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94.手紙と相談➂

糸屋の店主曰く、美少女の様な見た目の服屋の店員が、最近よく店に来るようになっていたそうだ。



糸屋は街でも老舗の店で、最近話題の新しい服屋が貴族ばかり相手にするやり方が気に入らなった。

その新しい服屋の店員である美少女の様な店員は、糸屋の店主としては歓迎できない客だった。


頻繁にやってくる店員は愛想よく店主に話しかけてきては、珍しい糸が手に入ったら教えて欲しいと言った。



長く糸屋をやっている店主は、エアルドラゴニア国内だけでなく、国外の糸屋とも繋がりがあり、店主の元には多種多様な糸があると業界内では有名だった。

そして、店主と仲良くなると、通常店頭に並ばないような珍しい糸が手に入った時、こっそりと好みのものを売ってくれるという噂があった。



ランスは幼いころから工房長と共に糸屋を訪ねていたので、糸屋の店主はランスのことを自分の子どものように思っているらしく、珍しい糸の情報をいつも最優先で教えてくれるほどの関係だった。


そのせいか、糸屋の店主はランスには、お客の愚痴をこぼすときがあった。

その美少女のような店員の話も、いつものように「適当にあしらってやった」、っと少し自慢げに話すのだろうと思っていたが、今回は違っていた。



店主は親しくもなっていないうちから「珍しい糸」を要求する美少女のような店員のことも、好きにはなれなかった。

糸は売っても表面上だけのやりとりだけで、店の奥にある本当に良い物や珍しい物は売らなかった。


それでも執拗に、美少女のような店員は店に来るたびに特別扱いを要求してきた。


嫌気がした店主は、他の客がいる前でもお構いなしに美少女のような店員を追い出そうとしたが、店内にいた別の客に止められた。

美少女のような店員は、お貴族様達のお気に入りで、無下に扱えば糸屋の店主が貴族から悪く言われるような状況になるかもしれないと忠告してきた。



もともと貴族をよく思っていない糸屋の店主からすれば、そんなことは脅しにもならないが、その時、ちょっとしたイタズラを思いつき、そしてそのイタズラに丁度良い品が近々手に入る予定であることを思い出したのだ。



後日、糸屋の店主は珍しい糸が手に入ると、美少女の様な店員に連絡した。

よほど嬉しかったのか、連絡した翌日には店に現れたので、早速『イタズラに丁度よい糸』をすべて売った。



その『イタズラに丁度良い糸』が『ニセモノ』の糸の事らしい。



『ニセモノ』とは言ったが、糸屋の店主も粗悪品を売ったわけではない。


糸としては上質の部類だが、効果が本物よりも劣る、劣化版として作られた商品だそうだ。



ランスの購入した緑色の糸は、エルフとドワーフ族が住む国、ファクタ国に伝わる技術で作られた『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』。

クラウン級の魔法も付与できるほどの強度がある。


しかし、美少女のような店員に売った糸は、見た目は綺麗な金色で本物と同じく『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』ではあるが、付与できる魔法の量も質もくらべものにならないほどわずからしい。



もちろん、金額もそれなりに差をつけているし、『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』であることは間違いないので、詐欺ではない。



なぜ、劣化版の『ニセモノ』なんてものがあるのかと聞くと、客の需要に対して供給があまりにも少なかったためらしい。



エルフとドワーフ族が作るファクタ国製の『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』は希少な天然の鉱物を素材と使うため、作れる量自体が少ない。

だが、良い物の情報は上流階級の中ではすぐに広まり、作れないと言っても、なんとか手に入れろと無理難題を言われて困っているところに、ストル国の商人たちが『ニセモノ』を持って現れたそうだ。



ファクタ国製とは異なり、ストル国製は天然石を使わずに、人口魔法石を材料に使うことで増産が可能にした。


ファクタ国ははじめこそストル国を非難したが、効力も価値も異なる為、ストル国の作った人工魔法石をつかった『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』の『ニセモノ』の販売を、見て見ぬふりをするようになった。


はじめは流行りもの好きの上流階級の間で喜ばれたが、本物とは全く質が異なることが分かると、売れなくなった。

しかし、貴族に憧れた富裕層の平民にとっては、丁度良い商品として未だに取引され、訳知りな客がこっそりと買い求めてくるようなものとなったそうだ。


魔法に敏感なエアルドラゴニア国には、魔法を付与できる他国の物が安易に入ってくることはない。

そのため、本物も『ニセモノ』もほとんど輸入されることはなく、国内においてはどちらも珍しい糸という扱いらしい。



気に入らない貴族と店員に、望み通り『珍しい糸』である『ニセモノ』を売った・・・という話だった。


ランスからしたら、そのニセモノをつかまされた貴族も店員も気の毒に、っと思った程度で、すぐに目の前にある本物の持つ魅力と、創作意欲に意識が移ったそうだ。




話を終えると、小型通信鏡に映るランスは、青い顔で居心地の悪そうにソワソワしていた。


私が気にしていた、金色の『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』が『ニセモノ』だった・・・

ランスはきっと、ルドリーが買った『ニセモノ』が私の手元に届いたのだと思っているのだろう。


ランスにとっては、糸屋の店主は古くからの親しい人だから気が気ではないはずだ。



現状、『ニセモノ』は私の手元には届いていない。

だからこそ、今の話を聞いて、ランスになんて言っていいかわからない。




・・・うーん・・・


簡単に言ったら、美少女のような店員がルドリーで、ルドリーは糸屋の店主さんに嫌われてて、店主はいたずら心で『ニセモノ』を売ったって話よね。


ルドリーが糸屋へ行った日、偶然にもランスも糸屋へ行き糸を購入して、店主から話を聞いたのはすごい運命的確率なんだろうけど、だからと言って、この話がシキの両親を襲撃した人につながる気がしない。


他に気になることと言えば、魔法付与可能な鉱物が少しでも使われているのなら、それが原因でルドリーが魔素乱れを起こしたのではないだろうか?




「その『ニセモノ』の影響で、子どもが魔素乱れを起こすってことはない?」


「え?!い、いいえ!魔素乱れを誘発するような物は存在しません」


「物はないけど、誘発自体はできるの?」


「誘発・・・と言いますか、その場所へ行くと乱れると言われている場所はあります。魔素の溜まり場と言われる、自然界にまれに出現する、高濃度の魔素が渦巻く場所です。深い森や山にあると言われていますが、人々が住むようなところには出現したという話は聞いたことはありません」


「そうなんだ・・・」



魔素乱れの原因とも関係がないとなると、やはりこの話は関係がなさそうだ。

今度珍しい金色の糸が使われたものが納品されたら、それは『ニセモノ』だ、といううことは覚えておこう。



「アリステア様・・・」


心配そうにしているランスの不安を解消してあげなくては。



「ランス、話してくれてありがとう。助かったわ。糸屋さんは私が気にしていた件とは関係なさそう。別に何も悪いことはしていないし。まぁ・・・イタズラはほどほどにって言ってあげて」


「よ、よかったです」



安心したように息を吐くランスに、悪いことをしてしまった。


「急に連絡してごめんなさいね。納品、楽しみにしているわ」


「はい!がんばります」



笑顔のランスに別れを告げて、小型通信鏡の通信を切る。




ランスの話に手掛かりはなかったけれど、明日にはユリウスと相談もできる。


私とローキとユリウスで話し合えば、何か糸口が見つかるかもしれない。

三人寄れば文殊の知恵!っていうもんね!



その時の私は、翌日ローキに色んな意味で怒られることになるとは思いもしなかった。



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