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56.護衛②

「ディルタニア一族が治めていたディルタニア国は、現在のエアルドラゴニア国の北部にあたる場所にあったの。複数の民族が寄り添いながらが生活を共にする穏やかで良い国だったそうよ・・・でも、約1000年前、その日は突然やってきたわ・・・ある朝目覚めると、王族以外の国民全員に、ある呪いがかけられていたの。解呪することが困難な強力な呪い。混乱する人々の目の前に現れたのは、当時殺戮と侵略を繰り返していたエアルドラゴニア国国王、イガラム。条件をのめば国民の呪いを解くと王族に迫り、国民を人質に取られた王族はディルタニア国を渡すしかなかった・・・」



歴史の授業として聞いていた時はあまり意識しなかったけど、お母さまから聞くと身近な話に聞こえるから不思議だ。


しかし・・・国の規模にもよるけど、王族以外の国民全員に呪いをかけるってどんな大規模な魔法よ・・・絶対禁断の魔法とか、生贄が必要な完全アウトレベルのやつよね!


・・・・・・ん?

その魔法・・・もしかして今の王族も使えたりする?つ、使えないよね?使わない・・・よね。今は平和だし。



「イガラム王の条件はとても受け入れられるような内容ではなかったから、王族は命をかけて戦ったけれど、惨敗。意識を失った王に無理やり血の契約いいえ呪いを施し、当時の王女である娘を奪われたの。国民の呪いは解かれたけれど、無事ではなかったわ。国民の約半数が抵抗する間もなく殺され、武力に秀でていると言われた民族は根絶やしにされたわ」



ひぃ!!!

無茶苦茶じゃない!イガラム王!

国民全員を呪うだけじゃなくて人口の半分を殺しちゃうなんて狂いすぎでしょ!

っていうか、武力に秀でた民族を根絶やしにする武力って何?呪い掛けられて弱ってるところに攻撃してきたとか?



「特に徹底的にねらわれたのはスーア族。スーア族は圧倒的な身体能力の高さに加え、魔素保有量も多く伝説の人々と言われていた。温厚で戦いを好まず、権力を好まない性格だったために、争いを避けて国から国へと流れながら、安住の地を探してたどり着いたのがディルタニア国。その伝説の人々の力を欲したイガラム王は、ディルタニア国にスーア族がいることを知ると、次の標的をディルタニア国にした。その時すでにスーア族が辿り着いてから200年の時がすぎ、ディルタニア国民として王族に忠誠を誓っていたの。だから・・・戦闘を嫌う民族でありながら、抵抗をしたの、命がつきるまで・・・危険な敵と判断されたスーア族は無残に殺され、国内にいたスーア族は皆殺しにされたわ。・・・でも、奇跡的に当時の王族の使いで秘密裏に他国で潜んでいた数名のスーア族がいたの。その数名のスーア族は、虐殺された同族、解体、蹂躙された国を目の当たりにした・・・」



戦乱の世にはよくある話・・・なんて言い方はよくないけど・・・ひどいね。

戻ってきたスーア族の人達はどんな思いをしたのか・・・



「ディルタニア元王族は、戻ってきたスーア族がイガラム王に見つからない様に細心の注意を払ってかくまったわ。そして今・・・」



お母さまが並んでいる皆の方へ視線を送る。



「ま、まさか、みんながそのスーア族の末裔なの?!」


「ちがうわ」




「・・・・・・」

「違うわよ」



「・・・・・・」

「ここに並んでくれてる皆は、スーア族じゃないわよ」



いやいや、どう考えたって、実はスーア族でした!!って流れだったよね!!



「スーア族ではないけれど、スーア族に鍛えられた精鋭よ」

「?・・・スーア族に鍛えられた精鋭?」



「そうよ。タータッシュ」

「ここに」


「えっ!」



さっきまでお母さまの隣には誰もいなかったのに、執事姿のお爺さんが突然現れたように見えた。


「タータッシュ、挨拶を」

「はっ。アリステア様、お初にお目にかかります。私はスーア族、族長のタータッシュ。以後お見知りおきを」


「よ、よろしくお願いします。タータッシュさん」



タータッシュと名乗った人は、180㎝ほどの身長で細身、白髪、白い短いひげ、瞳はオレンジ色だった。

高齢に見えるけど、背筋はまっすぐで、しなやかな雰囲気を持っていた。

何より、眼光がするどくて、普通の執事っぽくない。



「タータッシュはスーア族の族長で、ディルタニア家の『影』の頭も務めてくれているわ。ディルタニア家のメイドや執事は彼の教育を受けてくれているの。とっても強くて頼るになるから、アリステアちゃんも困ったら頼るとといいわよ」


「こ・・・心強いです」



おおぅ・・・『影』!!!しかも族長!!!暗部の人とこんなに早く会えると思ってなかったよ!

しかもウチの人事方面の重役も担っているとは・・・

そんな忙しい重鎮に困っても話かけづらいですよ、お母さま。



「ちなみにタータッシュ以外は、皆かつて孤児だったの。ルーリーとリナ、クリークは専属のメイドと執事に、ヒルデは私の専属のメイドだけど、体裁を整えるためにディルタニア家の傘下にいる貴族、ドット家に嫁いでいるから家名をもっているの。スタンは騎士として活動してもらうために、傘下の貴族の中でも騎士を排出する名家キル―に養子に入ってもらったわ」


「そ、そうだったんだ・・・」


皆の秘密を一気に聞いてしまった気がする。

それに孤児ってそんなにいるんだ・・・ホワイト国だと思っていたけど、やっぱり現実って甘くないってことか・・・。

イガラム王の残酷な出来事は過去でも、ルーリーとリナみたいに若い子が孤児ってことは、色んな苦しい理由がこの世界にも隠れてるんだろうな・・・。



「タータッシュを含むスーア族のみんなは、今もディルタニア家の『影』として情報集め、情報操作、危ないできごとを発生前に防いで、緊急時には強力な護衛として支えてくれているわ。そしてディルタニア家で援助し育てた孤児の中で、才能があって本人の意思も伴う場合は、メイドと執事兼護衛が務まるようにスーア族の元で修行を積み、影とつながり表の仕事をサポートしてくれてるわ」



ディルタニア家にとって、スーア族ってとっても大事なビジネスパートナーってことか。

すごいなぁ・・・『影』・・・歴史や出生は闇深いけど。



「さて、アリステアちゃん。ディルタニア家の護衛と影についてはなんとなくわかったかしら?」

「あ、はい!」



思った以上に重めの内容にびっくりしたけど、関係は分かった。

それに、命が係わるっていう意味も。

今の王族なら大丈夫かもしれないけど、スーア族ってバレたらなんかややこしいことになるかもしれない。

それに、スーア族が王族のこと良く思ってないのは確実だもの。

何がきっかけで話がこじれるかわからない。


少なくとも1000年は今の関係を保っていたんだから、きっと黙っていれば大丈夫・・・よね?



「次にアリステアちゃんの専属護衛の話なんだけど、変装して、族長合格間近のスーア族と孤児たちが鍛錬を積んでいるところに潜入してもらうわ」

「へ?」


「ディルタニア家と悟られずに、その子達の中から専属になってほしい子を見つけて、さらにその子が忠誠を誓ってくれるように虜にしてらっしゃい!」


「・・・・・・・えっと?」


「期間は最大で1週間。無理なら今年の武闘大会の観覧はあきらめてね。どうする?アリステアちゃん」



・・・・・・・・・・・・いやいや、なんですって?

合格間近ってことは、色んな訓練をしてきた成人か成人近い人達だよね?

そんな中に潜入もなにも・・・いくら変装したとしても何にもできない女の子が突然来たら、ディルタニア家の子だってわかっちゃうよね?



お母さまの顔を窺ってはみても、ニコニコと微笑むばかり。

タータッシュさんの方は微動だにしないし、表情が一切変わらなくて何を考えているかもわからない。



どうしよう・・・ファンタジーバトルは見たいけど、専属見つけるのも難しいしそう。期間も短いし。

ルーファが難しいって言っていた意味がこれだったんだね。


サラ姉さまや、レオナ兄さまはきっともっと幼いころから色んな勉強をしてただろうし、体力も違いそう。


・・・でも、このままだと魔素が安定して魔法が使えるようになる10歳まではお預け・・・・・・・・・くっ!当たって砕けろだ!!



「やってみます!!」

「そう・・・わかったわ。タータッシュ、あとはお願いね」


「はい。奥様」

「え?お母さま?」


「頑張ってね、アリステアちゃん」


そう言い残して、お母さまは部屋を出て行ってしまった。



「アリステア様、こちらにお着換えください」


「メイド服・・・」

「はい。見習いメイドとして潜入いただきます。『上級者の行動を見せる』という理由で紛れていただきますので、怪しまれません」


「師匠が時々子どもをその理由で連れて来てたのは、この儀式に気づかせない為だったって知った時は驚きましたよ」

「気づかれては意味がないだろ、スタン」


「アリステアお嬢様、着替えを手伝いますわ」

「ふふっ、お嬢様のメイド姿きっと可愛らしくなりますよ!」


「ルーリー、リナ・・・でも着替えたくらいじゃバレるんじゃないかなぁ、この髪と目だし」

「ご安心を。少々失礼いたします」


タータッシュが私の頭の上に手を置くと、静かに何か呪文を唱え始めた。

モヤモヤと何か透明な膜の様なものがタータッシュの手から出て来て、私の全身を包んだ。


「これで良いでしょう」


「まぁ!!アリステア様、その姿もかわいらしいです!!」

「その色味もお似合いです!!」



何のことかと思っていると、ルーリーとリナに姿見の方へ促され、驚いた。



身長や顔立ちはそのままだが、色が変わっていた。


薄い紫の髪に、薄い黄色・・・た、確かにこれはこれで可愛いね。

元の作りがいいと、なんでも似合うって本当なんだ・・・。


「師匠~、確かに色は変わりましたが、こんな可愛い子が孤児って難しくないですか?もうちょい見た目を変えた方が良くないですか?」

「変化が大きいと違和感が生まれやすい。それに美醜は孤児には関係ない。お前の修行期間に重ならなかっただけで、美しい子もいた」


「・・・・・・スタン、師匠。ひどくないですか?」

「私たち、スタンと修行期間が重なってる孤児なんですけど?」


「えっ、あ~・・・ほら、美醜の感覚って人それぞれだし?」

「それ言い訳のつもり?」



「お前達は可愛いの部類だろう」


「「・・・・・・・」」


ルーリーとリナは不満顔ではあるけど、師匠のタータッシュの言葉が嬉しかったようで、なんだかうれしそうだ。


「師匠!!一人だけずるいよ!!俺もそれが言いたかったんですよ!いでっ!!踏むなよリナ!お前の靴は鉄仕込んであるだろ!」

「ふん!!」


「・・・はぁ。アリステア様、着替えましょう」

「う、うん。そうしようか、ルーリー」



「私とスタンは先に行っている。アリステア様が着替え終わったらお連れしろ。いいな」

「「承知いたしました」」


「行くぞ、スタン」

「じゃ、あとでお嬢!」


――――ゴンッ


「いったぁ!!師匠の手袋鉄仕込みの拳骨痛すぎですよ!!」

「あぁ、改良した鋼鉄製だ。出来は上々だな」

「俺で試さないでください!!」



なんか・・・思ってたのと違う感じだね。

もっとダークな感じの関係とか、性格してるのかと思ったけど明るめだね。

明るい方がいいけど。



――――スッ

――――スッ



「え・・・あれ?2人は?」


「先に行きましたよ、アリステアお嬢様」

「まったく、スタンはうるさいんだから!本当は痛くもないくせに」

「スタンにとってはあの反応が大事なのよ」


「どういう意味?ルーリー」

「・・・身体が丈夫という意味です。お嬢様」


何か別の意味がありそうな気がしたけど・・・


「さ、着替えましょう!!」



なんだか、展開が早くて頭の追いついてない・・・私、大丈夫かな。

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