80.授業と紹介②
「ローキと申します。アリステア様の専属護衛となりました。以後お見知りおきを」
「アリステア様の『基本マナー』を担当をしております、ミカム・ナラ=フィラムです」
「多くの方を導いたと言われるフィラム夫人とお会いできて光栄です」
「教育は済んでいるようですね」
「フィラム夫人に認めていただけるのであれば、精進してきたかいがございます」
「アリステア様の専属護衛がローキ殿であれば安心ですね」
アハハハ・・・
ウフフフ・・・
ルーファの時と全然違うね。
ミカム夫人とローキ両方ともTHE外向けの顔って感じだけど、勉強になる。
ローキが完璧な礼と言葉をできるとは・・・
いつもの感じとは全く異なるローキの雰囲気で落ち着かない気持ちになる。
表情、口調、姿勢、雰囲気そのものが違う・・・もうこれ別人だね。
ルーファの時と違って、ローキは挨拶が終わるとサッサと退出していく。
出て行くときにローキがちらりと私の方を見て、どうだと言わんばかりにフッと笑った。
うん・・・いつも通りだったわ。
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「まぁまぁまぁまぁ!!!素敵だわ!!」
「ありがとうございます。サダラカム夫人」
ダンス担当のカミラ夫人の好みだったのか、ローキを見た途端にテンションが急上昇した。
ローキはミカム夫人の時と同様に完璧外面対応。
ミカム夫人の反応も仕方がない。
ローキはキラキライケメン青年に成長している。
屋敷で生活し始めて数日しかたっていないが、ローキはスクスク成長中だ。
毎日5㎝から10㎝ほどずつ成長して、今はなんと170㎝になっている。
毎朝起きて顔を合わせるたびに、身長と顔が変化して驚かされている。
そして、今日は少年感が完全に消えて、青年になってしまった。
後ろで一つに結でいるがサラサラの白い髪は腰あたりまで伸びた。
丸みのあった目はスッキリと引き締まった美しい形になり、赤と金色が混ざった瞳は色気さえ感じる気がする。
「見惚れたか?」
今朝、あまりの変化にポカンとした顔でローキをまじまじと見てしまい、ドヤ顔をされてしまったけれど、その顔さえカッコ良く見えてしまった。
「うん・・・なんかちょっと近寄りがたいくらい」
私の答えにローキはムッとした表情になると、私の前でしゃがみ、私の右手を取ってローキの頬にあてた。
突然のことで息をのむと、ローキはじっと目を見てきた。
「あ、あの・・・ローキ?」
「お前の一番近くにいるのは俺だ。俺のそばから離れるなんて考えるな。お前は俺に触れることができるほど近い。忘れるな」
うぅ・・・魅力が爆発したローキの言動に心臓が痛い。
ローキがとんでもないイケメンに成長してしまった・・・私の心臓持つかなぁ・・・
顔が赤くなっているのが、鏡を見なくてもわかる。
「ふーん・・・俺の顔はお前の好みみたいだな」
「うぐっ・・・かっこよすぎてツライ」
「はっ!なんだよそれ」
私の反応に満足したのか、ローキはムッとした表情から、無邪気な笑顔になった。
くぅ・・・キラキライケメンに進化したローキを間近でいつでも見れるなんて、なんてご褒美だ・・・
ミカム夫人の反応を見て朝のやり取りを思い出すと、自然と顔に熱が上がってしまう。
私もはたから見たらミカム夫人みたいな顔をしていたのだろうか。
「アリステア様!これからはダンスはローキさんに相手をしていただきましょう!!」
「え、でもローキとの身長差が・・・」
「アリステア様はすでに基本が身についていますわ!レオナ様にも引き続き協力いただきますが、身長差がある方とのダンスも覚えた方が良い時期だと思っていましたの!いかがかしらローキさん!」
「その役、是非私にお任せください」
「ふふふっ!!嬉しいわ!!私、美しいものに目がないの!!美しく可愛らしいアリステア様と見目麗しいローキさんのダンス!!授業のたびに見ることができるなんて、なんて素敵なの!!」
・・・・・・ミカム夫人が壊れた・・・
ミカム夫人は女優でもあるのだから、きっとイケメンを見慣れてるはずなのに、こんなに反応するなんて・・・
もしやローキが舞台に立ったらとんでもない量のファンが付くのではないだろうか。
それは・・・ちょっと寂しい。
「アリステア様」
声のする方に顔を向けると、ローキが私と視線を合わせるようにしゃがんで顔を覗き込んでいた。
「見目麗しい俺の足を踏むなよ」
・・・・・・踏んでやる
「くくっ、元気が出たようだな。しっかり俺とのダンスを体に覚えさせてやるよ」
おのれ、急に体が大きくなったらって調子に乗っているな・・・絶対足踏んでやる。
今度からヒールのある靴でダンスの授業を受けよう。
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「お初にお目にかかります。ローキと申します。アリステア様の専属護衛となりました。以後お見知りおきを」
「アリステアの『魔法』を担当する、ユリウス・グレイシャーだ」
「グレイシャー家の英知を我が主にご教授いただけること、心より感謝いたします」
「俺は好きでアリステアを教えているだけだ。お前に感謝される覚えはない。挨拶が済んだのだから早く部屋を出て行け」
「・・・・・・」
わぉ・・・ユリウス、ローキに興味ゼロ!
ローキは表情かろうじて保ってるけどめっちゃ怒ってるね!!
「お前自身が言っただろ。私の知識はグレイシャー家のものだ。アリステアには教えるがお前に教える義理はない」
「ユリウス様は我が主を大層気に入ってくださっているのですね。名前を呼び捨てるほどに」
「うらやましいか?名前を呼び合うことはアリステアから許可を得ている。お前にとやかく言われる筋合いはないな」
「・・・公式の場で誤って呼ぶことがなければ構いませんよ」
「私がアリステアを公式の場で呼ぶことが誤りにはならない」
「いいえ、誤解を生みますので控えていただきます」
「お前に言われる筋合いは・・・」
「あります。私はアリステア様の専属護衛です。あらゆることからアリステア様を守ることが役目。時には主人の意思を曲げてでも」
「ほぉ?私がグレイシャー公爵家の一員だとわかっていても意見を言うと?」
「アリステア様以外の意見を聞く気はございません」
・・・ルーファの時とはまた違った感じで相性悪そう。
性格的にユリウスとローキは仲良くなれるかもって思ってたけど、なんか変な感じになってる・・・どうしよ・・・
「くくっ・・・アリステア、良い専属護衛を見つけたな」
「へ?」
「少し試した。見た目が良いだけなら引き離そうと思ったが、精神も力も悪くなさそうだ」
「私を・・・試した?」
「ああ。混ざり者はそれだけで忌避され、色々と言いがかりをつけて攻撃してくるやつは多いだろう。仕方がないとは言え、それで揺らぐような人間がアリステアの側にいるのは問題だからな。魔素保有量も悪くない。まだ幼いが頭も悪くはなさそうだ」
「幼くはありません」
「私からしたら幼い。身体は大人に近いほど成長しているが、年齢が若いことはすぐに分かる。それに感情が隠しきれていないからな」
あ、そうか・・・ユリウスと同じく、ローキの瞳も混ざり者と言われる複数の色がグラデーションになっているんだった・・・
私はなぜか忌避感を感じないし、避けるような人はディルタニア家にはいないからよくわからないけれど、一般的には結構嫌がられちゃうって話だったよね。
ユリウスはローキのことに興味がないんじゃなくて、むしろローキのことを気遣ってるのかもしれない。
やりかたは微妙だけど。
「外に出る時の対策はしてあるのか?」
「・・・・・・はぁ・・・・いえ。私に忌避感を持つのならば主の盾に丁度よいので」
ユリウスの雰囲気が変わると、ローキも警戒を解いたのか、表情が不機嫌なものになった。
全部じゃないけど、ローキは外面をやめたみたいだね。
「基本的にはそれでも良いが、そうもいかない場合もある。対策は持っていた方がいいぞ。例えばこれだ」
ユリウスがローブから取りだしたのは小さな石がついた指輪だった。
「指にはめれば瞳の色が変わる。手を出せ」
「・・・・・・」
「なんで出さない?」
「男に指輪をはめられたくない・・・」
「くくっ・・・本当に幼いな。アリステア、ローキにはめてやれ」
・・・ユリウス、ローキのこと呼び捨てになってるね。
ユリウスから指輪を受け取ってローキの方を向いたが、ローキは手を出してくれない。
「ローキ?」
「・・・・・・」
ローキは顔を赤くしてそっぽを向いている。
?どうしたんだろ・・・
「くくっ・・・面倒な子どもだな。正式な贈り物ではないだろ。指輪は私のものだぞ?」
「わ、わかっていますが、こういいうことは形だけでも大事ではないですか!!」
「そうか?良い機会だと思って素直に手を出した方がいいではないか」
「そんな気軽なものではないんです!!」
んー・・・指輪を付けてあげるって、確かにプロポーズや結婚式のシーンを連想するけど・・・こっちの世界もそうなのかな?
だとしたら照れるのはわかるかも。
「アリステア、ローキの小指につけてやれ。他の指は・・・別の機会に取っておいてやるといい」
「っ!ユリウス様!!」
「小指なら良いだろ。守りの意味で身に着ける奴は多い。他の指は色々と意味が出てしまうからな。ほら、出せ」
『前の世界』では、確か小指は幸福が来るように願ってつけるって聞いたことがある気がする。
指によって意味があるのはこっちの世界も同じなのかもしれない。
ローキは諦めた様に左手を出した。
私はローキの手が逃げない様に素早くつかんで小指に指輪をはめる。
「そんなあっさり・・・」
何を期待されていたのかわからないけれど、別にじっくり時間をかける必要はない。
むしろ手を引っ込められないうちにはめようとしたから、ちょっと急いだのだ。ローキが悪い。
「あ、目が・・・グレーになった?」
「私専用だからな。色はグレーに設定してある。それに忌避感を感じる要因はまだ不確定ではあるが、存在感を薄くすることで緩和できることが分かっているので魔法も組み込んである」
「うーん・・・せっかく綺麗な瞳なのに、違う色になっちゃうのはもったいないね」
「それは私もか?」
「もちろんユリウスもだよ。混ざり者って忌避されるみたいだけど、私は綺麗だと思うし、好きだよ」
「ふむ・・・アリステア、他の混ざり者に同じ言葉を言うなよ。攫われるぞ」
「さ、攫われるんですか?!」
「言っただろ。混ざり者はそれだけで避けられる。そんな扱いをされている人間にとって、自分を肯定されるのは、救いで希望だ。自分だけのものにしたいというやつが現れる可能性もある。私やローキは環境が恵まれているからそこまではないにしても、なかなかの口説き文句だ」
「く、口説き文句?!」
「見ろ、ローキなんて顔を上げられないではないか」
「・・・・・・ユリウス様。そんなことを説明しないでください」
ローキは俯いて手で顔を隠しているので表情は分からないけれど、耳が赤くなっているので、口説き文句としての効果はあるらしい。
「気を付けます」
「そうだな。私には言っていいぞ。お前に言われるのは素直に嬉しいからな」
「わかりま・・・」
「ユリウス様ダメです!!アリステア様!!口車に乗らないでください!」
「くくっ・・・アリステア、気が向いた時に言ってくれたら、貴重な魔法素材や情報をあげよう」
「ユリウス様!!」
「ローキ、余裕は持った方がいいぞ。アリステア、ローキの瞳は赤と金どちらがいい?試しに作ってやろう」
「え、いいんですか?」
「ああ。言っただろ?私の目を褒めた分だ。また言ってくれ」
「ユリウス様!!」
・・・・授業はその後、指輪のデザインや色をローキを巻き込みつつ話して終わった。
私が感じていたように、ユリウスとローキの相性は悪くなさそうで良かった。
これから魔法の授業はにぎやかになりそうだ。
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