7.この世界②
魔法を知るにも、まずはこの世界の言語の習得は必須。
チート能力で読み書きが問題無ければ良いけど、前の『アリステア』の知識に左右されそうなので、あまり期待出来ない。
食事をする広間には本棚があったので、本を読む習慣もあるはずだし、お父さまの秘書が大量の書類を抱えていたので、紙は手に入りやすいとだろう。
そう思い、食事の際にお母さまに相談したのは1週間前。
「お母さま、私文字を勉強したいのですが」
「……………えっ」
お母さま、笑顔でフリーズ
これは…どういう意味だろう。
まだ読み書きが出来ない事に驚いたのか、
勉強したいと望む『アリステア』に驚いたのか。
この世界の基準は分からないけれど、前の世界の記憶では6歳は小学校入学の年齢。勉強をはじめるのは丁度いいか、遅いくらいだと…思う。
「そ、それは…とても嬉しいわ」
ふるふる震えながら、なんとか笑顔を作っているけれど、目には涙が浮かんでいる。
勉強すると言っただけで、泣かれるって。
悪い方向ではないことに胸を撫で下ろす。
「そうだわ!教えていただくなら、とびきりの先生にお願いしましょう!お父様に相談しましょうね!!他に何かやってみたい事はあるかしら?」
聖母の様なお母さまの満面の笑み…キラキラ輝きすぎて眩しい。
え。いや、本当に光ってるっぽい?小さな光の粒がお母さまから溢れている。
「奥様、光が溢れておりますよ」
「まぁ、いけない。教えてくれてありがとう、ヒルデ。嬉しくてつい。ふふっ」
光の粒は収まったけど、お母さまの頭部から後光が…
「アリステアお嬢様、奥様の光をご覧になるのははじめてですよね。奥様は光属性クラウン級なのですよ」
「感情に左右されやすいから、本当はクラウン級とは言えないわ」
「奥様の魔素量はこの国でも貴重ですから、奥様がクラウン級でないと他の方の等級が決められませんよ」
魔素?
これだけ光っているのだ、お母さまは光属性というのは分かる。
クラウン級というのは、話からしてレベルだろうか。
あと魔素って、魔法じゃないの?
私が頭を傾げているのに気がついたヒルデが簡単に説明してくれた。
魔素とは、生き物が己で生み出す力。世界に満ちている自然発生する力を魔素元素と言うらしい。
そして魔法は、魔素または魔素元素を操る事で起こる現象を言うそうだ。
雨が降るのは水の魔素元素の力。
生き物が己の内にある魔素の力を使い、水を作り出すのは魔法となるわけだ。
クラウン級等は、やはりレベルのことで、魔素の保有量や、如何に使いこなせるかという基準。
クラウンは1番上。
1番低いのは1級。級は1から7まで数字で、その上がナイト、クイーン、クラウンという順番。
私とレオナ兄さま以外は、家族みんなクラウン級だそうだ。
私達はまだ魔素の洗礼儀式を受ける歳ではないので、レベルは分からないらしい。
洗礼儀式は10歳で行い、レベルは基本的にそこから変わらないという。魔素の保有量は才能みたいなものなので、使いこなせるように修練を積む事で等級を上げる人もいるが、ごく稀だそうだ。
文字の事を聞いたら、魔法について教えて貰えるとは!
才能だけでなく、努力によっても道が開ける可能性があるとか、すごく良い。
『アリステア』は上手く魔素を使えていなかった原因が魂と身体の歪みのせいだけとも限らない。
努力でカバー出来る可能性があるのは、ありがたい。
私のテンションが上がったのが分かったのか、お母さまが素敵な提案をしてくれる。
「アリステアは魔法も好きなのかしら?それなら、魔法の先生もお願いしなくてはね」
「お願いします!!」
ガチャンっ!
勢いよく頭を下げたら頭にティーカップが当たって倒れた。
「………奥様、マナーの先生も必要かと」
「元気が良いのは嬉しいけど、素敵なレディになるにはマナーも大事ですものね」
「うっ……はい」
本当は、剣術とか、馬術もやりたいのだけど、この流れで話すのはやめた方がよさそうな気がする…
それなら…
「お母さま、他にも歴史や算術とか…たくさん学びたいです」
「まぁ、まぁまぁまぁ!!なんて嬉しいのかしら!!」
お母さまのテンションがぐんぐん上がって、光が強くなってくる。逆光でお母さまの顔がみえない。
「お父さまにはやく相談して、カリキュラムを考えていただきましょうね!!」
「ありがとうございます!あ、あともう一つお願いが…」
「何でも言って!私のアリステアちゃん」
「えっと、紙とペンが欲しいです。まだ文字は分からないですが、本の文字を真似て練習したいんです」
「わかったわ!それなら、魔法工具師達を呼ばなくてはね!ヒルデ」
「かしこまりました、奥様。すぐに手配いたします」
?紙とペンをお願いしたら、なぜ魔法工具師を呼ぶのだろう?
というか、魔法工具師って…
「アリステアお嬢様、紙もペンも、お嬢様の特別製でなければ使えませんから、揃うまでお待ち下さい」
「えっと、練習用だから別に特別製じゃなくても」
「お嬢様、紙は大衆用の無属性もありますが、ペンはご自分用でないと書けません。いえ…確かに大衆用のペンもありますが、あれはすぐ汚れますし、インクがなくなったら書けなくなってしまいますから」
「インクが無ければペンは書けないでしょ?」
「確かに大衆向けのペンではインクが無ければ書けませんが、魔法工具師の作る特別製のペンは、インクの代わりに持ち主の魔素をつかって書く事が可能なのですよ」
「洗礼前の私でも魔素で書く事は可能なの?」
「可能ですよ、お嬢様。魔法工具師のペンはごくごく少量の魔素しか使わないので、生き物であればほとんどが書くことが出来るほどです」
「へぇ、それは便利ね!そんな便利なペンがあるのに大衆向けのペンが存在するのはどうしてなの?」
「それはもちろん…大変貴重で、高価ですから」
魔法工具師がそもそも少ない上に、その中でも一流の人しか作れない逸品なため、お値段もとてつも高く、大衆向けに出回るものではないらしい。
そんな逸品を文字の勉強をしたいと言う6歳児に与えようというのか…ありがたいけど、金銭感覚がすぐに狂いそうで怖い。
「奥様、魔法工具師はすぐに依頼しても、明日以降になってしまいますので、お嬢様の文字のお勉強でしたら書庫に良い本があるかも知れません」
「そうね!イデュールや、サラがお勉強に使った教材もあるはずだわ」
「書庫?!い、行きたいです!」
思わず立ちあがりかけたけど、後ろに控えていたリナに肩を抑えられた。
またマナーについて指摘されてしまうところだった…
既に私の突発行動パターンに対応しつつある専属メイドに感謝だ。
「では食事の後は、散歩の代わりに書庫へ行きましょう!」
私もすごく嬉しいが、実際に光輝いているお母さまの喜びは凄まじい。