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38.レティシアとサフィール

「アリステアお嬢様は、刺繍の才能がありますね!!」

「リナの言う通りです。デザインは独創的ですが、とても美しいです。練習を重ねれば、刺繍の名手になられますよ」



ルーリーとリナに褒められて嬉しい。

ルーリーとリナに教えてもらったことと『前の私』の知識に差がないことを確認できたので、あとは黙々と作業をする。


刺繍をはじて3日になるが、なんと『アリステア』は刺繍の才能を持っていたようだ。

刺繍の才能というより、手先が器用だった。


人格最悪なのに、手先が器用で刺繍が得意だったとは。

でも、性格的にはジッと作業を続けるのが出来ないだろうから、『アリステア』のままだったら気が付かない才能だっただろうな・・・。



独創的と言われたデザインは、『前の私』の知識だ。

美術館や博物館に時々行っていたし、色んなデザインを見るのが好きだったので、頭の中に色んな時代のデザインがある。

特に、今活躍中なのは、日本の小紋柄だ。


シンプルな模様の組み合わせだけど、洗練された感じに仕上がる。

刺繍の練習にもってこいのデザインだ。



「不思議ですね~。四角の組み合わせをつなげるとこんなデザインになるんですね」

「これは市松模様なの。こうやってハンカチの縁をぐるっと囲むと・・・こんな感じに!」

「植物のツタ模様にも似ていますね」

「ツタはね~こういうツタ唐草っていうのもあるんだよ」

「すごいですね!初めて見ました。名前もついているのですね」

「な、名前は・・・イメージでつけてみたの」


あぶない、あぶない。楽しくてつい色々しゃべり過ぎた。

『アリステア』から人格が変わった理由は、ごまかせているけど、知らないはずの知識を持っていたら怪しまれてしまう。




―――――コンコン



「アリステアいる?」

「レオナ兄さま?」


「わぁ!刺繍の練習をしているんだね!面白いデザインだね。なんか・・・かっこいいね!」


・・・かっこいい・・・そういえば、あんまり女の子っぽいデザインではないか・・・


「練習でいっぱい作っているので、レオナ兄さまも1つどうぞ」

「いいの?やったぁ!・・・この三角がいっぱいのもらっていい?」

「はい。どうぞ」

「ありがとう」


今日もお兄さまはニコニコ天使様だ。



「ところでレオナ兄さまは何か用があったのですか?」

「あ、前にレティシアを家に招待するとき紹介するって言ったの覚えてる?」

「はい、お茶会の時にも会いましたが、お話はできなかったのでちゃんと挨拶したいと思っていました」


トゥルクエル家のレティシアさまは、レオナ兄さまの婚約者。

今後家族になるなら、どんな人なのか知っておく必要があるし、仲良くしておいて損はないでだろう。


レティシアさま自身の危険度は低そうだけど、うっかり何かの犯罪組織に利用されたりしそう。

その影響でお家没落ルートなんかに巻き込まれたら、私ののんびり暮らす計画がつぶれてしまう。


それは困る。危なそうなときは、なんとか回避できるようにアドバイスとかできたらいいけど。



「明日来るから」

「そう、明日ですか・・・・明日?!」



「やっぱり聞いてなかったんだ」

「アリステアお嬢様は朝が弱いから・・・」

「先週の朝食の際に奥様とレオナ坊ちゃまが話していらっしゃいましたよ」


ルーリーとリナが覚えていると言うことは、私が聞き逃したのね・・・


うぐっ・・・いつも朝食ってぼんやりしている間に食べ終わっているのよね・・・


「さっきお母さまに会って、念のためにアリステアにもう一度話しておきなさいって言われたんだ」


「ありがとうございます。レオナ兄さま」

「来るのは、トゥルクエル公爵夫人と、レティシアあとサフィールさまがくるって」

「サフィールさまも?」

「うん。お茶会の時にちゃんとお話できなかったから、お話したいんだって」


そう言えば、私はサフィールさまと挨拶できたけど、レオナ兄さまとサフィールさまはちゃんと挨拶してなかったね。

というか、婚約を決めた時に挨拶してなかったのかな?


「レオナ兄さまとレティシアさまってどうやって婚約したんですか?」

「それは明日教えてあげるよ~」


・・・・・・惚気話か・・・どうしよ、一気に興味がなくなっちゃた。


「アリステア?そんな悲しそうな顔しないで!僕も話したいんだけど、お母さまが、『婚約の経緯の話をアリステアが聞きたがっても、明日にしなさい。・・・レオナは話に夢中になるでしょ』って言ってたの。だから話ちゃいけないんだ」


話長くなるんだろうな・・・お母さまは何でもお見通しということか。


「じゃ、ハンカチありがとね!また明日」

「うん。おやすみなさい。レオナ兄さま」




============




「この度はご招待いただきありがとうございます」

「よく来てくださいました、ステンシー公爵夫人、サフィール様、レティシア様」



お茶会の時のドレスよりも装飾は控えめだが、それでも豪快な装いのトゥルクエル家。

たぶん赤やピンク色が目を引くので、きっとどんな服でも存在感は強めになりそうだ。


こちらはお母さまと、レオナ兄さま、私の3人。

服装は家の色のキラキラ服だが、やはりお茶会よりも控えめで、ゆったりした感じの服。



「レティシア様とレオナが婚約して約1年。幼い子ども同士なので成人までは大人同伴で定期的にお互いの家を招待し合うという約束ですものね」

「こうでもしなければ、お互い会えないなんて本当に面倒な立場ね」

「ふふっ・・・学生の時とは同じようには行かないわ」


・・・ステンシー夫人とお母さま、お茶会の時とは違って、だいぶ砕けた感じだ。

学生の時ってことは、学園で一緒に過ごした友人ってところかな。



紅茶を飲みながら、お母さまとステンシー夫人の会話に聞き耳を立てていると、2人の仲の良さが伝わってくる。


公爵家同士は基本、お互いに不干渉がルール。

家に招待するって聞いた時は、どういう裏があるかと思ったけど、レティシアさまとレオナ兄さまの婚約を理由に会う約束をしてたのね。


ステンシー夫人はお母さまと仲が良いなら、信用できる人かも。

困ったときに助けてもらえるかも。


何かの強制力とかで国外追放や、没落が避けられなかった時には、自分の家以外の助けがあると生存確率が上がりそう。


「お母さま、レティシア達と庭に行ってもいいですか?」

「いいわよ。もともと子供たちは庭で遊べるように用意していたの。いいかしらステンシー」

「もちろんよ」

「クリーク、ルーリーとリナ。そしてスタン、皆をよろしくね」


「「「「承知いたしました」」」」




============




「どう?ディルタニア家の庭もきれいでしょ!!」

「わぁ!・・・んんっ、まぁまぁね」


・・・レティシアさま、今日もツンデレ頑張ってるね。

別に普通に喜んだりしてもいいだろうに。


ウチの庭は王城の庭よりは狭い・・・のかな?

王城もウチの庭も端が見えないから比べようがない。

庭の手入れだって、行き届いている。

まぁ・・・迷路はないけど。


今は春にあたる光の季節と夏の火の季節の間の季節だから、色とりどりの花が咲き誇っている。



「美しい庭ですね。アリステア嬢」

「サフィールさま、ええ。庭師達が頑張ってくれていますから」


いつの間にかサフィールさまが隣に立っていた。


・・・・身長・・・すっごい伸びてる。

ランスほどではないけど、10㎝は伸びてるんじゃないかな・・・成長期慣れないなぁ。


「・・・その、そんなに見つめられると・・・」

「あ、すみません。前にお会いした時よりも身長が高くなっていらっしゃっていたので、つい」

「ああ、そうですね12㎝ほど伸びました。早く大きくなりたいです」


落ち着いた雰囲気のサフィールさまでも、子どもらしく大きくなりたいとか思うんだ。


「はやく大きくなりたいのですか?」

「ええ。守りたいものが・・・できたので」

「守りたい・・・もの、ですか?」


じっと見つめられて、ドキッとする。

身長が伸びたのに合わせて、顔つきも少年から青年に近づいて、雰囲気が変わっている。


「・・・今はまだ秘密ですが、いつかお教えいたします」


顔が良いので、子どもでも素敵なのに、大人になったら魅力が爆発しそう。



「アリステア~、サフィールさま!こちらにお茶を用意していますのできてくださ~い」

「レオナ兄さま、わかりました」


大きな樹の下にセッティングされたテーブルから、レオナ兄さまが元気よくこちらに向かって手を振っている。

手を振り返しながら歩き出すと、スッと手が伸びてきた。


「エスコートさせていただいても?」

「あ、はい」


・・・スマートなお誘いに、素直に頷いてしまう。

手を重ねると、ふわっとした優しい笑顔をむけられて、またドキッとする。

イケメンは心臓に悪いね。




テーブルに着くと、レオナ兄さまがさっそく婚約に至った経緯を話し始めた。


「僕とレティシアがはじめて会ったのは、去年の僕の誕生パーティーなんだ。」


・・・レオナ兄さまの誕生パーティー?『アリステア』の記憶にはないわね・・・


「あ、アリステアは・・・今と違っていたから、パーティーには参加してなかったんだ」


なるほどね。自分が主役じゃないパーティーには興味なさそうだもんね『アリステア』は。



「王族のお茶会もずっとなかったから、僕たちははじめて会って・・・僕、レティシアに一目惚れしたんだ!」


ちらりとレティシアさまをみると、真っ赤になってプルプル震えている。

可愛いけど、なんかかわいそう。レオナ兄さまがなんかすみません。


「僕の誕生月は闇の季節だから室内で行われたんだ。室内の装飾はライトでキラキラしてたけど、闇の季節はお花が咲かないからさびしかったんだ。そうしたら、バラ色の髪、黄色の瞳のお花の妖精みたいなレティシアがパーティー会場に入ってきて・・・すごくキレイだったんだぁ。それから・・・」


レオナ兄さまがレティシアさまとの馴れ初めを話し続けている・・・

レティシアさま・・・赤くなりすぎて、湯気出てる・・・頑張って。


というか・・・レオナ兄さま、闇の季節生まれなんだ。


・・・・あれ?私とレオナ兄さま1歳違いのはずだけど・・・1年たたずして私生まれている。

10ヶ月もたってないけど、これも『成長期』みたいな『前の私』との常識が違うのかも・・・


「・・・コホン・・・アリステア嬢、約束していた精霊の件だが、まだ興味を持っていますか?」

「あ、はい!とても興味があります。是非会わせてください」


きっと、レティシアさまとレオナ兄さまの状態を見かねたのね。


「精霊?」

「そうなんです、レオナ兄さま。サフィールさまが約束してくださったんです」

「でも精霊って、契約者以外には見えないんじゃないの?」


「いいえ、レオナ様、見えないのではなく、見せないのです。精霊は人を選びます。我々トゥルクエル家は代々精霊と懇意にしているので、我が家の者は全員精霊を見ることができます」

「では、今サフィールさまが会わせてくれたとしても、私達には見れないのですか?」

「いえ、精霊に姿が見えるように願えばいいのです。普段は精霊の意思に任せているので、我々もそんな願いは普段はしませんが・・・アリステア嬢の願いはできるだ叶えたいので」


うぐっ・・・サフィールさまの笑顔がまた心臓に刺さる。

なんか気軽にお願いしちゃいけなかったぽい。ごめんなさい。知らなかったんです。ファンタジーな精霊にテンションが上がってたんです。



・・・?なんかレティシアさまがサフィールさまの笑顔を見て固まってる。

妹でも心臓に悪いのかな。このイケメン笑顔。



「え?うそ、だ、ダメだよ!アリステアはルドリーがいるから」

「ルドリーとは誰です?」

「あ、そ、そうか、ないしょだった」


レオナ兄さま、なんでそんなに慌てて突然ルドリーの話?


「レオナ様、ルドリーとは誰です?」


サフィールさまもなぜか真顔でレオナ兄さまに詰め寄ってるし。


「えっと・・・アリステアの・・・その・・・お気に入りの洋服屋さんのお店の人で・・・」

「店員?レオナ様、どのような店員ですか?男性ですか?女性ですか?アリステア嬢とはどのような関係ですか?」


・・・・サフィールさま、顔怖い。


「サフィールお兄さま、おそらくターランナト店だと思います。リリアンがアリステアさまと会ったと言っていた店です。ルドリーは確か男の店員で、とても美しい人だと聞いています」


レティシアさまが普通に話しているの初めて聞いたかも。

ツンデレを発揮するのはレオナ兄さま相手だけなのね。



「美しい男の店員・・・アリステア嬢」

「は、はい」

「私は美しいですか?」


・・・サフィールさま、あんまり自分で聞かない方がいいですよ、その質問。


「あ、いえ、アリステア嬢は美しい人が好みなのでしょうか?」


イケメンとは言え、若干引いてしまったのが伝わったのか、サフィールさまは質問を変えてきた。

私が面食いだと思われたのだろうか。


「・・・えっと、美しい人は魅力的だとは思います」

「そうですか・・・」


サフィールさまがなんか落ち込んでいる。うーん・・・サフィールさまも十分美しいけど、ルドリーの美少女的な美しさとは違うんだよね。


「サフィールさまも美しいですよ。でもルドリーとは違う美しさというか・・・かっこいいと思います。頼れる感じといいますか・・・別の魅力です」

「かっこいい・・・別の魅力・・・それならまだ勝ち目はあるかもしれないな」


サフィールさまがなにやらブツブツ独り言を言って考えこんでいる。

貴族って美しさとか大事にしてそうだから、平民の店の美しい人が気になるのかも。



「サフィールお兄さま、アリステアさまと精霊を会わせるのでしょ・・・」

「あ、ああ。そうだった、では私と契約している精霊を紹介しましょう」



精霊に会える!!ファンタジー的な展開は大歓迎だ。楽しみ!

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