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40.小型通信鏡

「ランス?聞こえる?」

「は、はい!!聞こえます。アリステア様」


「映像も小さいけどちゃんと見えるね!ランスの方も問題なさそう?」

「はい!とても・・・きれいです」

「ほんと、こんな小さいのにきれいな画質!あ、鏡だから画質って言わないのかな?でもはっきり見える」

「はっきりと見えすぎて・・・その、緊張します」

「それは慣れてもらうしかないかなぁ・・・せっかく作ってくれたんだもの。たくさん話したいわ!」


「うれ、しいです。私もアリステア様と話したいがしたいです」

「よかった。これからよろしくね、ランス」



真っ赤になって頷くランスの姿がペンダント型の小さな鏡に映されている。


この小型通信鏡は、今日、注文してた印と保温保冷カップのデザイン画と共にランスが持ってきてくれたのものだ。




「では、印はこちらの3種のデザインで作成いたします。保温保冷カップは通常のティーカップではなく、アリステア様が発案された『マグカップ』スタイルでお作りいたします。色は紺色で、銀のラインが入ったデザインですね・・・こちらの保温保冷カップをアリステア様用にもお作りいたしますか?」

「そうね!同じマグカップスタイルで作ってくれる?デザインは同じくシンプルで色は緑色と金のラインで」

「・・・承知いたしました」


「あ、もしランスも気に入ってくれたら、ランスの分も作ってね。費用はちゃんと3つ分渡すわ」

「費用は不要です!すでに試作品用の予算は十分にいただいていますので。それより・・・ぼ、僕じゃなかった、私の分も作っていいのですか?」

「もちろんよ。と言うか、作っているのはランスだから欲しければ自由に作っていいからね」

「作りません!ぼ・・・私はそんな無作法な人ではありません!!」


半泣きで訴えられておどろく。

・・・もう青年姿なのに可愛いとは・・・さすがランス。

一人称を僕から私に直そうとしているのも、なんか可愛いし。


しかし、そんな変なこと言ったのかな私?もしかして、考えたのが私だから、著作権的な・・・この場合は商標登録かな?とかで作れないのかな?


「えっと、ごめんさない?どうして無作法になるのかわからないのだけど」


「あ、失礼いたしました!アリステア様に誤解されたくなくてつい・・・小型通信鏡と保温保冷カップは国の魔法工具ギルドに登録のない新商品になりますので、商品が完成しましたら商品登録を行う予定です。魔法工具ギルドに登録された商品は、発案者の許可がなく作って販売することはできません。作成して個人利用するまでは一応許容されますが、販売する場合は、利益の一部を発案者へ支払う必要があります」


ほぉほぉ。やっぱり商標登録みたいなものか。

っていうか、ギルド?!来た来た!!ファンタジー的なやつ!


「魔法工具ギルドというのはどんなところですか?」


「魔法工具を管理するところです。流通を調整し、価格の基準を定めます。また、不正に商品が作れていないかなどの取り締まりも行います。工房同士の問題や、商品のクレーム対応も行っています」


ゲームや小説にであるあるの冒険者ギルドや商業ギルドみたいなものだね。

ギルドと仲良くしておくことは、生き残りで大事な生命線になるのが定番あるあるだよね!



「魔法工具ギルド・・・冒険者ギルドとか商業ギルドとか行ってみたいな」

「冒険者ギルドは私では難しいですが、商業ギルドはご案内できます。奥様や旦那様から許可をいただけたらの話ですが」


「え?!あるの?!冒険者ギルドと商業ギルド!!」

「あります。魔法工具ギルドは商業ギルドに属しています。他にも魔法具ギルド、魔装具ギルド、魔法薬ギルドなど、扱う商品によって担当のギルドがあって、それらのギルドを統率しているのが商業ギルドです。冒険者ギルドは、市や町単位でギルドが存在していて、国の冒険者ギルドが統率しています」


わぁ!!!ファンタジー!!やっぱりあるんだ!

まだこの世界のことほとんど知らないし、公爵家の令嬢ポジションだと聞く切っ掛けのない話もあるのよね~。

冒険者いるんだぁ~話してみたいなぁ。冒険者の話って聞けないと思ってたから、平民のランスからの情報はやっぱり貴重だね。



「お父さまとお母さまに聞いてみるね!そうしたら是非一緒に行きましょう!!」

「は、はい。ご一緒できたら嬉しいです。でも・・・そうですね・・・おそらくすぐには難しいかと思います。冒険者ギルドと商業ギルドも出入りするほとんどが平民ですし、粗暴な人もいないわけではないので・・・おそらく魔素が安定する10歳以上か13歳以上にならないと許可は出ないと思います」

「護衛がいても?」

「・・・そうですね。護衛がいたとしても、あまり教育上良い環境とは思えないので・・・」


ランスが言いにくそうに難しさを伝えてくれるが、中身30歳オーバーの私には問題ないと思う。

問題は、外からみたら6歳の公爵令嬢なのよね。

お父さまやお母さまをなんとか説得しなきゃね。時間はかかるかもしれないけど。



「はぁ・・・やっぱりもっとランスと話す機会が多いといいなぁ。話しやすいし」

「ぼ、私と話やすいですか?」

「ええ!なんて言ったらいいのかな・・・私の味方って感じで安心できるの」

「味方ですか?アリステア様の敵になるような人が居るとは思えませんが・・・私は何があってもアリステア様の味方です」

「ありがとう」


どうしても没落や国外追放とか、のんびり暮らす計画の妨害になるような人たちとのコミュニケーションは緊張してしまうのだ。

王族や貴族は大人でも子供でも気が抜けない。

つい裏になにかあるんじゃないかとか、将来なにかにつながるんじゃないかとか考えてしまう。


その点、平民かつ、見た目も整った顔立ちではあるけど、人外レベルの家族や王族、公爵家たちに比べれば目立った特徴のない部類のランスは緊張から解放される相手だ。

もちらん、珍しいクラウン級の魔素保有者ではあるけど、それ以外がこの世界では普通なのだ。


平民で気をつけなくちゃいけないのは、むしろヒロイン。

ヒロインはチート能力と見た目に特徴がありがちで、平民からの下克上スタイルが多い気がする。


その点ランスは男の子で、能力は高いけど聖女みたいな特別なものではないし、色も平民に多い茶色と琥珀色。

同じような転生者ってわけでもなさそうだしね。

想定外に専属契約してしまったけれど、それも今思えば、他から邪魔されない関係という意味では安心材料の一つだ。

年齢の近い平民なんて、公爵令嬢の私のポジションからしたらとても貴重な人材だし、情報源だ。



「あの・・・もしよろしければ・・・こちらを試していただけますでしょうか・・・」


もじもじしながら渡されたのは、『前の世界』の写真を入れられるロケット型のペンダントがついたネックレスだった。


「これは?」

「まえに通信鏡の小型ものが欲しいとおっしゃっていたので、作ってみました。まだ、試作品なのですが」


「え?!前に少し話した小型通信鏡?!これが?!」


ペンダント部分は3㎝ほどで、小さな懐中時計のような見た目だ。


「上部についている丸い黄色の石を押してみてください。それで蓋が開きます」


言われた通りに石を押すと、パカっと開き、小さな鏡が見えた。


「これが通信鏡・・・どうやって使うの?」


「試しに通信してみましょう」

「ええ!」


「まず、私から連絡しますね」

そう言って、ランスはポケットから私にくれたものと同じ通信鏡のついたネックレスを取り出した。


「丸い石の下に回るダイヤルがあるのが分かりますか?」

「ええ、左右に回すことができるダイヤルね」

「これを回すと、数字が変わります。1から7までの数字があります。数字ごとに連絡先の通信鏡を登録できます。今は連絡先として登録しているのは僕の持っている通信鏡のみです。1番が私の通信鏡につながる番号です。私の通信鏡の1番はアリステア様の持つ通信鏡なので、ダイヤルを1番にして、上部の石を2回押します。すると・・・」


「あ!石が点滅した」

「はい。この点滅が連絡を受けている合図です。連絡を受け取るには、石を2回押してください」


カチカチ・・・


「すごい!映像が見えた!」


「これで通信ができる状態です。通信の状態は、通信相手同士の物理的な距離が近いほど安定します。どこまで離れると通信が途切れるかは試していませんが、半径20キロほどは問題なく通信できます。あと、通信魔法を妨害する結界があると連絡はできません。通信鏡は多くの場所で使用されるので、通信鏡を妨害する結界は数ないと思いますが、ゼロではないので」


・・・それなら王城でも使えそうな気がする。保護魔法ではないから無理かな・・・


「王城でも使えるかな?」

「え?!お、お城ですか?難しいと思います・・・通信機器なので・・・たしか王城の通信鏡は結界に特別に登録をしていると聞いたことがあります」

「そっかぁ」


「お城から連絡をする可能性があるのですか?」

「うん・・・わからないけど・・・」

「そうですか・・・どこまで可能かわかりませんが、調べてみますね」

「ありがとう!!」


一番警戒すべき王城対策として、将来のためにいろんな手段を手に持っていたいのよね。



「この至近距離だと、やはり音声の具合が分かりませんね・・・」

「それなら、今日夜に連絡して試してみましょ!」


「え?!夜にアリステア様と連絡ですか?!」

「ええ。距離もあるし、ウチの結界を挟んでの通信も問題ないか確認できるでしょ?というか、もともとランスとお話したくて欲しいと思ったのだもの」

「そ、そうです・・・よね。やっぱり、僕の妄想じゃなかったんだ・・・」


「妄想?」

「いえ、なんでもありません・・・では、アリステア様の都合の良い時に連絡をください。私は何時でも構いません」

「でもそれだとお風呂に入っていたり、食事をしている時には気づけないのじゃない?着信履歴がわかればいいのだけど。あと光るだけだと気づけないかもしれないから、振動してくれたら気づきやすいかも」


ケイタイに履歴やバイブレーション機能は必須だもんね。


「履歴と振動ですか・・・まだ機能としてつけていませんが、できると思います。改良版ではつけてみます。防水の魔法は組んでいるので、お風呂でも身に着けて連絡をうけられます」


「・・・それだと、裸のランスとお話することになってしまいますが・・・」

「っ!!!裸の状態では出ませんのでご安心ください!僕は帰ったらすぐにお風呂に入りますので、夜はいつでも受けられるようにします!!」


「そう?それならゆっくり話せるように私も用事を済ませた後に連絡しますね。遅くなってしまうかもしれないけど」

「いつでもかまいません。待っています。ずっと」


この小型通信鏡がいい感じに使えたら、ランスとの会話がいつでもできるようになるのは嬉しい。

お互いに用事があるから昼間は難しくても、夜ならいろんな相談とかしやすそう。


「でも・・・これが試作品なんてすごいね。彫刻もされているし、履歴と振動機能は欲しいけど、これこのまま欲しいな・・・」


「それはダメです。一応デザインは施していますが、アリステア様が日常に使用されるのにふさわしくありません。素材も一級品のものでそろえる必要があります。他の人が使えないようにする必要もありますのでそちらをお渡しするわけにはいきません。あくまで、試作品として使用感を試していただき、改良点を確認するためです。印と保温保温冷カップの納品の際に返していただきます!」


魔法工具に関することだからか、職人としての圧を感じる。

職人として、中途半端なものは世に出せないのね・・・かっこいいではないか。



「そっかぁ。じゃあ完成品を楽しみにしてる」





そして、今、夕食と入浴を済ませ、ランスへ通信をしている。


「すごくいい感じだね。履歴と振動機能をつけると、いつ頃完成できそう?」

「そうですね・・・アリステア様の御髪は今日いただいていますので、専用魔石はすぐできますし、既存の機能を追加するだけなので、一番時間のかかるのは外装のデザインや装飾ですね・・・いくつかデザイン画はあるのですが」


「そっかぁ・・・デザイン画みたいけど、この鏡の大きさだと見えないし・・・」

「見えますよ。石を右回りに回してみてください」

「右に・・・えぇ?!」


ランスの姿が立体映像のように鏡から浮かび上がった。

大きさも3㎝から15㎝になっている。


「すごい・・・ランス・・・この機能すごすぎない?」

「拡大も立体映像化も珍しい機能ではありません。小型化は珍しいですが」


そんなものなのかな?

よくわからないけど、商品の進化って多機能化と小型化かと思ってたから、小型化が珍しいって言われるが不思議だ。

というか、立体映像化って『前の世界』ではまだそこまで一般化されてなかった気がする。

VRやARだって、専用機材が必要なのに。


「すごい・・・ランスは私が想像したものをなんでも作ってくれそう・・・」


「アリステア様の願いを叶えることが専属の役目・・・いえ、私の望みです。どこまで叶えられるかはわかりませんが、できることは全力を尽くします」

「ありがとう。頼りにしてる」

「っ・・・はい」


立体映像でも赤くなるランスは可愛い。



そのあとは、小型通信鏡のデザイン画を見たり考えたり。直接会わずに決めることができた。

やっぱり小型通信機便利だね!

でも、ランスにしたら、時間外労働なのでは・・・この世界のホワイトな時間感覚と仕事感覚が好きなのに私がブラックな環境を人に強要してはいけない。


「結局、お仕事の話になってしまってごめんね・・・」

「え?仕事・・・仕事と言えば仕事ですが私はあまりそんな感覚はありませんでした。すみません・・・」

「なんでランスが謝るの?私は楽しくて話をしてたけど・・・ランスは」

「私も!!・・・コホンっ・・・私も楽しかったので、仕事とは思っていません。むしろもっとお話がしたい・・・です」


なんで言いなおしたのかは謎だけど、嫌がっていないのは伝わってきた。


「それなら・・・また連絡してもいいかな?」

「はい!!いつでも」


「ではまたね。おやすみなさい、ランス」

「お、おやすみなさいませ・・・アリステア様」


通信を切ると、なんだか急に部屋が静かになってさびしい気がする。


ついつい『前の世界』の感覚で気軽に連絡してしまいそうだけど、ランスに嫌われたくはないから気を付けよう。

良い契約者でいたい。



――――コンコン


「アリステアお嬢様、ランス様との連絡はいかがでしたか?」

「ルーリー、リナ、いい感じだよ。これからも時々連絡できそう」


「それしにしても、こんな小型の通信鏡ははじめてみました。本当に腕が良いのですねランス様」

「私の専属ですもの!」


ちょっと自慢げに言うと、ルーリーとリナは可愛い笑顔を見せてくれた。

昼間に屋敷で話している時にもルーリーとリナは同じ部屋で控えていたので、話はきこえていただろうが、夜の通信なんてコソコソ実行すると後でどんな疑いがかかるかわからないので、しっかりルーリーとリナには伝えてある。

報連相大事!


「お話が楽しかったのは良いことですが、夜更かしはいけませんよ」

「ええ!もう寝るわ」



途中になっているサフィールさま用のハンカチの刺繍が気になるが、続きは明日にしよう。

今日は良い夢が見れそうだ。

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