57.護衛➂
「アリステアお嬢様、とっても可愛いらしいです!!」
「よくお似合いです。お嬢様」
「・・・・・・ありがとう」
・・・元の造形がいいからメイド服もしっかり似合ってるね。
しかもいつもより薄い色の組み合わせだから、儚さみたいのも感じるよね・・・うんうん美少女だ。
「アリステアお嬢様・・・鏡でご自身をみるとき・・・なんと言うか・・・」
「なぜそんな冷めた目をしてらっしゃるのです?」
「ちょっと・・・リナ!もう少し言葉を選んで!冷めたというか、反応が薄いのかが不思議なのです」
反応が薄いって思われてたんだ・・・
まぁ、しょうがないよね・・・私も『アリステア』になったばかりの時は驚いたし、ちょっと感動した部分もあったけど、『前の私』の姿で30年以上生きてたから、そう簡単になじむわけない。
最近では鏡を見るたびに、『前の私』の姿がちらついて、そのギャップにげんなりしてる。
今の私はこんなに美しいのよ!!ってプラス思考になれたらいいのに。
「あー・・・はは、反応薄いかな?いつもルーリーとリナが整えてくれているから、すごいなーって観察してたのよ」
「そうでしたか・・・」
「お嬢様にそのように言っていただけるなんて光栄です!」
ルーリーはなんとなく納得してないみたいだけど、リナは素直に反応してくれてよかった。
『前の私』の姿とのギャップにげんなりして、嫌な顔にならない様に表情消してるって説明できないし、これ以上追及されるのは避けたい。
「さぁ、タータッシュさんとスタンが待っているわ。鍛錬場所に案内して」
「「はい」」
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案内された場所は、屋敷の裏手に広がる森の奥。
獣舎から少し離れた場所。
ここまでリナに抱えられて『駿脚』で来たので、なんとなくの方角しかわからなかった。
「着きましたよ、アリステアお嬢様」
「今日は曇りで良かったです」
「ここは・・・村?」
「村の様になっていますが、ディルタニア家の敷地内です」
「スーア族と孤児たちが生活しています。成人するとこの村を出て外の世界で出て行きます」
「ここにいる成人は皆、育てる役目を担っている者たちです。何か困ったことがありましたら大人全員がアリステアお嬢様を把握していますので、安心してお声がけください」
「え?ルーリーとリナは一緒に行かないの?」
「私とリナはアリステアお嬢様専属のメイドであることは知られています。近くでお仕えしていたら、残念ながら変装の意味がなくなってしまします」
「あ、そうなんだ・・・」
「すぐにここで生活する際に仕える担当の者が参ります」
「ん?・・・生活?」」
「あ、ちょうど来ましたね」
「お待たせいたしました」
いつの間にか、そばに1人の女性が立っていた。
見た目は40代くらいに見えるが、落ち着いた雰囲気から察するに、実年齢はけっこう上なのではないだろうか。
茶色の髪をきっちり結い上げ、薄い緑色の瞳に細めの眼鏡をかけていた。
優し気に微笑んでいるけれど、芯の強い感じがする。
・・・・学校の先生みたいな人・・・あ、成人してる人は皆育てる役目をしてるから、先生っぽくて当然か。
「はじめまして、アリステアお嬢様。私は教育係の一人で、オルガと申します。僭越ながら、本日より1週間、身の回りのお世話をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「オルガさん、よろしくお願いします・・・あの、もしかして私、通いではなく、こちらで1週間生活する・・・ということでしょうか?」
「ご説明はございませんでしたか?」
お母さまはたしか、『変装して、合格間近のスーア族と孤児たちが鍛錬を積んでいるところに潜入・・・期間は最大で1週間』って・・・・・
そうか!!
てっきり通いで毎日数時間~なんて思ってたけど、あまかった!!
「い、いえ。私が考え違いをしていたようです」
「そうでしたか・・・では、中止いたしますか?」
考えはあまかったけど、ファンタジーバトルを見たい気持ちは変わらないし、身の回りの世話をしてくれる人までいる好待遇を受けて今更嫌だとは言えまい。
「いえ!お世話になります。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」
「・・・アリステアお嬢様は難しい言葉をご存じなのですね。そしてその直角の礼・・・騎士団の教育風景でもご覧になられたのでしょうか?」
・・・・・・・しまった。こっちの世界でご令嬢が直角の礼なんてしないわ。
なんとなく社員教育のノリで挨拶してしまったよ。
「あ、は、ははは・・・先日、お父さま達とグリフォン隊を見学した時に見たような・・・?」
頭をあげつつ、ごまかして笑ってみた。
「・・・・・・そうですか」
・・・・・・誤魔化せなかったけど、飲み込んでくれたみたいだね。ありがとうございます。気をつけます。
「アリステアお嬢様、申し訳ございませんが、こちらで過ごしていただく間は、お嬢様と悟られないように『ティア』と呼ばせていただきますが、よろしいでしょうか」
「『ティア』ですね。わかりました」
「『ティア』は孤児として2週間前にディルタニア家に保護をされ、今は研修中。将来どのような技術を身に着けることができるのかを知るために、こちらの鍛練施設を1週間見学しにやってきた・・・このような背景の人物です。いかがでしょう」
「わかりました。ディルタニア家に着て・・・2週間ということは、ほぼ何も知らない、できなくて当たり前・・・と言うことですね」
「その通りです。お噂は聞いておりましたが、ご理解が早いですね」
「い、いえ・・・あははは・・・」
直角の礼してるあたりで、私はわたしが不安だけどね。
「では、さっそく鍛練施設をご案内いたしましょう」
「はい!」
「ルーリー、リナ、ありがとうね」
「はい、アリステアお嬢様」
「お帰りをお待ちしております」
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オルガがまず案内してくれたのは、共同宿舎。
2階建てで、現在41人のスーア族と孤児の卒業間近の修行中の人間が生活している。
1階が男性、2階が女性。
お風呂屋やトイレなどは共同。
私の部屋は2階の一番端で、ベッドや机など必要最低限のものがあるだけの簡素で狭い部屋だったが、清潔で暗い感じはなかった。
服も寝間着と下着、替えのメイド服があるだけだったが、1週間過ごすのには十分だった。
・・・私は『前の世界』で集団生活をしたことがあるから、こんな感じねって感想だけど、サラ姉さまやレオナ兄さまはこの生活に驚いただろうなぁ。
先生たちは個別に屋敷を持っていて、他にも食材を売っている店、雑貨屋の様な店、本屋などもあったので村の様にみえた。
屋敷勤めの研修施設として、偽の屋敷前を通りすぎた時は聞いて驚いた。
案内されている時、何人かすれ違ったが、成人した大人ばかりで、修行中と思われる人はいなかった。
「ティア、修行中の子達は、日中はみな各修行場で修行をしているので、今案内した生活圏の建物にはいないのです」
「・・・なるほど」
きょろきょろしすぎたかな・・・何も言っていないのに、私が気にしていたことの解説をされてしまった。
「今から案内するのがその修行場です。発言にはお気をつけて。出自ついて詳しく聞かれたり、答えに困ることを聞かれた場合は、悲し気な表情で「覚えていない」「話したくない」と答えてください。基本的には研修中の子は話しかけてこないので大丈夫なのですが・・・念のため、心にとどめておいてください」
「わかりました」
研修中の子から話かけて来てくれない・・・となると、専属護衛を見つけるには、まず私から声をかける必要があるのか・・・ハードル高いなぁ。
「探しているのは護衛とのことですが、ここにいる修行中の子はどの子も戦闘能力、ディルタニア家への忠誠心も最低限の基準以上なので、お眼鏡に叶った子はどの子でも構いませんのでお声掛けください。あとは・・・相性の問題かと思いますので、頑張ってください。その他不明点等がございましたら、大人の教育担当へお伝えください」
「わかりました。ありがとうございます」
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「こちらは肉体の鍛練場です。隠密行動、戦闘訓練、護衛訓練、その他あらゆる肉体を鍛える訓練はこちらですべて指導しています」
おぉ・・・に、忍者みたいな人がいっぱいいる!!!
案内された鍛練場は、運動場の様に外で訓練するところと、体育館の様に室内で訓練するところがあった。
10名ほどの人が黒装束に身を包み、素早い動きで動き続けていた。
ある人は体術、ある人は剣術、筋力トレーニング・・・教育係は3名ほどいて、各方面へ指示を出している。
す、すごい・・・アニメや映画のアクションを見てるみたい・・・でもリアルで見るとスタントマン養成所って言われた方がしっくりくるかも。
みんな成長期は過ぎているのか、見た目は完全に大人だった。
ぱっと見は20歳くらいの男女で、全身黒づくめなので、顔立ち、それぞれの色などは分からなかった。
「こちらは魔法の鍛練場です。基本的な魔法だけでなく、高度な魔法、あまり知られていないものまで、実践を踏まえて修練しています」
こっちも室外と室内に施設があり、室内は科学実験室と花屋みたいに植物が大量にあった。
そして、服装は別のスタイルで黒づくめ。
身長から察するに、肉体の鍛練場と同じような年齢の人たちなのだろう。
顔や手足が見えないほどの長いローブを着た人たちが、次々と魔法を繰りだしている。
分厚い魔導書のようなものを持ちながら呪文を唱えている人もいるし、杖で魔法陣をぐりぐり書いている人、空中で座禅をしている人・・・・
おぉぉぉ!!!箒はないけど・・・ハリー〇ッターの世界みたい!!
アニメや映画の世界・・・ほんと好き!!
早く私も魔法使ってみたいなぁ。
「こちらは屋敷関係の鍛練場です。屋敷内外でのメイド、使用人としての知識、教養、身のこなし方を学びます」
さっきは通りすぎた屋敷もどきの建物の中に入ると、2人のメイド姿の人と、3人の執事姿の人がいた。
1人当たり2人の教育係りがついていて、細かく指導を受けていた。
こちらは普通のメイド服と執事の服なので、みんなの顔も髪も瞳も良く見えた。
みんな、色はバラバラ、顔立ちも整っている人もいれば、普通の人に紛れやすい人も、古傷を顔や体に持つ人もいた。
身長は体術や、魔法のところにいた人達よりも低めに感じるけれど、それでも大人に見えた。
「先の2つの鍛練場よりも、こちらにいる子達の方が若いのは、まずはじめに屋敷の鍛錬から始めるからです」
「・・・そ、そうなんだ」
・・・・私、疑問に思ったこと口に出してないよね?
表情とかでわかったのかな・・・さすが教育係。
それにしても、みんなすごい集中力・・・こちらを気にするようなそぶりが全くない。
「ティア、私は少し席を外します。こちらの椅子に座って見学していてください」
「あ、ごめんなさい。トイレに・・・」
「あちらの扉を出て右にまっすぐ進んだ突き当りにあります。行けそうですか?」
「はい。大丈夫です。ありがとう」
用事をすませて、元居た部屋に入ろうとしたら声をかけられた。
「お前。はじめて見る顔だな」
振り向くと、私より少し背が高い男の子がいた。
髪は真っ白、瞳は・・・赤・・・いや金色?
凛々しい整った顔立ちだが、こちらを睨んでいるので怖い。
私と同じくらいか、少し上くらいよね?
ここにいる子は全員成人近いか、成人している子ばかりだと思っていたけど・・・
もしかして、私とは違って、本当の見学者かな?
「おい、聞いているか?」
「え、あ、はい」
「なんだよ、そのとぼけた返事!さっきオルガが連れてきたやつだよな。それなら孤児だよな。俺はスーア族だ」
「・・・そうなんですね」
「その反応・・・お前スーア族を知らねぇな!そんなことも知らずにここで鍛練を受けられると思っているのか?!ここは卒業間近な選ばれた人間が来るところだ!」
「・・・あ、わたし2週間前にディルタニア家に保護されたので、卒業間近じゃないです。むしろこれからです」
「な!!見学者なのか?!」
「はい」
「そんな見た目でオルガと堂々と歩いて入って来たから、俺のしらない特別卒業予定生かと思ったのに・・・それに2週間前に来たのは別の色もちの男じゃなかったか?」
・・・・・・・あっちゃー・・・オルガさんごめんなさい。
なんかもう普通の見学者に見えなかったみたいです。私。
それに、特別卒業予定生って何だろう。
「まぁいい・・・それなら俺が案内してやる!」
「え、あ、結構です。部屋で待つように言われているので」
「あぁ?!オルガは今、厄介で緊急の依頼が入ってしばらくは戻ってこれねぇよ」
「・・・なんでそんな事・・・」
「知ってて当然だろ!情報を得るのが得意じゃなきゃここを卒業できるわけないだろ。お前もいずれできるようになるさ!ほら、行くぞ」
あっさり腕を掴まれて引っ張られてしまった。
一応抵抗はしたけれど、子どもとは思えないほどの力だったので、すぐにあきらめた。
「お前名前はなんだ?」
「ティア」
「ティアか!俺はローキだ。特別に名前を呼ばせてやるよ」
・・・・結構です・・・
さっきまでにらみ顔でこちらを見ていたのに、私がただの孤児見学者と分かったら満面の笑みを向けてきた。
こういう子いるよね。
親分肌的な?面倒見いいのに口が悪い子・・・
でもこの子・・・それこそ、何者なんだろう・・・そして私はどこに連れて行かれるのやら・・・
とりあえず、引っ張られるまま足を動かした。