・・・現在生存している人間にはいなかったはずだ」


「ユリウス様のご記憶通りです。記録帳では25年前に生きていたディルタニア家分家の人間が1人、クロヒョウと契約していた人がいましたが、現在は国内にいないことになっています」


「そうなれば、キルネル国の人間か・・・他国の契約者の把握は時間がかかるな。入国記録から絞り込んでいくしかないか。あとはピード国の獣人族の線だが、ピード国の獣人は入国自体も厳しいうえに、行動記録を付けられる。アルティミア祭に向けて入国は増え始めているが、クロヒョウはいなかったと思うが?」


「はい。こちらもご認識の通りです。入国記録はありませんでした。クロヒョウの獣人族はそもそも希少で、そのほとんどが人型です。傷の形状からして、獣人族でも獣型でなければ傷と一致しません。なので、キルネル国の契約者の線が濃厚と考えています」



襲撃者もキルネル国の契約者・・・暗殺人形もキルネル国製。

これはもう、キルネル国からちょっかいをかけられているとしか考えられない。



「襲撃者については、私からは以上だ。目新しい情報がなくて悪いな」

「いえ、博学のグレイシャー家のユリウス様のご意見と一致しているというだけで、心強いです」



ユリウスとローキの会話で、ディルタニア家の捜査状況を把握できた。

すでにかなり情報が集まってきていたようだ。



「他に何か私に聞きたいことはないか?」


ユリウスからの問いに、ローキは考えるような顔をして黙った。

聞きたいことは多いけれど、言えないことが多いので考えているのだろう。



そういえば・・・



「『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』の『ニセモノ』って知っていますか?」


暗殺人形を見ていて、ふと、操り人形が頭によぎった。

操り人形には糸があるけれど、暗殺人形には糸がない。


糸・・・ランスが言っていたファクタ国製の本物と、ストル国製のニセモノ。

国も違うけれど、同時期に国内に入って来た国外のもの。


なんだか違和感を感じて聞いてみたくなった。



「ストル国の人工石で作られた糸のことか?あれは前に色々実験に使ったが、今のところ有効利用する方法がなくてな・・・それがどうした?」


ユリウスは当然の様に応えてくれた。

やはり、貴族の中では有名な品で、今回の件とは関係はなさそうだ。



「いえ、今回のこととは関係なさそうなんですけど、『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』の本物とニセモノが珍しい糸ってことで最近国外から入って来たと聞いたので、なんとなく・・・」



「本物があるのか?!」

「その話はいつ誰から聞いたのですか?!」



2人の反応が全然違った。



好奇心でキラキラした目をしたユリウスと、怒りを含んだ怖い目つきのローキ。


くうっ・・・絶対余分なこと言っちゃた・・・



「あー・・・私は持っていないのですが、本物を買った人から聞きました。買い占めたと聞いているので、手に入れるのは難しいと思います。いつ誰から聞いたかは・・・ひみつです」


「そうか・・・そうだな・・・本物は希少でなかなか手に入らない。利用方法はニセモノと比べものにならないほど多岐にわたる・・・私も目の前にあれば買い占める・・・仕方がない」


がっくりと項垂れてしまったユリウスには申し訳ない。

ランスに言えば分けてくれるかもしれないけれど、それは権力で奪うみたいで嫌だ。



「・・・アリステア様」



ローキの顔が怖い・・・どうしよう。

ランスと小型通信鏡で話したのがバレてしまう。

それにサプライズプレゼントの件もあるし、襲撃に関係ないのであれば、できれば詳しく話したくない。



「珍しい糸、『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』にニセモノと本物があるのですか?」


ローキは、なかなか話そうとしない私から、ユリウスへ話を移した。


「珍しい糸と言うと、色々あるが、『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』となると限定される。エルフとドワーフ族が作る希少な天然の鉱物を素材に使うファクタ国製の魅惑的な緑色の本物。ニセモノは、見た目がばかりが豪華な金色で、人口魔法石を材料に使っているストル国製だ。エアルドラゴニア国には両方ともほとんど入ってこないが、一時的に上流階級の中で流行った品物だ」


「ユリウス様でもなかなか手に入らない素材なのですか?その本物は」


「入らないな。ファクタ国の品を手に入れるには、どんなものでも関係を築くとこからはじめないといけない。私も伝手はあるが、糸職人に直接つながっていないからな・・・ニセモノは国外であればいつでも手に入れられる」



ユリウスの話を聞いて、ローキは難しい顔をした。


「妙ですね・・・アルティミア祭が近いとはいえ、国外の品物や不穏なものが入りすぎている気がします」



「そうだな。希少価値の高い珍しいものは私としては大歓迎だが、ニセモノや害になるものは興味がない。不要なものが出回るの煩わしいから入出国者と輸入品の監査と管理周りを調べてみるか」


「我々も・・・」


「できるのか?どこが監査と管理をしているか知っているだろ」

「王宮・・・」


「そうだ。資料は王宮に保管されている。人から聞き出すのはお前達の情報屋でもできるだろうが、王宮内に保管してある資料となれば難しいだろ?私は・・・まぁ、色々な伝手があるからな。私自身のためについでに調べてやろう」



黒水晶のピアス・・・王宮内でも使える隠密アイテム。

あれを使う気なのだろう。

それに、ユリウスが調べたいのは、本物の糸を最近手に入れた人物についてだと思うが、協力してくれるのはありがたい。



「そうとなれば、早速私は準備に取り掛かろう。これで失礼する」


そそくさとユリウスは帰る準備を始めてしまう。



「え、でもまだ時間が・・・」


「アリステア。君は自分の専属護衛と話をする必要があるのではないか?」


ユリウスに言われてローキの方を見れば、ユリウスがいるにも関わらずお怒りの感情が隠せていない。


これは・・・確かにヤバそう。



「何か分かれば連絡する」



そう言って、ユリウスは部屋を出て行ってしまった。




「あの・・・」


「時間ができた。いい機会だから今回のことと、今まで聞けなかったお前自身のことを話せ。『じっくり話さなきゃいけない案件』と言っていたやつだ」


じっくり話さなきゃいけない案件・・・『前の世界』の事・・・




もう、ローキに隠しておくのは無理か・・・


「わかった。話すよ、座って」



さっきまでユリウスが座っていた椅子にローキが座るのを待って、私は話だした。


『前の世界』と『今の世界』の『私』について。


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