32.お茶会の報告①
「お嬢様~、朝ですよ~、お目覚めください~」
「ん?ん~・・・・」
「昨夜はご夕食も召し上がらずに眠られたので、朝食はしっかり召し上がっていただきますよ」
「ねむ・・・」
「わわっ!布団にもぐりこまないでください~」
「あと少し・・・」
「すでに朝食のお時間ギリギリです」
昨日のお茶会では一日中緊張しっぱなし、迷路で走り回ったので体力は限界を超えていた。
屋敷に戻ると、夕食も食べずに眠ってしまった。
ルーリーとリナが朝に弱い私の支度をテキパキと進めてくれた。
――――パクパク・・・・・
――もぐもぐ・・・・・
緊張から解放されて、しっかり眠ったら食欲が爆発した。
今ならいくらでも食べれそう!
ウチの料理人達最高だわ~。美味しい~♪
「アリステアちゃん、今日のルーファの授業なんだけどお休みにしたわ」
「何かあるの、ママ?」
「昨日のお茶会で何があったのか、皆に話してくれるかしら?」
うっ・・・もう過ぎたことは考えたくなかったんだけどなぁ
「皆って」
「家族全員よ」
「え・・・パパや、イデュール兄さま、サラ姉さまも?」
「ええ。レオナもよ」
嫌な予感がする・・皆がしらなきゃいけないような事といえば・・・
「く、黒バラの事ですか?マルティネス殿下からの」
「それもあるけれど・・・ふふっ、そんな不安そうな顔をしないで。大丈夫よ。昨日のことと言うより、今後の対策を考えたいのよ」
今後の対策が必要な状況ではあるんですね・・・すっかり食欲はなくなってしまった。
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「さて、レオナとアリステア。疲れているのにすまないが、お茶会で起きたことを話してくれるかい?」
広間に家族全員で集まるのは、アリステアが『私』になってすぐの食事会ぶりだ。
席順は食事会の時と同じ。
1番奥にお父さま、その右手にお母さま、隣にレオナ兄さま、左手はイデュール兄さま、隣にサラ姉さま。
レオナ兄さまの隣が私の席。
久しぶりだけど、全員が揃うと圧巻ね・・・神々しいほどの美男美女。
「それじゃ、僕からお話するね!いい?アリステア」
「え、うん。お願いします。レオナ兄さま」
「えっとねー。お城に着いたら、お庭に案内されたよ。王妃さまが挨拶して、王子さまたちが挨拶して・・・皆順番に挨拶したよ」
「そうか。順番は?」
「王族、トゥルクエル家、グレイシャー家、ディルタニア家の順です」
「ふむ」
やっぱりこの世界でも順番は大事なんだろうか。
お父さまやイデュール兄さまの反応からして、想像通りというところだろうか。
家格が順番に反映されているとしたら、ディルタニア家は三大公爵の中では3番目。
・・・やっぱりお父さまやイデュール兄さまは家の順位を上げたいのかな・・・そうなると王子達との婚約を望んでいるのだろうか・・・
「そこは順当か・・・」
「ええ、あなた。1番か2番目ではなかったの。だから少し安心したわ」
「ママ、どうして3番目で安心したの?」
「スターシャ王妃の親族であるトゥルクエル家、王位継承者の婚約者がいるグレイシャー家、そしてディルタニア家。これが正常の順番。それ以外となると、王族は現状の順位を快く思っていないということになるわ。つまり、あのお茶会で王族の望む体制がどんなものなのか伝えられることになるわ。でも正常な順番なら、顔合わせ以外の政治的な意図はないということ意味よ。だから安心したの」
なるほど。そんなところにもへんな意図が潜んでいたのか・・・
でも、大事なことを確認しておかなきゃ。
「ディルタニア家は1番や2番目になることは・・・望んではいないのですか?」
「アリステアは・・・もっと地位を上げたいのか?」
「ちがいます!イデュール兄さま!!」
「我がディルタニア家は今更地位に興味はない。むしろこれ以上王族に近寄ることは避けたいと考えている。だが、王族は我らの姿勢を良くは思っていないようでな・・・だから行動には気を付けているのだ」
「そうでしたか。よ、良かったぁ」
最高だ!!
ウチは地位に執着しないタイプだった!!これは私ののんびり暮らし計画にとって最高の条件!
「アリステアちゃんたら、そんな安心した顔しちゃって。まさか私達が王子達の婚約者になってって言うと思っていたの?」
「うっ・・・はい」
「それはないから安心してちょうだい。我が家は自由恋愛主義よ。ねぇ、あなた」
「・・・・・・ごほんっ」
え、お父さまが赤くなっている。
これは両親の恋愛事情が特殊にちがいない。駆け落ち?それとも略奪愛・・・そこのところ詳しく・・・
「パパとママってどうやって・・・」
「僕もレティシアが大好きだよ!!」
・・・それは知ってる。
・・・あれ?ということは、サラ姉さまは隣国の王子さまが婚約者なのはどういうことだろ?
「サラ姉さまの婚約者は隣国の王子さまですよね?」
「私か?あいつは私が捕まえたんだ」
・・・婚約者のことを、狩りで仕留めた獲物みたいに・・・さすが戦女神さま
「・・・レオナつづきを」
もう少し色々聞きたかったが、今は報告の方が大事だよね。
正直、家族から婚約を強制されることがないことがわかったので、もう何も怖くない。
「うーんとね、王妃さまがアリステアに会えて嬉しいって言ってた」
「ほう・・・」
うぐっ・・・忘れてたのに・・・
「やはり王妃はアリステアに興味を持っていたか」
やはりってことは、どういう意味かは分からないけど、私に興味を持っているのは本当なんだ・・・嫌すぎる。
「あとね、ヨルムド殿下が突然出て来て、アリステアに飲み物を渡したの」
「飲んだのか?!」
「私がいるのに、そんなことはさせないわよ、あなた。ちゃんとお断りしたわ」
「そうか・・・そうだな」
・・・お父さまの反応からして、すごく危ない行為だったのね・・・一人のときに殿下にされなくてよかった・・・
「突然出てきた・・・とはなんだ?」
「それが、私にもわからなかったのよ・・・移動してきた気配はなかったわ。城の中では魔法と魔法道具は使用を制限されるはずでしょ、でも何をつかったのか痕跡をたどれなかったわ」
「結界のある城の中で気配なく移動できる力か。ヨルムド殿下はまだ10歳の洗礼式前・・・何かしらの能力が目覚めはじめたのか・・・覚えておこう」
お父さまでも、あの移動方法の原因は知らなかったのか・・・
「挨拶が終わったら、移動してお昼を食べたの。おいしかったよ!」
「そうか、よかったな」
「食べ終わったら、子供だけでバラ園に行ったんだ。でも途中でレティシアが転んじゃって、僕、アリステアのお兄ちゃんなのに離れてレティシアと一緒にお城に行っちゃったんだ・・・」
「こどもだけでバラ園だと?」
レオナ兄さまは私と離れてしまったことを思い出してしょんぼりしているが、お父さまはやはり子どもだけでバラ園に行くことになったのが気になったようだ。
「ええ。事前情報にはなかったわ・・・おそらく前日に急遽決めたんだと思うの。でなければ情報が間に合わないわけがないもの」
「そうだな。他の家も同じか?」
「ええ。反応は演技ではなさそうだったから、同じくお茶会で知った様子だったわ」
・・・事前情報ってお城に間者でもいるのかな・・・間者・・・公爵家の暗部とかいるのかな・・・す、すごく会いたい。
今度詳しく聞いてみよう!
「だとしたら、子どもだけのバラ園が狙いか・・・レオナはバラ園には行かなかったんだな?」
「うん。途中までは行ったんだけど、引き返したの。お城に入って、レティシアを手当して、休憩してからバラ園に戻ったら、サフィールさまとリリアンさまがいて、他の皆は迷路に入ったって聞いたの。皆が迷路から出てくるのを待っていたら、お母さまたちがバラ園に来たから、みんなで座れる場所に移動して待っていたら、みんな順番に迷路から出てきたんだよ。テオドールさまが一番だったんだ!」
「バラ園の迷路か・・・アリステア、バラ園で何があったのか詳しく話してくれ」
「はい・・・」
バラ園のことはあまり思い出したくないのだけど・・・
「レオナ兄さまと離れた後、バラ園の中央にお茶会スペースがありました。先に到着していた、王子さま2人とイーディスさま、テオドールさまがお茶をしていました。私が中央に着くと、リリアンさまとサフィールさまに声をかけられたので挨拶をしました。リリアンさまたちと話をしているとヨルムド殿下に指示されたイーディスさまが私をお茶を一緒にするようにと呼びに来ました。私だけ呼ばれたので、リリアンさま達と離れてお茶の席に着き、テオドールさまとイーディスさまに挨拶をしました。テオドールさまの隣に座ったので、テオドールさまと話をしていると、ヨルムド殿下が迷路に行こうと言い出して、皆で迷路に入ることになりました」
「ヨルムド殿下の提案か・・・」
「はい・・・ヨルムド殿下は迷路を1番先に出た者の願いを叶えると言い出して、競争をすることになりました・・・」
「アリステア?」
「・・・私は迷路の途中でマルティネス殿下に会いました。なんだか、その時のマルティネス殿下の雰囲気がちがっていました」
「マルティネス殿下の雰囲気が違う?」
「迷路に入る前までは人形みたいな感じだったのに、迷路の中ではすごく人間ぽい?感じでした」
「ふむ・・・迷路にいる間だけかい?」
「はい。迷路を出た時は、人形みたいな雰囲気に戻っていました」
「・・・ステラとレオナは何か気が付いたかい?」
「うーん?マルティネス殿下はずっと静かな感じだったよ」
「そうね・・・マルティネス殿下に変化はなかったわ・・・どういうことかしら?」
「その状態のマルティネス殿下はアリステアに何をしたんだ?」
「たしか・・・「僕が気になるか?」って質問してきたので、私は「不思議だって」答えました。そうしたらマルティネス殿下がバラの壁に咲いていたバラを一輪を手折って、私の髪に差しました・・・私はなんだかあんまり側にいたくなかったので、「失礼します」って行って、走って逃げました・・・」
「「・・・・・・・・・」」
皆の無言が怖い・・・
「マルティネス殿下が黒バラをお前にか・・・幸い、誰もいなかったのだな。それに「気になる」と返答していないのも救いだな」
「しかし、父上、誰も見ていないと言うことは、「気になると返答された」とマルティネス殿下が言い張る可能性もあるのでは?」
「イデュールの心配は最もだが、2人以外に目撃者がいないのだ。水掛け論になることは目に見えている。この状態で主張しても意味をなさない。おそらく、今回はあくまで意思表示・・・というところだろう・・・」
なんか話の方向的に私の一番恐れていた流れになっていないか?
「そ、それは・・・つまり」
「・・・黒バラが王族のみ取り扱うことができることは知っているな?」
「はい。ママに教えてもらいました・・・」
「王族以外の者は黒バラを身に着けるということは、『王族に属する』ことを意味する。端的に言えば・・・『男であれば王族に忠誠を誓う、女であれば婚約者となる』ということを受け入れたというこだ」
「わ、私そんな!!!」
「落ち着くのだ。だれもその場を見ていない。つまり、王族の誰がその花を贈ったのかわからないのであれば、意味は『王族の好意』にとどまる。見届けるべき大人が介入しない子供同士のやりとりは、ほぼ意味をなさない」
「そ、そうなんですね・・・」
「ただ、好意を贈られたのは確かだがな・・・」
「うぐっ・・・」
「でも、アリステアはテオドールさまからも茶葉をもらったんだよ!」
「どういう意味だアリステア?」
「迷路を一番最初に出たのがテオドールさまだったんです。一番に迷路を出た者の願いを叶えるとヨルムド殿下が言ったので、テオドールさまは紅茶の茶葉を願いました。その茶葉を私にくださったんです」
「・・・グレイシャー家のテオドールか。意外だな。だが、助かったな」
「はい・・・複数の人からの贈り物も受け取った場合、それは誰か1人の好意を優先するわけではないことを意味する、とママから聞きました」
「その通りだ。助かった・・・が、テオドールも好意を示した。それも皆のいる前で」
「・・・え?」
「ある意味、王族の黒バラよりも意味深い。最善の選択しではあったが、受け取ったのだろ?茶葉を」
「はい・・・」
「ふむ・・・今後も王族に対して引き続き注意を怠らないようにするのはもちろんだが、グレイシャー家の動きも注意しておく必要があるな。イデュール、サラ」
「「分かりました」」
「グレイシャー家はそこまで気にする必要はないだろうが、テオドール次第の部分もあるからな。お茶会で起きたことは以上か?」
「・・・はい」
「はい!」
「あとは大人で話をする。レオナとアリステアは部屋に戻りなさい」
「「はい」」
・・・ディルタニア家の自由恋愛方針は嬉しい情報だったけど、やっぱりお茶会でおきた色々は私にとってはろくでもない事だったね。
もうお茶会なんてなきゃいいのに・・・はやく知識をつけて、危機回避能力を上げよう!!




