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74.家族と専属⑤

「お母さま、話しの途中でごめんなさい」


ローキに手を引かれて部屋に戻ると、みんなが心配そうに私を見た。



皆からすれば、お母さまの話のどこに動揺するようなところがあったのかわからなかったのだろう。


VRゲーム中に攻撃を受けて、同じところをリアルな身体に衝撃を受けたときの緊張と恐怖に似てる・・・なんて説明が通じるわけもなく、しかもこれはゲームではないのだから、みんなに対して失礼極まりない。


決してみんなを軽く見ているわけではないが・・・『前の世界』の感覚を引きずっていて、まだ現実感が追い付いていないのだ。


たぶん、これは罪悪感という名前の感情だろう。

しかもこの世界では感じる必要のない罪の意識。



『考えるのをやめろ』



そう・・・だよね。


たぶん、考えても答えは出ないし、時が経つにつれて私の現実感がこの世界になじむかもしれない。

自分の感覚は迷子で不安だけど、この世界で生きるローキが伝えてくれた言葉は信じられる気がする。





「アリステアちゃん、続きは後日にする?」


「・・・ううん。大丈夫。続きを教えて」


「わかったわ」



きっと私の表情はまだこわばったままだっただろうが、お母さまはあえて詳しく聞かずに、続きを話してくれた。




「ローキ君についてはスタンが対応するわ。スタンはしばらくの間は騎士の仕事より優先して、ローキ君に屋敷の情報の共有と指導をお願いね、スタン」


「心得ております」



「新たな『影』となった3人、シキ、ミル―、シルルの指導はタータッシュとタロスが行うわ。『影』の行動は基本、私達を陰ながらサポートすることよ。アリステアちゃんの場合、3人いるから交代制でアリステアちゃんのそばに居ることができるわね」


「ローキと同じように私の部屋の近くで生活するの?」


「いいえ。『影』達の生活区域は別に用意しているわ。でもほとんどが常に出払っているそうよ」


「それは・・・大変・・・だね」



休みなし、あちこちずっと出張業務・・・ブラック中のブラックの生活じゃん。

この国の宰相であるお父さまが休みたい時に休めるほどホワイトなのに、『影』になったら超絶ブラックなんて・・・



「アリステア様、何か思い違いをされているようですね」


「えっ」


驚いて顔を上げると、声の主はローキの父であるタロスだった。



「確かに厳しい任務もありますが、『影』達にとってそれは喜ばしいことです」

「でも、お休みもなで任務でずっと働きづめなんて・・・」



「働きづめ・・・とはなんでしょう?」

「何って・・・生活区域に戻れないほど休みなしで外で任務をこなし続けるんですよね」


「いいえ。違います」


「そんな生活を続けるなんて・・・ん?違うんですか?」



「そのような生活を続けていては緊急時に役に立ちません。適度な休息は基本です。『影』となるものは遠出することを好むものが多いので、長期休暇を取り、見分を広げるための旅に出る者もいます。また、生活区域に戻らないのは、好奇心旺盛の性格故です。任務以外で一所に長時間いるのは好みません。少ないですが、生活区域で生活する者もいます」



・・・・・・あれ?なんか想像してた感じじゃない。

長期休暇で旅?


『影』って生活も限られた生活区域でこっそり生きるのかと思ってたけど・・・出入り自由な感じなの?



「そ、そうなんですか・・・なんかイメージが違っていて、『影』の生活でもっと縛りが強いのかと思ってました」

「縛りとは?」



「行動を制限されるみたいな?存在を知られちゃいけないとか?」


「確かに存在は知られてはいけませんが、『影』となる人間が外部に素性を知られるようなミスは起こしません。休みの間、自由に動き回ることで自然と独自の技術を磨くことができ、得られる情報もあるというものです」



・・・おや?

『影』って暗部的な感じなんじゃないの?


自由とは無縁のように、陰に生きる・・・・


もしかして・・・私、厨二病的な勘違いをしていたり・・・する?



「はぁー・・・」



後ろをみると、ローキが盛大なため息をして、私をかわいそうな子を見るような目で見ている。


そ、そんな目で見ないで!!!

なんかすごく恥ずかしいよ!!



「なるほど、アリステア様は心がお優しい方のようだ。しかし・・・そのような悪質な生き方をどこで知ったのでしょうか。他国ならまだしも、エアルドラゴニア国では大昔の話・・・歴史の授業か何かで聞いたのですか?だとしたら、少々教育の方法を検討された方がいいかもしれませんね」



「ち、違います!!えっと・・・あのー・・・みんなすごい人達だから?ずっと頑張って任務をしてくれるのかもしれないって、勝手に想像しちゃっただけです」



「はぁー・・・」


うぅ・・・ローキのため息が聞こえるよぉ。

顔を見なくてもあきれた表情をしているのが分かる。



自分でもまともな言い訳になっていないこともわかっているけれど、ここで否定しておかないと、歴史を教えてくれているルーファが良からぬことを吹き込む悪講師だと勘違いされてしまう!


『前の世界』では、そんな生活の人が大量発生していたからです!なんて言えないから、なんとかこの言い訳でごまかされてほしい!



「そうですか・・・アリステア様は想像力も豊なのですね。しかし、心配にはおよびません。若い者が無理な生活をせぬよう、私がしっかりと指導いたしましょう」


よ、よかったぁ・・・追求されなかったぁぁぁ


それに、タロスさんってなんかすごく頼れる上司っぽいね!

少なくともブラックな生活を悪質な生き方だと思ってる人が教育してくれるなら、『影』の3人は大丈夫そうだ。



「『影』の任務は多岐にわたりますが、今のエアルドラゴニア国での主な任務は情報収集と報告、そして不穏な動きがあれば時として即時対応することもあります。あとは護衛、潜入、情報操作・・・すでに技術的なところは習得済みですので、あとは実地で経験を積んでいけば数年で立派な『影』となります。基本的には1名がアリステア様の護衛、1名が実地での研鑽、残り1名が休息として、2日に1度は休みとしましょう」


「・・・それなら安心ですね」



2日仕事で1日休みサイクル・・・なんてホワイト・・・私もそんな生活がよかったなぁ・・・



「『影』のみんなには明日からそのサイクルで生活してもらいましょう。今日は明日からの任に備えて生活の準備をしてちょうだい。アリステア、他に何か聞きたいことはあるかしら?」


「できたら・・・今日、みんな明日の準備ができたら1人ずつとお話したいです。あとみんなでもお話したいです」



「1人ずつとお話した後、みんな集まって話をしたいの?」

「はい」



私の感覚は・・・かなり、すごくズレているような気がする。

だから、みんなの話を聞いてこの世界を、この世界のみんなを知って、調整する必要があると思う。


『影』のみんなの生活サイクルを考えると、明日からはみんなが揃うのは難しそうだから、チャンスは今日しかない。

それに、みんなお互いに仲良くなって欲しい。


これまでどんな関係で、どんなやりとりをしてきたか分からないけど、これから短くない時間を共有する可能性があるのだ。

できるだけ早くお互いを知る機会があった方がいい気がする。



「そうねぇ・・・どうかしら、タロス、タータッシュ」


「今日ということでしたら1人ずつの会話は可能でしょう。しかし、全員となると少々時間が足りませんな。週末に集まる日を設けてはいかがでしょうか?」

「そうですね・・・私も同意見です。全員の話し合いは今日でなくてはなりませんか?」


「今日じゃなくて大丈夫です!」



「ふむ。そうであれば、生活の準備ができたものから、アリステア様のお部屋にて1人ずつお話をされて、週末の昼食後に全員が集まって話のではいかがでしょう」

「はい!みんながそれで問題なければお願いします」



「そう。では、ここでの話は以上よ。みんな、アリステアをよろしくね」



「「「「はっ」」」」



よし、みんなのため・・・いや、私のためにも話し合いでこの世界になじむために調整頑張ろう!!


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