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34.観劇

ふんふ~ん♪



――――ゴトゴトゴト・・・・・

――――ガタガタ・・・・・ゴトゴト・・・



「ご機嫌ね、アリステアちゃん」

「うん、楽しみ~。ふふ~ん」



お茶会のせいでお預けになっていた観劇にやっと行けるのだ。

『前の私』は劇団○季や、〇塚歌劇、バレエ、オペラなど色々行っていた。


こっちの世界の劇ってどんな感じなんだろう?

やっぱり魔法を盛り込んでいたりするのかな~

舞台装置とかも特殊だったりするのかなぁ~


劇場は旅する劇団ならシンプルにテントで演技と歌唱勝負スタイルもいいな~

でも今回は、建国神話を元にした定番の演目『光の乙女と闇の戦士』らしいから、きっと常設の劇場よね~


歴史の授業で知ったけど、この国って結構歴史長いから、建物からも歴史を感じられるかも。

ディルタニア家のお屋敷は何度か建て直しされているらしいけど、それでも石造りで300年くらいは経っているらしく、いい感じの古城感が出ていて好きなのよね。


馬車から見える建物は、どれも石造りか、木造・・・多分だけど、一般的な家は木造、お金持ちの大きな家は石造りって感じかな。

鉄筋コンクリートの建物はさすがにないわね。


・・・・ファンタジーっぽく、大きな木をくりぬいた感じの家とかあるかと思ったけど、さすがになさそう。

森とかに行けばあるのかな・・・


「アリステアお嬢様、本日の観覧席は特別席なので個室ではございますが、一般席から特別席が見えますので、マナーには十分お気をつけくださいませ」

「はい、カミラ夫人」


今日は一応、『その他教養』の授業の一環のため、講師であるカミラ夫人が同行してくれている。

馬車の車内には私、お母さま、カミラ夫人、専属メイドのルーリーの4人。

車外には、御者兼護衛の騎士のスタン、専属メイドのリナがいる。他にも『影』と言われる隠密護衛部隊がいるらしい。


朝食の時に『影』の存在を教えてもらえた時は、嬉しすぎてテンションが上がるのを抑えられなかった。




「今日の観劇の同行者はカミラ夫人と、ルーリーとリナ、それから護衛騎士の中からはスタンよ」

「護衛騎士?」

「アリステアちゃんは普段屋敷の中にいるから会ったことはなかったわね。ディルタニア家直属の騎士団よ。スタンは若いけど強くて多才で優秀なのよ」


おぉ!!騎士団!公爵家ならいるかもしれないとは思っていたこど、やっぱりいたのね!!


「ちなみにルドリーのいたお店に行った時も御者をしてたわよ」

「それは・・・気が付きませんでした」

「御者を兼任するときは騎士服ではないから分からなくて当然よ。騎士姿ではないけど、みんなちゃんと守ってくれるから安心していいわよ」

「みんな?ですか」


「『影』たちよ」

「か・・・『影』まさか・・・」

「ディルタニア家に仕える裏の護衛ね」

「裏の護衛!!それは暗部ってことよね!ママ!!」

「あら、暗部なんて良く知っていたわね。そうよ。戦闘、護衛、諜報活動をしてくれるなんでも屋さんよ」

「なんでも屋さん・・・」


だいぶ可愛い感じの表現だけど・・・すごい!直属の騎士団に暗部の『影』も存在していたなんて!!

権力とか全然興味ないけど、すでにあるものは堪能しても罰は当たらないわよね!

何も自分勝手に命令をするわけじゃなし!

そう!騎士団の訓練風景を拝んだり!暗部の仕事を見学・・・は無理でも直接お話聞かせてもらったりとか!それくらいなら権力の乱用にはならないわよね!『良い子』の範囲だと思うの!!



「・・・アリステアちゃん、強い人が好きなのかしら?」

「もちろんです!素敵ですよね!!日々の訓練で洗練された技の数々と磨き上げた身体、死線を潜り抜けることで磨かれる感覚・・・魅力的な存在だと思います。騎士団と暗部・・・」

「そう・・・将来、アリステアちゃんより強い人がいるといいのだけど・・・」

「ママ?今なんて・・・」

「うふふ。なんでもないのよ」



今思い出してもワクワクが止まらない♪



――――コンコン・・・・・



「奥様、劇場につきました」

「ありがとう、スタン」



「アリステアお嬢様、お手をどうぞ」

「ありがとうございます。スタン」


馬車から降りるのをエスコートしてくれたのは、御者の姿に扮したスタン。

オレンジ色の髪に、薄い赤色の瞳で、ニカっと笑う笑顔は太陽みたいだ。


成人してすぐにディルタニア家の騎士団に入団し、今は18歳。

幼いころから色んな仕事をしていたそうで、その豊富な経験を聞きつけたイディール兄さまとサラ姉さまにあれこれと色んなことを頼まれたことをこなしているうちに、気が付けば騎士団の中の何でも屋になってしまったそうだ。




「あなたが騎士のスタンね!!」

「は、はい。そうですが・・・アリステアお嬢様・・・あの、なんかすごい期待の籠った視線を感じるのですが・・・俺は何もできませんよ」

「何もできないって自分から言う人は大体、有能な人です!それにスタンのことをイディール兄さまとサラ姉さまが信頼していると聞きました!」

「うっ・・・それは信頼じゃなくて、都合のいい遣いっぱしりで・・・」


「スタンさん。お嬢様に対して言葉遣いが乱れているようですが?」

「そうよ!気軽に話しすぎ!!」

「お前らに言われたくないぞ、ルーリー、リナ」


「言葉遣いなんて気にしないで下さい!それよりも騎士団のお話を聞かせてください!!どんな生活ですか?鍛錬はどんな感じです?今度見学に行ってもいいですか?」

「なっ???アリステアお嬢様ってこんな感じだったか?前回会った時とは違う気が・・・」

「すみません!前回はスタンが騎士とは知らなかったんです!!色々教えてください!!・・・」



・・・っという感じで、出発前の短い時間だったけれど色々話を聞かせてもらえた。

ちょっと前のめり気味で話してしまったけれど、徐々に慣れてくれたのか、スタンは明るく相手をしてくれた。

鍛錬の見学はもう少し大きくなってからと断られてしまったが、また話をしてくれるそうなので、素敵な情報源をゲットできた。

ちなみに『影』と直接会うこともまだ早いと言われてしまった。



「では、お気をつけて」


スタンが馬車で待機なのは残念。

劇場の中へ進みながら振り返ると、スタンがウィンクした。


え。イケメンなんですけど。

人外の神がかったお父様やイデュール兄さまとはまた違った魅力の男性ですね。モテそう。




劇場は、期待通りの年季の入った石造りで、豪華かな装飾品で飾られたきらびやかな空間だった。

随所に装飾されている黄金や宝石の輝きをさらに増すように、あちこちにライトがある。

確か電気じゃなくて、光魔法を組み込んだ魔法工具だったはず。


昔どこかの貴族が使っていた城を改装して劇場にしたらしい。


随分、儲かっていた貴族のようね・・・劇場だから今は違和感はないけど、人が住むにはちょっとゴテゴテした感じが・・・




案内された観覧席は2階の個室。


ふかふかのソファーに軽食とお茶が用意されていた。

・・・映画でみたことあるVIP席だ・・・すごい。



席に座ると、舞台が良く見えた。

でも、1階の観客席から、このVIP席も丸見えだ。


VIP席っていかがわしい取引や、密会に使われるものだと思ってたけど、ここのVIP席はそれは無理そう。

確かにマナーの授業向きだね・・・


ちなみに本当はマナーの授業なので、ミカム夫人が同行講師になるはずだったのだが、観劇ならその道のプロのカミラ夫人が適任なのだそうだ。


カミラ夫人はダンスが得意なだけでなく、舞台女優としての一面もある。

貴族の身分であるカミラ夫人が女優として活動することは、下品であるとされたのだが、圧倒的な演技力と歌唱力、美貌で反対勢力をねじ伏せたのだと言う。その援助をしたのは、もちろんカミラ夫人の夫となったサダラカム侯爵なのだそうだ。


1階の観覧席が、開演前なのにこちらをみてざわざわしているのは、きっとカミラ夫人がいるからなんだろうな・・・


「うふふ・・・」

「きゃぁぁぁ!!」


あ、カミラ夫人が手を振ったら下から歓声が・・・これがファンサービス。すごい。



劇は・・・素晴らしかった・・・


ストーリーは勧善懲悪のわかりすやすいものだった。


美しい光の乙女が闇に戦士と出会い、愛を育んでいるところに闇の化身であるブラックドラゴンが突如現れ、光の乙女が攫われてしまう。

闇の戦士は、多くの妖精や魔獣たちと契約を交わして戦力を集め、ブラックドラゴンの討伐に成功する。

救い出した光の乙女と闇の戦士は愛を確かめ合い、幸せに暮らしましたとさ・・・


魔法の照明や、舞台演出は幻想的だし、音響もいい感じ

光の乙女役の人の清らかで透き通るような声はうっとりする。

闇の戦士の殺陣もかっこよかったぁ~

ブラックドラゴンはさすがに映像だったけど、立体映像で迫力があった。


「いかがでしたか?アリステアお嬢様」

「とても素晴らしかったです!!特に光の乙女役の人はさすがヒロインを務めるだけあって、存在感がありました」

「まぁ、うれしいわ。シンディも喜ぶわ」

「光の乙女役はシンディさんと言うのね」

「ええ。娘ですわ」


言われてみれば、髪色と、瞳の色が違うが、顔の作りはカミラ夫人と瓜二つだ。

カミラ夫人が若く見えるのか・・・シンディさんが大人っぽくみえるのか・・・並んでいると姉妹にしか見えなさそう。



観劇を無事に終えて屋敷に戻ると、魔法工具工房のグリームとランスが到着していると報告を受けた。


封蠟と印を注文したいとお母さまに伝えると、観劇から戻ってすぐに注文できるように事前に手配をしてくれていた。



なんかランスに会うのが久しぶりな気がするなぁ。


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