54.歴史とお祭り
「ずっと雨が降ってるね・・・」
「雨はお嫌いですか?アリステアお嬢様」
「ううん。むしろ好きかな。落ち着くし・・・なんかちょっとワクワクするの」
「そうですか。それは良かったです。まだきっと降り続きますから」
「ルーファは?」
「そうですね・・・私も嫌いではありません」
誕生パーティーが終わると季節は水の季節。
1季節のほとんどの日が雨が降り続く雨期。
梅雨みたいで、懐かしい・・・
幸い、こちらの世界の雨期は梅雨独特のべたつく感じはない。
シトシトと降る日もあれば、雷鳴とどろく強い雨の日もある。
雨期は毎年訪れるので水害対策もしっかりされているらしい。
劣化による被害がゼロではないものの、河川が氾濫することも土砂崩れもほとんど起きないと聞いた。
「水の季節が終われば、豊穣の木の季節。アルティミア祭がはじまります」
「アルティミア祭?」
「建国神話の光の乙女の話を覚えていますか?」
「えっと・・・闇の化身のブラックドラゴンから助けられて、初代国王の闇の力を持つ男の人と結婚した人だよね?」
「その通りです。攫われてなおひた向きに愛をつら抜いた光の乙女は、後に国の王妃となって王と共に国の発展に尽力しました。その建国神話の愛の物語にあやかって、愛と国の発展、豊穣を祈る祭り。それがアルティミア祭です。アルティミアとは光の乙女の名前と言われています」
「光の乙女の名前・・・光の乙女って、光の女神さまと同一なんだよね?」
「正確に言うと、異なります。光の乙女は光の力を持った女性で、光の女神は光の力を擬人化したものです。光の女神は本来は形を持ちませんが、形がないものより、具体的な形がある方が祈りを捧げやすいため、王族の力を信仰とともに広めるためにも光の女神像は光の乙女の姿を模して造られたと言われています。そのため、今では光の乙女と光の女神は混同されて認識されています」
「なるほどね・・・」
信仰はどこの世界も権力に利用されてしまうのね・・・遥か昔の建国神話だから今はその名残の様なものだけど、なんだかなー・・・
「神話はお嫌いですか?」
「そういうわけじゃないの。ただ・・・信仰が純粋なものではなく、王族の権力影響を受けてしまっているのが残念というか・・・」
「深いお考えですね。信仰・・・そうですね。国を治めるために信仰を利用することは多くの国で行われる手段です。が、たしかに気持ちの良いものではありませんね。しかし、その信仰に救われる人が多いのもまた事実です。それに悪いことばかりではありません。アルティミア祭は国をあげての行事の一つで皆さんが楽しみにしています」
「どんな行事なの?」
「アルティミア祭は7日間行われます。初日は王族と近衛騎士によるパレードが行われ、王の開催宣言が行われます。街には多種多様な屋台が並び、朝から夜遅くまで華やかな雰囲気が続きます。貴族は街中へは行けませんが、貴族たちは連日各所で開催される舞踏会や劇場へ赴き、この祭りにあわせてやって来る他国の貴族や商人たちと商談にいそしみます。また、中日にあたる木の日には武闘大会も開催されます。そして最終日の夜には花火が打ち上げられ、王族による祈りの儀式が行われ、祭りが終わりとなります。賑やかそうでしょう?」
私を気遣うようにニコリとやさしく微笑むルーファは今日も魅力的なイケメンだが・・・
気になることが多すぎた。
「え・・・す、すごい!!」
「ふふっ、元気がでましたか?」
「ええ!初日のパレードは近衛騎士ってことは、イディール兄さまも参加されるの?」
「もちろんです」
「街の屋台は・・・行けないのよね・・・」
「アリステアお嬢様は7歳になられたので、今年のアルティミア祭には参加できると思いますが、街へは・・・難しいですね」
「そうなんだ・・・」
・・・・・・まぁ、こどもの内は難しいだろうけど、小説やゲームあるあるのお忍びで街のお祭りを楽しむしかないわね!・・・若干イベントが発生しそうで怖いけど。
「ですが、他国との交流も兼ねた華やかな舞踏会があちこちで開催されますし、珍しい商品も手に入りやすいですよ」
「他国?」
「はい。機械工学が進んだストル国。武器や武力の国、キルネル。双子国と称される平原のノニアと海のルルク。これらの国からは王族貴族、商人など毎年多くの人が来訪されています。他にも稀ですが獣人のピード国、エルフ族とドワーフ族が納めるフェクタ国などからも人が来ることがあります」
「え、ええ?!ちょ、ちょっとまって。面白そうな情報が・・・」
「他国については追々順をおって説明しましょう。今は色んな特色を持つ多くの国の人が来るということを覚えておいてください」
「そ、そっかぁ・・・でも本当にすごいね」
「ええ。すごいですよ。各国に人々の目的は交流、商談、そして武闘大会の参加と観覧が目的です」
「武闘大会!!」
「平民貴族問わず、冒険者はもちろん騎士も参加可能。魔法士も剣士も全員混在した大会です。エアルドラゴニアが多くの国と親交をもっているからこそできるのです」
「そんなすごい大会があるなんて・・・」
「アリステアお嬢様はまだ大会自体の観覧が難しいかもしれませんが、舞踏会などで参加者に会えると思います」
うぐっ・・・武闘大会とかみたいよぉぉぉぉ・・・魔法士、剣士、冒険者、騎士・・・そんなファンタジーバトル見れないとかつらいわ!!
なんとかお父さまか、お母さまに観覧できないか相談してみよう!!
「夜に行われる色とりどりの花火や幾重にも組まれた壮大な魔法の祈りの儀式もとても幻想的です。公爵家のアリステアお嬢様は特等席で見ることができますよ」
「それもすごそう・・・なんだかお祭りがすごく楽しみになりました」
「それはよかったです。この雨期が終盤になると準備がはじまり忙しくなりますよ」
「準備・・・私も何か準備しないといけないことがある?」
「そうですね・・・語学学習でしょうか・・・」
「・・・・・・・・・・ご、語学」
「はい。アリステアお嬢様はすでに母国語であるドラルク語はすでに習得されていますが、多くの国で使われるキルルク語とステール語はまだスムーズに会話ができるほどではございませんので」
「うぐっ・・・」
「しかし、すでに読み書きはほとんどできますし、カタコトでの会話は可能です。このペースはとても速い習得スピードです。あえて準備と言えば、という意味です」
母国語であるドラルク語は日本語に似ているし、キルルク語とステール語も単語の意味や表現が違うものの、基本的な文法は同じなのでそこまで苦労はしていないが、発音はやはり違うので、スムーズな会話はまだ無理だ。
たしかに色んな人がくるのに会話ができないのは不便だもんね・・・
「あとは・・・ブラックドラゴンの羽根飾りか、光の乙女のチェーンでしょうか」
「それはなに?」
「男性はブラックドラゴンの翼をイメージしたブローチなどの身に着ける飾りを用意して、女性は光の乙女を縛ったという金色の鎖をイメージしたチェーンのネックレスかブレスレットを用意します。それを日頃親交のある人と交換するのです」
「その交換にはどんな意味があるの?」
「神話ではブラックドラゴンから翼を奪い、光の乙女を鎖から解放して勝利したと伝えられています。つまりどちらも勝利と訪れる幸福の象徴なのです。その象徴を贈りあうことは、お互いの安全と繁栄を祈ることを意味します」
「そんな習慣があるんだ・・・」
「詳しくは奥様からお話があると思いますよ。おそらく社交やマナーについても」
「そ、そうだねー・・・」
「では授業の続きを行いましょう」
「はい。お願いします」
・・・パーティーがおわったと思ったらお祭りかぁ。
でも色んなことがありそうなのは楽しみ。とりあえず武闘大会の観覧をお願いしてみよう!!