55.護衛①
「ママ・・・アルティミア祭のことなんだけど・・・」
「アルティミア祭?」
「昨日ルーファから聞いて・・・」
「あら昨日?ルーファったらまたアルフェの楽しみを先取りしちゃったのね。アリステアちゃんも今年から式典にはちゃんと連れて行ってあげるわよ」
「あ、あのー武闘大会のことなんだけど」
「武闘大会がどうしたの?」
「私も見たいの!武闘大会!!」
ルーファからアルティミア祭のことを聞いた翌日の昼食後、早速お母さまに武闘大会の観覧許可をもらおうとアルティミア祭の話を聞いてみることにした。
魔法士、剣士、冒険者、騎士が勢ぞろいするファンタジーバトル見れないとかつらすぎる!
きっと見たこともない魔法バトルとか繰り広げられるはず!
自分が参加するのは論外だけど、安全な観覧席でみるだけならいいよね!
暴力的なバトルなのは・・・ちょっと心が痛むけど、死者が出るわけではないとルーリーとリナから聞いた。
それならスポーツのようなものだし、私が見なくても大会が中止になるわけじゃないのだ。
ならばみたい!!
「だめよ」
「・・・・・・」
「だーめ」
「・・・・・・」
「もうぉ、そんなキラキラした目で見つめられてもダメなものだめよ」
「うぅ・・・そこをなんとか・・・」
「今のままではね」
「どうしてもみた・・・い?今のままでは?」
「血かしらねぇ~、サラちゃんも入場が許される7歳になって1番はじめに言った言葉が「これで武闘大会を見れる」だったのよ」
おぉ~。さすが戦女神のサラ姉さま。
すでに前例があるなら、私の要望が通りやすいかも?!
っというか、サラ姉さまが武闘大会に行ったのなら、私も行ける可能性があるのに、ルーファは私に「観覧は難しいだろう」なんて言ったんだろう。
「それなら!!」
「言ったでしょ。『今のままでは』だめよ」
「『今のままでは』?」
これは・・・何か課題をクリアしないといけないってことなのかな・・・
「専属の護衛をみつけることよ」
「専属の護衛を・・・みつける?」
「そう。みつけるのよ。そうね・・・他の言葉で言うなら虜にするの」
・・・他の言葉のほうがよくわからないよ。お母さま。
「武闘大会に連れて行けないのは、別に暴力的な戦いを見せたくないというわけではないの。それもなくはないけれど、ディルタニア家は戦いと無縁ではいられないから、遠ざけるより正しい知識と経験を身に着けて欲しいわ」
え。ディルタニア家って戦いと無縁ではいられないの?!
近衛騎士団に属しているから・・・って意味だといいんだけど・・・
「あら?不安にさせちゃったかしら。大丈夫よ。アルフェやイーディスが属している近衛騎士が出兵することはほとんどないわ。他国との小競り合いがまったくないわけではないけど、100年くらいは戦争は起きていないし、今のエアルドラゴニア国は他国との関係も比較的良好よ。ただ、何も知らない無力でいるわけにはいかないでしょ。日々研鑽を積み、異常時に備える。そういう意味よ」
よ、よかったぁ。
100年も戦争がなくて、他国との関係も良好とか、やっぱりこの世界のこの時代はホワイトなんだ!
特に他国との関係が良好なら、旅行もしやすいし、のんびり引きこもってても戦争に巻き込まれない。すばらしい!
「ふふっ、アリステアちゃんったら。今度は嬉しそうね。戦いがないことは良いことですものね。でも戦いが好きじゃないアリステアちゃんはなんで武闘大会をそんなに見たいのかしら」
「えっと・・・色んな魔法や技がみれるかなって・・・」
ファンタジーバトルが見たいからです!!!って言えたら早いんだけどね・・・。
「そう・・・アルフェやイーディスと話が合いそうね。サラやレオナは『力と力のぶつかり合いが見れるから』って言ってたのよ」
サラ姉さまは予想通りだけど、レオナ兄さまは意外かも。
「アリステアちゃんの思っている通り、多種多様な魔法や剣技、武術が見れるわ。でもね、その分危ないの」
「危ない?」
「もちろん多くの貴族が集まるからセキュリティレベルは高いし、結界が張られるから観覧席にまで技は届かないけど、それでも危険なの。観覧席で人さらいや、無差別攻撃がまったく起きないとは言えないのよ。残念なことに」
「そ、それは、過去にそんな事件が?」
「ええ。未遂になることが多いけど、爆発事件が起きたこともあるわ。だから、自衛できる手段をもつことが観覧するための最低条件よ」
「自衛・・・」
まさか観覧するのに自分の戦闘力が必要となるとは・・・
『昔の私』は柔道と空手の経験があるので、知識だけならなくもないけど、身体は7歳女児。
体力もなければ筋力もない。
いくら柔よく剛を制すと言えども、最低限の基礎体力と筋力がなければ知識だけでは役立たずだ。
持久力がなければシンプルに走って逃げることもできない。
「アリステアちゃんはまだ魔素が安定する前だから魔法で自衛はできないけど、専属の護衛を見つけることができれば、それはアリステアちゃんの『力』として考えられるわ」
「私の『力』になる専属護衛」
そっか。
『前の世界』の感覚で考えてたけど、この世界では魔素で魔法も使えるし、護衛を雇うこともできるんだ・・・うっかり自分の筋力心配してたよ。
「武闘大会中はアルフェとイーディス、サラちゃんは公務があるからそばに居られないの。もちろん私がそばにいるから安全なんだけど、会場には多くの人が集まるから、貴族といえども護衛の人数が限られる。だから不測の事態が起きた時にどこまで対応できるか分からないわ。だから護衛を見つけて欲しいの。アリステアちゃん、貴女だけを最優先に守る護衛を」
「私だけを?」
「そう。ディルタニア家の護衛としてではなく、アリステアちゃん個人に忠誠を誓う護衛」
私個人の護衛って・・・それはもちろんいてくれたら嬉しい。
将来私1人の身軽な旅をすればいいかとも思っていたけど、今話を聞いていたら、自衛できる力の必要性を感じてきた。
私が鍛えたとして、自衛と呼べるほどの力が身に着くかどうかわからない。
ならば私の行動を否定しない、家に属さない個人の護衛はいてくれたら嬉しい。
「でもそんな人どうやって・・・それに雇うのではなく、見つけるっていうのはどういう意味なの?」
「最終的には雇うという形にはなるけれど、お金や契約から始まる関係は弱いものよ。だからまず自分だけを守ってくれる人を見つけるのよ。もちろんその人も生きるためには報酬が必要だから、雇うという形で契約も行うけれど、順番がとても大事なの」
「そうなんだ・・・でも、ますますそんな人どうやって」
「そうね。次の『その他教養』の授業で説明してあげるわ」
「え、授業で、ですか?」
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「さぁ、今日の『その他教養』は私から専属の護衛について教えてあげるわね」
「はい!よろしくお願いいたします。お母さま」
今日が来るまで色々考えていみたけれど、結局答えは聞くまで分からないので、途中で考えることをあきらめて今日を楽しみにしていた。
護衛をみつけてファンタジーバトルをみるのだ!
「専属の護衛について、先日教えたことは覚えているかしら?」
「専属の護衛は、家に属するのではなく、個人に忠誠を誓う関係ですよね」
「そうよ。ディルタニア家には騎士団もいるけれど、騎士団は家に属し、ある意味国にも属する存在。だからいざと言う時に使命による優先順位で自由に身動きが取れないことがあるの。だから、身を守るために自分を最優先にしてくれて、心からの忠誠という絆で結ばれた存在がとても大切になる。ここまではいいかしら?」
「はい!」
「いい子ね。それじゃあまず、アリステアちゃんの身近にいる護衛を紹介するわね。こちらに並んでくれるかしら?みんな」
「「「「「はい、奥様」」」」」
お母さまの指示に従って並んだのは見覚えのある人たち。
お母さまの筆頭メイドのヒルデ、私の専属メイドのルーリーとリナ、レオナ兄さまの専属執事のクリーク、騎士団のスタンが並んだ。
騎士のスタンは分かるけど、メイドと執事が護衛って・・・ま、まさか、そんな・・・そんな小説や、アニメ、ゲームあるあるの万能メイドと執事ってこと?!
そんな優秀トキメキ人材だったの?!
みんなが笑顔でこちらを見ている。
スタンは目が合うとパチリとウインクしてきた。
ぐっ・・・このできる男イケメンめ。
「ふふっ、アリステアちゃん嬉しそうね。護衛としては騎士のスタンが分かりやすいけれど、我が家のメイドや執事も護衛をこなせるほど優秀なのよ」
ふわぁぁぁぁ!!やっぱりぃ!!
「他家のメイドや執事は護衛ができるほどの力がある人は限られているからとても大切な人材よ。そして我が家の秘密の一つ」
「え、秘密?」
「そうよ。ここから先の話は他家の人に話しちゃだめよ。家族みんなの命が危なくなるわ」
おおぉい!お母さま。さらっと危ないこと言わないでください!
テンション爆上がりしていたのが一気に冷静になったよ!
「わ、わかりました」
「いい子ね、アリステアちゃん」
血の気の引いた顔でうなづくと、お母さまも笑顔でうなづいて、スッと真剣な顔をした。
「ルーファから、授業でディルタニア家が過去に一国を治める王家だったことを伝えたと報告を受けたわ。そして今、しばらく期間をおいてその情報が他に漏れなかったこと、アリステア自身がその話を聞いて言動を変えなかったからこそ話します。意味は分かるわね、アリステア」
つまり、ルーファから教えられた歴史・・・1000年前のことだからって忘れてたけど、自分が元王族と知ってどういう言動をするか試されていたんだ・・・
そしてこれから聞く話は、その過去の王家に関わる話・・・
真剣なお母さまの瞳を見返しながら、覚悟をしてうなづくと、お母さまは微笑んだ。
「試すような真似をしてごめんなさいね、アリステアちゃん。でも、みんなの命がかかるから・・・」
「いいえ、お母さま。皆の命は私にとっても大事ですもの。当然です」
「ふふっ、ありがとう。アリステアちゃん」
お母さまがいつもの雰囲気に戻ってほっとした。
そうよね。お母さまは公爵夫人。
ただのおっとり優しいだけの女性なわけがないよね・・・
お母さまの話、心して聞かなきゃ!しっかりしなきゃ、たぶん私の命に係わる。