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96.手紙と相談⑤

「どういうわけか知らないが、アリステアを抱えたままでは授業にならない。降ろせ」



書斎に入室してきたユリウスは、私達の姿をみて、あきれたような表情でため息をついた。

ローキはなぜか書斎についても私を降ろしてくれず、降ろしてほしいと主張しているところにユリウスが到着したのだ。



「今日は授業ではないと伺っています。私も同席させていただきます」


「話の件は聞いているのか・・・今まで同様に同席することは構わない。が、そのまま抱えた状態では話にくい。降ろせ」


「あなたの指示には従いません」



ローキの謎の主張の意味が分からない。

いつものローキの行動から考えて、意味のないことをするとは思えないけど・・・何の意味があるのだろう。




「・・・アリステア」


「ごめんなさい、ユリウス。ローキ、いいかげん降ろして」


「嫌です」



あっさり拒否。

ローキが駄々っ子になってしまった。

私、主だよね?



「アリステア、こいつがこんな状態になったのは、私とお前が授業で話をすることを伝えた後か?」

「そうです」



抱えられた時に、なんでって聞いたら「そういう気分」なんて答えられたけど、どんな気分でこんな駄々っ子になるのかさっぱりわからない。



「ふむ・・・ローキ、私とアリステアがやりとりした手紙だが、これはまだ検証中のものだ。本来はまだ人に渡せるものではないが、別件のやりとりでが増えて、安定的に使えることが分かってきた。未完成品であることを承知で、いるか?」



「・・・どのような仕組みですか?」



「紙と封蠟に特殊な魔法が組み込んである。封筒の中に入れる紙に宛名を書き、封蠟で封をする。封蠟に魔素を流すことで魔法が発動し、宛名の元へ自動的に転移する。封筒の中に入れて送れる紙の上限の枚数は10枚。転移先範囲は国外は未検証だが、国内であれば問題ない。家同士の結界も引かからない。宛名は愛称などでも構わない。名前を書くときに、明確に相手を思い浮かべているかどうかが重要だ。宛名の人物がそばにいることが条件だが、具体的にイメージできれば場所の指定も可能だ」



この直通の手紙、私がはじめてもらった時には紙の束と封筒だけだった。

しかし後日、『専用の封蠟を使うことで、効果が増したのでこれを使え』っと封蠟も渡されていた。


今の話を聞く限り、私が手紙を送らないでいるうちに検証が進んで、転移場所の指定ができることや、最大枚数量などが分かってきていたようだ。


私、全然協力できてなかったね。




「なるほど。いただきましょう」


ローキは鷹揚に頷きながら答えると、私を椅子の上に降ろした。



なんてことだ。

ローキは魔法の手紙が欲しかったのか!



私が座ると、いつもの授業のように、ユリウスは机を挟んで椅子に座り、ローキは私の斜め後ろに立った。




「ローキは優秀だな。隠密の情報収集の疑いを黙認する代わりに、私から知識と物を得るか。専属護衛というより、執事か秘書にむいているのではないか?私の秘書に欲しいな」


「執事も秘書もこなす自信がありますが、アリステア様以外の方にお仕えする気はありません。情報収集の件は、今お約束いただいた現物とともに旦那様と奥様に報告いたします」


「それは残念だ」



言葉では残念だと言いながら、ユリウスは全く動じていないようだった。

しかし、私は真っ青だ。


お父さまやお母さまに話が伝わってしまったら、私から家の情報を聞き出そうとしたスパイ容疑がかけられてしまう。

しかも私が書いた内容はしっかりお家情報だ。



「検証が終わって、実用向けの商品となったしても、この手紙が世の中に与える影響はかなり大きいですよね。こんな危ないものを世に出すのであれば、有力貴族の賛同が必要なはず。つまり、アリステア様を介して世に出る前に旦那様と奥様が知り、政策に協力することでお互い利になることがあるとお考えですか?」


「私はグレイシャー家とは言え、末席の末席のしがない貴族だからな、3大公爵家のディルタニア家にとって利があると思っていただけるのなら、ありがたいな」


「そうやって共犯を作ってパトロンにするのはあなたの手ですか?アリステア様を巻き込まないでいただきたい」


「アリステアは私の教え子で、将来は私の助手候補だ。それならば今から共同製作者として実績を積んでいる方が拍が付くだろう」


「あなたの助手になる予定はありません」


「先のことは分からないものだ」



・・・さっぱり、わからない。

ユリウスのスパイ容疑に青くなっていたのに、なんだか話が商品化とかパトロンとか、助手とか・・・話が飛び過ぎだ。



「お前の主人が話についてこれてなくて、青くなっているぞ」


ユリウスが私の表情に気が付いて、ローキに説明するようにうながす。



「・・・結論から言いますと、あなたが心配している結果にはなりません」


「ローキ、結論すぎて全然わかりません」



「アリステア様はユリウス様との手紙のやりとりが罪を問われるのではないか心配されていると思いますが、その心配はありません。むしろやりとりが伝わることを見越して、この手紙を実用化するときにご両親から資金や販売許可の後押しを得ようとしていたのです」



「つまり・・・私を通してお父さまとお母さまに宣伝していたと?」

「そうです」


「でも、悪用しようと思えば悪用出来るよね?」

「できますが、そこは信用の問題ですね。そもそも授業でグレイシャー家の知識を得るのでアリステア様から漏れる程度の情報は許容範囲と思われていると思います」


「助手っていうのは?」

「ユリウス様の妄想です。そこは忘れてください」


「妄想ではない、実現可能な希望だ」




なんだか、相談したい内容にたどり着く前に疲れてしまった。

ユリウスにスパイ容疑がかけられなくてよかったけど、この世界では手紙のやりとりをするのも大変だね・・・

気軽にできたメールやチャットが懐かしいよ。




「で、手紙に書いてあった内容だが・・・ローキが知っているという事は、私に話して問題ない内容でいいんだな?」


「問題だらけですが、もう知られてしまったのなら仕方がないです。内容は・・・ギリギリ大丈夫そうですし。相手があなただから・・・という条件付きなので、内密にしていただけるとありがたいです」


「・・・すみません」



ユリウスからしたら、手紙自体は実験の検証と宣伝目的だったのに、私が書いた内容はがっつりお家情報・・・

なんだか、信用を裏切ったみたいで申し訳なくなる。


ローキの視線が痛いし、ユリウスの視線は残念な子を見るような感じだ。



「なるほどな。もともと外部との手紙のやりとりにおいて、線引きを身に着けさせる目的もあったからいいが、まさか1通目から書いてくるとは思わなかった。すでにローキから指摘されているならば、私が講師として指導する必要なさそうだな。私としては信用してくれていることは嬉しいが、さすがに心配になった、とだけ言っておく」



「・・・気を付けます」




「さて、本題に入ろう」


ユリウスはそういうと、懐から私にくれたものと同じ革袋を取り出し、その中からさらに、黒い靄を纏った木製の人形を取り出した。



「「なっ!!!」」



私は聞いただけだけど、ローキの驚きようからして、きっとルドリーはこんな感じ見えたのだろう。


美術やマンガを描くときポーズの参考にする木製デッサン人形に黒い靄が巻き付いている。

ユリウスが取り出した人形のサイズはデッサン人形と同じくらいだが、きっとルドリーはこの大きいバージョンが動いている感じなのかもしれない。


こ、これは不気味だ・・・剣を向けたくなる気持ちわかるよ。



「ユリウス、これって・・・」


「これは・・・キルネル国製の暗殺人形だ」


「キルネル国?!」

「暗殺人形?!」



「順を追って話そう」



どうやら、ユリウスに事前に相談したのは大正解だったようだ。


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