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83.授業と紹介⑤

「あ、アリステア様、お呼びいただきありがとうございます」



「ランス、久しぶりになってしまってごめんなさいね。来てくれてありがとう」




うんうん、ランスは大きくなっても可愛いね。


ランスはまだ10歳になったばかりなのに順調に成長していて、身長がすでに160㎝以上になっている。

細身の体格だが、少年とはもはや呼べない。


フワフワの髪の毛は切ったのか、ショートヘアになっている。

琥珀色の瞳は二重で大きいけれど、子どもっぽい丸みはなく、優しい大人の雰囲気になっていた。

大きすぎると思っていた丸眼鏡も、いい感じにフィットしている。



これで10歳って、本当に感覚くるうなぁ・・・



チラリとローキの方を見ると、真顔で頷いてくれた。


真顔ではあるけれど、ルドリーの時は違って危険な感じはしない。

どうやらランスは問題なさそうだ。




今日は依頼だけなので、ランスと工房主であるグリームさんだけが来た。




「グリームさん、ランス。新しく私の専属護衛になったローキよ。ランスと年齢も近いし会う機会も増えると思うからよろしくね」


「ローキです。お見知りおきを」



「いやはいや、立派な専属護衛どのですな。魔法工具工房主をしております、グリーム・トルトと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」


「アリステア様の専属魔法工具師のランスと申します。よ、よろしくお願いいたします!」



こうしてローキの様子を伺っていると、ルドリーの時はかなり緊張していたのだと分かる。

立ち位置も、表情も、発言、雰囲気なにもかも違っていた。


シキがタロスさん、タータッシュさんと話してくれているだろうけど、私の目にはルドリーが危険な存在とは見えないし感じない。

それでもローキやシキの言動を考えると、何も問題のない存在とも思えない。


『前の世界』では、自分を害する存在や問題になるような存在が近くにいるなんてことはなったから、イマイチピンとこないので、リアルな対策が思いつかない。




「本日はどの様なご依頼でしょうか」


「まずは、小型通信鏡を4つ作ってほしいの」


「4つですね。デザインはいかがいたしましょう。アリステア様と同じになさいますか?」


「デザインはディルタニア家の物だと見てすぐ分かるものではなくて、知っている人は分かるような感じで、使用者は後から登録できる方がいいかな。あとは私のものより強度を上げて欲しいの」



「強度とはどのくらいでしょうか」

「ある程度の戦闘に耐えうるくらい?って言えばいいんかな・・・たくさん運動する人が使っても問題ない程度とか?」


「せ、戦闘ですか?!」

「あ、戦闘って言うか、護衛の人たちに渡す分なの。鍛練とかで動くことも多いから」


「そ、そうでしたか・・・よかった。驚いていしまってすみません」



赤い顔して恥ずかしそうにするランスをみて、ほっとしてしまう。

戦闘とか危ない単語に対するランスの反応が、きっとこの世界の普通なのだろう。



「それであれば、可能な限りの魔法を組み込んでみますね」

「ええ、助かります」



「次にデザインですがディルタニア家とはわからない方が良いと言うことですと、ライオンを避けた方がよいですね・・・アリステア様独自の、ということでしたらサクラはいかがでしょう」


「そうね!サクラでお願いするわ」

「承知いたしました」



「あとは、印章を新しいデザインで1つほしいの」

「新しいデザインですか?」


「ええ、そのー・・・詳しくは言えないけれど、用途が増えたの」

「そうですか・・・どの様なものに致しますか?」



「名前は後から登録できるタイプで、デザインは前に作ってくれた桜に三日月に似てる感じがいいかな・・・サクラに星はどうかしら」

「サクラに星ですね。わかりました」



「それと・・・アルティミア祭で贈るものを作りたいの」

「金のチェーンですね。ネックレスとブレスレット、どちらにしますか?」


「ブレスレットで、うーん・・・何本くらい用意した方がいいかなぁ・・・」


「たくさんの人に贈られるのですか?」



ん?

てっきりバレンタインの義理チョコ的に日頃のお礼として贈るものだと思ってたけど・・・ちがうのかな?


お母さまには衣装の相談をする時に「アルティミア祭の贈り物はどこで手に入るのか」と聞いたら、魔法工具師にお願いすればいいとだけしか言われなかったので、何本かなどは確認していなかった。



「家族とか、日ごろお世話になっている人に贈ろうと思っていたのだけど・・・違った?」


「そうですね・・・違うわけではありませんが、多くの人に渡せるほどの余裕が平民にはないので、特に大切な人に渡すことが多いかもしれません。家族、恋人、親友・・・1人あたり1つか2つ注文されることが多いですね」



なるほど・・・言われてみればその通りだ。

というか、私、この世界に来てから支払いってちゃんとしてなかったわ。


ランスには専属用として色んな試作品を作るための予算をお母さまのお願いしていたけれど、具体的な金額を知らない。

以前ユリウスに贈るものとかをお願いした時も予算で十分にだと言われてしまったし・・・


この場でお金について聞くのはちがうよね・・・今度ルーファに聞いてみよう。



「1つ、2つ・・・うーん・・・逆に難しいね・・・」


「アリステア様の場合、ご予算については問題ないかと思いますし、はじめてですのでシンプルなチェーンを皆さまにお渡しされてもいいかもしれませんね」

「チェーンにも種類があるの?」


「はい。基本的なデザインはありますが、貴族の方々は凝ったデザインのものを選ばれる方もいます」

「そっかぁ・・・それなら一般的なデザインで10本かな!」


「ふふっ、アリステア様には大勢大切な人が居るのですね。素敵です」



・・・・・・ふわりとした笑顔と共にさらりと素敵と言われてしまった。

照屋さんのランスの事だから、きっと無意識なのだろうけれど、大きくなったランスに言われると、恥ずかしくて照れる。


「そのうちの1本はランスの分ですからね」

「え?!」



余裕のある大人笑顔のランスの雰囲気になんだか落ち着かなかったが、真っ赤になってワタワタするランスの様子に安心する。


「作ってくれる人に渡すって言うのはなんだか変な感じだけど、受け取ってもらえるかしら」

「も、もちろんです!!僕も翼を用意しますので・・・その・・・受け取ってもらえますでしょうか・・・」


「嬉しいわ。楽しみにしてる」



うんうん。

慌てすぎて一人称僕に戻ってるのも可愛いね。




「ごほんっ」


「・・・・・・」



わざとらしい咳払いの方に顔を向けると、ローキだった。



「・・・ローキのも分も数の中に入っています」

「それは光栄でございます。私も翼を用意しておきましょう」



表情で「俺のは?」と要求してくるとは・・・こまった子だ。




「ははっ!アリステア様が成長されたら大変ですな」

「グリームさん、どういう意味です?」


「アルティミア祭の贈り物を複数名と交換の約束をされると、多くの噂が出てしまいます」

「噂?」


「片側が贈るのはシンプルに安全や繁栄を祈るものですが、事前に交換の約束をするのは恋人同士です。ランスとローキ殿はアリステア様はご存知ではないのをいいことに、貴重な機会を逃さない様行動されたのでしょうな」



「こ、恋人!!」


「グリームさん!そういう意味では!み、未成年の内は問題ありません!それに、贈られるとわかっていて何も贈らないのは失礼ですし!!」



「アリステア様、約束は反故に致しますか?」


「いいえ・・・その・・・知らなかったとはいえ、約束は守ります。できれば、ご内密にしていただけますか?」

「心得ております。ランスに心配りいただきありがとうございます」



きっとグリームさんは今後のために注意してくれたのだろう。

知らないことの多いこの世界で、やんわりと注意してくれる人はありがたい。


ちゃっかりと約束をするような専属護衛はそういう意味では役に立ちそうにない。


ローキをにらんでみたが、無視されてしまった。




「他に注文はありますか?」

「・・・いいえ。大丈夫です」


「では、ご依頼いただいたもののデザイン画ができましたらまた伺わせていただきます。来週の同じ時間でよろしいでしょうか」

「ええ。アルティミア祭の贈り物はその時にもらえるかしら?」


「承知いたしました」




「アリステア様?」


グリームさんが片づけ始めたのを見計らって、ランスの服を引っ張った。



「実はまだお願いしたいことがあるのだけど、秘密にしたいから今日の夜に通信鏡で連絡するわ」


ローキや『影』のみんなにサプライズで何か贈り物をしたくて聞かれたくなかったので、ランスの耳元で小声で伝えた。



ランスはバッと耳を抑えて、真っ赤顔で無言で何度もうなづいてくれた。




「では、また来週伺わせていただきます」

「ええ。今日もありがとう。またお願いね」





―――――バタン




「おい・・・さっきランスの野郎に何を言ったんだ?」


「・・・ひみつ」



っていうか、ランスのこと呼び捨てで野郎扱いってどうなのよ。

ルドリーのことがあったから、ランス達はどうだったか聞こうと思っていたのに拍子抜けだ。



「ちっ・・・あいつトロそうな顔してるが、あぶねぇな」


「危ないってランスが?ルドリーと同じ様に何か変だったの?」



「全然まったく違う方向に危ないんだよ!この鈍感ホイホイ女」


「鈍感ホイホイ女!何そのちょろそうな表現!」


「表現じゃなくて事実だ!ランスにいいように転がされやがって・・・」


ワタワタしていたのは私じゃなくてランスでしょ。



「まぁ、あいつは専属と言えども平民で魔法工具師だからな。相手にはならないから問題じゃねぇけど、警戒しておくに越したことはないな。あいつと会話するときは必ず俺を同席させろよ」




・・・・・・いや、今夜こっそり話すつもりなんですが・・・・



「おい」


「わかったよ」

「よし」



直接会話するときはってことでいいよね。

通信鏡で会話するのに同席も何もないし。




「アリステア様」


「シキ!!」


呼ばれた方を向くと、シキがいた。


「先ほどのルドリーという存在について、急ぎお話したく。このままご一緒いただけますでしょうか」


「構わないけど・・・」

「俺の話を先に聞く必要はないのか?」


「タータッシュさんとタロスさん曰く、アリステア様とローキの話を一緒に聞きたいとのことでした」

「それほど急ぎってことか」

「ああ」


・・・そんなに危険な状態ってことなの・・・



「アリステア様」

「な、何?」



「私にもアルティミア祭の贈り物をいただけるのでしょうか」


「・・・・・・」


「アリステア様?」



シキくんよ・・・ルドリーの件と同じ深刻なテンションでその話をするでないよ。

何を言われるのかと身構えてしまったじゃないか。



「・・・先ほどの注文の中にシキの分も含まれていますよ」

「光栄です」


「ちっ」


満足そうなシキと、舌打ちをしてさらに不機嫌になるローキの顔を見て力が抜けた。



・・・・・・・深刻なんだか、それほどでもないのか分からなくなっちゃたよ・・・


私達はタロスさんとタータッシさんが待つ部屋へと向かった。

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