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64.護衛⑩

「いゃぁぁぁぁぁ!!!風強すぎぃぃぃぃ!!・・・ぐっぐぅ・・・」



初日行ったローキの家を目指して雨風が吹き荒れる中へ走り出たのはいいけれど、徐々に雨風の勢いは増していき、もうすぐローキの家だというのに1歩を踏み出すのも難しいほどになってしまった。



「うぅ・・・か、傘がもたない・・・ていうかむしろ邪魔!!!っうきぁ!!」



強い風に傘が巻き上げられて、頭からずぶ濡れになってしまった。


「うぐっ・・・」

強風と共に降る雨が肌に当たるとかなり痛い。


「うべっ!!」

ぬかるみに足をとられて顔から泥に突っ込んだ。


泥だけにになったけれど、立ち上がると全身を打つ雨がすぐに泥を洗い流す。


目を開けるのもつらいが、腕でなんとか顔に当たる雨を防ぎながら前にすす・・・んでいるはず?


1回ローキに引っ張られて行っただけなので、こんな大荒れの天候ではちゃんと進めているか自信がない。



ローキと一緒だった時と比べると、もう着いていたはず・・・


寂しくて、心細くはなってくるけれど、おぼろげな記憶をたどって1歩、1歩踏み出す。




==============




「はぁ、はぁ・・・ついた・・・たぶん」


ローキの家は、スーア族と孤児たちが暮らす生活区画の中でも、奥の方に並んでいる家の1つだ。

見た目はどれも同じように見えるが、窓のカーテンが緑色だったのを思い出したので、たぶんあっていると思う。




――――ドンドン


・・・・・・・・


――――ドンドン


・・・・・・・・




「あれ?だれもいないのかな?」

窓に打ち付ける風雨の音で聞こえないのだろうか。




――――ドンドン


――――ガチャ



「あ、開いた!」


「・・・・・・・・」



突然扉があいたので、ノックをしようとした手は空張りしてしまった。

扉を開けたのは、驚いた表情のローキだった。



「ローキ!!やったぁ!あえ・・・」


「はぁぁぁぁぁぁ?!」



「こ、声おおきい!」


「おま、なんで!」

「なんでって、ローキが手紙を・・・」

「手紙を見たんなら、余計意味が分からねぇ!!」



――――ゴンッ



「いってぇ!!!」


「何を騒いでいるかと思ったら・・・ティア。まずは部屋に入りなさい」

「タータッシュさん!!ありがとうございます」



スタンもくらっていたけれど、タータッシュさんのげんこっは痛そうだ。

タータッシュさんの登場に驚いたけれど、ローキはスーア族の族長であるタータッシュさんの孫だ。一緒に住んでいてもおかしくない。


玄関の扉を開きっぱなしでローキと大きな声で話していたので、タータッシュさんに聞こえてしまったのだろう。



タータッシュさんに促されて家に入ると、玄関扉が閉められて、外の雨風の音が遠くなる。



「ローキ。拭う布を持ってきなさい」

「・・・わかった」


ローキは私のことをにらみながら、タータッシュさんの指示に短く答えて、家の奥へと行ってしまった。


自分の恰好を見下ろすと、水がしたたり、雨で落ちたと思っていたけれど、ところどころに泥がこびりついていた。


「ごめんなさい。こんな姿でお邪魔してしまって・・・」

「その様子ですと、オルガには何も告げずに来たのですね」


タータッシュさんは膝をついて私に目線を合わる。

怒られると思ったが、意外にも声音は優しく、その目には怒りの感情ではなく、真剣に私を心配していることが伝わってきた。



「はい・・・」

「・・・ローキに会いにきてくださったんですね」


「・・・・・・はい」

「・・・わかりました」



何を聞かれるかと身構えたけれど、タータッシュさんは詳しく聞かずにスッと立ち上がった。

タータッシュさんが立ち上がると同じくらいに、ローキが奥から布を持って走ってきた。



「ローキ、わた」

「まずは拭け!!」


ローキは持ってきた布を広げて私に頭からかぶせると、そのままガシガシと拭き始めた。


「話を・・・」

「黙ってろ!!拭き終わったら風呂に入ってこい!話はそれからだ!それまでしゃべるな!!」


「はい・・・」


大人しくローキに全身を拭かれた後、手を引っ張られたのでついて行くとお風呂場に案内された。


「そのドロドロの服はあっちのカゴに入れて、替えの服はこっちのカゴに身体を拭く布と一緒に入っているからな・・・何かわからないことは?」

「大丈夫だと思う」


「わからないことがあったら大きな声で呼べ。間違っても急に出てくるなよ」

「さ、さすがに裸で出て行かないよ!」

「は、裸でとは言ってないだろ!!」



――――バタンッ




ローキはいつも扉の音をたてない。

これ以上の会話を拒否するかのうように、あえて大きな音をだして扉を閉めて風呂場から出て行ってしまった。



・・・やっぱりローキ、かなり怒ってるね・・・


勢いで来てしまったけれど、ローキからしたらなんでこんなひどい天候で来たのかわからないだろうし、ドロドロの姿で迷惑でしかかけてない。

会いに来たことに後悔はないけれど、この後どんな風に何の話をするかは考えてなかった。


もう会えない、話しができないのは嫌だ、って思いだけだったので、ある意味すでに目的達成しているような気もする。


・・・お風呂借りたあと、平謝りして帰ろうかな・・・



色々と考え事をしながら体を洗い、湯船につかると、身体が冷えていた事に気が付いた。


「あったかい・・・」



足先までしっかり温まったのを確認してからお風呂を出た。

まだどうやって話すか決めてはいなかったけれど、ローキとタータッシュさんを待たせるのわけにもいかないので、サッと身体を拭いて着替えた。




==============




「で?一応言い訳を聞いてやる」



タータッシュさんとローキは椅子に座ってお茶を用意して待っていた。

私がお風呂に入っている間にローキとタータッシュさんは私とどう話すのか決めていたのか、座るように促され温かなお茶を出されると、ローキがしかめっ面で私に声をかけてきた。


タータッシュさんの方を見ると、目をつむってお茶をすすっている。


話は聞くけれど、会話には参加しないってことかな・・・




「えっと・・・手紙を読みまして・・・」


「・・・俺はお前が手紙には気が付いたけれど、文字が読めなくてここに来ちまったのかと思ったよ。それなら許して話は終わりだったが・・・やっぱり読めたのか」


しまった!その手があったのか・・・



「おい。顔に出てるぞ。今更読めなかったとか言うなよ」

「うぐっ・・・さすがローキ」


「お前が分かりやすすぎるんだよ。それで?」


「そのー・・・今日の私の行動で言いたいことがあるって書いてあったので・・・」

「それを聞きに来たってことか?」


「・・・うん」


「まぁ、明日が課題の期限だから聞きたい気持ちは分からなくもない・・・が!!この天気で、しかも夜。1回しか来たことのないところへ1人で行くとかバカすぎるだろ!!危機管理能力なさすぎだ!!!」


「うぐっ・・・ごもっとで、返す言葉がないです」



「で、本当の理由は?」

「えっ・・・」


「いくらお前の危機管理能力が低いとは言え、話を聞くだけのためにここまでの危険を冒すとは思えねぇ。エプロンもつけたままだったし、手紙を呼んですぐにこっちにむかった・・・それぐらいお前にとって衝撃で突発的に行動せざるを得なかったんじゃないか?あの手紙のどこにそんな切羽詰まるような内容があったんだ?」



「・・・・・・」


「へぇ~・・・俺からだんまりで逃げられると思ってるのか?」

「お、思ってないけど・・・どうしてもローキの意見を聞きたくて・・・」


「・・・・・・」



じっと睨んでくるローキの視線から逃げるように俯むくしかできなかった。


「・・・・・・言えないってことは、課題の目的に触れる内容なのか?」



――――コクッ



話してしまいたいけれど、それでローキに嫌われるのは避けたい。



「はぁ・・・・しかたねぇな」

「教えてくれるの?」


「そのために来たんだろ」

「うん!!ローキと話がしたかったの!!」


「・・・・・・俺と話をしたかった?明日以降はもっと話ができるだろ?」

「え・・・」


「おい・・・なんだよ、その反応」


しまった・・・ローキと話ができるのが嬉しくて、つい大きく反応してしまった。

そのせいで、明日以降の言葉に対応できなかった。



「お前は『孤児で見学者』なんだよな?」

「・・・・・・」


「『影』関連の課題が出されていて、見学期間中にそれをこなさなければいけないんだよな?」

「・・・・・・」


「見学期間が終わったら、孤児としてここで生活しながら、修行を受ける・・・そうだよな?」

「・・・・・・」



「なんで何も答えないんだよ!!」


声を荒らげて怒るローキに何も言い返せない。



「お前が今の問いに答えられないのは、どれも正しくないってことだからか?」

「課題を期間中にこなさなきゃいけないのは・・・本当」



「『は』ってことは、それ以外は違うってことかよ・・・お前・・・誰だ?」



――――ビクッ



「はは・・・名前も偽名か・・・」


ローキは優秀過ぎるよ・・・一番聞かれたくなかったことをまっすぐに聞いてくる。

さっきまで怒っていた声とはちがい、力なく泣いているかの様なローキの声に胸が苦しくなる。



「すごいな、俺に隠し事できたじゃないか。はじめっから・・・俺はお前を何も知らなかったんだな。笑える・・・」


「ちがっ・・・」


「違わねぇだろ!!孤児でもねぇ、名前も偽名、これから一緒に過ごすと思っていたのに・・・同じ世界で生きていけるって信じていた俺は何なんだよ・・・お前はそんな俺を笑ってたんだろ!!」



――――バンッ


「笑うわけないじゃん!!」



机を思いっきり叩いてローキの声を遮り、今出せる最大の声量で叫んだ。

急な大きな声と音にローキは驚いて口を閉じた。



「何よそれ!!ローキが課題と目的は言うなって言ったんだよ!!ローキに嫌われたくなくて私は何も言えなかったのに、どんどん質問してきて!!答えられるわけないじゃん!それなら私はローキを笑うためだけに、大荒れの天気の中ここまで来たって言うの?!私、そんなに意地悪だと思われたわけ?!」


「っ・・・」


ローキが言い返してこないことをいいことに、たまっていたことを吐き出す。


「私は明日がここにいられる最後なの!!もうローキに会えないの!!最後なのに手紙だけでさよならなんてしたくなかった!!色々言いたくてもローキには嫌われたくなかったから言わなかったのに、結局ローキに嫌われたら意味ないじゃん!!私何のために黙ったのよ・・・本当のことを言えなくても、ローキの声がききたかった・・・話したかった・・・だから会いに来たのに・・・うっ」



はじめは腹が立っていたが、話しているうちに泣けてきた。

一番恐れていたことがローキに嫌わることなのに、嫌われるどころかもっとひどい感じになってしまった・・・


もっと伝えたいことがあるはずなのに、目から涙がこぼれて、のどからは嗚咽しか出なくなって言葉が続けられなくなってしまった。



「・・・そんなに・・・俺に嫌われたくなかったのか?」

「うっ・・・うん」


「俺に会いたかった?」

「うん」


「俺と話したかった?」

「うん」


「そうかよ・・・」


ローキの表情は涙で見えなかったけれど、もう怒っても悲しんでもいない感じがした。





「さて・・・2人とも言いたいことは言ったか?」

「タータッシュさん?」


それまで黙って聞いていたタータッシュさんがおもむろに話だした。



「・・・ローキは詳しい事情を聞かずにティアの課題を手伝っていたのだな」

「・・・ああ」



「ふむ。・・・では、ローキ。お前はティアのことをどう思っている?」

「ど、どうってなんだよ!」


「同じ世界に生きることを望んだ相手なのだろ?いつでも会えると・・・会いたいと思った相手。それは何があっても守りたい相手だと思ったのではないか?」


「・・・・・・」



ローキがちらりとこちらを見たのが分かったが、私は目線を合わせられずに俯いてしまった。

本当の名前も素性も偽りだった相手。

そんなの今更守りたいと思うわけがない。

ローキの言葉を聞きたくなかったが、それでもこれまで関係をつないできた私自身の責任として受け止めようと思い顔を上げた。



「・・・守りたいさ・・・悪いかよ・・・名前も、素性も騙されたけど・・・それでも、俺にただ会いたいって、話がしたいってだけで荒れた天気の夜に1人で来るようなバカ、俺が守らなきゃ誰が守るんだよ!こいつが俺と同じ世界にいられないなら、俺がこいつの世界に行ってやる!!」


ローキが力強くタータッシュさんに言う姿に驚いた。

それでも私を守ろうとしてくれるの?



「いいだろう。なら血の誓いができるか?」

「できる」


2人が椅子から立ち上がり、少し広いスペースに移動する。


「ティア、こちらに来てください」



「タータッシュさん・・・血の誓いって」


血の誓い・・・どう考えたって相手を縛りそうな名前の誓いだ。

小説やマンガではその手の名前の誓いは命がけが定番だ。そんなものでローキを縛りたくない。



「大丈夫です。これはただの宣言のようなものです。代償は・・・己自身の名誉やプライドの損失というところですから安心してください」

「それを失ったら俺が俺じゃなくなる!俺が自分自身のすべてをかけて誓うんだ!」


「・・・直接的に命を奪うものではないですよ」


「・・・わかりました」



それでも何かに縛られる関係にはなりたくない・・・私が近づけずにいると、ローキが私の手を掴んで引っ張った。



「お前は何も心配する必要はねぇよ。何も変わらない。大人しく俺に守られていればいい。この誓いは・・・俺がお前に誓いたいんだ。そして、お前を守る権利が俺にあることを証明したい」



・・・なんか・・・すごいこと言ってない?

親分肌で責任感からくる言葉としてはあまりにも情熱的に感じられて、顔が熱くなった。

ローキの顔を窺うと、真剣で覚悟を決めたような雰囲気だが、でも迷いがなくなってスッキリしたかのようにも感じた。




タータッシュさん、ローキ、私が等間隔に三角形に立つと、タータッシュさんが何か呪文を唱え出した。


呪文を唱えると3人を囲うように丸く輝く魔法陣が床にスッと現れ、赤く輝きだした。


「ローキ、私の言葉を復唱しなさい」

「わかった」


「私、スーア族族長タータッシュが孫ローキは、アリステア・ルーン=ディルタニアの剣と盾となり、生涯守り抜くことを己が流れる血に誓う」

「私、スーア族族長タータッシュが孫ローキは、アリステア・ルーン=ディルタニアの剣と盾となり、生涯守り抜くことを己が流れる血に誓う」



「アリステア様、許すと言ってください」

「ゆ、許します」


「私、スーア族族長タータッシュが誓いを認める」


タータッシュさんの言葉に魔法陣が反応し、魔法陣の中央から光が2つ飛び出し、私とローキの心臓のところを突き抜けた。



「えぇ!い、痛くは・・・ない・・ね」


「これで、誓いは完了です。特に何かしら模様が浮き出たりなどはありませんが、お互いの危機を察知することができるようになりました。特にアリステア様はローキを呼びたいときは強く祈れば、ローキにその言葉が届くようになりましたよ」


「そ、それは・・・すごく心強いですね」


やっぱり何もないわけじゃなかったじゃん・・・・なんとなく恨めしく思ってタータッシュさんを見てしまった。




「おい・・・どういうことだよ。ジジィ」

「何がだ?」


「何がって・・・こいつの名前」

「もうこいつではないだろ。お前が守ると誓ったアリステア様だ」


「アリステアって・・・ディルタニア公爵家次女の名前だぞ!」


「あぁ、そうじゃ、もうこの魔法も解いて良いだろう」



タータッシュさんはそういうと、ポンと私の頭の上に手を置いて呪文を唱えた。

今まで気にならなかったが、突然全身に張り付いていた膜がはがれた感覚になった。



「これで、お前も納得するだろ?」


目の色は自分で確認のしようがないが、視界に金色の髪が見える。

元の色にもどしてくれたんだ・・・あれ?でも私、明日も見学が残ってるはずなのに・・・



疑問に思いながら顔を上げると、これ以上開けられないという位目を開けて驚いた表情で固まっているローキが目に入った。


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