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77.家族と専属⑧

「ミル―、お待たせ。そちらに座って」

「はい」



シキと入れ替わりで部屋に入ってきたミル―は少し緊張しているようだった。

もしかすると、いつもシルルと2人で行動しているのかもしれない。


双子なので、2人一緒に話そうかと迷ったけれど、双子とは言え、1人じゃないと言えない事もあるかもしれないから、あえて1人ずつのままにした。



キッチっとした動きで椅子に座ったミル―の顔は、覚悟を決めたような表情をしている。



ピンクの瞳、茶色の髪のミル―はシルルと同じ顔のはずだが、体つきや色が違うせいなのか、シルルよりも少し柔らかいい雰囲気に感じる。

決してナイスバディのボディラインを見て柔らかそうだと思ったわけでない。



「準備を急かしてしまってごめんなさい。早めに1人ずつ話をして、みんなのことを知りたいと思ったの。ミル―のことを教えて欲しいわ」


「私・・・ですか?」



シキとはちがって少し怯えるよたように見えたので、しっかり笑顔を意識しながらゆっくり話かけた。



「ええ。まず言える範囲で生い立ちを教えてくれる?」



「私とシルルは双子で、おおよそ15歳です。私達はエアルドラゴニア国の南部で生まれましたが、両親を知りません。小さなころの記憶はありません。気が付いた時には小さな納屋で2人より添って生活しました。食べ物は納屋の近くにあるゴミ捨て場からとって食べていました。ですが、5歳ごろの嵐の続く金の季節に納屋が壊れました。私達は行く当てもないため、ただ壊れた納屋の前でたたずんでいるところをディルタニア家の保護を受けました。それからはスーア族と孤児の生活区域で生活していました」



・・・・・・・


孤児については知識としては知っていたけど、直接話を聞くと何とも言えない。

私は『前の世界』でも、今も、家族がいて、衣食住があるのが当たり前の中でしか生きていない。


ミル―はさらりと事実のみを話しているという感じで、特に感情の変化は感じられない。



「そう・・・」



ミル―にとっては過去として、整理されたことなのかもしれないから、想像して同情的な言葉も、寄り添うような言葉も、しっくりこない気がして口に出せなかった。


きっと私ができるのは、教えてもらったことを踏まえたうえで、これからの関係や生活をどう一緒に過ごしていけるかだと思う。




「ミル―は訓練がない時は何をしているの?」



「山に登っています」



「・・・や、山。山に登るのは何か目的があるの?」


「いえ、特に登る以外の目的はないです。時々珍しい植物を採取するのことはあります。あとは・・・高いところからの景色は綺麗です」



・・・おっと・・・ミル―、まさかの登山家だった。

しかも、そこに山があるから登るってタイプのようだ。


柔らかい雰囲気のミル―は、てっきり室内で過ごすことを好むかと思ったが、ワイルドな生活を好むようだ。



「今までどんな山に登ったことがあるの?」

「エアルドラゴニア国の北にある、コックトニア山脈の光のフート山、闇のアミア山、木のコウタ山は何度か登っています」


山に光とか闇って・・・属性かな?


地理の勉強は詳しくはまだなので、聞いたはいいけどよくわからない。

でも、私ののんびり生活は旅から始める予定なので、情報収集には良い人材な気がする。


「では、旅は好きですか?」


「山があれば嬉しいですが、新しいことを体験するのは刺激を受けるので旅も好きです。活区域以外はまだ長距離移動の経験はありませんが、今後の実地訓練で経験できると聞いているので楽しみです」



おぉ!良い人材間違いなし!

やっぱりお願いするなら、好きで楽しみながらやってくれる人がいいよね。



「私もまだ経験はありませんが、いつか旅行に行きたいと思っているの。ミル―が訓練などで得たあちこちの情報を教えてくれると嬉しいわ」


「承知いたしました。どちらへ行きたいとお考えですか?」


「行けるだけ、多くのところへ」


「それは・・・素晴らしいですね」



感情の見えない堅めの表情だったミル―の表情が柔らかくなり、瞳がキラキラしている。

見た目だけで言うなら、20歳以上の大人だが、やはり瞳は年相応の冒険心や好奇心を隠せないのだろう。

輝きが少年少女のように感じる。


『前の世界』でこの輝きを大人でも維持できている人は少なかったような気がする。

この世界ではまだわからないけれど、大人でもこの輝きを持って生きていけたらいいと思う。



「ふふっ、ミル―は身体を動かすことも好きかしら?」


「はい。勉学も嫌いではありませんが、身体を動かし、鍛練して技を身につける時間の方が好みです」



「魔法の属性は、ミル―の色はピンクと茶色だけど、得意な魔法は水なのよね?」

「はい。色は火と土属性ですが、水属性を訓練した結果、今では技の種類も発動スピードも1番得意と言えるようになりました」



ほぉ・・・訓練次第で得意な属性が変わることってあるんだ。

たしか、基本的には全属性を操るけれど、色の属性が特に相性が良いって話だったよね。

まだ自分自身が魔法をつかえないから実感はないけれど、得意不得意って言っても結構幅のあるものなのかもしれない。



「なんで色ではない水属性を訓練したの?」

「生きるには、水が必要だからです。山登りや困難な生活環境では水がとても重要になります。なので、水属性の魔法を重点的に習得することに努めました」



・・・生きるため・・・山登りは別として、困難な生活って言うのは、やはり孤児時代のことが要因なのだろうか。

孤児と一言で言っても、色んなパターンがあるから、背景を知ることで考え方の基準が見える気がする。

ミル―が水属性を選んだ理由もきっとそういうことなのだろう。


やはり話をすることは大事だね。





――――コンコン




「アリステアお嬢様、シルルが来ております」

「わかったわ、ちょっと待っていて」




「ミル―、最後に一つ教えて。ミル―はどうして私の『影』になってくれたの?」


「・・・アリステア様は私の知らないことを知っているような気がしたからです。雰囲気も独特で・・・そばでかんさ・・・お仕えしたいと思いました」



・・・観察って言おうとしたね。

ちょっと言いにくそうな感じからして、純粋にお仕えしたい主というより、観察対象・・・好奇心を刺激してくれる人ってことで私に興味を持ってくれたのかもしれない・・・


やっぱり、シキと同じく、謎の行動が原因っぽいね。

シキもミル―も好奇心旺盛って共通点があるのはいいことだ。


共通点があれば、一緒に任務をしていけば仲良くなるのも早いだろうな。



「ミル―、今日はありがとう。シルルと交代して部屋に入るように伝えてちょうだい」

「承知いたしました」



ミル―はスッと立ち上がると、音もなく素早い動きで部屋を出て行った。



私はちょっと椅子に寄りかかって、すっかり飾りのようになっている紅茶を飲んでのどを潤した。






「アリステア様、シルルです」

「どうぞ」



流れるような動きで部屋に入ってきたシルルは椅子の横で、ピタリと止まる。


「待たせてしまいましたね。座って」

「はっ」



ミル―と同じ顔なのに、どこか余裕を感じさせる表情をしていた。

見た目はやはり20歳以上に見えるが、ミル―と同じく中身は15歳。


緑の瞳、ミルクティ色の髪をしたシルルは活発そうな雰囲気に感じる。

体形がスレンダータイプなので、私の中で勝手に陸上部のようなイメージにつながってしまう。



「アリステア様、もしよろしければお茶を入れ直しいたしますか?」

「そうね、お願いできる?」

「お任せください」


せっかく座ってくれたのに申し訳ないけれど、提案を断るのも気が引けたので任せることにする。


「そうだわ。シルルの好きなお茶を入れてくれる?」

「私の好きなお茶ですか?」


「ええ、シルルの好みを知りたいの」

「・・・承知いたしました」


シルルは少し驚いた表情をしたけれど、すぐに真顔になってお茶のセットを持って部屋を出て行った。




「うん・・・おいしいね。シルルが好きなお茶はピーチティだったんだね」


ももの甘い香りがはっきりとわかる。

味も濃く甘い。



「はい・・・その、ミルクティでは甘すぎですが、ストレートは少し渋くて・・・飲めないわけではありませんが、自然な甘味の方が好みです」


「たしかに美味しいね。私はピーチティならアイスも好きだよ」

「私も好きです」


「ふふっ、一緒ね。これからシルルと一緒にお茶をする時はピーチティにしましょうね」

「ありがとうございます」



「シキとミル―の好きなお茶も聞いておけばよかったわ」

「シキはあまりお茶は好まないようです。フルーツを入れた水を飲んでいるのを見かけたことがあります。ミルーは・・・甘くしたミルクを好みます」


ほうほう、シキはフルーツウォーターのさっぱり形で、ミル―は激甘系ってことね。



「シルルは好きな食べ物はある?」

「特に好き嫌いはありませんが、選べるとしたら野イチゴが好きです。山でよくとれるので」


・・・味が好き、じゃなくて山でよくとれるから好きってどういうことだろ・・・


「私とミル―は孤児ですので、ほとんどの食事をゴミ捨て場でさがしていました。ただ、時々食べられるものが少ない時があったので、そんなときは山に行き、野イチゴを食べてしのいでいました。野イチゴは小さくてあまり腹持ちの良い食べ物ではありませんが、腹痛を気にせず食べられるだけでとてもありがたいものでした」



不思議に思っているのが顔にでていたのだろう。

シルルの教えてくれた内容は、私にとっては切なく感じてしまうシルルの過去だった。



「そう・・・では野イチゴも一緒に食べましょう」

「承知いたしました」


シルルの表情は読みにくいけれど、私の答えを嫌がっているようにも見えなかったので、ほっとする。



「シルルは訓練のない日は何をしているの?」

「釣りに行きます」


・・・・・・釣り?!


「あとは、狩りに行きます」


・・・・・・狩り?!



「釣りも狩りもスーア族に習いました。不思議なほどよくとれるので、食べるのには苦労しません。それに料理も覚えました。新鮮な魚や肉はそれだけで美味しいですが、調味料を加えると、味の深みもバリエーションも増すので探求するのは楽しいです」



・・・・・背景のせいかもしれないけど、シルルって食への意識強めなのかも。


「料理は・・・国によっても色々と特徴があるようだから、他国に行けたら色んな料理を食べてみたいわね」


「はい。それはもう・・・確か平原のノニア国と海のルルカ国は観光に力を入れている国で、エアルドラゴニア国とは異なる料理も多いと聞いています」



シルルの目がキラキラしている・・・食いしん坊さん決定だね。



「シルルが火魔法が得意なのって・・・もしかして調理するときに火魔法があると便利だからだったりすの?」


「はい。それも理由の一つです。狩りで獲物をとる時、凶暴な魔物退治、そして食べる時にも使える火魔法は、私のとって欠かせないものです。火魔法の火加減調整には自信があります」


・・・・火加減・・・もう料理人の感覚じゃないかな。それ。




「シルル、最後に一つ教えて。どうして私の『影』になってくれたの?」


「アリステア様に可能性を感じたからです」


「可能性?」


「はい。アリステア様の言動には、未知の可能性・・・新しいことに出会える可能性をアリステア様の側であれば感じられるような気がしたのです」



・・・・言葉は違うけれど、結局私の謎の行動が不思議で興味が引かれた・・・と。


相当変な行動だったんだろうなぁ・・・私。




3人とも私の謎行動に興味を持った好奇心旺盛の強い変わり者・・・だったりするのだろうか。


まぁ・・・変わり者かどうかは別として、3人とも共通しているなら、仲良くはできそうだね。


ほんの一部だけど、話す前と後では1人1人への印象が違う。

みんなにとっての私も良い意味で印象が変わってくれてるといいな。



ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!

誤字報告下さった方ありがとうございます。


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