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49.誕生パーティー⑤

「誰だ・・・それは・・・」



「ぐ、グレイシャー家のテオドールさまです。お父さま」

「・・・そのテオドール君がなぜ、アリステアのエスコートをしているのかね?」


「休憩室にお祝いに来て下さって・・・」

「アリステアが休憩しているところに来たのか?一人で?」


「一人ではないです。ユリウスが一緒でした」

「ユリウスが?」

「はい。テオドールさまがエスコートして下っているのも、ユリウスがテオドールさまにお願いしたからで・・・」


「ユリウスが・・・」



お父さの反応は予想通りと言うか・・・予想以上と言うか・・・


テオドールさまのエスコートを受けながらホールの扉の前までもどってきたところで、お父さまとイデュール兄さまと鉢合わせた。

鉢合わせたと言うより、お父さまとイデュール兄さまは私を待っていたようだ。


私とテオドールさまの姿を見たお父さまが一瞬でこちらに移動してきて、テオドール様につめよった。

せっかく震えが止まっていたテオドールさまは、青くなってがくがくと震えてしまっている。


「ユリウスもグレイシャー家ですから・・・交流がまったくないわけではないでしょう。むしろ2人っきりになるのを防げたと考えればよいのではないですか?父上」


お父さまのあとに続いてイディール兄さまも近づいてきて会話に加わる。



「テオドール様、アリステアをエスコートいただきありがとうございました。先にホールへお戻りください」

「え、イディール兄さま・・・」

「アリステア。テオドール様にお礼を」


反論を許さないようなイディール兄さまの雰囲気に、言葉をのむ。


怒ってはいないけど・・・ホールにこのまま入ることは許さないって感じね。


「テオドールさま、エスコートいただきありがとうございます」

「い、いえ。では、また」

「はい」


テオドールさまは震えながらも礼をすると、ホールへ1人もどって行った。


「なんだかテオドールさまに申し訳なかったですね・・・」

「アリステア、グレイシャー家のテオドール様と婚約をしたいのか?」

「え、婚約ですか?何を言っているのですか、イディール兄さま」


「休憩からホールに戻るとき時にエスコートをするのは婚約者の役目だ。テオドール様もあの様子だとおそらく知らなかったのだろう」

「じゃ、じゃあユリウスは私とテオドールさまが婚約関係になるのをのぞ・・・」


「いや。それはない。ユリウスはきっと私たちがここで待機してそれを止めることを見越してエスコートさせたのだろう。ユリウスなりにテオドール様を気遣ったのか・・・」

「イディール兄さま、それはどういう・・・」



「アリステアは私達と共にホールに戻れば問題ないということだ」

「お父さま・・・」


ユリウスがテオドールさまを気遣った結果が、エスコートなのがよくわからなかったが、確かにお父さまとイディール兄さまとホールに戻ることが正解のようだ。


・・・テオドールさまが婚約者だと勘違いされなくてよかった。

知っていたらエスコートをお願いしなかったのだけど・・・・・・いや。無理か。


知っていても、ユリウスは言いっぱなしで部屋出ちゃったし、婚約者ではないからエスコートはお断りしますって言える雰囲気でもなかったものね。



「イディール兄さま、お父さま、待っててくださってありがとうございます」

「構わないさ。さぁ、私の手を」


笑顔のお父さまのエスコートでホールに戻ると、一気にみんなの視線を受けた。



「お戻りになられたわぁぁ!」

「やはり美しいですわぁ!!」


「イデュール様ぁぁぁ!」

「アルフェ様ぁぁぁぁ!!」


本当にテオドールさまと共にホールに戻らななくてよかった・・・もう少しこっそりホールに戻れると思ってたけどあまかった。

・・・イディール兄さまとお父さまが一緒だから余計目立っているのかもしれないけど・・・。



ホールにいたお母さまとサラ姉さまとも無事合流し、ホールを眺める。

みんながホールで踊る姿はキラキラしてとても美しかった。


よく見てみると、ホールのあちこちから、ふわふわ、キラキラと小さな光の粒が現れて、ホール中で舞っていた。


私・・・やっぱり緊張していたんだな・・・。


今更ホールの魔法石の飾りや、設置されていた魔法工具らしきものに気が付いた。



まだ日の高いうちではあるが、ホールの建物のデザイン上、窓から差し込む光だけでは室内を輝かせるには光源がたりない。

それを補うように設置されているのが照明器具なのだが、この世界での照明と言えば蝋燭か魔法石、魔法工具だ。


夜であれば蝋燭で幻想的な空間を演出できるだろうけれど、昼ではその効果はイマイチ。

なので、照明器具として光魔法が組まれた魔法石や魔法工具がホール内のあちこちに設置されている。


私が準備中のホールに来た時は、魔法石や魔法工具を作動させていなかったので、『前の世界』の印象のまま、ただの照明器具だと思いこんでいた。

だが、作動させた魔法石や魔法工具はただの照明としての役目をしているだけでなく、小さな光の粒を生み出し、蝋燭とはまた違った幻想的な空間を演出していた。


魔法石や魔法工具から生み出された光の粒は、人の動きに合わせるように流れて動き、ふわりと消えていく。


「妖精の粉みたい・・・」

「たしかに妖精は光を放つことがあるけれど、アリステアちゃんは見たことがあったかしら?」


ピー〇ーパンのティ〇カーベルを思い出していて、知らずに声に出していたようだ。


「え・・っと、見たことはないけど、何となくそんな感じがしたので・・・その・・・」


なんとかごまかそうと言葉を探したけれど、独り言を聞かれてしまったお母さまに対して、いい感じの言い訳が思いつかない。


「あら。そうなのね。妖精の光を見たことがないアリステアちゃんがイメージのできたなら、今回の演出は成功ね」

「演出・・・ですか?」

「ええ。そうよ。私とアルフェで考えた、『妖精の祝福の光』よ」

「『妖精の祝福の光』・・・」


「妖精は魔獣の中でも貴重種でめったに遭遇できないの。その中でも光を放つ妖精はさら貴重で、その妖精の光を受けたものは幸せが訪れるとされいて、そのことを『妖精の祝福の光』と言うの。光を放つ妖精は最近見つけられていなくて、間に合わなかったから、魔法石と魔法工具で演出してみたのよ。きれいでしょ」


・・・・・・え?


聞き間違い?『妖精は魔獣の中でも貴重種』って・・・妖精って魔獣なの?

妖精はどちらかと言えば、精霊よりのイメージだったんだけど、まさかの魔獣分類だったのか。

妖精の光の粉は物語やゲームのなかで幸福のアイテムや不思議な力を宿しているものなので、『妖精の祝福の光』はイメージできるけど魔獣は意外だ・・・



「・・・はい。とてもきれいです。ありがとうございます。お父さま、お母さま」

「アリステアちゃん、あなたの幸せが私達の幸せよ」

「そうだとも、幸せになるのだよ。アリステア」


妖精が魔獣、という新情報に驚きはしたけれど、優しく微笑み、私の頭を優しくなでてくれる両親から、あたたかな優しい心が伝わってくる。



『アリステア』は両親のことが好きだった。

傍若無人でわがまま放題。メイドや使用人をいじめ倒す、性悪令嬢だったけれど、この両親はずっと包むように『アリステア』を愛していた。

だから残念天使の『アリステア』も両親には無理難題は言うものの、直接非道なことはしなかった。


『私』の中には『アリステア』の記憶はあるけれど、『アリステア』ではない自覚がある。

私の身体の中に『アリステア』が眠っている感覚も今のところはない。


ルーク大司教が言ったように、『2つの魂のうち1つがその人生を終えた』のだろうか。

だとしたら、両親から今受けているこの愛が、『アリステア』にも届いてほしいと願う。


『私』がアリステアとして7歳になってお祝いと愛を受けているけれど、もし消えるのが私の方の魂だったとしたら、私はどうなっていたのだろうか。



急に涙が溢れた。

怖いのか、悲しいのか、優しさと愛が嬉しかったのか・・・そのすべてが混ざったような涙。


急に泣き出した私に両親は驚き、お母さまがなだめるように優しく抱きしめてくれた。

そのぬくもりに、また涙が出た。


お母さまは私が落ち着くまで背中をゆっくりとさすってくれて、お父さまは人から見えないようにさりげなく壁となってくれていた。


私はのんびり、だらりと暮らしたいけれど、家族も幸せにしたい。

『私』と『アリステア』に優しく、愛を注いでくれる家族を。


心が落ち着いてくると涙もおさまったので、お母さまにむかって笑顔を見せると、安心したように微笑みを返してくれた。


イディール兄さまとサラ姉さまもさりげなくお父さまの壁に加わってくれていた。


涙で赤くなってしまった顔をどうしようかとおもったが、心配はいらなかった。

お母さまがくれたネックレスのダイヤが輝き、顔のほてりと赤みを癒してくれた。


私が落ち着いたのが分かったのか、壁役になってくれていたお父さま、イディール兄さま、サラ姉さまにも笑顔を向けると、笑顔が帰ってきた。


本当にみんな優しい。大事にしたい。



「アリステア~」

「レオナ兄さま?」


ずっと踊っていたのだろうか。

息を弾ませながら、レオナ兄さまが近づいてきた。


「踊ろう!いっぱい練習したのに、アリステアとまだ一回しか踊れてないから待ってたんだ!」


ちらりと両親の方を見ると、笑顔でうなづいてくれた。


「はい!レオナ兄さま!私も踊りたいです!」


「行ってらっしゃいアリステア」

「いってきます!」

「行こう!」


レオナ兄さまに引っ張られるように、『妖精の祝福の光』の中で踊るみんなの中へ私たちも混ざって行った。


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