42.魔獣②
「さぁ、挨拶を。私の契約魔獣、火竜ドラフェスタ」
―――グルルルル
ひぃぃぃ!!大きい!!
5階建て建物いっぱいの大きさ。
真っ赤で分厚そうな鱗に覆われたTHEドラゴンの身体。
炎を宿したように揺らめく瞳。
鋭く尖った牙と爪。
口から漏れる煙は熱気を帯びている。
ゲームのドラゴンブレスみたいな業火吐きそうな姿だよ!!
いきなりラスボス級の魔獣じゃない?!
ファンタジー的な生物に会えて嬉しいし、めっちゃテンション上がるけど、怖いよ!!!
うなり声だけなのに、若干振動を感じるし、口から漏れる熱気のせいか、チリチリと痛い気がする。
思わずよろけると、お父さまが再び抱き上げてくれた。
優しい腕に包まれて安心したが、それでも不安でお父さまの首に抱きついた。
「・・・幸せだ」
「父上、アリステアが怯えています。やはりドラフェスタと会わせるの順番は最後の方が良かったのではないですか?」
「うぐっ・・・アリステア。ドラフェスタは見た目も破壊力も何もかも災害と表現されるレベルだが、私の家族を傷つけるようなやつではないぞ。こうして1度会っておけば、むしろ守ってくれるのだ。安心してくれ」
そう言いながら、私を抱えてお父さまは火竜ドラフェスタに近づいていく。
ひえぇぇぇ!こ、心の準備させて!!
お父さまが近づくと、ドラフェスタは長い首を曲げて頭を降ろし、炎のように揺らめく瞳でじっとこちらを観察するように見てきた。
ガッチリとお父の首にしがみつきながら、ドラフェスタの瞳を見返す。
じっと見ていると、不思議と恐怖が薄れてきたし、熱気も感じなくなった。
・・・あれ?なんだろ・・・もう怖くない。
「アリステア?」
「・・・ドラフェスタに触ってもいいですか?」
「む。あぁ、かまわないが・・・もう怖くはないのか?アリステア」
「うん。なんか大丈夫みたい」
そっと手を伸ばして、ドラフェスタの頭に触れてみると、硬いけれど、ほんのりと温かかった。
ドラフェスタはおとなしく撫でさせてくれている。
「あたたかい・・・」
「ふふっ・・・ははは!!」
「ぱ、パパ?!」
「さすが我がディルタニア家の娘!!ドラフェスタがアリステアを受け入れた!」
「受け入れた?」
「そうだ。ドラフェスタがアリステアを受け入れたのだ。先ほど、家族は傷付けないし、守ると言ったがそこまでだ。ドラフェスタの身体は高熱で普通は触れない。しかし、受け入れられると、熱を感じることはなく触れることができる。簡単に言えば、気に入られたということだ。もう少し大きくなったら、ドラフェスタに一緒に乗れるだろう」
「・・・それは・・・うらやましいですね」
「イデュール兄さま?」
「私は触れることができないからな・・・」
「ははっ、それはお前のクリスタルドラゴンが妬くから仕方ないだろう。同属のドラゴン種と契約した運命と言うものだ」
「そうね。私は触れるもの」
ペシペシ・・・と豪快に触るサラ姉さま。
よ、よかったぁ。なんか魔獣に特別好感を持たれる才能とかだと、なんかのフラグが立ちそうで怖かったけど、サラ姉さまの行動に安堵した。
「イデュールも契約前はアルフェに抱えられながらだけどドラフェスタに乗ってたわよ」
「・・・一人で乗りたいのです」
「ふふっ、ごめんなさい、イデュール。あなたはもう大人ですものね」
「さて、次はイデュールのクリスタルドラゴンを紹介しよう」
隣の獣舎に移動すると、そこには火竜ドラフェスタより一回り小さいが、十分巨大な水晶でできたかのようなドラゴンがいた。
「わぁ・・・きれい・・・」
スマートな身体は細かな鱗に覆われていて、光を反射して七色にキラキラと輝いていた。
お父さまの火竜ドラフェスタは強そうなイメージだが、イデュール兄さまのクリスタルドラゴンは速そうだ。
水晶玉の様な透明の瞳の中に光の渦が動いていた。
羽根は大きく、爪も牙もやはり鋭かったがどれも透き通っている。
お父さまに抱えられながら近づいたが、さっきとはちがいはじめから恐怖は感じなかった。
「私の契約魔獣クリスタルドラゴン、ストゥークスだ。どうやらアリステアはストゥークスにも気に入られたようだな。まぁ光属性の魔獣だから拒否されることはないとは思っていたがな」
「イデュール兄さま、触ってもいい?」
「もちろんだ」
触れてみると、やはりほんのりあたたかい。
どこをみているか分からない瞳だが、不思議と見つめられているような気がする。
「うむ。私は目が光で狂いそうだな」
「え?!お父さま大丈夫ですか?!」
「ああ。大丈夫だ。狂いそうだが、狂うわけではない。ドラフェスタの時と逆だな。私もストゥークスの美しい姿をみたいのだがな・・・」
「では、次は私の魔獣、ペガサスのローザだ」
「わぁ!!きれいでかっこいいですね!!」
「そうでしょ」
ドラゴンの獣舎より小ぶりの建物には、大きな羽根に、銅色の一角を生やした馬がいた。
『前の世界』の競走馬のように引き締まった体は、素早く動き、戦のなかでも勇ましく突き進みそうだ。
しかし、ペガサスといえば、純白をイメージしてたけど、なんと、つややかな毛並みは鶯色だった。
―――ヒヒーン
鳴き声は馬だね。
ホーホケキョって鳴いたらどうしようかとおもった・・・。
「かっこいいですね!!」
「そうだろう?私とともに数々の戦場を駆けてきた。地も空も」
「触れてもいいですか?」
「・・・・いいが・・・触れられるか?」
琥珀色の瞳を見つめると、敵意はないが、気安く触らせてくれる感じではなさそうだ。
なぜか手を伸ばす気になれなかった。
「だめ・・・みたいです」
「そうか。落ち込むことはないよ。ローザは私以外には気を許さないのだ。属性相性が良くても嫌らしい」
「獣舎番も寄せ付けなくてな・・・5年ほど担当している人間でもいまだに噛む」
「か、噛まれるの?」
「私たち家族にはそこまで攻撃的にはならないが・・・まぁ、いやがるだろう」
「そうなんですね・・・」
そういえば、『前の世界』ではペガサスではないけれど、一角獣であるユニコーンは純真な乙女にしか気を許さない気難しい生物だって言われていたし・・・似てるのかもね。
ドラゴンと違って鋭い牙はないけど、噛まれたら痛そうだ。
「最後は私ね。いらっしゃいフェルーナ」
お母様が空を見上げると、急降下してくる影が見えた。
・・・鳥?
キュークルルルル―――ぶわっ
「わわっ、すごい風!!」
「ふふっ、ごめんなさいね。久しぶりに呼んだからフェルーナったら、テンション高めね」
「・・・きれいな鳥・・・火の鳥?」
「そうね~不死鳥って言われる種類よ。火の属性を持っているけど、風と光属性もあるとっても貴重な魔獣なの」
3属性持ちの魔獣っていうのもすごいけど、不死鳥?!すごい・・・伝説級の魔獣が家に揃ってるのね・・・
っていうか、大きい!!人が3人くらい乗れそう!!
赤い羽根に金色のくちばし、緑色の瞳。
スッと手を伸ばすと、フェルーナの方から頭を寄せてくれて、くちばしに触ることができた。
撫でると、心なしか目を細めて喜んでいるように感じた。
「やっぱりアリステアちゃんとも相性がいいみたいね!嬉しいわ!!きっとフェルーナも背中に乗せてくれるわ」
「わぁ・・・楽しみ・・・お母さま、フェルーナは獣舎には入らないの?」
「フェルーナは鳥で、しかも不死鳥だからほとんど疲れ知らずで飛び続けられるの。だから獣舎で休む必要もないの」
「そ、それはすごいね」
・・・もしかして、お母さまの不死鳥フェルーナが一番強いのではないか?
「あ、そういえば前にルーファに魔獣を見せてもらった時に、何もないところから突然現れて消えたの。みんなの魔獣は獣舎が必要と言うことは、いつでも呼び寄せるというのは難しいってこと?」
「な!!私より先にルーファがアリステアに魔獣を見せていたのか?!」
お父さまがなぜかショックを受けたような顔をしていたけど、別に順番は関係ないような気がする。
一番大きくて怖かったのはお父さまの魔獣だ。
「ルーファがアリステアに魔獣をみせたのか・・・めずらしいな。私とサラに見せてくれるまでかなり時間がかかったのだが・・・気に入られているのだな」
「嫌われてはいないと思いますが・・・魔獣のことを聞いたら見せてくれました」
「ふむ・・・アリステアに優しいのはいいが、私を差し置いてアリステアのはじめてをとられるのは嫌だな・・・」
お父さまが何やら親バカな独り言を始めたので、イデュール兄さまの方をみると、一つうなずいて説明してくれた。
「結果からに言えば、契約魔獣はいつでも召喚できる。召喚していない時は小型化しない限り、屋敷の中で共に過ごすことは難しいことが多いため、獣舎を使うことが多い。ルーファの蛇も本来は大蛇だ。室内で召喚したのならば、小型化した姿を見たのではないか?」
「小型化・・・確かに大蛇ではありませんでした。腕に巻き付くくらいの大きさでした」
「うむ。やはり小型化した姿だな。私達も小型化した姿ならば室内で召喚もできるが、本来の姿の方が魔獣にも負担が少ないし、元の姿で紹介したかったかったからな」
「そうだったのですね・・・確かに小型化したらだいぶ印象は違いそうですね」
「ではルーファの獣舎もここにあるの?」
「ある。しかしあまり使わないみたいだな。あまり見られたくないと言っていたな」
「あのー、騎士団のグリフォン隊の方は行きますか?」
「スタン!騎士団のグリフォン隊?!会いたい!!」
「あはは!お嬢の返事は気持ちいいな」
「ふむ。ではそちらも紹介しておこう」
ファンタジー的な生き物のオンパレードだよ!!すごい楽しい!!