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23.お茶会前夜

「うーん・・・これでいいかな」



鍵のかかる特別仕様のノートに明日のお茶会対策の内容をまとめながら、頭の中を整理する。


ルーファから教えてもらった情報に加えて、『魔法』の授業時間を使ってユリウスから得た情報も書き加える。


ユリウスもお茶会が行われること、知ってたのよね・・・





「ああ。知っている。今週末に行われる王家主催のお茶会だろ」

「・・・そうです」


「どうした。何か気になるのか?」

「何が気になるって・・・お茶会の趣旨もご存知ですよね?」

「顔合わせだろ。王子達の婚約者候補と側近候補の選別のだったはずだが、ちがうか?」

「・・・そうです」


「それの何が気になるのだ?このお茶会は今までなぜか中止になっていたが、本来必ず行わるものだ。避けられない」

「うっ・・・そうですが、お茶会の参加は避けられずとも、婚約者に選ばれないようにしたいんです」

「拒否すればよいだろ」


「・・・え?え、拒否ですか?」

「ああ。そもそもお茶会で決まることはないと聞いてないのか?」

「確かお母さまも『お父さまの判断が必要と言って逃げ道がある』と言っていましたね」

「そうだ。だから、お茶会では適当に話を合わせておけばいい」

「でも、もし何かの間違いで、私が王子のどちらかの婚約者候補になったらと思うと怖くて・・・」

「怖い?」


そっか。怖いって感じるのは私だけだもんね。

普通は国の最高権力を持つ一族入りできるのだから、嬉しいはずよね。

私は絶対お断りだけど。


「ふむ・・・怖い、か。確かに王族の一員になると言うことは、権力を得ても自由を失うからな。公爵家も多くの義務や責任を背負う立場ではあるが、王族となると全く異なる種類の義務と責任を求められるからな。確かにある意味、『怖い』とも言えるか・・・私も研究ができなくなるのは怖いな」


ユリウスの一番怖いことって研究できなくなることなんだ・・・


「つまり、少しの可能性も排除したいということか」

「そうです!!」


「そうか・・・だが、とれる対策は限られるな。お茶会に参加しないことが一番だが、それ自体が難しい。参加せざるを得ないと、リスクをゼロにはできないな」

「そうなんです。ゼロにはできずとも、限りなくゼロに近づけたいんです。ルーファと話をして、『目立つ言動を避ける。無難な回答をする。こちらが興味関心をもっていないことがわかるようする』っていう方針は考えたんですけど、まだ心配で・・・」


「なるほど。極端ではあるが王子2人の性格から、関心を引くような行動を避けるということだな」

「ユリウスも王子達の噂を知っているんですか?」

「まぁな。王子達は良くも悪くも注目を得るからな。いくら情報統制をしても漏れてくる情報はある」


「あとは、参加する他の公爵家の婚約者にもなりたくないので、グレイシャー家の長男のテオドール様も注意すべき人物と考えています」

「テオドールが?」

「はい。トゥルクエル家はレオナ兄さまとつながりが持てますし、グレイシャー家はハーティー様が王家とつながりがあります。なので、消去法でテオドール様にも注意をして方が良い、とルーファが」


「なるほどな。だが、テオドールは心配ないだろう」

「あ、マドラム夫人がテオドール様を可愛がっているからですか?」

「それもあるが、テオドールは極端な人見知りだ。むしろ会話が成り立つとは思えん」

「え、そうなんですか?」

「ああ。私もあまり接点はないが、テオドールとは直接会っている。私に言われたくはないだろうが、家に引きこもって、メイドや使用人とも最低限の会話しかできないらしい。ある意味、アリステアよりもお茶会に参加することに恐怖しているかもな」


そうなんだ・・・なんか親近感もてそう。


「グレイシャー家ならイーディスの方が厄介だぞ」

「え」


「あいつは見栄っ張りで、負けず嫌い。癇癪持ちで、自分が一番賢くてかわいいと思っている。こちらが無視してきても絡んでくる」

「なんて厄介な性格なんですか!!」

「くくっ・・・昔のアリステアもそんな感じの性格だったと聞いたが?」

「うっ・・・そういえば、そうでしたね」


まさか、『アリステア』以外に悪役令嬢っぽい人物が登場するとは思ってもみなかったかった。

あ、もしかすると、悪役令嬢あるあるの、取り巻き的な関係に発展してしまう可能性があるかも?!

全力回避だね・・・


「まぁ、昔の自分だと思えば対応ができるのではないか?」

「・・・それは難しいですね・・・確かに当時の記憶はありますが、言動の要因は理解できないんです。価値観がちがうんです」

「そういうものなのか?記憶は共有しているが、価値観が違う。価値観の違いを魂の違いと表現しているか・・・」

「魂の違いですか?」

「いや、今はいい。アリステアについてはこれからじっくり調べさせてもらう」

「私ですか?」

「なんでもない。ひとまず、お茶会の問題を解消しよう」



「えっと、ではイーディス様以外に気を付けなくてはいけない人はいますか?」

「それは王妃だろ」

「え、お、王妃さま?」

「当たり前だ。そもそも急遽お茶会を設定したのは王妃だ。王子達が何を言おうが、そのお茶会で一番地位が高い王妃が頷かなければ、それは意味をなさない。王妃の考えを知り、利用または裏をかけば、婚約者選別のリスクを減らせる可能性はある」

「たしかに・・・」


「王妃が望む婚約者候補はどんな人物だと思う?」

「えっと・・・地位と血統の価値を持っていて、礼儀正しく、王妃様に従順、頭もほどよく良くて、容姿も良い方がいいですよね」

「・・・正しい・・・と思うが、アリステアは本当に6歳か?つい普通に話してしまうが、時々不思議に感じる」

「うぐっ・・・じ、自分ではよく、わからない、です」

「そうか。まぁ、私としては話しやすいから問題ないが、この違和感もアリステアを調べていきばいずれ分かるかもしれないな」


・・・ユリウスにとって私って研究対象なんだろうなぁ・・・嫌われるよりいいけど


「王妃の望むことが分かれば、その逆をすればいい」

「うーん・・・結構難しいですよね?地位と血統の価値は公爵家なのでしっかりありますし、自分で言うのもなんですが、容姿も悪くはないと思います。公式のお茶会なので、礼儀作法をおろそかにするのも良くない。残るは、頭良さと、王妃様に従順か・・・頭の良し悪しは会話で測られますよね。従順かどうかも」

「そうだな。礼儀は大事だ。うっかり反感をかうと別の意味で生きづらくなるからな」

「肝に銘じます」

「くくっ・・・頑張り給え」


「とりあえず、礼儀はわきまえつつ、王妃の意図に従順なフリをしている、とアピールすることだな」

「『王妃の意図に従順なフリをしている』?」

「そうだ。王妃のように地位のある人間が邪魔に思うのは、往々にして頭が良く、従順でない人間。自分でコントロールできない人間だ」

「でも、それってかなり難しそう・・・」

「まぁな。でも幸いなことに、アリステア、君は6歳の子どもだ。大人の腹の探り合いで真っ向勝負する必要はない。それは母親に任せておけばいい。簡単に言えば、王妃より母親を優先するような言動をすればいい。王妃の問いに安易に答えず、礼儀に反しない程度に無難に流して、母親に丸投げしろ」

「あ、なるほど。それならできそう」


「そういうことだ、私から言えるのそのくらいだな。気を付けるべきは女達だ。婚約者候補云々でつい男に目が行きやすいが、そもそもお茶会は基本女性が主導権を持つ。忘れぬことだな」

「・・・あの、ユリウスはお茶会で昔何かあったの?」

「・・・・・・・さぁな」


絶対昔、女性関係で何かあったんだろうな。


「そうだ、これを渡しておこう」


ユリウスはおもむろに自身が付けていた、黒水晶のピアスを片方とって渡してきた。


「これは?」


「隠密の保護魔法をかけてある」

「へ?」


「城は基本的に魔法道具の持ち込みはできない様に、結界が張られている。しかし、抜け道もある」

「結界に、抜け道?」

「城に魔法道具を持ち込めないのは、攻撃や盗聴を恐れてだ。しかし、城には要人も来る。要人は常に保護魔法の魔法具を身にまとうものだ。故に、保護魔法の魔法具は、城の結界にはじかれない仕組みになっている」


「だから保護魔法・・・でも隠密って盗聴に便利そうですね」

「ああ。とても有効だ。城で問題なく作動可能なことも確認済だから安心しろ」


・・・・・・・・城で盗聴したんだね。そんな危険を冒すなんて、なんか意外。


「盗聴に使えるが、目的を敵から身を隠すためという設定で魔法を組むことで、結界にはじかれない保護魔法にできる。これが、抜け道だ。使い方も簡単だ、強く握れば作動する。握っている間は姿が見えなくなるし、声も聞こえなくなる。困ったら使え」


すごい。城に侵入できる魔法道具。かなりレアなんじゃない?


「・・・これって、王族にばれたら危険だったりします?」

「・・・まぁな。もしそれが見つかったら、私に渡されたと言えばいい」

「・・・気を付けます」

「そうしてくれ」



「あぁ・・・そういえば、アリステアの容姿は『悪くない』ではなく、『美しい』部類だ。自分の価値は正しく把握しておけ」

「へ、あ、ありがとうございます」



と、最後のはうれしくてつい思い出しちゃった。

『前の私』は『美しい』なんて言われたことないから、素直に嬉しくなっちゃうのよね。


ユリウスの、ルーファとは別の視点でのアドバイスはかなり参考になった。

それにレア魔法道具、隠密保護魔法のピアス。


本当はピアスを付けられればいいけど、6歳児の女の子が、黒水晶のピアスを片耳につけるのはちょっとね・・・たぶんお母さまも良しとはしないよね。

そもそも私には似合わないし。これはユリウスだから似合うデザインだ。


明日のお茶会に着ていく衣装には、スカート部分に見えないような隠しポケットが付いていた。

お母さま曰く、「淑女のたしなみに必要」だそうだ。

使い方が正しいかわからないが、隠しポケットにピアスを入れておくことにする。



衣装が納品されたのは、昨日。

しかし、納品にルドリーは同行していなかった。


「大変申し訳ございません。ルドリーもとても楽しみにしていたのですが、体調を崩してしまいまして・・・」

「まぁ、それは大変。お大事にと伝えてね。ルドリーにはまたの機会に会えるのを楽しみにしているわ」

「はい。奥様」


オーナーが残念そうにしていたが、お母さまが次があることをさらりと伝えると、安堵の表情を浮かべていた。


あと、レオナ兄さまがものすごく悲しそうな表情をして私の頭をなでた。

何だろうと思ってレオナ兄さまの顔を見ていると。

目を潤ませながら、謎のうなずきをした。


あ、レオナ兄さまの中で、ルドリーが私の想い人だったね。


苦笑いになってしまったが、とりあえず、うなずき返しておいた。


しかし、ルドリーどうしたんだろう。儚げだったけど、実際は力持ちだったし、身体大丈夫かな・・・




「はぁ・・・明日か。とにかく目立たず、無難に、興味を持たれない様に、そしてこちらも興味がないことをアピールする。そして男性陣より女性陣に注意を払って、何か答えなきゃいけない時は曖昧に答えて、お母さまに丸投げっと・・・ちゃんと記録しておけば、今後のお茶会対策にも使えるかもしれないしね」



――――トントン


「アリステアお嬢様、まだ起きていらっしゃるのですか?」


ルーリーとリナが心配そうに部屋に入って来た。

慌てノートを閉じて引き出しにしまった。


「ちょうど今、寝ようと思ったところだよ」


「明日は朝早いですから、はやく寝なきゃだめですよー」

「そうね、リナ」


「眠れないようでしたら、温めたミルクをお持ちしましょうか?」

「大丈夫よ。ルーリー、心配をかけてごめん」


正直、緊張で眠れそうにないけど、ルーリーとリナに心配かけないようにベッドに潜る。

どうか、上手くやり過ごせますように・・・

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