27.お茶会④
――――カチャカチャ・・・・・
――――カチャ・・・・・
――――パクッ
お茶会と言う名の昼食は、覚悟していたのに拍子抜けするほど平和な時間になっている。
今のところ。
王妃と各家の公爵夫人達で微笑みの会話バトルが行われているっぽいけど、正直よくわからなかった。
貴族や王族の会話は比喩的な表現が多すぎて、言葉通りだと、ただのご婦人たちの会話に聞こえる。
でも時々張り付いた微笑みになったり、眉がぴくぴく動いたりしているので、たぶん穏やかではない内容なんだと思う。
座席位置は、王妃が長方形テーブルの短辺に一人座り、右に第2王子マルティネス殿下、左に第3王子ヨルムド殿下。
右側の第2王子マルティネス殿下の隣には、トゥルクエル家が並び、左側の第3王子ヨルムド殿下の隣には、グレイシャー家、そしてディルタニア家が続いて座っている。
左右の人数配分は悪く感じるけど、子どもと親を離して座らせるわけにもいかないものね。
お陰で私は王族から一番遠い位置で、さらに正面には誰もいない当たり席だ!
会話も途切れ途切れしか聞こえないから、途中から聞き耳を立てるのをあきらめた。
ふふん、おいし~♪
さすが、王族の料理。
美しい盛り付けに、味も絶品。
食事のマナーは気をつけなきゃいけないけど、食事に集中できるのは嬉しい限りだ。
着席スタイルだから、自由に動き回ることはできない。
ヨルムド殿下に飲み物を渡された時みたいに、何かを直接仕掛けられることもない。
ちょっと視線を感じるけど・・・気のせいよ!
視線を感じる方に目なんか向けたら、目が合っちゃう。
王妃の行動から、王族は視線で何か語る傾向がある。
だから、あえて見ない!
この視線が公爵家の誰かだとしても、私は楽しく会話なんかする余裕なんてないし、仲良くする気も全くない!
きっと本当に必要な会話になれば、お母さまが声をかけてくれるはず。
そう。お母さまに丸投げよ!
食事の時間なんだから、食事に集中するのが一番!!
・・・・・だから気にしない。き、気にしたら終わりよ。
時々感じる視線を無視しながら、黙々と食事を続けて、ついにデザートにたどり着いた。
フルーツの盛り合わせは見た目も可愛く、お花の形にカットされたものもあった。
食べるのがもったいないくらい・・・食べるけど。
デザートが食べ終わるのに合わせて、紅茶が出された。
う~ん。いい香りでおいしい。
私は紅茶の知識はないので、何の紅茶かはわからないけど、クセもなくて飲みやすい。
温かい紅茶を飲みながら、ほっと息をついていると王妃の声が聞こえた。
「皆、食事は楽しんでいただけたかしら。この後、子供達には王城の庭を案内しますね。大人と違って、じっと座ってお話するわけにもいかないものね」
え。今なんと?
「子供たちだけで、ですか?リリアンはまだ幼いので・・・」
「もちろん。私のメイドや使用人たちが付きそうので心配いらないわ。そうでしょ」
トゥルクエル家のステンシー夫人が当然の主張をしたが、王妃が途中で遮った。
決定事項ってことね・・・
ちらりとお母さまの方を窺うと、微笑を崩してはないけど、目が笑っていない。
うぐっ・・・これは嫌な予感かする。
馬車の中で話をしていた時の感じだと、お母さまと一時的に離れることはあっても、完全に離れて行動することは想定されてなかったはず。
ステンシー夫人も知らなかったみたいだし、マドラム夫人は扇で顔を半分隠してるけど、嫌そうな表情は隠れ切れていない。
マドラム夫人って強気だね。
王妃は悠然と笑ってて・・・何か意図があるはずよね。
確か、本来はこのまま本当の意味でお茶会がスタートする予定だったはず。
庭の散策を子供たちだけでって、想定外すぎるよ!!
これってお茶会じゃなかったけ?!本当にお茶会って名前だけじゃない!!
細かいマナーが分からない私には、圧倒的に不利。
どうしよう・・・
「お庭をご案内いたします。こちらにどうぞ」
お茶会会場に案内してくれたメイド長と思われる人が、扉の前に立っていた。
王子2人が席を立つと、他の家の子供たちも立ち上がる。
行きたくないけど・・・ステンシー夫人の意見が通らないなら、私が何を言っても無駄だよね・・・
・・・このまま体調を崩したフリをして倒れてやろうかな。
はじめてのお茶会で緊張して・・・ってことならありかも・・・
逃げる方法を考えながら、最後の抵抗でノロノロと椅子から降りると、お母さまがそっと私の頭を撫でながら、こっそり耳打ちをした。
「アリステア、レオナから離れないように。休みたくなっても、できるだけ頑張って。王城のどこに連れて行かれるかわからないわ」
ひぃ!!!
何それ怖い!誘拐みたいなことになるの?
考えを読まれたかとも思ったけど、普通に考えて子供なら十分あり得る行動よね。
「レオナ、可愛い妹をお願いね」
「はい!お母さま」
レオナ兄さまにも、お母さまは小声で指示を出す。
「行こう、アリステア」
レオナ兄さまが癒しのキラキラ笑顔でエスコートするように手を差し出してきてくれた。
うう・・・すっごく行きたくないけど、行くしかないよね。
「レオナ兄さま、よろしくお願いします」
「うん。任せて!」
倒れることも許されない戦場・・・行ってやろうじゃないの!お兄さまを盾にして!!
覚悟を決めて、レオナ兄さまの手をとった。
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「こちらが、バラ園でございます」
先導するメイド長のほかに10名のメイドと使用人たちが私たちを取り囲むように歩いて到着したのは、様々な色のバラ咲いていた。
一番小さなリリアンさまはメイドの一人に抱きかかえられている。
そういえば・・・リリアンさまってなんでこのお茶会に参加しているんだろ。
年齢的には、参加は来年以降でもよかったはず。
王族も第4王子アルフォナ殿下は参加してないのに・・・
「レオナ兄さまはお茶会の参加は初めてですよね?」
「うん、そうだよ」
「リリアンさまってまだ4歳なのに参加されている理由って何か知っていますか?」
「うーん。僕もわからないけど、お母さまが「トゥルクエル家は特別だから」って言ってたよ」
「特別・・・」
トゥルクエル家は王妃の出身の家だものね・・・何か理由がありそう。
・・・もし、王妃が王族の権力をトゥルクエル家に集中させたいとしたら、リリアンさまと王子達のどちらかとの婚約を考えているかも。
・・・・それは、それは私にとって、すっごくいい事じゃない?!
王子は全員で4人。
王位継承権を持つ第1王子ソバベル殿下の婚約者はグレイシャー家のハーティーさま。
順当にいけば、私の可能性が高いかもしれないけど、そもそも婚約者は公爵家以外でもいいのよね。
三大公爵のバランスが崩れる可能性もあるかもしれないけど、確か王族と血の混ざっていない家はないって話だし、これくらいでバランスが崩れるような関係じゃないはず!
王子達で婚約者が未決定なのは3人。
お茶会で婚約者のいない女の子は、私、トゥルクエル家のリリアンさま、グレイシャー家のイーディスさま・・・
ちょ、ちょうど3人なのは嫌な感じだけど、今回のお茶会の目的がは2人の王子の婚約者候補の選定なら、私以外の2人が仲良くなればいいのでは?
第4王子のアルフォナ殿下のお茶会をするのが何年後かわからないけど、回避方法を考える時間を稼げるのは間違いない。
王妃が幼いリリアンさまをこのお茶会に参加させた理由がそこにあるなら、乗っかればいいんじゃない?
小説や漫画では、国を追放されたり、お家没落の原因になる敵対勢力の一人が王妃さまの話は多いから、恨まれることはしたくない。
あの王妃さまは、あからさまな悪役っぽくはないけど、慈悲の優しい王妃さまでもなさそうだから、下手に近寄ることもしたくない。
よし。それなら、このお茶会でリリアンさま、イーディスさまには2人の王子と仲良くなっていただこうじゃないの!!
――――ギュッ
「アリステア、大丈夫?」
手を引いてくれているレオナ兄さまの手を思わず握りしめてしまった。
「大丈夫です」
そう。大丈夫!
少しでも回避の可能性があるならなんとかできる!
「アリステアは体調が悪いの?」
振り向くと、先頭の方を歩いていたはずのヨルムド殿下が隣を歩いていた。
私・・・大丈夫だよね?
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