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8.この世界③

食事を済ませ、一度部屋に戻って一休みしてから書庫へ向かう。


本当は食事を終えてそのまま書庫へ向かいたかったが、お母様とメイドたち全員に止められてしまった。

どうにも時間の感覚が『前の私』のままのせいで直ぐに行動したくなってしまうが、ここはホワイトな世界なのだ!

即行動、即結果、休むことは怠惰だ!みたいなブラック企業や心身を痛めつけるような感覚の世界ではないのだ。

正直もどかしい気もするが、元々病んでいるような生活だったのだから、こちらの生活スタイルにできるだけ順応したいと思っている。


「こちらです、お嬢様」

ルーリーが扉を開けてくれる。


「わぁ・・・すごい」


アリステアの記憶には書庫の記憶はなかったので楽しみにしていたが想像以上だった。


入り口からは奥の壁は見えないが、体育館ほどの広さはあるだろうか。

壁以外にもたくさんの本棚が設置されており、そのすべてにぎっしりと本が収まっている。

雰囲気は大きな公共の図書館に似ている気がする。


「お待ちしておりました、アリステアお嬢様」


声のする方を見ると、本棚の陰から現れたのは、ゆったりとした茶色のローブを着た20代に見える男性だった。


長い緑色髪は緩く一つに結ばれており、顔はやはり整っていた。

瞳は淡い黄色で知的な印象だ。そして最も特徴的だと思ったのはモノクルだ。


モノクルって本当に使ってる人はじめてみた・・・コスプレでは見たことはあるけど、普通の生活で見るとなんだか不思議な感じがする。

返事もせずモノクルの男性に魅入っていると、男性がコテンっと首を傾げた。


知的な男性のかわいい仕草とか!攻撃力高すぎる!

自然と自分の胸のあたりを握りしめていた。


「お嬢様?いかがなさいましたか?」

「身体がおつらいのですか?」

ルーリーとリナが心配そうに声をかけてくれる。


「い、いえ。大丈夫です。とても素敵な人だったので・・・」

私よ、何を口走っているのだ。


「ふふっ、ありがとうございます。私はディルタニア家にお仕えしている司書のルーファ・ダナテと申します」


私のうっかり滑らせた発言を聞いたルーファは軽蔑することなく、私の目線に合わせるように膝まづき優しく自己紹介をしてくれた。

流れるような動きは紳士的でありながら、優しさを感じる。


し、司書さんがこんな魅惑的な人でいいの?!

家の司書ではなく、もっと世の中の人に見ていただけるような仕事をして、共有すべき人材なのでは?!


『前の私』は男性との接触がほとんどなかったので、THEイケメン耐性0(ゼロ)なのだ。

ちなみに神がかった美貌のアルフェお父様やイディール兄さまは別枠だ。もはや人間とは思っていない。

私は赤い顔をしたまま完全にフリーズしてしまった。


「アリステアお嬢様は書庫にいらしたのは初めてですよね。奥様達がいらっしゃるまで、もしよろしければ私がご案内してもよろしいでしょうか」


どうやらお母様たちはまだ来ていなかったようだ。

たくさんの知識摂取が急務の私はこの書庫にきっと日参することになるはずだ。説明は是非ともお願いしたい。


———コクリっ


声はまだ出せなさそうだったので、うなずいて肯定してみた。


「では、失礼いたします」

「?!」


気が付いたらルーファに抱き上げられていた。

「書庫は広いので、このままご案内いたしますね」


ニコリ。

爽やか知的イケメンの顔面が近い!!

耐性のない私にはなすすべがない。

というか、すでに歩き始めている。


これは・・・・優しさというより、逆に面倒だと思われているのではないだろうか?

仕事場に突然やってきたウダウダしているお子ちゃまなんて邪魔でしかない。

とっとと案内を終わらせようとしているに違いない。


・・・急に冷静になってきたわ。


ルーリーとリナの方を見ると、微笑ましそうにこちらを見ている。

今更降ろしてほしいというのも変な気がするし、手足の短い私では時間がかかってしまうので、おとなしく運ばれることにした。


「あの人見知りのルーファ様がご自身から人に触れるなんて」

「ほんと。あんな笑顔みたことないよね。いつも真顔だし、近づくとその分距離をとられたこともあるし」


先を歩くルーファに抱えられたアリステアには、微笑みの表情を変えずに話すルーリーとリナの会話は聞こえなかった。

イケメン耐性がなさ過ぎて、一周回って嫌われ妄想思考になっているアリステアには、ルーファの好意など気付けるわけもなかった。


「お嬢様、こちらをご覧ください」


ルーファに運ばれながら辿り着いたのは、書庫の中央にある閲覧用の机やソファがある場所だった。

ゆったりと過ごせるようになっていて、長椅子もあり、お茶や簡単な軽食ができそうなテーブルもあった。

テーブルの上にはすでに数冊の本が積まれていた。

ルーファが指さす方向をみると、壁に書庫の館内図と、分類が書かれた表が貼られていた。

残念ながら文字のわからない私には、どんな分類になっているかはわからなかった。


「すみません。まだ文字が読めなくて、どんな分類になっているかわからないのです」

「・・・この文字が分類だと、どうしてお分かりになったのですか?」

「右側に文字と記号が書かれていて、左の書庫の見取り図に記号が書かれているので、分類と保管場所の表ですよね?」

「・・・・・・・」


しょんぼりしながら質問に答えたが、ルーファからの返事がない。

代わりに私を抱く腕に力が込められた。

不思議に思いルーファの顔をみると、先ほどの優し気な表情ではなく、とても真剣な表情をしていた。


「ルーファさん?」

「・・・私のことはルーファとお呼びください」

私の呼びかけに、再び優し気な表情になったルーファが答えてくれた。


「アリステア様はこれから色々なことを学ばれたいのですよね?」

「ええ、これからはたくさんのことを知りたいと思っています」


私たちが書庫に来る前に情報共有がすでにあったのだろう。

勉強には本は不可欠。書庫の司書さんとは共同作業になるとも言える。


「では、私が担当できる分野は私が担当させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え、ルーファさんが?」

「ルーファと」

「あ、はい。ルーファ・・・が担当してくださるのですか」

「敬語も不要です」

「え、ル、ルーファが担当してくれるの?」

「はい。旦那様から許可をいただければの話ですが、進言したいと思っています」


・・・すでに教育が始まっている気がする。

なんか厳しい先生になりそうな気がするけれど、見目麗しいイケメン先生は個人的には嬉しい。

でも司書の仕事は大丈夫なのだろうか。


「私1人ですべての分野を網羅できるわけではありませんので、司書の仕事は調整可能です。いかがでしょう?」

表情から疑問を先読みされたようだ。

司書の仕事・・・私を理由に逃げたくなるほど大変か嫌いなのかな?

まぁ、私としては先生が身近なのはありがたい。


「では、お願いします」

「承りました」


「あら、アリステアが先に来ていたのね」

「ママ」

「奥様、お出迎え出来ず申し訳ございません」

「いいのよ、アリステアの相手をしてくれていたのだもの。嬉しいわ」

「奥様、アリステアお嬢様の勉強についてですが、私で可能な分野は担当させていただけますでしょうか」

「ルーファが?」

「はい、是非。先ほどお嬢様より許可もいただいております」

「そうなの?アリステア」

「はい。ルーファがいいです」


正直、積極的な意思ではないけど、ルーファの雰囲気的に話を合わせた方がよさそうな気がする。

私の返事にルーファが私に微笑んでくれている。眼福。


「そう・・・ルーファが積極的に人と関わってくれるのは私としても嬉しいわ。アルフェに聞いてみましょう」

「ありがとうございます」


?ルーファが積極的に人と関わることが嬉しいって何だろう。

やっぱり家の書庫の司書となると人との関りがかなり限定されるからかな?

でも、教える相手が私だからそんな広がるわけでもないのに・・・

あ、他の先生たちとも進捗状況の共有とかあるから、関係が広がらないわけでもないか。


「奥様、アリステアお嬢様。お茶の用意ができました」

「ありがとう、ヒルデ」


それからはお茶をしつつ、イディール兄さまとサラ姉さまがかつて使った教材を参考にいくつかの本を選んだ。

基本的文字、子供向けの歴史書、数学、基本魔法、教養などだ。

テーブルに用意されていた本は、ルーファが選んで先に持ってきていたものだった。

ルーファが優秀なのは間違いない。


そのため、書庫内の探索はなく、選んだ本を持って部屋に戻ることになった。

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