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91.閑話シキ➂

アリステア様以外のディルタニア家の人々との対面は、予想以上に早く訪れた。


全員が、屋敷の外でアリステア様を立って待っている姿を見た時は目を疑った。



金銀に輝く人の形をした、何か・・・やはり、ディルタニア家の人々は神の一族に違いない。

事前に全員の色や容姿については頭にはいっていたが、実物は文字化することの限界を思い知らされた。



あまりにも恐れ多くて直視できずにいると、信じられない単語を当主様が口にした。



『血の誓い』・・・



ローキとアリステア様が?


どうしてそうなった?


ローキは鍛練場にいなかったはずだ、アリステア様と接触する機会すらなかったように思えたのに、実際は専属護衛に選ばれるだけでなく、血の誓いまで?



また一つ・・・ローキとの差を感じて、蓋をしたはずの、ほの暗い想いが溢れそうになる。




なぜだ?

なぜ・・・ローキばかり?



この上なく光栄な任命式も・・・そんなことばかりが頭の中でこだましていた。





それから、毎日必死だった。


タロスさん、タータッシュさんから出される指示や注意点は細かく、訓練とはくらべものにならないほどの情報の処理と技術が求められた。


そんな生活の中でも、わずかに得られるアリステア様との接点は、己に主がいると事実を感じられて、幸福だと思うこともあったし、時には、ローキよりも先に旅の話を聞けたのは純粋に嬉しかった。


しかし、同時にアリステア様とローキのやりとりを見つめることしかできない事実に絶望感も感じていた。


アリステア様とローキの関係の深さを感じるのは苦しかった。




そしてあの日、ルドリーの事件が起きた。

その日も『影』として細心の注意を払いながら控えていた。


扉が開き、他の店員と共にルドリーという人物が屋敷に入って来たはずだが・・・そこには黒い靄がうごめいていた。


屋敷の結界にも、自分の魔法検知にも引っかからないのに、目に映る不気味だと感じる謎の存在に全身の毛が逆立ち、自分の気配が揺らいでしまった。



その瞬間、黒い靄にしか見えない何かから視線を感じた。



―――っ!!しまった!気づかれた?!



同時にローキもこちらを見ていることに気が付いた。

その表情には余裕がなく、ローキも警戒しているのが伝わってきた。



どうするべきだ?増援を呼ぶべきか?!

しかし、あの場には奥様もヒルデもいる。



事前にあんな奴の情報なんてない。

他の店員は事前情報と一致していることからも、やはり黒い靄はルドリーという人物のはずだ。


なぜ、だれもあんな不気味なものと普通に接している?



アリステア様が黒い靄と会話しているのを見て、飛び出したい衝動にかられた。


きっとまた気配が揺らいだに違いない。

ローキが俺の方をにらみながら、わずかに首を振った。



行動するなってことか・・・



ルドリーと店員たちが退出した後、ローキが俺を呼んだ。





ヒルデとタータッシュさんの2人からは新たな情報を得ることはできなかったが、皆、共通して『スーア族』が鍵となるという意見は一致していた。


だから、ルドリーの見張りにはスーア族の俺の両親が選ばれるのは当然の流れだった。



他の4家はアルティミア祭に向かた他国への任務で出払っていたから、タータッシュさんに俺も見張りの交代要員になれないか進言したが、ダメだと言われた。

このタイミングで狙われる可能性が高いのはアリステア様だから、結界が張られた屋敷内にいるとしても護衛を減らすわけにはいかないということだった。


俺だってアリステア様のそばを離れたくはないが、戦闘になれば両親よりも俺の方が優秀だし、アリステア様にとって害のある存在だと判断できれば、俺がアリステア様のために相手を消すことができるかもしれないのに・・・



見張りが開始されて2日間は何もなく、予想されたように持久戦になる・・・はずだった。



3日目の夜、狙われたのは交代のタイミング。

本来狙われるとしたら、集中力が弱まる交代する少し前のタイミングのはずだが、一番戦力が高まる2人揃った時を狙われ、2人ともやられた。

交代後の報告が遅れたことから、別の情報屋がルドリーの元に向かい、近くの路地裏で倒れていた両親を見つけた。



幸いにも命は・・・取られなかった。



しばらく任務にはつけないが、怪我がなおれば復帰できる。

心が折られていなければ。



しかし・・・なぜ殺されなかったのか、不明だった。


確実に、命を奪うことができたのに、あえてそうしなかったような傷が両親の身体には刻まれていた。





「すまないな、シキ。お前はアリステア様の『影』となってからはじめての任務だったのにな・・・お前の力になることができなかった」


「親父、気にするな。傷・・・浅くはないんだ。治療に専念してくれ」



『影』の居住区にある医療部屋で、治療を受けている両親に会うことが許されたのは、日が昇り始めるころ。



両親の身体は・・・鋭い爪を持つ動物の引っ搔き傷だらけだった。


えぐられた部分は後に残るだろう。

刃物のようなきれいな傷ではなく、ズタズタな切り口から、人の仕業とは考えいにくい。


一体どうなん動物だよ・・・町の中にいる猫や犬にはこんな深い傷をつけることはできない。

できるとしたら魔獣・・・もしくは獣人族。



いくら両親の力がスーア族の中で低いとはいえ、町に現れても問題視されない程度の魔獣にやられるわけがない。


アルティミア祭期間以外、獣人族は特殊な許可を得ない限り、入国できないうえに国内を移動することもできない。

現在入国している獣人族の行動は常に監視記録されている。


だとしたら、両親を襲ったのは凶悪な魔獣の侵入を手引きした人間の存在、もしくは密入国の獣人族ということになる。




「ごめんなさいね、シキ。相手の情報を何も・・・得られなくて」


「母さん、いいんだ。本当に・・・情報を残さないほどの手練れだってことは分かったし・・・傷からも分かることは多い」




俺が交代要員に加わっていたら・・・何か違っていただろうか。

交代時間から、両親が発見されるまで半刻も時間はかかっていない。


他の情報屋、『影』達も動いたが、両親を襲った相手の足跡は追えなかった。




「シキ、対象の状態はどうなった?」


「変わらないらしい・・・まだ布団をかぶったままだそうだ・・・残念ながら」



せめて、なにかルドリーに動きがあれば、この時点でルドリーの危険度を上げて強硬な手段も選択肢に入るのに・・・



「直接の関与はまだわからないが、危険人物なのは間違いない。必ず敵を取る。アリステア様も守り抜く」


心配そうな表情をする、傷だらけの母親の手にそっと触れる。



―――必ず、俺が





翌日の夜。見張りについていたタロスさんから報告が入った。


ルドリーが布団から出てきて、本人を直接見ることができ・・・資料と同じ容姿であることが確認された。



さらに翌日、俺とローキが順番に確認に向かったが・・・そこには美少女のような少年が店の中で働いているだけだった。


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