70.家族と専属①
「では、行きましょうか」
石の祠の前に立つと、タータッシュさんが声をかけた。
はじめて来た時には気がつかなかったけれど、村の様になっている区域と外である森の境目を表す、石の祠が道のわきにあった。
ローキとシキ、ミルー、シルルの4人がタータッシュさんの声を聞いて、銀色のプレートが付いた短いネックレスを取り出し、何か呪文のような言葉を短く唱えた。
―――バサッ
ネックレスが一瞬光り、次の瞬間、黒いフード付きの足首当たりまで隠れる外套を身に着けていた。
おぉ・・・冒険者っぽいね!
小説やマンガやゲームでは定番の冒険者スタイルにそっくりでテンションが上がった。
タータッシュさんは執事の恰好のままで、『影』3人は忍者服の上に外套。ローキは白シャツに黒いパンツ姿に外套だ。
「かっこいいね」
「・・・・・かっこよくはないだろ。ただの黒い外套だ」
ローキは私の独り言に反応して、口では何でもないように返してきただ、耳が赤くなっているので照れているのがわかる。
「ローキは屋敷に着いたら制服みたいなの着るの?」
「着替えた方がいいか?」
「ううん。別にいいんだけど・・・」
「なんで俺だけ普通の服なのかってことか」
「うん」
「成長期でいつもの『影』服が入らなくなったんだよ。後でディルタニア家の騎士服と執事服をもらう予定だ。ま、明日にはまた着れなくなる可能性もあるから、しばらくは適当な服を着るだろうな」
「なるほど。成長期って大変だね」
「制服のある仕事は厄介ではあるな。でもそもそも制服のある仕事なんかに未成年が就くことが珍しいからしかたねぇよ」
「制服・・・」
「なんだよ」
「うーん・・・騎士服もいいけど、せっかくだから専属護衛の制服ほしいね」
「着るの俺だけだぞ」
「わかってるよ?あと、私専属って感じの何かを皆にも持ってて欲しいかも」
「みんなねー・・・」
「ローキはそういうの嫌?」
「嫌じゃねーよ。くれるもんはもらうよ」
「アリステア様、ローキ急ぎます。『駿脚』で移動します。こちらに・・・」
タータッシュさんが私に手を伸ばしたが、ローキが私とタータッシュさんの間に素早く割り込んだ。
「それは俺の役目だ。もう運べる」
「そうか・・・そうだったな」
「いえ、私がお運びするのが適任かと」
ローキがタータッシュさんをにらみながら話していると、横からシキが話に割り込んだ。
「あぁ?!シキ、てめぇは『影』で、俺が専属護衛だ」
「わかっているが、俺の方が安定して運べる。ローキはまだ小さい」
「ち、ちいさいだと?!」
「事実だろ」
「これからでかくなるし、今のままでも十分運べる!!」
シキ・・・もしや空気読めない系の子だったりする?・・・よく2人の会話に割り込めたね・・・
それに落ち着いた声で淡々と話しているが、たぶんローキが気にしているであろうポイントをえぐっている。
「それなら・・・同性の私達の方がいいのではないでしょうか」
「私達もローキよりは大きいし」
・・・・・ミルー、シルルよ・・・君たちもそこに参戦したらダメでしょ。
「てめぇら・・・こいつを運ぶのは俺の役目だって言ってんだよ!!」
あー、ローキ怒っちゃたよー・・・・
チラリとタータッシュさんを見ると、とってもいい笑顔で見返されててしまった。
自分でなんとかしなさいってことですね・・・
「えーっと・・・みんなありがと。でも、ローキにはこれから私を運んでもらう機会が多いだろうから、慣れておいて欲しいんだよね」
「ふんっ!機会が多いんんじゃなくて、俺だけの役目だ」
「いやいや、皆にも助けてもらう機会は絶対あるでしょ。専属護衛はローキだけど、みんなは私の『影』なんだから、仲良くしてほしいよ」
「・・・ちっ」
「アリステア様、ローキは口も態度も悪すぎます。もし専属護衛を変えたくなったらいつでも言ってください。私は貴女の専属護衛になる決心はできていますから」
「シキ・・・ありがとう」
うん・・・気持ちは嬉しいけど、ローキが後ろで怒りでプルプル震えちゃってるから。
「・・・私達もいます」
「ええ!知識も技術も、大きさもローキには負けませんもの!」
あー・・・大きさのことはもう触れないであげて・・・
「・・・・・・よし、ならここで全員ぶっ飛ばして力で順位でも決めておくか?」
ローキの怒りがこもった言葉に3人がピリピリした空気を放つ。
えー・・・どうしよ。
『わたしのために争わないで!!』とか言うシーンなのかな・・・これ。
絶対言いたくないんだけど。
「・・・アリステア様」
「はい」
タータッシュさんの笑顔も怖いし。
うん。はやく屋敷に戻ろう。
「ローキ!んっ」
「っ・・・」
何を言ったらみんなに効果があるかわからなかったので、行動で促すことにした。
ローキに向かったて両手を突き出して抱っこアピールをしてみた。
私は現在、美幼女・・・外からみたらこの行動も変じゃないはず・・・きっと!!たぶん!
私の行動の意味がわかったのか、みんなは黙ってくれ、ローキは私の前に着て後ろ向きにしゃがんだ。
あ、おんぶスタイルなのね・・・
ローキの背中に乗ろうとして・・・できなかった。
「あのねー・・・君たち何してるのさ。お屋敷の皆様はお待ちなの。分かる?」
「す、スタン?!」
「お嬢、久しぶり。急ぎますから、このまま俺に運ばれてくださいね」
私は気が付いたら、スタンの腕の中でお姫様だっこされていた。
スタンの爽やかイケメン笑顔が近くてまぶしい。
「スタンさん?!その役目は・・・」
「ローキ、専属護衛になれて浮かれてるのは分かるけどさー、こういうのはスマートに行動しなきゃ」
「うぐっ」
「君たちも、シキ、ミルー、シルル。お嬢にかまって欲しいのは分かるけど、困らせるのは違うでしょ」
「「「・・・・・・」」」
えー・・・そういうアピールだったの?!
「タータッシュさん、いいですよね」
「ええ、行きましょう」
「お嬢、行きますよ」
「スタン、どうして・・・」
「理由は後でわかりますよ。さ、急ぎましょう・・・でないと俺が殺されます」
「え?」
スタンからの返事はなかった。
高速移動するスタンの『駿脚』はとても安定していてた。
後ろを見ると、皆も同じ様に『駿脚』で飛ぶように走りながらついてきているのが見えた。
うーん・・・これは、はやめにみんなと仲良くなるために何か考えた方が良さそうだね・・・どうしよう。
屋敷に着くまでの間、スタンの腕の中で皆と仲良くなる方法を考えることに集中した。