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28.お茶会⑤

「アリステアは体調が悪いの?」


いつの間に?!

本当にこの王子なんなのよ!突然現れるのやめていただきたい!


「い、いいえ、緊張しているだけです。お兄さまが傍にいてくれるので問題ありません」


体調が悪いと勘違いされるわけにはいかない。


「アリステア、レオナから離れないように。休みたくなっても、できるだけ頑張って。王城のどこに連れて行かれるかわからないわ」

お母さまに耳打ちされた言葉を思います。


離されてなるものかと、レオナ兄さまの腕にしがみつく。



「そう・・・アリステアはお兄さんを頼りにしているんだ。いいな・・・」


ヨルムド殿下は独り言のように呟きながら、腕にしがみつく私を見た。


今のは何か答えなきゃだめかな?・・・いいなってどう意味?兄王子とのマルティネス殿下との関係のこと?それとも単純に頼られることに憧れがあるとか?

それによって回答変えた方がいいよね?


「はい!僕はアリステアのお兄さんですから」


私がグルグル悩んでいる間に、あっさりとレオナ兄さまが答えてしまう。


わお・・・意図的ではないだろうけど、すごくいい感じに答えてる。本当に頼りになるね!


「お兄さんだからか。それじゃあ代わりになれないね。僕もアリステアに頼りにされたかったなぁ」


ヨルムド殿下は意図をくめとばかりに私の目を見つめてくる。


ひぃ!!私の気のせいでなければ、「こちらに来い。頼るなら私にしろ」って伝えてきてるよ!!!


「うーん・・・殿下はアリステアのお兄さんではないので代わりにはなれないですね。でも、ヨルムド殿下には弟のアルフォナ殿下がいらっしゃるので、きっと頼りにされると思います」


ニコニコ・・・

レオナ兄さまの笑顔がまぶしい。

スルースキルが半端ない。


きっと単純に、ヨルムド殿下の言葉を本当に言葉通りに受け取って答えただけだろう。

でも、ヨルムド殿下の対応として効果的だったみたいだね。


ムッ・・・

ずっと笑顔だったヨルムド殿下の表情が変わった。


「そう。そうなるように頑張るよ」


明らかに不機嫌になったヨルムド殿下は、プイッっと私たちから離れて先頭の方へ戻って行った。


「あれ?ヨルムド殿下どうしたんだろ」

「気にすることないわ。レオナ兄さま、ありがとうございます」

「?よくわからないけど、アリステアが元気になったならいいや」


レオナ兄さまとヨルムド殿下のやりとりはとても参考になった。

深読みせずに、真意はあえて無視する。言葉通りに受け取ればよさそうだね!



案内されたバラ園の中央には、ベンチやテーブルがあり、お菓子やお茶の用意がされていた。


なるほど・・・こっちでは子ども同士のお茶会をってことね。



先に着いていた先頭組は、すでに別々の行動をしていた。


王子2人とグレイシャー家のイーディスさまとテオドールさまがテーブル席に座り、お茶の準備が進んでいるのが見えた。


トゥルクエル家のサフィールさまとリリアンさまはベンチに座り、レティシアさまは一人離れて立っていた。


私たちが中央に着くと、気が付いたレティシアさまがこちらに歩いてきて・・・転んだ。


――――ベチャッ


・・・何もないところで転んだね。

軽く躓くとかじゃなくて、しっかり全身でダイブする感じに・・・痛そう。


「だいじょ・・・」

「レティシア大丈夫?!」


声をかけようとしたが、レオナ兄さまの大声でかき消された。

周りで見ていたメイドや使用人たちも、突然転ぶとは思わなかったのか驚いている。


レオナ兄さまはエスコートしていた私の手を離して、レティシアさまのところへ駆け寄って助け起こしていた。

お兄さま、素早い。


私もレティシアさまの側へ小走りで近寄る。


お兄さまの手を取って立ち上がったレティシアさまは、顔を打ったのか、おでこと鼻が赤くなっていて、涙目だ。

そして羞恥心のせいか、全身がピンク色になっている。


「レティシア!大変だ!顔が赤くなっているよ。早く治療してもらわなきゃ!!」

「・・・だいじょうぶです・・・」


お兄さま、そんな大きな声で言わないであげてください・・・

レティシアさまの声がか細く、震えている。

たぶん痛みより、羞恥心の方が勝ってそう。


レオナ兄さまの大きな声を聞いて慌てたように、メイドや使用人たちが近寄ってきた。


「治療のため、城へお連れします」

メイドの一人がレティシアさまを抱えた。


「ぼ、僕も・・・あ・・・」


レオナ兄さまはレティシアさまのことが心配で付き添いたいのだろうが、私の存在を思い出したのか、オロオロしだした。


「レオナ兄さま、私はココにいるので大丈夫です。レティシアさまに付いていてあげてください」


自分の保身のために、2人を離すわけにはいかない。

さっきのヨルムド殿下とのやりとりで、生き抜く方法がなんとなくわかったし。


「ごめんね。アリステア」


「いいえ」


メイドに抱えられたレティシアさまと、レオナ兄さまは急ぎ来た道を戻って行った。




・・・・・・・さて、どうするか。

お兄さまたちを見送りながら、次の行動を考えていると、スカートの裾が引っ張られた。


何だろうと、視線を向けると、リリアンさまが私を見上げていた。



「精霊さま!おひさしぶりです」

「せ、精霊?」


あ、そうか。

ルドリーのお店で会った時に、そんなことを言われたね。

ちゃんと否定できてなかったから、リリアンさまの中で私は精霊になっているのか。


「えっと、リリアンさま。私は精霊では・・・」

「ディルタニア嬢のことだったのか。リリアンが服屋で会った精霊と言うのは」



精霊を否定しようとしたら、話を遮られた。

声のした方へ視線を向けると、トゥルクエル家のサフィールさまだった。


「たしかに、精霊のように美しいな」

「あ、ありがとうございます」


うっ・・・社交辞令とは言え、真顔で言われるとなんかすごく恥ずかしい。


と言うか、サフィールさまも、近くでみたら美男子だった。


サラサラの短髪の赤い髪、瞳の色はピンクで可愛い色なのに知的な印象を受ける。

顔のパーツは整っていて、全体的に明るい色味なのに、落ち着いた雰囲気を持っている。


小説や漫画では騎士ポジションで登場しそうな感じだ。

頼れるお兄さん感があふれてる・・・。



「リリアン。彼女は精霊ではない」

「そうなの?でも家にいる精霊さんたちみたいにキラキラしてるよ?」

「たしかに輝いて見えるが違う。リリアンはまだ魔素を読み取れないから区別がしにくいだろうが、彼女は確かに人間だ」

「そっかぁ」


サフィールさまが私が否定しきれていなかったことをしっかり訂正してくれた。

このままずっと精霊さまと呼ばれてはたまらないと思っていたから助かった。


「リリアンがすまない。私はサフィール・トルート=トゥルクエルだ。サフィールと呼んでくれ」

「サフィール様、とんでもございません。私の方こそ、ちゃんとお話できずに申し訳ございません。私はアリステア・ルーン=ディルタニアです。アリステアとお呼びください」

「いや、リリアンの相手をしてくれたのだろ。感謝する、アリステア嬢」


・・・すっっっごいまともな人だ!!!!

家族以外で今日はじめてちゃんと会話した気がするよ!


「リリアンのお家にね、精霊さんいっぱいいるの!」

「精霊が家にいるのですか?」


たしかトゥルクエル家とは精霊と関係が深いんだっけ?

ディルタニア家の屋敷では、精霊って見たことがないと思うんだけど、自然の中じゃなくてもいるのかな?


「普通の家にはいない。我が家には契約精霊がいる。ディルタニア家に契約魔獣がいるのと同じだと考えてくれ」

「家の中にいっぱいはいませんが、確かに居ますね」


お父さまの火竜や、イデュール兄さまのクリスタルドラゴン、サラ姉さまのペガサスは魔獣用の小屋があると聞いた。

ルーファの蛇の魔獣は何もないところから現れたり、消えたりできたので、家にいると言っても問題ないだろう。



「みんなお友達なんだよ!」

お人形のようなリリアンさまの全開の笑顔はとても可愛いし。裏表のない笑顔に癒される。


「それは、素敵ですね」

リリアンさまの笑顔につられて、自然と笑顔になってしまう。


「アリステア嬢は精霊に興味があるのか?」

「そうですね・・・まだ会ったことがないので、興味はあります」

「そうか。今度ディルタニア家に行く際に、連れ行けるようにしよう」


そう言えば、レティシアさまを屋敷に招待するって言ってたね。

連れて行くってことは、レティシアさまも契約精霊がいるのかな?


前の世界にいなかった、ファンタジー生物の精霊に会えるのは素直に嬉しい。


「それは嬉しいです」

「そうか」


短い返答だったが、表情が真顔から一瞬優しい笑顔になった。


うわっ。笑うとさらにイケメンだね!

まだ10歳なのに、将来モテモテに成長しそうだわ・・・眼福。



「ちょっと!そこのあなた!!」


レティシアさまとサフィールさまに癒されていたのに、突然大きな声が割り込んできた。


嫌な予感がしつつ、声の方を振り向くと、そこには要注意人物のイーディスさまが腰に手を当てて仁王立ちしていた。

確か王子達とテーブルでお茶をしていたはず。



「・・・私のことか?」

剣呑な雰囲気を悟ってか、サフィールさまが私を背に庇うように移動し、答えた。


サフィールさまって中身もカッコイイのか!!

本当に将来有望だね!


「違いますわ!そこの黄色のチビよ」


・・・黄色のチビって・・・私のことよね。確かに10歳のイーディスさまよりは小さいし。


「イーディス様、アリステア嬢は黄色ではなく金色だ。彼女の輝きがわからないのか?」

「ふん!どっちでもいいわよ。サフィール様をたぶらかすなんて下品な女ね!」

「イーディス様・・・意味は分かっていますか?言葉が過ぎますよ・・・」


静かで落ち着いた雰囲気のサフィールさまから、怒りの気配を感じる。


マズイ!サフィールさまがかばってくれるのはありがたいけど、喧嘩になってしまってはダメだ!!


「サフィールさま、ありがとうございます。私は大丈夫です。リリアンさまが怯えていますので・・・」


ちらりと下に視線を動かすと、イーディスさまの第一声の大声でビックリしたのか、リリアンさまが震えながら私のスカートにずっとしがみついていた。


「しかし・・・」

「大丈夫です。ご用は私だけの様ですし、リリアンさまを」


本当にサフィールさまっていい人そう。

一番幼く、怯えている妹のリリアンさまをイーディスさまから離すべきなのは頭ではわかっているだろうに、それでも迷ってくれているのが分かる。


サフィールさまに安心してもらえるようにそっと肩に触れて、笑顔を見せる。

守ろとしてくれた気持ちが嬉しい。


「っつ・・・わかった」


私が肩に触れていた手を、サフィールさまは手を重ねて握った。

サフィールさまの表情は真顔だったが、わずかに赤くなっているような気がする。


人のために怒れる人なんだね。このまま成長してほしいものだ。


改めて微笑みながら頷くと、あきらめたように、サフィールさまも頷き返し、手を離して怯えるリリアン様を抱えて私から少し距離をとった。


・・・さてと、どんな御用なんでしょうかね・・・


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