表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/111

82.授業と紹介④

なんでこうなった・・・



ルドリーのキラキラで可愛い笑顔に対して、殺気に満ちた目で睨んでいるローキ・・・




ルドリーとターランナト店の人たちがやってきて、これまで通り、まずデザイン画を見てドレスの方向性を決めて、次に身体のサイズの採寸をする。

同席していたお母さまは別件で何やらあるらしく、採寸をはじめると部屋を出て行ってしまった。


採寸が終われば、もう今日は終わり・・・のはずだった。



ターランナト店の人達が片づけをはじめると、ルドリーが私に近づいてきた。



「アリステア様、今日は久しぶりにお会いできて嬉しかったです」



ふわっと花がほころぶ様な笑顔を向けられて癒される。


儚げ系美少女ならぬ美少年の笑顔。

成長期なはずだけど、身長も雰囲気も全く変化はなさそうだ。


ルドリーの成長は楽しみだけど、ローキの様に一気に変化してしまうのはもったいないと思ってしまう。



「私もルドリーに会えて嬉しいわ」


「こちら・・・次にお呼びいただけたらお渡ししたいと思ってつくったものです。受け取っていただけますか?」


差し出されたルドリーの手には、金色の刺繍が施された薄い布があった。



「これは?」


「肩掛けです」



そう言いながら、広げた布は透けるほど薄くて大きかった。

ルドリーは広げた動きの流れで、私をふわりと布で包んだ。



「すごい・・・きれいだね。透けてる・・・蝶?」


「はい。お好きだと聞いたので」

「え・・・」


今まで衣装の注文のデザインでは蝶をお願いしたこともなければ、好きだとも言ったこともなかった・・・はず。

正直、記憶力に自信はまったくないけれど、蝶のデザインを意識したのはサフィールさまが見せてくれた蝶の姿をした光の精霊、シフォニ―だ。

サフィールさまとレティシアさまからプレゼントされた蝶モチーフのイヤリングと髪留めはお気に入りだが、まだ身に着けて出かけたこともない。



「どうして・・・」


「秘密です」


スッと顔を近づけてきたルドリーは、耳元でささやいた。

急な至近距離に驚いたけれど、もっと驚いたのは、ローキの行動だった。


耳元で囁かれたと同時ぐらいに、身体が急に持ち上げられたのだ。

ローキは片腕でしっかりと私を抱え、もう片方の手ではルドリーに剣を向けていた。


私を片腕で軽々と持ち上げるほど大きくなったのね・・・と一瞬現実逃避しそうになったけれど、どこから出したかわからない剣がルドリー向けられている状況は、どう考えても緊急事態だ。



「ろ、ローキ?!急にどうして」


「・・・・・・」



「す、すみません。アリステア様に近寄りすぎたせいですよね」


しょんぼりするルドリーはどう見てもか弱い少女・・・じゃなかった少年だ。


確かに急に耳元に顔が寄せられたのは驚いたけど、別に子供同士ならあるあるの行動だろう。

かといって、護衛役であるローキからすれば、主人に近寄るのは誰であっても警戒すべき人間として反応しても仕方がない。



「ローキ、大丈夫よ。ルドリーはいつも私の服を作ってくれるお店の店員さんよ。ここに来たのもはじめてじゃないし・・・たしかにちょっと驚いたけど、問題ないよ」


「・・・・・・」


しかし、ローキの表情は緩まないし、私を抱える腕にはさらに力がこもった。



「あ、あのルドリーが何か無礼なことをしてしまったのでしょうか」



ルドリーのお店の店長が慌てたように私たちの前で膝まづいた。

きっとやりとりを見ていなかったのだろう。

店長の顔は青ざめ、困惑の色が伺えた。


無礼と言えば無礼だけど、正直ここまで怒る必要のある行動とも思えなかったので、これ以上話をことを大きくしたくはない。



「ローキ・・・」


「・・・・・・」



私がなだめるようにローキに呼びかけると、表情は険しいままだが、私を降ろしてくれた。



「店長さん、なんでもないの。ちょっとお互いの認識違いと言うか・・・とにかく問題はないの」


「そ、そうですか」



店長はローキの表情に怯えながらも、私の言葉にほっとしたようだ。



「店長さん、ルドリー、紹介していなかったけれど、私の専属護衛になったローキというの。とても・・・優秀だけど忠誠心が高くて心配性で・・・驚かせてしまってごめんなさいね」


「ご紹介いただきありがとうございます」



話を逸らそうとローキを紹介してみたけれど、ローキは少し頭を下げただけで、表情は厳しいままでルドリーから目を離さない。




「・・・では、我々はこれで」


いつもなら、ルドリーやお店の人たちは私と談笑しながらゆっくり帰り支度をするのに、微妙な空気を察したのか、店長さんは慌てた様子で退出を告げた。




「お前は・・・何者だ?」


店長の後ろに続いて部屋を出ようとしたルドリーに、ローキが声をかけた。



「私はターランナト店の店員のルドリーです」


「そういうことじゃない」


「どういうことでしょう?」



どういうこと?・・・ルドリーは綺麗ないつもの通りの笑顔、ローキは怒りを通り越して殺気の籠った顔になっている。


ちょっとまって、このやりとりにローキのブチギレポイントがあったの?!



ローキがこんな反応を示すからには何かありそうな気がするけれど、ルドリーの言動には特に違和感がない気はするし・・・


詳しく話を聞きたいけれど、ルドリーやお店の人達がいる前ではちゃんと聞けないよね。



「ローキ、もういいでしょ。皆さん、今日はありがとうございました。仮縫いができたらまたお願いしますね」


「は、はい。では」




店長はルドリーを連れて慌てて部屋を出ていった。


扉が閉められ、部屋に私とローキだけになった。




「ローキ、ルドリーの行動に問題がなかったわけではないけど、ちょっとやり過ぎじゃない?それに何者って何?」


「ティアには・・・あいつがどう見える?」



「どうって・・・美少女のような美少年よね。儚げで可愛らしいお人形のように見えるよ。対応も物腰柔らかで、知識もちゃんとしてるし、店員としても優秀なんじゃないかな」


「そうか・・・俺には真っ黒な黒い靄を纏って動く人形に見えた」



「え、何その不気味なもの」


「だろ?不気味だったんだ。あんなもん見たことねぇ。魔法なのか精霊のいたずらなのか、魔物の類なのか判別もできなかった」

「動く人形なら、魔法じゃないの?」



「俺のランクはクラウン級だ。そうそう見破れない魔法はない。でも見破れなかった・・・魔法の出どころもつかめないなんてことはないんだ。だから、そもそも法則がことなる精霊か魔物の可能性もある」



黒い靄を纏って動く人形って・・・もうそれって呪いの人形だよね。



「お前・・・俺の話信じるのか?他の奴らは誰もこんなこと言っていないんだろ?奥様も気づいていない感じだったからな」


「たしかにルーリーとリナも特に反応がなかったね。なんでローキにはそんな不気味なものに見えるんだろ?」


「・・・俺が見たことは疑わないんだな」


「別に疑ってないわけじゃないけど、ローキが何の理由もなく変な言動をするとは思えないし。不気味に思いながらも、ギリギリまで様子を伺ってたんでしょ?」


「・・・まぁな。奥様は魔素保有量は化け物級だけど、鍛えられた人間じゃない。ルーリーとリナは鍛えられているけれど、レベルで言うとナイト級だから気づけない可能性もある。ディルタニア家の敷地には悪意のあるものの侵入を防ぐ結界があるから、あの人形自体には悪意はない可能性が高い・・・だからむやみに動けなかった。でもお前に近づくのだけは許せなかった」


「そうなんだ・・・」


やっぱりローキなりに考えた結果の言動だったんだね。

私だってそんな不気味な人形が大切な人たちに近づいたら、警戒する。


「でも・・・どうしよう。急にルドリーに来ないでって言うのも変だし・・・」




「・・・おい、シキ」

「お前の呼びかけに返事をしたくないのだが?」



どこから現れたのかわからないが、いつのまにか部屋にはシキが立っていた。


てっきり私達2人っきりだと思っていたけれど、『影』のシキもいたんだんね。



「お前はどう見えた?」

「・・・俺は黒い靄に見えた。人形や人間は見えなかった」


「シキにも黒い靄が見えたんだ」



「そうか・・・ヒルデも特に何かを感じているようには見えなかった。そうなると・・・スーアの血か?」


「かもしれないな。俺からタロスさんとタータッシュさんに話しておく」


「わかった。シキ、話しが終わったら俺と変わって護衛を頼む。俺からの話も必要だろうからな」



不謹慎なのかもしれないけど、真面目に2人が仕事の話をしてる姿を見れてなんか嬉しい。

普段の関係は置いておいて、ちゃんと連携できるのってプロっぽいね。



「おい・・・お前、何ボケた顔してるんだ。不気味なもんがあんな身近にいたんだぞ。もっと危機感を持て」

「危機感・・・そうだよね・・・正直実感はないけど、危ない存在ってことだよね」



「・・・そうとも言い切れない」

「え、どういうこと?」


「不気味ではありますが、悪意や呪いの類でないのなら、そういう存在ということも考えられます」


「さっき言っただろ。精霊や魔物の類が変化して人間の暮らしに紛れているとしたら・・・距離をおく必要はあるが、消すほどの危険はないってことだ」


「消す・・・」



「物騒に聞こえるかもしれないが、正体によっては対処が必要だ。わかるな」

「う、うん。分かるけど、私には美少年に見えるからなんか不思議というか・・・」


「まぁ、まだ何者とも言えないからな。次店の人たちが来るまでに調査を終えて対策を考えればいい。ただ俺が気が付いたってことは、相手も気づいただろうから急がねぇとな」



「アリステア様。俺は行きます。ミリーが代わりに『影』の任につきます」


「シキ、お願いね」


「はい。後程また」



シキは左胸のブローチに手を触れて服を銀色の服に変えると、姿を消した。


おぉ・・・光学迷彩衣装すごいね。全然わからないや。




「次は魔法工具師だったか?そいつはまともだといいんだけどな」


かわいいランスまで変な姿に見える・・・なんて言われたらどうしよう。



―――――コンコン



ランス達が到着したようだ。


ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

誤字報告下さった方ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ