48.誕生パーティー④
「アリステア、今すれ違った赤いのはトゥルクエル家か?」
・・・・ユリウス、赤いのって。
「トゥルクエル家のサフィールさまとレティシアさまです。すみません。ユリウスが私の講師をしてくれていることが知られてしまいました」
「問題ない。特別隠していないし、私が講師をしている時点で各方面の許可を得ていることは分かるはずだ。それが分からず異論を言うのは情報収集能力が低いうえに判断能力が低い付き合う価値のない人間だ・・・赤いのに何か言われたのか?」
・・・ここで何か言われたと伝えたら、ユリウスが何かしそう・・・。
「い、いいえ。でも色んな人がるから、あえて広げることでもないと思ったので・・・」
「そうだな。何か言いがかりを言いうやつらが現れたら、今の赤いのが原因か赤いのの周辺の人間が問題だな。覚えておこう」
あちゃー・・・大丈夫だとは思うけど、なんかサフィールさまとレティシアさまがユリウスに変な覚えられ方をしてしまった。
「あ、あの・・・アリステアさま。この、度は、ご招待いただき、あ、ありがとうございます・・・」
「こちらこそ、来ていただけて嬉しいです。テオドールさま」
お茶会で一緒だった、テオドールさまの姉、イーディス様は招待していないのでテオドールさまも来てもらえないかもしれないと思っていた。
お礼もしたかったので来てくれたのは嬉しい。
テオドールさまは、青い髪に青い瞳、幼いながらも整った顔立ちと色白の肌。グレイシャー家の青を基調とした正装姿は、高貴な身分の子どもであることが全身から分かる。
しかし、その顔色は、かわいそうなくらい青ざめて震えている。
「・・・アリステアからお茶会での話を聞いていたが・・・本当に話せたのだな、テオドール」
「・・・テオドールさまとユリウスは面識はあるのですよね?」
「ある。が、話したことはない」
「でも、ここには一緒に来て下さったのですよね?」
「ああ。だが話はしていない」
・・・どういうことだろう。
話をしないで意思疎通となると、筆記?
「テオドールは途中で拾っただけだ」
拾った・・・とは・・・青ざめて若干震えているテオドールさまの雰囲気からして、攫ってきたの間違いではないのだろうか?
「・・・・・・お2人にお会いできて嬉しいです」
怯えるテオドールさまに詳細を聞くことも出来なさそうだし、よくわからないことは考えないようにしよう・・・。
「ユリウスはホールで挨拶できなかったので、今日は会えないかと思っていました」
「すまない。本家がいたからな。できるだけ顔は会わせたくない。それに行っても余分な人間が寄ってくるのは面倒だった」
―――ビクッ
・・・ユリウス、テオドールさまはその顔を会わせたくない本家の人ですよ。
可愛そうに、ユリウスの発言にさらに縮こまってしまった。
テオドールさまが『極端な人見知り』と教えてくれたのはユリウスなはずだよね?
直接会ったこともあるっていっていたからか、てっきりユリウスはテオドールさまの理解者なのかと思ったけど、テオドールさまを気遣っている感じはしない。
ユリウスは優しいのか冷たいのかわからない。
ただ、私にとっては優しく頼りになる存在であることは間違いない。
それに・・・惚れ惚れするほどのイケメンですね!!
今日はいつものローブ姿とは違って、紺色を基調とした正装姿はユリウスのスタイルの良さを強調していた。
夜空のような紺色の長い髪は銀製の美しい髪留めで一つに束ねられている。
身長は180㎝くらいの高身長なのはわかってたけど、脚長い!!
研究ばかりしているから、筋力とかなさそうなのに、余分な肉はなさそうだし、むしろ引き締まっているだと?!
「・・・なんだ?」
しまった。また見つめ過ぎたか。でも、皆イケメンなのがいけないんだよ。
「すみません。ユリウスの正装姿が素敵すぎて見惚れていました」
「ほう?」
―――ビクッ
なんかテオドールさまが反応したけど、ユリウスの私を見る面白がるような表情が魅力的過ぎて目が離せない。
「アリステア、自分の姿を鏡で見たか?」
「見ましたよ?」
「そうか。なら今の発言は私への嫌味だな」
「え、嫌味ですか?私は本当におもって・・・」
「アリステアの美しさはもはや異常だ。嫌味でないなら、目が悪いのか?その美しさの秘密も解明するために、持ち帰って調べたいほどだぞ」
はうぅっ!!
ユリウスのことだから本当に研究対象としての発言だろうけど、研究バカのユリウスが調べる対象にしたいとうのは、ユリウスとしては最上の誉め言葉なのだろう。
「・・・アリステアさま、とても、お美しいです」
「え?あ、ありがとうございます。テオドールさま」
ユリウスの発言に、優しいテオドールさまのことだ。自分も何か言わなくてはと思っていってくれたのだろう。
素直に笑ってお礼を言いうと、テオドールさまは俯いてしまった。
「私はホールには行かないから、ここで渡しておく。受け取れ」
ユリウスから差し出されたのは・・・革袋?
「あ、ありがとうございます」
受け取ったはいいけれど・・・何か入っているようには見えない、ぺちゃんこの茶色の革袋。
ユリウスのことだから、何かの魔法がほどこされていると思うんだけど・・・なんだろ。
ゲームや小説あるあるアイテムの四次元ポケット的なものだろうか。
「くくっ・・・何だろうかと色々考えているようだな」
「・・・普通の革袋ではないですよね?」
「その方がよかったか?」
「いただけるものは何でも嬉しいですが、ユリウスが私に普通の革袋をくれたとしたら、逆に驚きます」
「まぁ、そうだな。なんだと思う?」
「う~ん・・・収納魔法が施された革袋ですか?」
「当たりだ。袋の中に手を入れてなんでもいいから取り出してみろ」
言われるまま、袋に手を突っ込むと、袋の大きさよりも深く手が入った。
うわっ、なんか視覚的に気持ちわるい。
何が入っているかわからなかったので、何もない空間で手を動かしていると、何かが手に触れので、掴んで引っ張り出すと手のひら大のダイヤ・・・
ダイヤ・・・でっか!!
「こ、これダイヤですか?!」
「ああ。まだ何も魔法石として加工していない石だ。ほかにも使えそうな素材をいろいろ突っ込んでおいた。授業でも使う予定だが、中のものは好きにつかっていいからな」
「いろいろ突っ込んだって・・・どれくらいの量ですか?」
「入れた量は・・・よく覚えていないな。皮袋の大きさなら・・・この部屋くらいのものは収納できるな」
入っているものも、入れる袋もスケールでっかいね!!
「す、すごいですね・・・何が入っているか楽しみのような、怖いような・・・」
「安心しろ、生き物は入っていない」
「生きていないものは入っているんですか?」
「・・・・・・素材だ」
妙な間が心配だ・・・素材ってまるまる1匹の魔獣とか入ってそうなんだけど。
中身に一抹の不安はあるものの、すごいものなのは分かるので、ありがたくいただくことにしよう。
「こんなすごいものを・・・ありがとうございます」
「うむ。アリステアに渡しておけば、何か面白い結果がえられそうだしな。楽しみだ」
・・・何か変な期待をされているみたいだけど、私はそんな突拍子もないことをする面白キャラになる気はないですよ。
「あ、アリステアさま・・・」
・・・テオドールさま・・・さっきより青ざめて震えてる。
「テオドールさま、大丈夫ですか?」
「え、は、はい。そのこちらを・・・」
テオドールさまは手を差し出してくれたが、何も持っていない。
不思議に思っててを見つめると、テオドールさまの腕輪の魔法石が眩く光ったと思ったら、次の瞬間には何もなかった手には青いバラの花束があった。
「収納魔法・・・花束ですね!!ありがとうございます」
青いバラ・・・『前の世界』の花言葉は「夢叶う」とか「神の祝福」とかだっけ?グレイシャー家の色の花・・・黒のバラは嫌な思い出ができてしまったけど、バラ自体は好きな花なので嬉しい。
「花束ははじめてもらいました。嬉しいです」
――――コクリ
返事はなかったけれど、頷いてくれたので、お礼の気持ちは受け取ってもらえたのだろう。
そうだ、お礼を渡しておかなきゃ。
「テオドールさま、こちらを」
「へ?あ、僕にです、か?・・・これはハンカチと茶葉とハチミツでしょうか」
「はい!お茶会でお好きだとおっしゃっていた、オレンジフレーバーの茶葉とハチミツです。あとは不格好で申し訳ないですが、刺繍をしたハンカチです。受けとってくださいますか?」
「アリステアさまの刺繍・・・狼・・・素敵です。うれ、しいです。ありがとうございます」
「ふむ。普通の刺繍のデザインではないな。だが、グレイシャー家の狼に見える。不思議だな」
色んな色を使ったデザインではなく、青単色で、ロゴマークのように簡略化した狼のデザインにしてみたが、受け入れてもらえたようだ。
「お茶会の時に助けていただいたお礼です!」
「助け・・・僕がですか?」
「はい!それにあの時いただいたお茶、おいしかったです。ありがとうございました」
「なるほど、お茶会での礼か・・・」
ユリウスが意味深に私の方を見つめているのを感じる。
絶対、「私にはないのか?」っていう意味だよね・・・
「ユリウスには・・・授業の時に渡します」
ユリウスの黒水晶のピアスの話は人前でできないので、ここでは渡すのは避けたいし、テオドールさまに渡したものと比べると、保温保冷マグカップは一から考えたものなので、テオドールさまに渡したものとでは差があるので気が引ける。
「そうか。私はカラスだ」
「・・・え?」
「私のものも用意してくれるのだろ?私はカラスの紋だ」
「・・・わかりました」
「うむ」
ハンカチは用意してないです・・・とは言えまい。
満足そうに微笑まれてしまったので、急いで作らねば。
「では、私は帰る」
「え?ユリウス帰っちゃうの?!」
「なんだ?そばに居て欲しいのか?」
「そ、それは・・・嬉しいですけど・・・」
「冗談だ。私はホールに行きたくないし、用事も済んだ。だから帰る」
「そうですか・・・」
「お前を研究所に連れ出すわけにもいかないからな。また次の授業で」
「はい・・・今日はありがとうございました」
「ああ・・・そうだ、テオドール」
「え、はい」
「アリステアがホールに戻るときはエスコートしてやれ」
「え、ぼく・・・」
「またな」
テオドールさまが何か言おうとしていたが、ユリウスはとっとと部屋を出て行ってしまった。
ユリウス・・・ほんとマイペースだね。
「ユリウスさまと・・・はじめて会話しました」
「え、今のやりとりがですか?テオドールさま」
「・・・はい」
・・・今のって会話に分類していいのだろうか・・・
テオドールさまの表情が青ざめた表情から、ほんのり赤くなっているのを見ると、テオドールさまはユリウスと会話?できてうれしかったようだ。
「アリステアお嬢様、そろそろホールにお戻りになる時間ですがいかがいたしましょうか」
・・・まったく休憩出来てないのだけど・・・仕方がない。
「ホールに戻ります」
「あ、アリステアさま・・・その・・・エスコートを・・・」
そう言えば、ユリウスが去り際にそんなこと言っていたね。
「はい。よろしくお願いいたします。テオドールさま」
差し出されたテオドールさまの手を取ると、テオドールさまの身体の震えが伝わってきた。
頑張ってくれてるのね・・・しっかり手を握って微笑むと、テオドールさまの手の震えが止まったような気がした。
テオドールさまのエスコートでホールに戻ることになった。