22.お茶会対策②
「ではまず、今の王家についてご説明いたしますね」
「お願いします!」
「現国王は、イシュマエル・トマス=エアルドラゴニア様。王妃はスターシャ・シルキ=エアルドラゴニア様です。側室はいません。お二人の間には4人の王子がいます。第1王子はソバベル・マルト=エアルドラゴニア殿下、第2王子マルティネス・カール=エアルドラゴニア殿下、第3王子ヨルムド・ホワト=エアルドラゴニア殿下、第4王子アルフォナ・チドル=エアルドラゴニア殿下です。第1王子はすでに王位の後継者として公式的に認識されております」
「全員王子・・・後継者は決まっている」
全員王子とか、危険だけどお姫様の嫌がらせ的な危険はないのね。
側室がいないってことは、王子は全員実の兄弟。後継者争いも問題なさそう!
さすが、ホワト世界!悪の巣窟、陰湿な駆け引きが定番の王族すらもホワイト関係かも?
「そうです。全員王子。王家はなぜか姫は生まれないのです。そして過去に王位継承権をかけた争いが続いたため、後継者は生まれ順と決められています」
おっとぉ・・・過去はしっかり争っていたのね。危ない危ない。
姫が生まれないってなんだろ。遺伝子的な何かかな?
「姫の生まれない王家は、必ず他家より女性を迎え入れる必要があるため、王子が7歳を迎える1年ほど前から、婚約者を決めるために候補を絞るお茶会を行う習慣ができました。第1王子のソバベル殿下の婚約者はグレイシャー家の長女、ハーティー・ソムル=グレイシャー様と決まっています」
確かに王子しか生まれないなら習慣化されるよね。
とりあえず、第1王子は危険人物対象外だね。
「そして、今回問題のお茶会は第2、第3王子の婚約者候補を絞ることが目的です」
「第2、第3王子は双子なの?」
「いえ、現在、第2王子マルティネス殿下は11歳、第3王子ヨルムド殿下が6歳です」
「マルティネス殿下は11歳なのに婚約者を決めていない?」
「はい。マルティネス殿下は・・・直接お会いしたことがないので詳しくはわかりませんが、噂では少々変わった性格をされているそうです」
「・・・・・・そう、ですか」
悪いイメージにつながる噂なんて潰されそうなのに、隠せないほどとなると相当な問題児なのかも。
第2王子マルティネス殿下は絶対回避しなきゃ・・・
「第3王子ヨルムド殿下はどんな人ですか?」
「第3王子ヨルムド殿下も直接会ったわけではないですが・・・マルティネス殿下とは別の意味で変わった方と・・・聞いています」
・・・ルーファが言いにくそうに教えてくれる。
両方とも問題児なのね・・・もうやだ。お茶会絶対危ない。
「ちなみに・・・どのような感じで変わった方々なんですか?」
「第2王子マルティネス殿下は、とても聡明ですが、何事にも関心が低いそうです。第3王子ヨルムド殿下も聡明な方とのことですが、マルティネス殿下とは逆に、好奇心が旺盛で執着心が強いそうです」
「では、気をつけなければいけないのは、第3王子ヨルムド殿下ということですね」
「噂が正しければ、その通りです」
関心が低いことは、私にとって良いことだよ!第2王子マルティネス殿下はそこまで警戒しなくてもよさそうね。
第3王子ヨルムド殿下・・・好奇心旺盛で執着心が強いって・・・何か対策できるのかな・・・
「第3王子ヨルムド殿下は好奇心旺盛で執着心が強いのよね?私の場合、噂があるからすでに好奇心を刺激している気がするけど・・・」
「・・・そうですね。急遽お茶会が設定されたことから考えると、すでに関心を寄せられている可能性は高いですね」
「うっ」
「すでに伝わっている噂については致し方ありませんが、関心を失わせればよいのです。執着される前であれば対策はできます」
「うーん・・・私の変化が関心を引いてしまったとしたら、変化がある前の私を再現すればいいのかな?お茶会を台無しにするような・・・」
「それではアリステアお嬢様の印象が悪くなってしまします」
「印象が悪い方がいいんじゃない?」
「いいえ。それは上策ではありません。一時的な回避策としてはよいですが、今回のお茶会は公式的なものですし、他の公爵家も参加されます。全員の印象を悪くすることは今後を考えると悪手かと」
「たしかに・・・」
「そうすると、『良い子』にはなった噂通りだけど、関心を持つほどではないって感じならいいのかな?」
「はい。目立つ言動を避ける。無難な回答をする。こちらは興味関心をもっていないことがわかるようにする。というのはいかがでしょう」
「そうね・・・空気になるってことね」
「空気・・・ですか?」
「えっと、気配を消す。みたいな?周囲に紛れるってことを言いたかったの。居ても気が付かないくらいに」
「・・・お茶会なので、気が付かれないことは難しいですが、幸いなことに他の公爵家も参加されるので、周囲に紛れることはできると思います」
王子対策は、空気になる!だね。
「では、次に紛れる周囲にあたる公爵家の方々についてですが、王家と公爵家の関係をまだお話したことがありませんでしたね」
「そうね・・・特に神話には関係は出てこなかったし、13代目までの王族に仕えた公爵家は別の名前だったような?」
「14代目のお話から聞いていらっしゃらなかったのですね?」
「・・・申し訳ございません」
「ふふっ、いいですよ。次回の授業をどこから始めるか確認する必要がありましたから問題ありません。お嬢様の集中力を邪魔する王族が悪いのです」
王族というか、お茶会だけどね。
「現公爵家は、20代目の王家より仕えるようになります。それまでは三大公爵家は各国の王族でした」
「・・・え?王家?」
「20代目の王は国土を広げるために、隣国を次々と侵略し力で従えたのです。20代目のイガラム王は、歴代の王の中でも最強であったと伝わっています。あらゆる魔素を使いこなし、多くの魔獣を従え、自身に従わぬ者は徹底的に排除していったそうです。当時の隣国の王たちは力を合わせたのですが、国民を人質にとられ、屈辱的な契約を結ばされたそうです。各国の王族は解体され、姫たちは王家と婚姻させられ親族として吸収していきました」
「ちょ、ちょっとまってください!王族とんでもない一族じゃないですか!!それに、ご先祖さまは別の国の王族だったの?」
「その通りです。それが1000年前の話です」
「1000年前・・・そんな昔なんですね」
「はい。公爵家にとって王族は、歴史的には許しがたい相手ではありますが、1000年の時で徐々に血が混ざり、憎き相手という認識はすでに薄れているというのが実情です」
「そう・・・なんだ」
「しかし、王族は公爵家の結束を恐れ、基本的には公爵家同士は関係を深めることを禁止しました」
「え?でもたしかレオナ兄さまの婚約者はトゥルクエル家ですよね?」
「はい。婚姻は除外されます」
「え?関係を深めるには婚姻が一番警戒すべきですよね?」
「本来はそうですが、王家は他家との婚姻が不可欠。もし、王子が1人しか生まれなかった場合、三大公爵家の1つの家としか関係を深められません。それでは他の2家が手を組むことも考えられます。しかし、公爵家同士が親族となれば、たとえ1つの家としか婚姻できずとも、他家とのつながりがもてるのです。まぁ、今となっては血の混ざっていない家はありませんので、形式的なものですが、王族に従順である姿勢を示すために、積極的な接触は行いません」
「うーん・・・なんか、意味のない形式だよね?婚姻すれば自然と会う機会は増えるし。ユリウスだって私の先生になってくれたし」
「ユリウスは・・・特別です。本来は講師の依頼は避けるべきでした」
「え?」
「本来はユリウスの祖父であるヤミス師が講師になる予定でした。グレイシャー家であるヤミス師に講師を願うのも本来は避けるのですが、旦那様は『昔の約束だから』とおっしゃったので、講師の依頼をしました」
うーん?婚姻はよくて講師はダメってよくわかんないなぁ・・・
「それに、血は混ざっても、知識と能力は各家の財産です。例え婚姻を結んだとしても、家に入ればその家の財産を守るものです」
「あ、なるほど・・・知識と能力」
「はい。なので、とくに『講師』は婚姻よりもある意味危険なのです」
「もちろん血による継承もありますが、各家の守護魔法により、婚姻後生まれてくる子どもはその家の色や能力を持つ子が生まれてきます」
「各家の守護魔法?」
「はい。婚姻を結ぶ式で行われる魔法です」
なるほど、遺伝子的なものだけじゃなくて、守護魔法とやらで色とか能力が受付がれるのか・・・
「王家と公爵家の関係はひとまずこのくらいでいいでしょう。次にお茶会に参加するの公爵家ですか、ディルタニア家からは奥様とレオナ坊ちゃん、アリステアお嬢様。トゥルクエル家からはステンシー夫人、次男のサフィール様、次女のレティシア様、3女のリリアン様。グレイシャー家からはマドラム夫人、次女のイーディス様、長男のテオドール様です」
「・・・小規模・・・10名?王家は王妃スターニャ様、第2王子マルティネス殿下、第3王子ヨルムド殿下。総勢13名って多いような?」
「通常の王家のお茶会は50名以上ですから、十分小規模の範囲です」
「そうなんだ・・・」
「王族以外ですと、注意すべきは、グレイシャー家ですね」
「トゥルクエル家はいいの?」
「トゥルクエル家は、レオ坊ちゃんとレティシア様が婚約者ですから、お家同士のつながりはこれ以上不要でしょう。サフィール様は10歳で婚約者はまだお決めになっていませんが、思慮深い静かな方と聞いておりますので、ステンシー夫人がアリステアお嬢様へ接触するのを良しとしないでしょう。おそらくレオナ坊ちゃん同様に、側近候補としての顔合わせが目的でしょう。逆にグレイシャー家は、長女のハーティー様が第1王子ソバベル殿下と婚約されています。王家とのつながりは十分なので、他家とのつながりを考えているかもしれません。なので、テオドール様に注意する必要があります」
「グレイシャー家の長男のテオドール様?」
「はい。ですが、テオドール様は同じ6歳ですが、大人しい・・・いえ、臆病な気質とのことです。マドラム夫人はテオドール様を大層可愛がっていると聞いたことがあります。なので、積極的にこちらから接触しなければ、婚約者として選ばれる可能性は低いと思います」
「ということは、問題は王族だけってことね」
「はい。ですが、婚約者が決まっていない男児が参加するので、気を付けるに越したことはありません」
「そうね・・・でも事前に知れてよかった。過度に『良い子』として行動すると、危ないってことはわかったし。それぞれの性格や家の関係が分かれば、咄嗟の判断が必要になった時にの材料になるもの」
「お嬢様のお役に立てたのでしたら幸いです」
「ええ。ありがとう。ルーファ」
「王族の婚約者に選ばれない様に気を付けてください。絶対に」
「え、ええ。もちろん」
スッと目を細めたルーファの表情に一瞬ゾクッとした。
瞬きをする間にいつも通りの優しい表情に戻っていた。
・・・見間違い?
ルーファって心配性なのね。
でも、知識豊富な強力な見方を得られた!
なんとしても婚約者回避するぞー!!