36.誕生月に向けて
すっかり忘れてました・・・
私、来月の誕生月で7歳になるんでした。
そう、婚約者を決めることができる年齢になるんです。
もちろん7歳になったからって、かならず婚約者を決めなければならないわけではないのだけど、危険な年齢になってしまう。
この世界は誕生日という認識はなく、『誕生月』で年齢をカウントするのだそうだ。
私の誕生月は火。季節で言うと、夏にあたる気温の高い暑い季節。
私の色である髪の金色と瞳に新緑の色から推測すると、相性の良い属性は光属性と木属性だが、生まれが火の季節なので火の属性とも相性が良いだろうと聞いた。
ついでに言うと、お父さまの銀色である闇属性や青色の水属性も・・・そうなると、もはやほとんどの属性と相性が良いのではないか?
と言うか、お茶会の時に感じたけれど、ディルタニア家だけ複数の属性の色を家の色として持っていることに違和感を感じた。
トゥルクエル家は赤やピンクの火属性、グレイシャー家は青色や水色の水属性系統であることが、見た目から一目瞭然だった。
その疑問を歴史の授業の合間の休憩時間でルーファに聞いてみた。
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「ディルタニア家が複数属性の色をもっている理由ですか?」
「ディルタニア家の色は金色の光属性、銀色の闇属性だと聞きましたが、私は金色の光属性と、緑の木属性ですよね?イデュール兄さまは銀色の闇属性と青色の水属性ですし・・・お茶会で他の家の人たちに会うまでは、色んな色と属性を持っていることが普通だと思ってたので不思議に思ったんです」
ルーファやユリウス、家にいるメイドや使用人のほとんども色に統一性はなく、むしろ複数の色と属性持ちばかりだ。
「そうですね・・・今回お茶会に参加された方々は直系だったので、統一されているように感じられたのでしょう」
「直系?私もですよね」
「その通りです。ただ、ディルタニア家はすこし考え方がちがう家なのです」
「考え方が違う?」
「休憩時間に歴史の授業になってしまいますが・・・まぁ、いいでしょう。王族の色は黒ですが、特化した属性を持たないことは覚えていますか?」
「はい。すべての力を統べるがごとく、特別特化した属性というものがない・・・ということですよね」
「そうです。そして、その王族に対抗するために、特化した属性を極めようと考えているのが公爵家です。なぜだかわかりますか?」
「1000年前のイガラム王が起こした侵略戦争・・・」
「はい。良く覚えていますね。今の三大公爵家は元は隣国の王族。イガラム王により支配された隣国の元王族達は、いつか復讐するために力をつける必要がありました。特化した属性の力を持たない王族に対抗する方法・・・それが特化した属性を持つことでした」
「でも、今ではほとんどの家同士が血のつながりがあるのよね?」
「はい。王族、公爵家、他の貴族や、平民落ちしたものも含めれば、広く混ざっていると言えます。しかし、公爵家の本家は同じ属性を持った人同士の婚姻を繰り返し、当主は家の属性を強く継承したものが選ばれます。公爵家でも、色を複数持った者は分家となり、本家の立場を失います。アリステアお嬢様の身近にもいますがわかりますか?」
「・・・あ、ユリウス?!」
「ユリウス・グレイシャーは、元は本家筋ですが色を複数持って生まれた為、能力は高くとも分家として・・・いえ、分家よりも格下のような扱いになっています」
・・・ユリウス・・・家のことで何かあるとは思っていたけど、そんな理由があったのね。
「詳細はわかりませんが、ディルタニア家以外の公爵2家は形ばかりになったその伝統を今でも守っているのです」
「それって・・・王族からしたら復讐に備えられているみたいで嫌じゃないですか?」
「まぁ、面白くはないでしょうが、締め付けすぎて復讐の意思を強められるより、多少自由にさせて、むしろその血を取り込む方に注視したということでしょう」
「そっか・・・せっかく特化させた属性持ちの血筋なのに、王族と結婚して吸収されてしまうんですね」
「そうです。いくら特化した属性を持った公爵家の娘の子供でも、生まれてくる王子は特化した属性を持たない黒持ち。しかし、属性を扱うセンスは引き継がれるようで、今の王族は特化した属性を持ちませんが、すべての属性を自在に扱えるようになっています」
「抵抗するために属性を極めようとしたのに、王族に吸収されるなんて・・・皮肉ですね」
「・・・だから形ばかりの伝統なのです」
1000年前・・・確かにはじめて聞いた時はそんな昔の話って思ったけど、本当に形だけなのかな?
少なくともトゥルクエル家やグレイシャー家は引き継いでいる。
前の世界には秘密結社みたいなのが存在したみたいだし・・・いつか王族へ復讐・・・
・・・・・・お断りだよ!!!!
断固拒否!!
もちろん過去のことは・・・きっと私が知らないいろんなことがあったと思うけど、今は平和っぽいホワイト国になっているのに、それを壊してまで何が得られるというの?
王族に返り咲くとか?
私は1ミリも魅力を感じない!私はのんびり暮らしたいのだ。
やっぱり王族、トゥルクエル家、グレイシャー家は危険だね!!
「・・・ディルタニア家はその伝統はないから複数の色を持っているのね」
「そうですが・・・正確に言うと、伝統はありましたが徐々に薄れていきました。その名残として、特に力が強いと言われている属性の色、金色と銀色は継承され続けています」
「なるほど・・・」
ディルタニア家は自由恋愛ってお母さまはさらっと言っていたけど、こういう意味もあったんだね。
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「色・・・かぁ」
「アリステア様、この色味はお好みではありませんでしたか?」
「あ、いえ、ちょっと別のことを考えていました。この色味は好きです」
「それはよかったです。ではこのパターンもお誕生パーティーのドレス候補に含めてますね」
「ありがとう。ルドリー」
今日は授業を中止にして誕生日パーティーに備えて、ドレスや宝飾品関係の注文するため、ルドリーがいるお店の人たちに来てもらっていた。
お茶会用ドレスの納品の時には来れなかったルドリーも、今日は来ている。
「前回は来ることが叶わず、誠に申し訳ございませんでした」
「もう体調は大丈夫なのルドリー?」
「はい、アリステアお嬢様。魔素乱れによるものだそうです」
「魔素乱れ?」
「私は11歳なので成長期です。体内の魔素は安定したのですが、身体の成長の変化が安定する13歳までは発熱や痛みが全身に広がってしまうときがあるのです。病ではないので安静にしていればおさまります。今はもう落ち着いています」
ニコリっと笑う顔は、相変わらず美少女にしか見えないけど男の子なんだよね。
今も重いはずの大量の布を軽々と持っている。
ランスは2週間で急成長したけど、前回会った時と比べてルドリーの姿に変化はないように見える。
「アリステアお嬢様、次はこのデザインのドレスの試着をお願いします」
そう言ってルドリーが見せてくれたドレスは、今まで試着したリボンやレースがたくさん使われた可愛いデザインとは違うものだった。
刺繍と細かな宝石がちりばめられたデザインで、少し大人っぽい感じがした。
もちろん子供用なのでスカート部分がふんわりとしたデザインなのだが、精神年齢30越えの私には可愛いが全面に出ているものより好みだった。
「きれいですね・・・とても素敵です!」
「ありがとございます!!これは、僕がアリステアお嬢様に着ていただきたくてデザインしたんです」
袖を通してみると、生地も肌触りが良くて、とても気に入った。
「どうかしら?」
「とても・・・お似合いです。想像していた通りです」
「ありがとう!」
ルドリーは見た目美少女でも男の子なので、着替えや調整自体は別の店員さんがしてくれた。
鏡で自分の姿を見たが、まだ未完成とは言え、いい感じに仕上がりそうだ。
「僕の作った服を纏った姿は・・・格別だね」
「ルドリー?ごめんさい良く聞こえなかったのだけど・・・」
「僕の作った服を着ていただけて光栄です!」
ニコっと笑った顔はやっぱり可愛い。
美少年の笑顔・・・眼福です。ありがとうございます!
「誕生パーティー・・・このデザインがいいかも」
「ありがとうございます!ではこちらも候補とさせていただきますね」
婚約者を決めることができる年齢になるのは嫌だけど、綺麗なドレスを着てパーティーって『前の私』の生活ではなかったことだからなんか嬉しい。
豪華な生活がしたいわけじゃないけど、どうせ避けられないイベントなら、少しでも楽しもうっと。