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63.護衛⑨

6日目・・・強めの雨が降っている。


昨日はローキにやりすぎだと言われたけれど、悪い方向の意味ではなかったようなので、今日も髪や服を丁寧に準備をする。


もっと目的に近づくとは言ったものの、作戦が思いついているわけではない。


正直、出たとこ勝負だ。

とりあえず、『主人として用事があることを動作でアピールして声をかけてくるのを待つ』をやってみようとは思っているが、その結果が目的に近づく成果を得られるかはわからない。


昨日の『堂々と座る』作戦については、ローキは反応を予想できていたようだけど、私は予測も出来なければ、正確に受け取れてもいなかった。

私の感覚では、『何もしない』に近いので、どんな反応が返ってくるのか心配でしかたがない。



鏡の前に立ち、不安な表情を消して笑顔を張り付ける。

改めて全身の身だしなみチェックをしてから部屋を出た。




================




貴族らしい仕草を意識しながら歩き、姿勢を正して椅子に座る。

余裕のある微笑みを顔に張り付け、静かに見学を開始。


ここまでは昨日と同じ。


そして修行中の人たちの反応も同じで、視界に入るところに積極的に来てくれた。



さて、ここからだ。


肉体鍛練場では服装のせいで目が合うことはないから、アイコンタクトはできない。


他のアピール方法・・・手招き・・・は直接的すぎるかなぁ・・・


貴族が困った時にするポーズ・・・私の貴族のイメージはお母さまだけど、お母さまの周りにいるメイドや執事の人たちは、基本的にお母さまが何か望む前に先回りして動いてるから、お母さまが特別決まった仕草をしていた記憶がない・・・あとは・・・ベルは一応置いてあったけど、逆にここにはベルがない。


うーん・・・首をかしげる?頬に手を当てる?何か考えてますって表情をしてみる?・・・よし。全部やってみよう。




まず、短刀でものすごいスピードの素振りをしてる男の人を見つめながら、首をかしげてみた。


すると、面白いことに、素振りをしていた男の人が動きを止めた。

このままじっとしていることに耐えられなくなったので、次に頬に手を当ててみると、動きを止めた男の人がこちら向いた。


たぶんこちらを見てはくれているのだろうけど、目元が影になっていて見えないので様子がわからない。

ここで声をかけたくなったけれど、今日は『声をかけてもらう』をチャレンジしているのだ。


最後の手段、困った表情をしてみると、なんと男の人がこちらに歩いてきた。



やった!!こっちに来てくれそう!!

でも、ここで気を緩めて前のように話かけちゃだめよね・・・



男の人は私の前に跪いて、声をかけてきた。


「何かお困りですか?」


やったー!!やったよ、ローキ!!私声かけられた!!しかも丁寧な口調で!



本当は喜びの声を出したかったが、ぐっと心の中でこらえて『主人側の貴族』をイメージすることに集中した。



跪いてこちらを見た男の人の瞳はブラッドオレンジ色だった。

男の人の目を見ながら、ゆっくり微笑むと、男の人はピクリと動いた。

顔が布で覆われているので表情はわからないけれど、じっと目が合っているので、嫌がられている感じはしない。



「あなたの目は夕焼けの様なきれいな色だったのね・・・瞳を見てみたかったの」

「・・・ありがとうございます」


偏ったイメージかもしれないけれど、貴族は基本上から目線で、自分の欲のために人が動くのは当たり前だと思っているタイプだと思っている。

なので、話す内容も自分勝手な理由にして、教育を受けていることをアピールするために、褒め言葉は例えで表現してみた。


しかし、「見てみたかった」に対しての返事が「ありがとうございます」というのは、会話としては微妙な感じだ。

ローキの言っていた『仕える側』の心理としては、これも当然の反応なのだろうか。




「あなたの名前は?」

「・・・シキとお呼びください」


「シキは短刀が得意なのかしら?」

「はい。ですが、不得手なものはございません」


「諜報活動はどうかしら?」

「実地訓練を50件こなしています。失敗は1件もありません」


「優秀なのね」

「滅相もございません」


「わかったわ。これからよろしくね」

「・・・・承知いたしました」



シキと名乗った男の人は、会話が終わったことを感じて立ち上がり戻って行った。



・・・ふふっ・・・ふふふふ!!ついにそれっぽい会話ができた!!

喜びでジャンプしたい気分だよ!!


崩れそうになる表情を、なんとか微笑みを張り付けたままで耐えた。



次のターゲットを探していると、オルガが来たので魔法鍛練場に移動した。




魔法鍛練場でも同じ方法でターゲットを探した。

すると、同じ背格好の女の子らしき2人が私から見て目立つところでバトルを始めた。


1人は大きな水晶玉、もう1人は長い鞭を使って魔法を出していた。


大きな技ではないけれど、発動スピードがものすごく早い。

1人が水晶玉から高水圧洗浄機みたいな水を相手に発射すると、もう1人が鞭を振るって炎の渦を水にぶつけて相殺した。


おぉ・・・なんか息ぴったりって感じ。

そういえば、いつも2人で練習している女の子達がいたような・・・よし。




肉体鍛練場で成功した、困ったポーズの流れを2人の方を見ながらしてみると、見事に成功した。



2人が目の前に跪くと、顔が見えた。


ふ、双子!!

声が出そうになったが、気合で飲み込む。


一卵性双生児か・・・この世界でもいるんだね。


2人とも薄い黄色の髪で、顔は可愛らしい感じだった。

瞳は1人が薄いピンク、もう1人は薄い緑。



「2人とも花の様に可愛らしいのね」

「「ありがとうございます」」



「名前は?」

「ミルーです」

「シルルです」


ピンクの瞳の娘がミル―で、緑の瞳の娘がシルルね。

ミルーの方が先に応えたので、一応お姉さんってことかな?



「あなたたちはいつも2人で修行をしているのかしら?」

「多くの場合は」

「ですが研鑽のために別の人とも行っています」


「得意な武器と魔法はなにかしら?」

「私は両手鎌と水晶を媒介にした水魔法です」

「私は弓と鞭を媒介にした火魔法です」



「そう。2人ともこれからよろしくね」


「「承知いたしました」」



ふふっ順調~、今日はローキに成果報告するのが楽しみだ。

2人が修行に戻るのを見守りながら、表情が崩れない様に必死に顔面に力を入れた。




屋敷鍛練場でも同じ作戦でいけるかと思ったが、残念ながら上手くいかなかった。

教育係が2人いて、目の前の細かい作業に集中していたので、私のアピールに気が付きはしているものの、他の鍛練場と違ってこちらに来ることができない様だった。


そうりゃそうだよね・・・屋敷鍛練場の対応は何か他の作戦でいかないと・・・と考えていたら、オルガが迎えに来てしまった。




=========




「すごい雨と風・・・」

「雨期ですから。今夜はさらに強い雨が降ります。窓はしっかり閉めて寝てください」


「わかりました」


この世界でも傘がある。

魔法でバリアみたいな膜を張って移動することもできるけれど、それができるのは余程魔素保有量に余裕のある人だけらしい。

雨だけじゃなく、強くなってきた風に傘が煽られないようにしっかり握って宿舎に戻ってきた。




玄関でオルガと別れて、部屋の扉の前に立つと、目的に近づけた喜びの気持ちが沈んだ。



・・・私がティアとしてローキと会えるのは今日が最後・・・課題は順調だと報告できるのが嬉しいけれど、会えなくなる現実が苦しかった。



ローキには本当のことを言いたかった。


私が誰で、どんな目的でここに来たのか。

そしてローキに感謝していることを。



でも、前に話そうとして止められたことを思い出す。


それだけはダメだって言われちゃったんだよね・・・もう二度と会えないとしても・・・ダメだって言われちゃうのかな・・・


本当のことを言いたいけれど、ローキに嫌われることを考えたら、二度と会えないより怖い気がした。


本当のことは黙って別れよう・・・その方がきっとお互いのためだよね。


だって、本当のことを伝えたって、もう会えないのは変わらないのだし・・・




―――ガチャ




「ローキ!ただいま!!」


沈んだ気持ちを無理やり上げるために、いつもより元気に扉を開けて部屋に入った。






でも、そこにはローキの姿はなかった。




「え、どうして・・・あ、また姿を隠してるのね!!」



開きっぱなしの扉を閉めて、もう一度ローキを呼んだが返事は帰ってこない。



・・・・・どういうことだろ・・・もしかして、また私ローキが怒るようなことをしてしまったのだろうか。

正直、昨日何にローキが怒っているのかよく分っていなかったでの、余計心配になる。


どうしよう・・・


どこかに隠れているのではないかと思い、狭い部屋をキョロキョロ見渡すと、机の上に紙が1枚置かれているに気が付いた。




『ティア


今夜は雨と風が強くなるから、この手紙を残して帰る。


見学期間の夜は最後だけど、明日の夜からは孤児の生活区画でいつでも会えるようになる。

今日のお前の行動については言いたいことがありすぎるから覚悟しておけ!!


しっかり寝ろよ。


ローキ』




「え・・・なにこれ・・・」



内容が変わるわけじゃないのに、信じられなくて手紙を何度も読み返す。


本当のことを告げずに去ろうとは思っていたけれど、ローキと会話ができないことは想像していなかった。


昨日の会話が最後・・・手紙に書かれていたように、ローキは私が孤児の生活区画に来ることを信じている。


明日の夜からはいつでも会えると・・・




私は手紙を机の上に戻すと、部屋を飛び出し、玄関に置いてある傘を取って雨風が吹き荒れる真っ暗な外へ走り出した。

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