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61.護衛⑦

4日目、天気は曇りだったので、外の鍛練場をまわることになった。


外の鍛練場で話かけやすくなったかと言うと、そうはならなかった。

私が鍛練場に着くと、修行中の人達から昨日よりもさらに物理的な距離をとられてしまって、話かけたくても難しい状態だった。



昨日のローキの話で怪しまれていると聞いてはいたが、残念な気持ちになる。

沈みそうになる気持ちを振り払って、修行中の人たちの動きを目で追いながら椅子に座って集中する。


どちらにしろ、今日は『話をする』以外の方法を考える予定だったのだ。

せめて考えたことをローキに相談できるようにしておかなくては。




まず、私がこの鍛練場に潜入している目的は『私個人に忠誠を誓ってくれる専属の護衛をみつけること』だ。


正直、忠誠を誓うってこと自体の具体的なイメージができていないのは問題かもしれない。


そもそも、『前の世界』には忠誠を誓う相手がいなかったし。自分が忠誠を誓われる側でもなかったもんなぁ・・・


主従関係でリアルな体験として思いつくのは・・・ペットと飼い主の関係くらいだ。

映画やマンガなどの作品の中で当たり前に存在していた心でつながる関係を、自分に置き換えるとなかなか難しい。


うーん・・・私が忠誠を誓うとしら、各作品の推しキャラ達に対してなのよね・・・


忠誠なのか、惜しみない愛なのかは判断が難しいところだけど、一番近い感情のような気がする。


推しキャラとは基本、直接会話ができるわけではないが、忠誠とも言える感情を抱いているのだら、今の状況に当てはめてイメージしやすいかもしれない。


どうしてそんな感情を推しキャラに抱いたのか・・・うーん・・・私の場合、生き様をみて・・・かなぁ?

キャラ同士の会話や発生するイベントに対する対応や思考、感情への同調・・・憧れとか?

あ、見た目も大事だわ。


なんか言葉にすると難しいね。

しかも、今回は忠誠を誓いたいと思ってもらわなきゃいけないし。



見た目はまぁ、今の私なら人によっては対象になるかも。

会話から心を通わせるのは惨敗中でしょ。

この期間中にイベントは・・・起こる予定はないし。

生き様を見せるにしても期間が短すぎるから、見てもらう機会もないし、話して知ってもらうこともできない。


あとは・・・憧れてもらうとか?

修行中の人に憧れられるとしたら、見たこともない技を私がしたら反応してくれるかも?・・・まぁ、そんな技ないんだけど。


でも会話がだめなら、行動で示すっていうのはありかもしれない。


例えば・・・他の人より早く来て鍛練場を掃除する、誰よりも遅くまで残ってきれいに片づけをする、普通は嫌がるようなことを率先して行動する・・・とかは人から一目を置かれる方法の定番の攻め方よね!


でも私の行動はオルガの監視下にあって、定時に各場所へ移動することになっているので、掃除や片づけはできない。

皆が嫌がることを率先してするにしても、みんなにとっての嫌なことがわからない・・・


うーん・・・つんでるよね・・・

サラ姉さまや、レオナ兄さまはこの課題をどうやってクリアしたんだろう。



・・・ずっと座ってたらお尻が痛くなってきた・・・


なんの発想も浮かびそうになかったので、椅子から降りて伸びをしてみると、気持ちが良かった。


・・・ストレッチでもしながら考えるか・・・



しばらく悩みながら、ストレッチをしていると何だか視線を感じた。


視線を感じた方を見ると、みんながこちらをチラチラと見ているのに気が付いた。


今までこんな反応はなかったけど・・・どういうことだろう。ストレッチが珍しいのかな?

これはチャンスかもしれない。興味を持ってもらってる感じがする。


ストレッチのバリエーションを多く知っているわけではないので、すぐにネタが付きた。

くっ・・・こうなればラジオ体操だ!


さすがに音楽を口ずさんで動くのは恥ずかしかったので、音楽は脳内再生でゆっくりとしたペースにしてやってみた。

すると、同じ動作をする人が現れた。


まさかのラジオ体操が好感触だと?!

さすが昔から引き継がれ続けているだけあるね!!・・・人を惹きつける何かがあるのかもしれない!


とりあえず、ラジオ体操を2回ほど繰り返してるうちにオルガが迎えに来た。


ラジオ体操をしている私を見て、一瞬動揺した様に見えたけれど、ほんの瞬きの間ほどの変化だったので気のせいだったかもしれない。


昼食を食べるため、オルガの案内の下、食堂へ移動した。

食事の時間は皆とずらされているらしく、宿舎の食堂で1人で食べている。



ラジオ体操の反応からして、初めて見るものに対する好奇心を感じた。

今は怪しまれているから距離があるけれど、まずは私が怪しい人物ではないと認識してもらうことが大事なのかもしれない。

つまり、仲間意識をもってもらうのはどうだろう。


皆の行動を私がマネてみたり、私が『前の知識』で知っていることを行動で示せば、修行仲間って認識してもらえるのでは?


それには皆と食事を共に出来たらいいのかもしれない・・・『同じ釜の飯を食う』のは仲間意識を芽生えさせるために良い方法のはず!オルガに聞いてみよう!!



と、思ったが、食事の件はあっさり却下された。

なんと、食べているメニューが私だけ違うのだそうだ。


確かに潜入はしているものの、食べもののランクは貴族仕様だった。

どうりで豪華な食事だと思ったよ。


パンにスープくらいの食事を覚悟していたのに、コース風にお肉や魚、デザートまで用意されていたので、宿舎の料理は豪華なものだと思っていた。


みんなと同じものにしてもらえないか粘ったが、お母さまからそこはキッチリとするように指示されているらしい。

残念だが仕方があるまい。となれば、行動あるのみだ!



で、魔法鍛練場で早速つまづいた。

肉体鍛練と違って、魔法鍛練は魔法が使えなければ意味がない。


分厚い魔導書を読むフリをしても避けられたし、調合で使えそうな草花は何が何だかさっぱりわからない。

地面に魔法陣を書いている人のものをマネして描いてみようとしたが、きれいな丸がまず描けなかった。


それでも、こちらをチラチラ伺うっているような気配を感じることはできた。



屋敷鍛練場では、馬車の乗り降りのサポートの練習をしていたり、庭の植物の剪定などが行われていたが、専門スキルと知識が必要なことだったので、マネることができなかった。


仕方ないので、掃除ホウキで落ち葉を集めに専念した。




=================




「で、お前の今日の謎の行動の意味を聞いてもいいか?」

「また呼び方お前に戻ってるよ、ローキ」



「謎の行動をするお前なんかは『お前』でいい」

「謎の行動ってほどの行動はしてないと思うけど・・・」


「そう思うなら、お前の感覚がズレてんだよ」


「うっ・・・」



部屋に戻ると、ローキが待ち構えていた。

会えて嬉しいけれど、ものすごく怪しいものを見るような目をしていた。




「その・・・はじめは『話をする』以外でどういう行動をしたらいいか考えてたの。で、まずは怪しまれたままではダメだから、同じ様に身体を動かして仲間意識を持ってもらおうとしたの」


「あの行動は怪しまれないための行動だったのか?あんなに怪しくて不気味だったのにか・・・逆にすげぇな、その感覚」

「そ、そんなにひどかった?」


「まぁ、その意図で言うなら掃き掃除は一応理解はできる。だが、肉体鍛練場と魔法鍛練場は悲惨だな・・・肉体鍛練場では、はじめは柔軟だと思ったのに、途中から呪いの儀式でも始めたと思ったし。魔法鍛練場では不格好な円を大量に描いて、時々見たこともない文字を円の中に描いていたから変な魔法が暴発するんじゃないかヒヤヒヤした」



「の、呪いの儀式に、魔法の暴発・・・ひどい・・・でも、肉体鍛練場では動きをマネてくれる人もいたよ!」


「・・・・・・手っ取り早く呪い返しをする方法は、術者と同じ行動をすることだ」



「え・・・私、呪いをかけてると思われた挙句、呪いを返されてたの?」

「そうだな」


「魔法鍛練場で私の方を見ていたのは・・・」

「まぁ、十中八九俺と同じで暴発を恐れてたはずだ」



「・・・・・・もしかして・・・・関係悪化してる?」

「どんな関係を基準にしてるかはわからねぇが、怪しい人物から危険人物に昇格してそうな気はするぜ?」


「そんな昇格はいらないよぉ・・・」


ローキの表情は怪しいものを見る様な目から、哀れなものを見るような目になっている。

コミュニケーションの糸口になるかもしれないと思っていたことがすべて裏目にでていたとは・・・



「私の目的は・・・」

「おい!!お前の目的はあえて聞いていないんだぞ!言うなよ!!」


「だって隠しても意味ないし・・・」

「それでもダメだ!失敗が目に見えていても、それだけは自分から口にしたらダメだ!!それは・・・お前に課題を出したやつへの裏切りになる」

「裏切り?」


「そうだ。俺たちはいつか誰かに仕える道しかねぇ。失敗することもある。でも、裏切りだけはダメだ。情報を自分から漏らすのは、俺たちの仕事では一番の禁忌だ。二度と仕事をさせてもらえないだけじゃない。下手すれば殺される・・・」


「殺される?」


「・・・ああ」


ローキは真剣な表情と目で、私にしっかりと伝わるように話してくれた。


きっと・・・何かあったのだろう。

ローキの表情は、何も知らない子どもができるものではない様に感じた。



「ごめんなさい・・・もう話そうとしないよ。ありがとう」

「別に礼を言われることじゃねぇ・・・どうせ教わることだ」


「だとしても、ローキの言葉だからこれからも覚えておこうって思ったよ」

「そうかよ」


ローキの表情は、堅い真剣なものから、少し赤くなって照れたようなものに変わった。



「とりあえず、『関係改善』を考えているなら、何もしなければいい」

「何もしない?」


「ああ。過去の見学者のほとんどは何もしないで、ただ見ていることの方が多いんだ」

「え・・・でもそれじゃぁ・・・」


「課題を達成できないって言うんだろ?」

「お前はまずスタートラインに立つことが必要なんだ。今は進むどころか思いっきり逆走してんだよ」


「確かに・・・」


「あと2日半あるんだろ?明日は静かにすることを意識して、堂々と見学でもしてろ」

「堂々と?なんで?」


「お前は・・・・・」



「・・・?」



話の続きを待ってみたが、何か葛藤しているようで話してくれない。



「私が?」


「・・・堂々と座ってるのが似合うんだよ!!お前のその見た目と雰囲気だけで、人を魅了する力があるんだって言ってんだ!!自分の長所くらい把握しておけ!!」


「えっ」


まさかの急なダイレクトな褒め言葉に、自分の顔が赤くなるのを感じた。

しかし、それ以上にローキの顔は真っ赤だった。



「今日はもう帰る!!とっとと寝ろ!バカティア!!」


「え、ちょっとまって!!」



呼び止めたけれど、あっという間にローキは部屋を出て行ってしまった。



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