72.家族と専属➂
―――――グイッ
私は応接室の前で降ろされたとたん、引っ張られた。
「ローキ?」
ローキは、スタンから私を後ろに隠すように引っ張った。
「ローキ、心意気はいいけど、もう少し余裕を持たないと大事な主人に愛想つかされるぞ?」
「・・・・・・」
あきれ顔のスタンに対して、ローキは真剣な顔でスタンをにらんでいた。
・・・まぁ、ローキからしたら、スタンはいきなり自分の役目を奪った人なのかもしれないけど・・・
スタンに損な役回りをさせてしまったようで申し訳ない気持ちになる。
ローキと私は確かに身長差が前よりできたとはいえ、余裕でお姫様だっこができるほどではない。
森を駆け抜けるときならまだしも、体調不良でもなければ、代わりの人が居ないわけでもない中で、おんぶで移動は少々恰好が付かないのは私でも分かる。
「私の専属護衛はローキだよ・・・」
ローキのピリついた雰囲気を何とかしたかったが、ローキがどんな言葉にどんな反応をするかわからないので、碌な言葉がでてこなかった。
はやくローキのこと、『影』のみんなのことも知る必要があるね・・・
何か言ってあげたいのに、何も言えなくてもどかしい。
ローキの服の裾を引っ張ってみると、ローキの身体から力が抜けた。
「・・・主人に気を使わせてしまっている時点で、私は半人前ということですか・・・」
「技術と心意気はしっかり一人前だよ。後は時と経験だね」
「ローキ・・・」
「アリステア様、すみません。もう大丈夫です。スタンさんをころ・・・殴るのは止めます」
「・・・・・今、物騒なこと言おうとしたね」
殺気・・・本気だったんだ・・・
「アリステアお嬢様!お待ちしておりました!!」
「式の準備はできていますよ」
「リナ!ルーリー!久しぶりだね!!」
「はい!!」
私達の声が聞こえたのだろう。
応接室の中からルーリーとリナが出て来た。
応接室の中に入ると、机や椅子はなく、広いスペースになっていた。
「アリステアお嬢様は旦那様と奥様の間へ進んでください」
「他の方はディルタニア家の皆様の向かいに並んでください」
部屋の奥には家族が皆並んでいた。
私は言われた通りにお父さまとお母さまの間へ歩いていき、入り口の方へ振り替えると、ローキ、シキ、ミルー、シルルが順に並んでいた。
壁際にはタータッシュ、ヒルデ、クリーク、スタン、ルーリー、リナが並んでいた。
そして、お父様の斜め後ろに、お盆の様なものを物を持った男の人が立っていた。
・・・執事の服を着ているけど誰だろ?会ったことはないと思うけど・・・
「では、任命式をはじめよう」
お父さまが1歩前に出ると、お母さまが私の背を押した。
促されるまま私も1歩前・・・いや、3歩前に出てお父さまの隣に立った。
お母さまも私の隣に進み出て並んだ。
「ローキ、前へ」
「はっ」
声をかけられたローキは答えると、一歩前へ出て片膝をついて頭を下げた。
「ディルタニア家に仕えるスーア族、族長の孫ローキよ。我が娘、アリステア・ルーン=ディルタニアに忠誠と、害あるすべてより守ることを誓うか?」
「誓います。アリステア様が私を求めてくださる限り、この命をかけて守り仕えることを誓います」
「よかろう。我、ディルタニア家当主、アルフェ・ドゥード=ディルタニアがローキをアリステアの専属護衛となることを認めよう」
お父さまの認めると発言にあわせて、控えていたお盆を持った男の人が移動して、お父さまにお盆を差し出した。
お父さまはそのお盆から、小ぶりの金色のブローチを取った。
ブローチをローキに渡すのかと思ったら、私に差し出したので驚いた。
「このブローチをローキの左胸に着けてあげなさい」
なるほど。
私の専属だから、証明は私が授与するってことね。
私はお父さまに頷き、ブローチを受け取った。
きれい・・・というか、かっこいいね。
3㎝ほどの小さなブローチだが、重厚感のある細工だった。
中央にライオンが彫られた金色の石があり、それを羽根が囲っているデザインだった。
ローキの方を見ると、少し緊張したような顔で私を見ていた。
私はローキに近づき、ブローチを外套の左胸の位置に着けた。
ちょっと手が震えたけど、なんとかまっすぐつけることに成功した。
私がお父さまの隣に戻ると、ローキはスッと立ち上がり、ブローチに手を当て何か呪文のようなことを唱えた。
呪文?あのブローチって魔法石なの?
一瞬ローキの全身が光ると、身に着けていた服が変化した。
「っ!!」
黒い外套は白色のマントになり、シンプルな白シャツと黒いズボンも金色と銀色の刺繍がされた白色の騎士の様な服に変化した。
か、かっこよすぎでしょ!!!!
何?!この王子様感!!護衛の恰好って言うより王子でしょ!!
護衛と言えば、忍者や騎士っぽい黒や紺色系の濃い色じゃないの?!
お茶会の時のマルティネス王子とヨルムド王子の衣装は見るからに豪華で質の良い高価な物なのが分かる服だったけど、ローキの服は恋愛シュミレーションゲームとかで出てくる正統派白色王子服のような感じだった。
目が離せずローキを観察していると、満足そうに笑うローキと目があった。
うぐっ・・・もともとイケメン系の顔なのに、王子服というアイテムが追加された姿は刺激が強い。
「シキ、ミルー、シルル、前へ」
ローキが礼をして元の位置に戻るのに合わせ、お父さまは『影』3人に声をかけた。
「「「はっ」」」
皆、ローキの時と同じく一歩前へ出て片膝をついて頭を下げた。
「ディルタニア家の庇護を受けしシキ、ミルー、シルルよ。ディルタニア家と我が娘、アリステア・ルーン=ディルタニアに忠誠と、己の知恵、技術を駆使し『影』として力となることを誓うか?」
「「「誓います」」」
「よかろう。我、ディルタニア家当主、アルフェ・ドゥード=ディルタニアがシキ、ミルー、シルルをディルタニア家とアリステアの『影』となることを認めよう」
再びお盆を持った男の人が移動して、お父さまにお盆を差し出した。
お父さまはそのお盆から、小ぶりの銀色のブローチを1つ取り、私に差し出した。
受け取った銀色のブローチは、ローキの金色のブローチと同じく3㎝ほどの小さなブローチで、中央にライオンが彫られた銀色の石があり、それを三日月が囲っているデザインだった。
シキ、ミルー、シルルの順に、1個ずつ受け取り、1人ずつの外套の左胸のあたりに着けていき、つけ終わるとお父さまの隣にもどった。
3人の衣装も変わるのかな?!
ワクワクしながら見守ると、3人は立ち上がり、ブローチに手を当てて呪文のような言葉を唱えた。
するとやはり一瞬の光の後に、3人の服が変化していた。
まさかの全身銀色!!
甲冑かと思ったけれど、違った。
形状自体はさほど変化はなく、フード付きの外套に、中は忍者服っぽいものだったが、素材がシルクのような光沢のある銀色の布だった。
かっこいいけど目立たないか?!
私が微妙な顔をしているのに気が付いたのだろう、シキがちょっと驚いた顔をしてからフッと微笑むと、フードをかぶった。
こ、光学迷彩!!!
いや、ハリー○ッターの透明マント?!
すごい!!!
私が喜んだのが分かったのか、ミルー、シルルもフードを被って姿を消す。
完全に透明というか、よく見るとゆがみのようなものは分かるけれど、それはあくまでそこに居ることを知っているから判別できるだけであって、きっと知らなければ気づけない。
3人は同じタイミングでフードを外して姿を現し、元の位置へ戻る。
私の反応が面白かったのか、3人の表情が柔らかいものになっていた。
「皆、これからアリステアを頼んだぞ」
「「「はっ」」」
「スタン」
「はっ」
任命式が終わりだと思ったら、お父さまがスタンに声をかけた。
スタンは壁際からローキの横に移動した。
「そなたをアリステアの専属護衛と『影』の指導役とする。タロスと共に導け」
「承知いたしました」
スタンが指導役?!
驚いてスタンを見ると、微妙な顔で微笑まれた・・・
うん・・・いや・・・なんだろうなぁ・・・仕事増やしてごめんね。
スタンには優しくしてあげよう。
そう言えば、タロスって誰だろう?
この場で知らない人と言えば・・・・
お盆を持つ人をちらりと見ると、目があった。
あ、この人オッドアイだ。
目が細くて色が見にくいが、たぶん右が赤で、左が黄色の瞳だ。
髪の毛は白色で・・・色の配色的にはローキに近いものを感じる。
「アリステア、私の専属護衛タロスだ。タータッシュの子で、ローキの父。専属護衛の何たるかを指導してくれるだろう」
配色が似てると思ったら、ローキのお父さんだった?!
「タロスとお呼びください。アリステア様」
「よろしくお願いいたします。タロスさん」
「・・・タロスと」
「・・・よろしくお願いします。タロス」
「承りました」
・・・・・・・なんというか・・・表情も硬くて変化しないし・・・厳しい人っぽいね。
これからこのメンツでの生活どうなるのか若干不安はあるけれど、これで私のファンタジーバトル観戦揺るがないものになった。