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26.お茶会③

「昼食の準備ができるまで、しばし歓談しましょう」


王妃さまは私から視線を外し、着席できる長テーブルをちらりと見て、皆の方へ視線を移す。


王族って、口で多くを語らず視線で意思を伝えるのかな・・・見逃したらアウトだね。

まぁ見逃したら、見逃した方が悪いってことなんだろうけど。


とりあえず、王妃さまの視線から逃れられてほっとした。

別ににらまれたわけじゃないけど、圧が強いのよね。


王妃が王族のテーブルから離れてトゥルクエル家のテーブルに進むと、王子2人も後ろをついて歩いていく。


たしか、「王族から声を掛けられるまで、こちらから王族へ声をかけてはいけません」って『マナー』の授業で、ミカム夫人が言ってたっけ。


その結果、王族が動く羽目になるのって微妙な気がするけど、自分から意見を伝えることは許されず、王族から無視されたら、存在しない者とされるって考えると、こちらに権利がないのって怖いね・・・


考えたくないけど、このお茶会で声をかけられずに素通りされたら、それは社交界での存在価値を失うことを意味になるんだよね。


・・・・・・。


・・・・ん?

私はその方がいいんじゃない?素通りされて、社交界のつまはじきにされて、旅に出る・・・いい考え・・・ではない!!


落ち着け私!王族から無視されて素通りされるようなことになった結果国外に出たら、それじゃ国外追放と変わらないから!


私の目指すのは、国やお家騒動に対して何の憂いもなく、のんびり暮らすこと。

・・・つい楽な方法はないかって考えちゃうけど、うっかりすると悪の道に一直線ね。気を付けよ・・・。


トゥルクエル家と王族の会話は距離的に聞こえないけど、王妃とステンシー夫人は親し気に見える。

王妃の真っ赤な髪と瞳は、間違いなくトゥルクエル家。

ステンシー夫人と王妃は同じくらいの年齢にみえるから、親族の中でも親しかったんじゃないかな。


「あんまり、見ちゃダメよ」


ハッとして声がする方を見ると、お母さまが微笑んでいた。


「レオナも、気をつけなさい。次にレティシアを3秒以上見つめたら、お屋敷へ招待は中止よ」

「ご、ごめんなさい」



「2人とも、馬車の中でお話したことを覚えているわね。どうやら王妃様は思った以上に気合が入っているみたいだから・・・」


王妃さまと会ったのは今日が初めてだから、気合が入っているかは私には分からないけど、お母さまが言うからには、きっとそうなのだろう。

気合いなんて1ミリも入れてほしくないのに・・・



そういえば、お母さまも気合が入っているような気がする。


「今回は私、ちょぉーっとだけ思うところがあるの。だから、万全の態勢で備えたいの。協力してくれるかしら、アリステアちゃん」


・・・お茶会の話をはじめて聞いた時、そんなことを言っていたような。


招待状の文字がまだちゃんと読めなくて、なんて書いてあるか詳しく分からなかったのよね。

やっぱり勉強は大事だわ・・・早く文字覚えて少しでも情報を得やすくしなきゃ。



き、緊張してのどが渇いてきた・・・

目の前にある丸テーブルに飲み物はないかとみると、豪華に花が飾られているだけで、食事も飲み物もなかった。


ほんとにお茶会って名前やめた方がいいんじゃない?

食事はともかく、飲み物は用意しておいてほしかったよ。



「何か、飲み物を持ってこさせようか?」

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いてしまって・・・」


「アリステアに冷たい飲み物を」

「承知いたしました。殿下」


・・・・え?


丁度飲み物のことを考えたせいで、かけられた言葉に素直に答えてしまった。


声のした後ろを振り向くと、第3王子ヨルムド王子が立っていた。

いつの間に?!


控えていた使用人から飲み物の入ったグラスを受け取ったヨルムド王子は、そのグラスを私に差し出してきた。


「殿下のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません・・・ありがとうございます」


しまったぁぁぁぁぁ!!いきないりやらかした!

王妃さまがトゥルクエル家のテーブルにいるから、まだこちらに来るまでに時間があると思って油断した。


震えそうになる身体を気合で動かしてグラスを受け取り、お礼を伝える。


ヨルムド王子はさっき見た時と同じ、口の片方を上げた笑顔のまま私を見つめている。


いやぁぁぁぁ!!!どうしよう。

問いかけに曖昧に答えるどころか、お願いごとをしてしまった。


「どうしたの?喉が渇いていたんだよね。飲んでいいよ・・・毒なんて入っていないから安心して」


ひっ!!

王族から渡された飲み物を疑って飲まないのはアウトな行動だよね?

けど、いきなり毒が使われる可能性もあったりするの?!


頭がパニックで真っ白になっているところに、怖い言葉をかけられてフリーズしていると、お母さまがグラスを私の手から奪った。

奪ったといっても流れるような動きだったので、とても自然な動きだった。



「殿下、お気持ちは嬉しいですが、間もなく昼食ですのでご容赦くださいませ」


「そう?・・・残念」


ヨルムド殿下はそう言うと、トゥルクエル家のテーブルの方へ歩いていった。


どういうこと?残念って。


「・・・本当に気をつけなきゃね」

「お母さま?」


お母さまはヨルムド殿下から奪ったグラスを丸テーブルに置きながら、そっと息を吐いた。


「公の場で、王子からのグラスを直接受け取り、そのまま口を付けて飲む行為は『貴方の好意を受け取ります』という意味なるのよ。覚えておいてね」

「ひっ・・・はい」


お母さまが小声で今のやりとりの真意を教えてくれた。


・・・もうやだ。

お母さまが居なかったら、私確実に飲んでたよ!!


確実にヨルムド殿下は今の流れを意図的にやってた・・・残念って言ってたし!

執着される前だったら、いくらでも回避できると思っていたけど、とんでもないよ!!


『マナー』の授業は、時間がなくて挨拶と食事マナーの知識しか得られてないから、こういう細かいルールまだ教わってないのに・・・


ふるふる震える私の頭を、お母さまがそっと撫でてくれた。


「今のやり取りで感覚がわかったでしょ?アリステアなら大丈夫よ」


すごく嫌な経験だったけど、確かに話だけではちゃんと分かってなかった。

分かった気になっていたけど、実感した今ならもっとしっかり気を付けられると思う。たぶん。


お母さまの目をみて、頷いて答える。



「ごめんなさい。突然声を掛けられてビックリしちゃって・・・」

「仕方がないわ。城の中では使用を制限されるはずだけれど、おそらく魔法か魔法道具を使ったはずよ・・・でも何をつかったのかしら、痕跡をたどれない・・・」


魔法道具と聞いて、ユリウスからもらった黒水晶のピアスのことを思い出した。

アレなら同じようなことができるかも・・・でも、王族にばれたら困るものだって言っていたし、王族が同じものを持っているとは思えない・・・


あれ?痕跡をたどるのも魔法じゃないのかな?

詳しく聞きたいけど、後にした方がいいよね。

余分なことを考えていると、また隙をつかれそうだし・・・



王族たちの行動を見ようと視線を動かすと、グレイシャー家のテーブルで話しているのが見えた。

直ぐに視線をはずして、トゥルクエル家のテーブルの方を見ると、3女のリリアンさまと目が合ってしまった。


リリアンさまは、私と目が合うと、嬉しそうな笑顔になって私の方へ駆け出そうとしたが、ステンシー夫人がサッと抱き上げた。


あっぶなー。

駆け寄られたらどうしたいいかわかんなかったよ。

安堵の息を吐くと、ステンシー夫人がこちらを向いて、ウィンクをした。


おぉ・・・カッコイイ。

ショッキングピンク夫人の好感度が一気に上がった。

何の根拠もないけど、ステンシー夫人は良い人な気がする。



お母さまの手が肩に触れたので視線を動かすと、王妃さま一行が私たちのテーブルに歩いてきた。



「ステラ、遅くなってしまってごめんなさいね」

「とんでもございません。お声かけいただきありがとうございます」


「レオナとアリステアでしたね、緊張しているかしら?」


「よくわかりません」

「私も、よくわかりません」


「そう。はじめてですものね」


パッと良い答えが思いつかなかったので、『よくわかりません』で逃げてみて正解だったようだ。


「アリステアは、もうすぐ7歳になるのでしたね。何かお祝いを贈るわ。何がいいかしら」

「王妃様からの贈り物など恐れ多いですわ。お気持ちだけで光栄です。ね、アリステア」

「はい。お母さま」


王妃さまは私を見ながら質問をしたが、お母さまがごく自然に返事をして、私に同意を求めた。

王妃の方ではなく、お母さまの方を向いて答えた。


うっかり何か望んだら、何を贈られるか分かったものじゃない!

さっきの飲み物のやり取りみたいなことが起きるかもしれない。



「謙虚だこと。以前の貴女ならきっと心のままに教えてくれたでしょうに。子どもの成長は嬉しい反面、寂しいものね。そうでしょ、ステラ」


王妃は私からお母さまへと視線を動かす。

内容には何やら棘を感じるような・・・


「私は子供の成長はどんな形でも嬉しく感じますわ。可愛い我が子ですもの」


ぴくっ・・・


あれ?表情は変わらないけど、王妃の眉が反応した気がする。何に・・・



「アリステア・・・」


名前を呼ばれたので振り返ると、生気のない人形の様な第2王子のマルティネスだった。


「・・・はい」

「・・・・・・・」


無視するわけにいかなかったので、答えてみたものの、マルティネス王子から続きの言葉はなかった。


何だろう?真っ黒でどこを見ているかわからないのに、その瞳がじっと見つめてきている気がする。

・・・不気味なのに、目が離せない?


「アリステアお腹すいたの?」

「・・・え?」


私の視界を遮るように、レオナ兄さまが私の顔を覗き込んだ。


「い、いえ、大丈夫です」

「そっか。よかった」


レオナ兄さまに答えながら、マルティネス殿下の方を見ると、足元の方をぼんやりと見ている。


なんだったんだろ・・・今の。



「王妃様、昼食の準備が整いました」

「そう。丁度良いわね。では行きましょうか」



王妃は準備完了の知らせを受けると、着席可能な長テーブルの方へ歩き出した。


それに習うように、皆が長テーブルの方へ移動していく。




まだ、挨拶程度のことしかしてないのに、ものすごく帰りたい。


私は重い脚をなんとか動かして、お母さまとレオナ兄さまの後ろについて歩きだした。


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