39.精霊
「出て来てくれ、光の精霊シフォニー」
「わっ!まぶしい!!」
サフィールさまが精霊に呼びかけると、目を開けていられないほどの光が現れた。
「え?アリステア?どうしたの大丈夫?」
心配するレオナ兄さまの声に目を開けると、サフィールさまの側を1匹の蝶が舞っていた。
きれい・・・
光の小さな粒を纏いながら、サフィールさまの周囲をひらひらと飛んでいる。
「精霊って蝶の姿なんですね・・・きれい」
「え!!どこどこと?」
「レオナ兄さま、どこって・・・サフィールさまの周囲をひらひら飛んできますよね?」
「んん?見えないよ?・・・んー・・・よぉくみるとサフィールさまの周りがキラキラしているような?」
「驚きました・・・アリステア嬢には精霊士の素質があるようですね」
「サフィールさま、精霊士の素質って?」
「『精霊は姿を見せる人を選ぶ』ことをお伝えしましたが、まれに多くの精霊から見ることを許される体質を持った人がいます。その体質のことを『精霊の寵愛』と呼んでいます。『精霊の寵愛』をもつ人は、精霊と契約を結び、精霊の持つ力を使うことができる精霊士になることができるのです」
「そうなんだ・・・『精霊の寵愛』・・・」
・・・嬉しいけど、こういう特別な力っぽい体質があるのはヒロインか悪役にありがちだよね・・・できるだけ秘密にしておこう。
「我がトゥルクエル家は代々『精霊の寵愛』の体質を持っていますので、ほとんどが精霊士になります。ディルタニア家が魔獣士になるのと同じです」
・・・魔獣士っていう言葉は初めてきくけど、魔獣契約者のことよね。
「シフォニ―、レオナさまにも姿を見せてくれないか?」
「あ!!見えた?!きれいだ!キラキラの蝶々だ!!」
「レオナ様にも見えたようですね。願っても見えないことがありますが、相性が良さそうな光属性の精霊を選んでよかったです」
そっと手を伸ばすと、蝶が私の指先にとまった。
・・・不思議・・・光でできた蝶。
「・・・美しいです」
「サフィールさま?」
「いえ・・・シフォニーはアリステア嬢のことを気に入ったようです」
「この蝶々、シフォニーというのね」
「はい。契約を結ぶときに名前をつけるのです」
「光属性の精霊は蝶の姿をしているのですね」
「いえ、色んな姿を持つようです。光の玉のような姿もあれば、人型の姿もあります。名前を付けるときに姿のイメージが浮かぶのですが、そのイメージで姿が固定されるようです」
「契約者のイメージ・・・・シフォニーという名前も姿も、サフィールさまのイメージはとてもきれいで素敵ですね」
「っ・・・ありがとうございます」
サフィールさまは俯いているけど耳が赤いのが分かる。
自分のイメージと名前のセンスが形になるって、確かに照れるよね。
サフィールさまはセンスが良いいからいいけど・・・うっかり変なものをイメージしちゃったらずっとその姿なんだよね・・・怖いわぁ。
「レティシアも契約精霊がいるの?」
「わ、私はまだよ!悪かったわね!!」
「レオナ様、精霊と契約ができるのは10歳以上です」
「そうなんだ~、レティシアも精霊と契約したら僕に会わせてね!!レティシアのイメージが見てみたい。きっとレティシアみたいに可愛いんだろうな」
「契約しても見せないわよ!!か、可愛いとか!!レオナのバカ!!」
・・・レオナ兄さま・・・バカって言われて嬉しそうにニコニコしないでください。
レオナ兄さまって頭は悪くないはずなのに、レティシアさまのことになると、残念になるのよね・・・
「私も10歳になったら精霊と契約できるかな・・・」
「アリステア嬢ならできると思います。少ないですが、精霊士と魔獣士両方になった例もあります」
「どうやって契約するのですか?」
「まだお教えできません。10歳前にまちがって契約をすると成長に差しさわりがあると聞いていますので」
「そうなんですね・・・」
うーん・・・やっぱり何をするにも10歳以上なんだね。
体内の魔素が安定しない事には仕方がないか。
シフォニーはひらひらと飛んでサフィールの肩にとまる。
「シフォニーはサフィールさまのことが好きなのね」
「好き・・・かは分かりませんが、契約者とは相棒のような関係になります。精霊には私の体内の魔素を養分として与え、精霊からはその力をかります」
「シフォニーは見た目は可愛いけど、すごいのよ。人の魔法を強化することができるの。通常の威力の10倍の力を出せるわ」
「10倍?!そんなに・・・」
「もし同じ効果の魔法を使おうとすると、とてつもない量の魔素が必要になるし、その効果を付与した魔法具はすっごく高価なの。だから精霊はすごいのよ」
なんでレティシアさまが自慢げなんだろ。
えっと、つまり精霊の力は、人間の魔素を養分にして人間ではできないような力を発揮ということね。
人間とは違う理で何だろうな。
「そうだ!僕、レティシアにプレゼントがあるんだ。どうぞ!」
「わぁ・・・キレイ・・・あ、ありがとうございます」
あ、ルドリーのお店で注文していたリボンだ。
デザイン画通り、すごくキレイで可愛い感じ。
色はディルタニア家の金色とレオナ兄さまの瞳の青色。
レティシアさまのバラ色の赤い髪に結ぶと目を引くポイントになるだろうな。
レティシアさまとレオナ兄さまもテレテレで可愛いねぇ。なんか和むわぁ。
「・・・アリステア嬢にリボンを贈っても良いですか?」
「え?」
サフィールさま・・・私に気を使ってくださって言ってくれているのだろうけど、どうしよう・・・
お茶会じゃないけど、人から贈り物もらってもいいのかな?
ちらりと控えているルーリーとリナの方を見ると、2人が頷くのが見えた。
う~ん。2人の反応から、もらっても大丈夫みたいね。
「えっと・・・いただけるのでしたら、嬉しいです?」
「ありがとうございます。必ず、贈らせていただきます」
サフィールさまのふわりとした微笑みに心臓が痛くなる。
「わ、私からもこれ!あげるわ!」
「レティシアが僕に?!わぁハンカチだ!!」
・・・・・イガイガした四足動物・・・この世界の動物かな?
「えっと・・・・・・・ライオンだね!」
「そうよ!見ればわかるでしょ」
・・・見てもわからなかった・・・がんばってもハリネズミにしか見えなかったけど・・・レオナ兄さま、愛の力ね。
「喜んでもらって良かったな、レティシア」
うーん・・・この場合、私もリボンをもらったら何かお返ししなきゃいけなくなるのかな・・・ハンカチ用意しておこうかな。
「サフィールさまはどの様なデザインがお好きですか?」
「好きなデザインですか?」
「はい。リボンを贈ってくださるのなら、私もハンカチをお返ししたいので、どんなデザインがお好きか教えていただきたいのです」
「アリステア嬢が自ら刺繍をしたハンカチを下さるのですか?私に?」
「はい。まだ練習中でつたない出来だと思いますが」
「アリステア嬢が刺繍してくださるのなら、私にとってこの上ない宝となります」
「あはは・・・頑張ります」
宝って・・・優しさが痛い・・・プレッシャーを感じるなぁ。
「そうですね・・・トゥルクエル家の家紋は鷲です。鷲のデザインであればどんな時でも身に着けられますので」
「鷲・・・ですか、頑張ります」
鷲ってめっちゃ難しそうなんですけど!!
うぐ・・・デフォルメしたシンプルデザインでも許されるかなぁ・・・
「アリステア嬢はどんなデザインがお好きですか?」
「そうですね・・・家紋のライオンは好きですが・・・うーん・・・あ、蝶も好きです!虫は苦手なんですけど、シフォニーみたいなきれいな蝶は好きです」
「シフォニーの様な蝶が・・・好き・・・そ、それは、嬉しいです」
サフィールさまが再び俯いて赤くなっている。
自分の相棒が好きっていわれたら嬉しいよね。
「アリステアさまって、積極的なんですね」
「どういう意味です?レティシアさま」
「精霊の姿は契約者が思い浮かべたイメージの姿ではあるのですが、名前と同じく頭にひらめく感じで思いつきます。その姿は多くの場合、契約者の心や精神を形にした姿と言われています。怖い人は怖い生き物に、優しい人なら優しい生き物や柔らかいイメージになるんです。その精霊の姿が好きだと言うのは、契約者の心や精神を好きだと言っているのと同じなんです」
なんですと?!
そんなのさっき言ってなかったですよね?!普通にセンスの問題かと思ってたよ!!
っていうか、レティシアさまはレオナ兄さま相手じゃなければスラスラ話すね!
今更否定するのも変だしどうしよ?!
心や精神が好ましいっていう位なら、友人的な好意って意味にもなるよね?!
「えっと・・・その、サフィールさまの・・・そのきれいな・・・騎士の様な?精神は素敵だと思います」
「っ・・・そのような言葉・・・光栄です」
ますます赤くなってしまった・・・どうしよう。
キレイな心意気ってかっこいいよね!って意味で言ってみたけど墓穴掘ったかんじ?!
武士道って通じなそうだから騎士道?みたいに言ったつもりなんだけど・・・うぅ・・・この世界の正解がみえないよぉ
「どうしよう・・・このままじゃ・・・ルドリーがいるのに・・・あ!アリステア!!誕生パーティーの準備で忙しいよね!!うん!忙しいはずだよね!部屋に戻った方がいい気がしてこない?ねぇアリステア?!」
「はっ!そうですね!そんな気がしてきました!サフィールさま、レティシアさま途中で申し訳ございませんが、ここで失礼いたしますね!」
レオナ兄さまナイスです!!
なんかまた勘違いしてそうだけど、今はこの場から脱出した方がいい気がする!
「?そうですか。お忙しいところお話できて嬉しかったです。アリステアさま」
「・・・・・・アリステアさま、再び会える時を楽しみにしています」
レティシアさまとサフィールさまに挨拶を済ませて足早に部屋へ戻る。
「アリステアお嬢様どうされたのです?」
「お腹でもいたいのですか?」
「えっと・・・疲れちゃって」
「お加減が悪くなれたのですね?!気づかず申し訳ありません」
「すぐにベッドと温かい飲み物の用意をいたしますね!!」
ルーリーとリナが私の後を追ってきてくれた。
心配をかけて申し訳なないけど、なんて説明したらいいかわからないから、このまま今日は休ませてもうらおう・・・
具合は悪くないけど、疲れたのは本当だし。
・・・いい塩梅の人間関係を築くのって難しいね。




