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89.閑話シキ①

「くそっ・・・俺が必ず・・・」



ルドリーの調査が開始されてて3日目の夜。

それは突然起きたらしい。



交代で張り付いて見張りをしていたのは俺の両親だった。


町で『影』の補佐となる情報収集の役目を担っいるスーア族は両親しかいなかったし、他のスーア族は別件で全員出払っていた。



ルドリーは3日間布団から出ず、心配してやってくる同じ共同住宅に住む店員が運んでくる食事を食べ、トイレなども布を頭から被って姿が見れなかったらしい。



部屋に侵入して、布団をはがすくらいはやろうと思えばできるが、それは強硬手段だ。

相手にまったく気づかれずに顔を確認して戻ってくるとなれば、かなり難しい任務になってしまう。


すくなくとも、俺の両親にはその技術はない。



動きを見せない相手の見張りは、特殊な技術よりも集中力や意志の強さを持つ人が向いている。

両親はそういうタイプの人間だった。



だから・・・両親はやられたのかもしれない。



ちょうど交代するタイミングを狙われ、2人ともやられた。


ルドリーを見張っていた自分たちが見張られていることに気づくことがなかった。




現存する純潔のスーア族は、ローキの族長一族を含めて5家族。

族長の家以外は家同士の序列はないが、実力には差があった。


俺の一族は血こそ純潔だが、スーア族の特徴と言える筋力と魔素保有量が、一般の人々に近い程度しかなかった。

両親も特別な技術を身につけられるほどの才能もなく、スーア族でありながら、情報屋にしかなれなかった。


その両親に、いや、家から、俺は期待されていた。


物覚えも良く、幼いころから丈夫で健康、筋力もスーア族の中でも平均以上のだった。

10歳の時に分かった魔素保有量はクラウン級。

クラウン級といっても、それ以上のレベルがないからクラウン級なだけで、一般のクラウン級よりも上位のレベルだとわかった。



10歳になるまで、外部の人間とほとんど接する機会なく、家の中で自分は特別だと言われて育った。

だから、ローキの存在を知った時は衝撃だった。



集団で学び、鍛練を始めてすぐ、俺とローキの差はどうあっても縮められないものだと理解した。


ローキの才能は他の年長者をも軽くしのぎ、あっと言う間に集団で学ぶことはないと判断され、特別鍛練区域へ行ってしまった。


それでも俺はローキを見かけるたびに挑み続けた。



だが、それができたのも、ローキがすべての修行の習得を終える前までだった。

貴重な人材であるローキに何かあってはいけないと、手合わせや勝負を禁じられた。



それからはしばらく、ローキの姿を見ることはなかった。



大きな変化とチャンスは圧倒的な存在感を持つ少女と共にやって来た。


鍛練区域からの卒業と成人を待つだけになっていた俺に、その少女は声をかけてきた。




その日の朝、見学者が1週間滞在することが食堂で共有された。

定期的にやってくる見学者は、皆一様に大人しく椅子に座りじっとしているだけの存在なので、今まで気にかけたことがなかった。


だが、やって来た見学者は違った。



薄い紫の髪に、薄い黄色を持つ、絶世の美少女だった。

メイド服を着てはいたが、どう考えてもただの孤児ではない雰囲気を纏っていた。


ここで鍛錬をしている人間は、ちょっとやそっとのことで動揺を見せないが、皆、緊張や驚きで気配が乱れていた。


初日はオルガの後ろを歩く姿しか見ていないが、それでも、何かが・・・何かが変わる予感がした。




翌日、肉体鍛練場で訓練をしながら、見学者が現れるのを待った。


オルガに連れられ現れたその姿は、やはり圧倒的な美しさと存在感を放っていた。


おれは少しでもその見学者を観察するために、イメージトレーニングをしているフリをした。



見学者はみな孤児・・・のはず。

どういった生い立ちなのか、性格なのか・・・見て分かる範囲で探ろうと観察していると、その少女が椅子を降りて近づいてきた。



本当はすぐに立ち上がって距離を取るべきなのはわかっていたが、身体が好奇心に負けて動けなかった。



「あの・・・修行中にすみません」



落ち着いた心地よい声。


目をしっかりと開けて、近づいてきた少女をじっくりと観察した。

おずおずと、申し訳なさなくに話すその姿は、儚げで可愛らしかった。



人間か?


いっそ、精巧な人形か人を惑わす魔獣や妖精と言われた方がしっくりくる。



その後の会話は必至だった。


見学者と会話をするなんてことは、通常起こりえないことだし、少女の言う知らない単語と意図が分からない話の流れで頭の中は混乱するばかりだった。


何とか話を続けようと努力したものの、話は途中で途切れ、別の人のところへ行ってしまった。


少女が去った後、久しぶりに全身に冷や汗をかいていたことに気が付いた。



翌日もティアと名乗った少女の見学者は、皆に話かけていた。

一応、近くで鍛錬をしてみたが、その日は話しかけられなかった。

どうやら、前日話せないかったであろう人物に話しかけていたようだ。



食堂で情報交換をしたが、やはりわからない単語を言ったり、話しの意図が分からない会話の流れだったそうで、興味をもちながらも対応方法が分からず困惑していた。



4日目は屋敷鍛練場で見かけたが、その日はなぜか誰にも話かけず、ホウキで落ち葉を集めていた。

見学者でありながら、なぜ掃除をしているのか意味がわからなかった。


他の奴らから聞いた話では、肉体鍛練場で呪いの儀式のような行動をし、魔法鍛練場では見たこともない謎の魔法円を描いていたそうだ。

謎は深まるばかりだ。



しかし、5日目やっと意図が分かった。

すべて試されていたのだ。


謎で不思議なの言動、それらは『主』として私達の反応を見る為だったのだ。


噂でしか聞いたことがなかったが、不定期でディルタニア家の人々が自分の専属護衛や『影』を選出することがあると。

選出方法がどんなものなのか教えられることはなかったが、まさしく今回だと理解できた。


オルガと共に部屋に入って来た少女は、服装は同じメイド服だが、所作、表情、行動、それらすべてで己が貴族の『主』であると伝えてきた。


他の奴らも気が付いたようで、行動を明らかに変えた。


6日目。

皆、必死だった。

何も行動がなければ、こちららか話かけることはできない。


どうすれば視界に入るか、意識してもらえるか・・・



俺もこのチャンスを逃す気はなかった。


視界に入るように位置取り、人間が思わず目で追ってしまうように、光を反射する得物の鍛錬を行った。


ティアという少女はすぐに行動をしてくれた。

頬に手を当てて、そして助けを求めるような表情になった。



この機会を逃すまいと膝まづいて、声をかけた。


「何かお困りですか?」



そこからは今までの意図の読めないものではなく、定番の形式的なやりとり。

やはり、これは選出の儀だったのだ。



「あなたの目は夕焼けの様なきれいな色だったのね・・・瞳を見てみたかったの」

「・・・ありがとうございます」


形式的な言葉で表現なお世辞・・・でも、そもの言葉を発したのは目の前の少女。

自分の『主』となる人。


心臓を鷲掴まれたかの様に、心臓が痛んだ。


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