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75.家族と専属⑥

「で、話し合いとやらの意図はなんだ?」



ルーリー、リナ、ローキと共に久しぶりの自室に戻ると、ローキが話しがあると言い書斎を指さした。


こういう時、男女が2人だけで部屋に入るなんて・・・というやりとりがルーリーとリナからあるかと思ったが、特に反応がなかったのでローキと共に書斎に入る。



まぁ・・・外見まだ7歳児だし、男女の云々で咎められたりはしないか・・・



書斎に入って扉を閉めるとすぐにローキが話しかけてきた。





「仲良くなろうと思って」


「・・・主従以上にってことか?」



ご機嫌ななめなのがはっきりわかる顔をしている。

他の人が居るときは、表情も態度も押さえているのだろう。

2人っきりの時は素をみせてくれてくれているようで嬉しいが、できれば笑顔が見たい。



「に、にらまないでよ。仲良くなることはいいことでしょ?主従以上もなにも、普通の主従関係にもなれていないと思うし」



「普通の主従関係ってなんだよ。基本は正式な任命を受けているか否かが基準で、それ以上は過剰なんだよ」

「過剰ってことはないでしょ?気軽に話がしたいじゃん。好き嫌いとか、何を考えて生きているのかとか・・・せっかく身近な存在になってくれたんだから、そう言いう話がしたいの」



「『影』の任務とは全く関係ないな」

「あるよ!話をするってことは、私のことも知ってもらえるわけで、私の思考が分かれば私にとって有益な情報の種類もわかるでしょ?」


「・・・だからって会話しなくてもいいだろ。こんな情報が欲しいと命令すればいい。『影』ならお前の好みなんて自分達で情報収集してくる」

「それはそうだろうけど、そうなると私がみんなのこと知る機会がないじゃん」


「知る必要ないだろ」

「知りたいでしょ。何かをお願いしなきゃいけない時に、いやいや行ってほしくないし、できればそれぞれの得意分野で、好みの話をしてあげたいじゃない」



話せば話すほど、ローキの眉間にシワが寄っていく。



「お前・・・主従って何か知ってるか?」

「・・・・・・・意味は知ってるけど、たぶん理解してない」


「理解してないことは自覚あるんだな」



『前の世界』の歴史や、小説やマンガなんかに出てくる主従でも、色んなパターンがあることは知識として知っているつもりだ。

感情などないものとして、主が無理難題を従者に押し付けて使い捨ての道具の様に扱ったり、戦や労働で擦り切れるまでそ従者をつかい続けたりして、お互いを憎しみ会う関係、金銭的な関係、血筋と権力の関係・・・



でも私は、小説やマンガなんかで好きだった、フランクな関係の主従になりたいのだ。

『前の世界』ではそれなりに社会人経験を積んでいると思っているので、少なくとも良好な上司と部下の関係を目指せば、きっと理想に近い主従関係が築ける気がする。



「主従関係は分からないけど、上司と部下の関係なら分かるよ!助け合いができる関係で、悩み相談を気軽にできる上司を私は目指すよ!」



「・・・・・・つっこみどころが多すぎる」



片手で顔を隠してしまっているので、表情は分からないが、ローキの眉間のシワはさらに深くなっているよな気がする。



「無茶苦茶なお前と、他の『影』達を1対1で話し合いさせるのか・・・ムリだろ。『影』達が気の毒すぎる・・・」


「ど、どうして『影』のみんなが気の毒なの?!」



「お前は常識が通じねぇからだよ」

「うっ・・・私のどんなところが非常識なの?!」



「・・・どうして主従関係は分からなくて、上司と部下の関係なら分かるんだよ。公爵令嬢のお前は、常識では主従関係しか知らないはずなんだよ」


「あ・・・」



「上司と部下の関係も色々あるだろうけど、理想を持てるほどパターンを知ってるってことだろ?どうしてそんな理想を言える?」


「・・・・・・」



「そもそも、上司と部下の関係と主従関係は違う。上司と部下は同業者間での関係だが、主従関係は立場も権力も違うから比較にならない」


「・・・・・・」



「何か言うことは?」

「ないデス・・・でも、仲良くはしたいです」



ローキの前だと、私自身、素に近い状態のため、うっかり『前の世界』の感覚のまま話してしまうが、今の私は7歳の公爵令嬢だ。

上司と部下の関係が何たるかなんて、分かる訳もなければ、目指す理想を考えられるのものおかしい。


深く突っ込まれたくなかったので、反論をやめて仲良くしたいということだけ主張してみたけれど、ローキの眉間のシワは消えてくれない。



「・・・俺には言えないってことか?」

「言えないというか・・・なんて言ったらいいか分かんないと言うか・・・少しずつ言いたいというか・・・」


「煮え切らない言い方するなよ」

「んー・・・多分今話し始めたら、『影』のみんなが途中で来ちゃうし」

「時間がかかる内容なのか」


「おそらく・・・時間に余裕のある時に話したいかな」


私のズルズルした返答に対して、ローキはガクリッと頭を下げたが、少し間を開けて、あきらめたような表情で顔を上げた。



「はぁ・・・・・・どう考えても先に俺が知っておいた方が良さそうな気がする・・・でも、今じっくり話すには時間がないのはたしかだし・・・お前に常識も普通も通じないことをあいつらも把握しておいた方が、今後のお互いのためってことか・・・」


この世界の常識や普通が私の中に落とし込めていない自覚もあるので何も言えないが、そこまで問題児ではないと思うのだけど・・・



「で、お前の話し合いの目的が仲良くなるためなのはわかったが、俺みたいに話ができると思うなよ」

「・・・なんで?」



「一緒にしてんじゃねぇよ。他の『影』の奴らとは出会い方も、会話の内容も全く違うじゃねぇか。あいつらの前では一応公爵令嬢っぽい姿しか見せてないだろう」

「たしかに・・・でも、こんな子どもに堅苦しくしろって言われるより楽じゃない?」


「その感覚も普通じゃないからな!こんな子供は公爵令嬢だぞ!『影』のやつらは孤児とスーア族だ。しかもディルタニア家の庇護を受けている。ディルタニア家の人間は、奴らにとっては、ある意味この国の王様よりも大きな存在なんだよ。そんな存在と楽に接する方がむずかしい」



「それじゃぁ仲良くなれないじゃん!!」

「だから仲良くする必要ねぇって言ってんだよ!俺がいるだろ!」


「ローキは専属で特別なの!『影』の皆とは普通に仲良くしたいの!」


「お、俺が特別なのは当たり前なんだよ・・・やつらに対する・・・普通ってなんだよ」



なにやらローキの勢い収まったが、俯いてしまたので表情が見えない。

うーん・・・確かに言われてみれば、そもそもの地位とか権力に差がある状態で普通に仲良くするって難しいのかも。

そんな関係なったことがないけれど、小説やマンガでは身分違いの友情はあるあるだからいける気はする。



「・・・スタンは私の家族と私の理想っぽい関係を築けてる気がするよ」


「スタンさんか・・・また特殊な人間の話を出しやがって・・・そうか、スタンさんを見ているからか・・・」



「スタンは特殊なの?」


「特殊だ。スタンさんは孤児だが、もとは貴族なんだよ。だから騎士のお貴族さまの養子になることができた」

「そうなの?!この国の貴族だったの?」



「詳しくは俺の口から説明していいいかの判断ができねぇ・・・今のところ、特殊な出自で他のやつの参考にはならないってことを覚えておけ」

「そっかぁ・・・」


確かに自分のしらないところで勝手に話を広められるのって嫌だもんね・・・貴族なのに孤児ってことは、事情も複雑だろうし。



「俺がお前に話さないのは、お前が今考えているような同情的な意味じゃないぞ」

「え、私、顔に出てた?」


「お前・・・自分が感情隠せてるとおもってるのか?」

「・・・なんか、すみません」


「俺がお前に話さないのは、この情報がお前を危険にさらす可能性がわずかでもあるからだ。スタンさんへの同情だけなら話してる」


さらりと危険な情報と言われて驚く。

スーア族のこともだが、知るだけで危険な情報は意外と身近にけっこうあるのかもしれない。嫌だけど。



「とにかく、俺とスタンさんは参考にならねぇ。ルーリーとリナがいるだろ、あいつらとはどうなんだ?」

「ルーリーとリナ?・・・1対1で話したことはないけど、そもそも毎日会うし、会話もたくさんできるから、私的には結構仲良くなっていると思ってるんだけど・・・」


「なら同じように、時が解決してくれんじゃねぇか?」

「全然違うよ!『影』のみんなはルーリーとリナより直接話す機会少ないよね?!時間がかかりすぎるよ!」



「時間をかけちゃいけないのか?」

「い・・・けなくはないけど・・・せっかくなら早く仲良くなりたいし?」


「なんだよ、その微妙な反応は。人間関係なんて時間かけるのが普通だし、無理やり作った関係はもろいんだ。お前のその急いでやらなきゃいけないっていう価値観はなんなんだ?」



ローキに指摘されてドキリとした。

たぶん、関係の構築・・・チームを作ったら円滑に仕事を進めるためにコミュニケーションの場をすぐに整えようとする『前の世界』の癖が出ているのだろう。

私自身、強制されるコミュニケーションの場を嫌がっていたはずなのに、自分がそれをしようとしていることに気が付いてぞっとする。


私・・・どんだけ『前の世界』にしばれれてるんだろ・・・



「・・・・・たぶん、じっくり話さなきゃいけない案件関連です」

「はぁ・・・わかったよ。そんなしょげた顔するな。別に仲良くなることは悪いことじゃねぇよ。ただ、お前が無理してそんな気遣いする必要ねぇってことを言いたかっただけだ」


俯いてしまった私の頭を、ローキが優しポンポンとたたいた。



「しかし・・・仲良くねぇ・・・いきなり砕けた話をするより、取り調べみたいな形ならいけるかもな」

「取り調べ?!悪いことしてないのに?!」


「なんで取り調べが悪いことと繋がるんだ?」

「あ、えーっと、イメージで」


取り調べって聞くと刑事ドラマ系統が頭に浮かんでしまうのは、もう仕方ないと思う。



「・・・・・そのイメージの元も『じっくり話さなきゃいけない案件関連』ってことか」

「はい」



「・・・とりあえず、取り調べは調査だ。別に良し悪しはないだろ。どんな人材なのか詳しく知りたいという体なら、公爵令嬢風の対応でもお互いの話ができるんじゃないか?」


「その公爵令嬢風っていうのは、崩したらだめなのかな?」

「崩して良いって言ったらどこまで崩すのか予想できないから駄目だ。第一、ちゃんと公爵令嬢風を維持できるかもわからねぇ」



「その公爵令嬢風って?」

「公爵令嬢として形はできても、中身が伴ってねぇから風って言ってるんだ。意味、分かるよな」


「はい・・・ごめんさい」




「取り調べのように相手に質問をして、答えさせる。その答えを聞きながら、自分の考えもそれとなく伝える。それでいいな」


私の考えてた楽しくおしゃべりと言うのが難しい関係っていうのはローキの話でわかったから、少々堅苦しい感じになるけれど致し方ない。




――――コンコン



「アリステアお嬢様、シキが来ております。書斎に案内いたしますか?」



「ちっ・・・最初はシキかよ。俺も一緒にいなくて大丈夫か?」


「ありがとう。でも大丈夫。まず話してみたいんだ」


「わかった。ま、困ったら俺が助けてやるよ」



ローキはニっと笑うと、書斎を出て行った。


眉間にシワが寄った顔よりも、やはり笑った顔を見ていたい。

『影』の皆の笑顔もはやく見れるようになりたいな・・・・



「シキです」

「入ってください」




ひとまず、この公爵令嬢風取り調べを頑張りましょうか。


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