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66.閑話ローキ②

4日目の夜にしたアドバイスはまずかった・・・



ティアは俺の予想以上に『主人側』の行動を知っていた。



それまで、ティアの魅力に気づきながらも、諜報活動を叩き込まれた奴らはティア自身の不信な言動に一定の距離をとっていた。

しかし、ティアが『主人側』の行動を突然完璧にしたことで、逆にそれまでの謎の行動が何かの試練だったと思ったのだろう。


隠された試練と感じた奴らは面白いほど態度を変えた。


卒業間近の人間は、主人を欲する傾向がある。

自分の力を必要としてくれる人、仕えるに値する人を。


態度を変えた奴らに腹が立ったが、一番イライラしたのはティアがそんなやつらに微笑みを返していたことだ。



・・・あの笑顔は俺のだけのものだったのに・・・




「私、他の人は別にいいけどローキには嫌われたくないよ!」


あいつにとっても俺は特別・・・そう言われた様で、怒りは感じなくなった。

でも不安になった。


ティアがいくら俺を特別に思っていても、他の奴らが勘違いするんじゃないかって。



・・・予想はあたった。



6日目・・・ついに修行中の奴らが動いて、ティアと会話をした。

しかも、会話の内容が主従が交わす仮約束だった。



ティアは会話の本当の意味は気が付いてないだろうけど。


もしティアが本当に『主人側』であれば、専属の護衛や従者を決める仮約束として申し分のない会話のやりとりだった。


ディルタニア家の専属護衛や、専属の『影』となるには色々な手順があるらしいが秘匿とされている。

少し前に修行を終えて出て行ったルーリーとリナは、ジジイの推薦でディルタニア家の次女の専属メイド兼護衛になったらしい。


しかし、その前の長女や次男の時は違った方法で決められたと噂で聞いていた。


だから、試されるようなことをされると、専属に選ばれるのではないかという期待が芽生えてしまうのだ。



でも、俺は知っている。ティアは孤児でただの見学者だ。

貴族の知識はあっても、根っからの貴族ではないことを実際に会話して知っている。


俺は別に主従になりたいわけじゃないが、あいつらがティアと仮約束の真似事をしたことが許せなかった。

ティアを守る役を取られた様で気分が悪かった。



その日の夜に、ティアにはこれ以上『主人側』の行動をしないように言うつもりでいたけれど、天気が悪すぎた。

いつも通りティアと話すと、俺が帰るころには天気が大荒れになるのがわかっていたから、手紙を残すことにした。

もし、同じ様に仮約束をする輩が増えたとしても、どうせ孤児として生活区画に来れば、そんなものは意味をなさなくなる。


これから一緒に過ごすのは俺だ。


だからまさかこんなことになるとは思いもしなかった。






風雨が吹き荒れるなかでも、玄関の扉を叩く音にはすぐに気が付いた。


しかし、叩く音が、内部の人間が使う合図と違っていたので、すぐに扉は開けなかった。



合図を知らない人間・・・誰だ?



「あれ?だれもいないのかな?」



外から聞こえた声に、一瞬で血の気が引いた。


聞こえるはずのない、ティアの声。


考えるより先に身体が動いて、扉を開けていた。



守るときめたはずの人が、ズタボロびしょ濡れの姿で立っていた。

満面の笑顔で。



怒りが沸き上がった。



その怒りが、無茶で危険な行動をしたティアに対してなのか、行動を予想できずに、ティアを危険にさらした自分に対してなのか分からなかった。


冷静さが吹き飛んでいた俺を止めたのはジジィだった。


「ローキ、ティアがここに来た理由はお前だそうだ」

「わかってるよ・・・」



「なら、話はお前がしろ」

「・・・いいのか?」


「事情は知りたいが、お前たちの話を先に聞いておきたい」

「わかった」



ジジイがティアのことを知っているだろうことは分かっていたが、反応からして『影』の案件も知っているようだった。

だから、俺が話し合いの場から遠ざけられることなく、話をしろと言われたことに驚いた。


俺の服を着て風呂から出てきたティアは、さっきまでの雨風にさらされて青ざめた顔色が赤みのある顔色に変わっていてほっとした。





そこからの話は・・・信じられないものだった。

いや、信じたくなかった。



ティアという名前も、孤児の見学者といのも偽りだった。



何を信じたらいいのかわからなくなって、混乱した。


分かった気になっていたティアのすべてが偽りだったのかもしれないと思うと、足元から崩れそうになった。



・・・俺が守りたいと思っていた存在そのものが消えてしまい、それは俺の存在自体も消えてしまったかのようにも感じた。



この喪失感・・・怖い・・・いやだ・・・ティアを・・・すべてを守りたいと思ったティアを返してくれ・・・


怒っているのか、泣いているのか、自分でもわからなくなった。




そんな俺にティアが怒った。




泣きながら、俺に嫌われたくなかったから本当のことを言えなかった、会いたかった、話したかった・・・と。



その言葉を聞いて、余計わからなくなった。

泣きながら訴える、目の前のこいつの涙を俺は止めたかった。

大荒れの天気の中、会いに来てくれたことも、話をしたいと言ってくれたことも嬉しかった。


でも、こいつは最後と言った。

もう会えないと・・・俺はどうすればいい?


こいつを攫ってでも外へ連れ出せばいいのか?成人前の俺がこいつを守りながら、追いかけてくるかもしれない『影』を相手にこいつを守りきれるか?


名前も分からないこいつを、手放さずにいられず方法を考えていると、ジジィがしゃべりだした。




「ふむ。・・・では、ローキ。お前はティアのことをどう思っている?」

「同じ世界に生きることを望んだ相手なのだろ?いつでも会えると・・・会いたいと思った相手。それは何があっても守りたい相手だと思ったのではないか?」



ジジィの真意がわからなかったが、ティアと名乗っていた女の顔が不安と悲しみの表情をしているのをみて、迷いが飛んだ。



「・・・守りたいさ・・・悪いかよ・・・名前も、素性も騙されたけど・・・それでも、俺にただ会いたいって、話がしたいってだけで荒れた天気の夜に1人で来るようなバカ、俺が守らなきゃ誰が守るんだよ!こいつが俺と同じ世界にいられないなら、俺がこいつの世界に行ってやる!!」



ジジィに叫んだときには心が決まっていた。

何者でもいい。

知らないことがあったっていい。


俺をまっすぐ見て、笑いあえる存在のこいつを守る。すべてから。どんな状況でも。




「血の誓いができるか?」



ジジイの提案は、このとろい女を俺に縛るにはちょうどよかった。


何かでこの女を縛るのは嫌だったかが、誰よりも先に声と危機を察知することができるようになるのは気分がいい。




何の迷いもなくジジィの血の誓いの言葉を復唱した。

が・・・復唱して気が付いた。




俺は今・・・何て言ったんだ?


アリステア・ルーン=ディルタニア・・・?



スーア族が仕える一族、ディルタニア公爵家。

その次女のアリステアの名前だよな?

アリステアという名前の別人か?



ジジイが魔法を解いた姿をみて確信した。



俺の中に流れるスーア族の血と心がこの女を選んだのだと。


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