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93.手紙と相談②

ルドリーの見張りを開始した日の夜。

私は予定通り、小型通信鏡でランスに連絡し、私の専属になってくれた人たちへのサプライズプレゼントになるようなものはないか相談していた。


長く身に着けられて、邪魔にならない小ぶりなもので、何か贈り物になるような物はないかと。



「そうですね・・・やはりブローチや指輪、ネックレス、ブレスレットが定番です。騎士であれば剣の飾りなどもありますが・・・」



うーん・・・指輪は、ユリウスがローキの混ざり者を隠すために作ってくれている気がするし、ブローチは任命式で渡している。


消去法でネックレスかなぁ・・・あとは




「アンクレットってどう?」


「アンクレットとは、どういうものですか?」




この世界で時々感じていた言葉の違和感。


ランスは仕事柄、装飾品に詳しいはず。

アンクレットを知らないという事はあるのだろうか。


サクラは通じないけど、ライオンは通じる。

ラジオ体操や座禅は分からないけど、イメージトレーニングという言葉は通じる。


『前の世界』にしかなさそうな固有名詞でも通じるときがある。


単純に受けての知識不足というより、この世界に同じ名前のものが存在しない時や、概念がない時に通じないような感じだ。

基本的な会話は問題ないが、特定の言葉のみ、翻訳するのに該当する単語が見つからなくて伝わらないような感覚。


この世界で『私』が目覚めた時には、文字は書けないけれど言葉は話せた。

シンプルに『アリステア』の言語の勉強不足かとも思ったけれど、基本文字や言語の勉強が進むにつれて、なんだか微妙な違和感を感じていた。



「アリステア様?」


「あ、ううん。なんでもないの・・・アンクレットというのは足首に着ける装飾品なの。デザインや素材は色々あるけど、ブレスレットと同じようなものが多いかな」


「・・・・女性だけでなく、男性もそれを身に着けるのですか?」



そういえば、『前の世界』では、男性も身に着けている人はいたが、この世界では女性はパンプスやサンダルのような靴はあるが、男性は足首が見えるような靴を履いている人を見たことがない。



・・・アンクレットという文化自体がないから、単語が通じないのかもしれない。



この世界の『アリステア』の記憶は6歳までのもの。

『私』は30歳オーバーなので、持ってる知識量に差がある。



この世界にあるものとないものの区別がつかないから、この世界では一般的ではない謎の言葉を突然話してしまうリスクが常にあることになる。

今のように、私が言った言葉に相手が「知らない」と言われた時の反応に困る。



誤魔化すのが無難かな・・・これからはもっと気を付けなきゃだね。




「うーん・・・つけている人はいるってっ聞いたことがあるけど、実際はどうなのかわからないの」


「そうですか・・・私も貴族社会についてはまだ勉強中なので、もしかしたらそういうものがこっそりと人気があるのかもしれないのですね。大人になると足首は他人に見せることはありませんので、親しい人たちだけが共有する特別なもの、という意味でしたら贈りもとしても良いものではないでしょうか」



アンクレットという文化がないのに、受け取った相手は困るかもしれないけれど、他人から見えないならきっと問題ないだろう。



「そうだね・・・うん。アンクレットにしようかな!あと、見えないならお守りみたいな機能ってつけられないかな?」

「お守りというと、守護魔法を組み込むという事でしょうか」


「そうそう!激しい訓練もするだろうから、あんまり強力な守護魔法はつけない方がいいけど・・・例えば、命の危機に陥るような危険な攻撃を受けた時だけ発動するようなものってどう?」


「発動の条件設定を指定した魔法・・・条件設定が複雑になりそうですね」


「難しそう?」


「いえ・・・やってみます!少しの動きにも反応するようなものは改良が進んでいますが、極限まで発動を抑えるものは珍しいです。つまり新しい分野への挑戦です!アリステア様の発想はいつも私に新しい刺激をくださるので、本当に嬉しいです」



純粋に新しいことにチャレンジできることを喜ぶランスの姿に、私も嬉しくなる。




「そう言えば、少し珍しい糸を手に入れたんです。それを使ってみます」


「珍しい糸?」


「はい!魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸なんです。なんでも、エルフとドワーフ族が住む国、ファクタ国に伝わる技術で作られたものらしいですが、手触りや耐久性が良いだけでなく、なんともふしぎな魅力がある糸なんです!」



ん?魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸?

どっかで聞いたことがあったような?



「その糸って・・・金色?」

「いいえ?緑色です・・・金色がよろしいですか?金色に染めることはできると思いますが・・・」


「違うの!!ちょっと・・・その、似たような話を最近聞いたから・・・色は緑色のままで使ってくれたら嬉しいわ」

「そうでしたか・・・じつはこの緑色はアリステア様の新緑の瞳の色と似ているので、糸屋さんに見せてもらった時に量が少ないと聞いて、個人用に買い占めただったんです。とてもきれいなので楽しみにしていてくださいね!!」



私の瞳の色に似ている糸で個人用に何を作ろうとしていたんだろう・・・とは聞かない方がいいよね。

きっとランスのことだから、私のために何か作ってくれるつもりだったのかもしれない。



それにしても・・・色は違うけど、珍しい魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸ってルドリーが糸屋さんで買った糸と同じ加工がされているってことなのかな?


・・・その糸、本当に珍しいのかな?・・・




その日はあまり遅くなってはいけないと思い、予定通り、サプライズプレゼントの依頼だけをして、ランスとの通信を切った。






しかし、状況が変わった。


3日後の夜に、ルドリーを見張っていたシキの両親が襲われるという事件が起きた。


『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』について、ランスから話を聞くことで、もしかしたら事件の情報が得られるかもしれない。


ユリウスとの手紙のやりとりの後、ランスへ小型通信鏡で連絡をした。




「ランス?」


「あ・・・えぇ?!あ、アリステア様?!いかがなさいましたか?!」



夜中ではないけれど、寝ていてもおかしくない時間。

話しができない可能性もあったが、ランスはすぐに応答してくれた。


小型通信鏡の小さな鏡に映るランスの姿は、まだ作業中だったのか、作業着の様な服で、大人びてきた顔には黒い油汚れのようなものがついていた。



「急にごめんなさい。今、大丈夫だったかしら」


「もちろんです!!」



いつもよりもテンションが高いのか、照れた表情ではなく、嬉しいという感情が伝わってくる笑顔で返事をしてくれた。





「注文状況の確認と・・・ちょっと相談があって」

「先日依頼してくださった、専属の方々にこっそり贈られるアンクレットですよね!他のご依頼いただいていたものと一緒に、来週にはお渡しできると思いますが・・・相談とはなんでしょう?追加のご依頼ですか?」



「ううん・・・違うの。ちょっと気になったことがあって・・・『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』の事なんだけど」



「そういえば、同じような話をお聞きになったとおっしゃっていましたね」


「うん。『魔法付与が可能な鉱物を織り交ぜた糸』って珍しい糸なんだよね?」


「糸屋さんの店主曰く、そう言っていましたが・・・あ・・・」



急に口ごもって焦ったように視線を動かすランスは、明らかに何かを知っている様だった。




「どうしたの?」


「いえ・・・あの・・・」


「ランス、詳しくは話せないのだけど、今は少しでも情報が欲しいの」



私の必死さが伝わったのか、通信鏡の中に映るランスは、覚悟を決めたような顔になって頷いてくれた。



「実は・・・糸屋の店主が僕に緑の糸を見せてくれていた時に話してくれたのです・・・ある人に『ニセモノ』を売ったと」


「『ニセモノ』?」


「はい。見た目は綺麗な金色だけど本物とは効力がまるで違う『ニセモノ』だと言っていました」



金色の『ニセモノ』・・・・



「詳しく教えて」



ランスは静かにうなずいた。

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