21.お茶会対策①
「ルドリー、ごみを裏庭に置いておいてくれるかしらー」
「はい!オーナー」
――――ガチャ・・・ドサッ
「よし・・・これで最後かな」
今日は忙しい1日だったな・・・
「・・・ディルタニア家とトゥルクェル家か」
空を見上げると、夜空には満天の星と大きな月。
月が良く見える・・・・
「にゃぁー」
月の光とは対照的に影は濃くはっきりとなる。
その陰から小さな存在が姿を現した。
「・・・どうしたの?黒ねこさん」
「ご報告です」
可愛らしい姿なのに、男性の野太い声で黒猫がしゃべった。
「あのさー。声と姿が合ってないって前も言ったよね。声もかわいくできない?」
「すみません。私の力では難しく・・・」
「次はせめて犬にしてよ」
「はい・・・善処します」
「それで報告って?」
「はい。今週末、王妃様がお茶会を開くとのことです」
「・・・だろうね」
「ご存知でしたか」
「今日、ディルタニア家とトゥルクェル家がこの店に来たからね」
「お茶会の内容と規模ですが・・・」
「それも知ってる。まぁ予測だけど、たぶん間違ってない。顔合わせ・・・それも第2、第3皇子の婚約者候補選出のためでしょ。そのために三大公爵家と王族のみで行われる。ちがう?」
「いえ、ご認識の通りです。お役に立てず申し訳ございません」
「別にいいよ。今回は僕の方が情報が得やすい場所にいたしね。君が城の情報を集めてくれているおかげで、だいぶ動きやすくなってるし」
「参加・・・されるのですか?」
「どうしよっかなぁ・・・王妃様の思惑道理に動くのは嫌なんだけど」
「今までは拒否するだけでなく、お茶会事態を中止になるように行動されていたのに、今回は参加されるのですか?」
「うーん。今回は面白そうなんだよね。今日会ってなかったら今まで同様、お茶会をつぶしてたんだけどね」
「今日会った・・・ディルタニア家とトゥルクェル家の方々の内のどなたかですか?」
「そう。ディルタニア家のお嬢さん、アリステア・ルーン=ディルタニア。あの子、面白い気がする」
「ディルタニア家のアリステアお嬢様と言えば、突然人格が変わったという噂の」
「そう、そのお嬢様。確かに前の『アリステア』お嬢様の噂とは別人みたいな言動だった」
「調べますか?」
「うーん。まだいいかな。事前情報なしで会ってみたい。とりあえず引き続き城の方をよろしくね」
「承知いたしました。我が主、マルティネス殿下」
「ここではルドリーだよ」
「はっ。では」
――――スウッ
姿を現した時と同じ様に、黒猫は濃い影に溶けるように姿を消した。
「お茶会ねぇ・・・楽しみだ。そうだろ、アリステア」
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――――パタンッ
「アリステアお嬢様・・・」
ハッ・・・・
「あ!ご、ごめんなさい。ルーファ」
「・・・何か気になることがあるのですか?」
『歴史』の授業中に、週末に行われるお茶会が気になって、途中から説明を聞いていなかった。
ルーファの方を窺うと、教材の本を閉じて、困り顔でこちらを見ていた。
「・・・何代目の王族のお話でしたか」
「15代目です」
「15代目王族のページは・・・」
「お茶会のことでしょうか?」
「うっ・・・」
「今回のお茶会は・・・確かに大事ですからね・・・」
呟くように言ったルーファの表情は堅い。
あ、そうだ!
「ルーファ、現代の王族について教えて!順番道理ではなけど、『歴史』の現代史の部分を先に!」
「ふふっ、ちゃんと授業はしつつ、情報を得ようということですね。さすがアリステアお嬢様です」
「だめ・・・?」
「そんな可愛いお願い方法をどうやって覚えたのですか?他の人にしてはいけませんよ。お願いなどなさらなくても、私にとって、アリステアお嬢様のお願いは最優先事項です。それに、私もお聞きしたいことがありますから」
「聞きたいこと?」
「奥様から、今回のお茶会の趣旨はお聞きになれていますね」
「はい。ごく小規模な公式のお茶会で、目的は第2皇子と第3皇子との顔合わせですよね?」
「その通りです。端的に言えば・・・婚約者候補となるかを見定める場・・・ということです」
うぐっ・・・わかってはいたけど、改めて言われると心のダメージが。
「アリステアお嬢様を婚約者に・・・王妃め」
「ルーファ、今なんて?」
「なんでもありません。レオナ坊ちゃんの招待は側近候補として見定める目的です。取り込むなら子供の内からということでしょう。アリステアお嬢様も、7歳のお誕生日と共に婚約を発表してつながりをアピールしようという魂胆です」
「レオナ兄さまの件はともかく、私の場合は一カ月前に急遽だなんて・・・王族の婚約者候補だったら時間をかけて選定するものだし、顔合わせだって、何度か回数を重ねるとか・・・手順もありそうなのに」
「本当は、何度かお茶会が設定されたことがあったのですが、なぜか毎回中止になりました。王族の突然の都合で」
「それなら今回も中止になる可能性があるの?」
「いいえ。おそらく今回は開催されると思います」
「なぜ?」
「今までは1カ月前に招待状が届き、中止は1週間前に伝えられました。しかし、今回はそもそも1週間前に招待状が届きました。それに・・・アリステアお嬢様の変化が・・・」
「私の変化?」
「おそらくですが・・・以前のアリステアお嬢様は・・・人とお話することがお好きではなかったことは、多くの人の知るところです。もし以前のままでしたら、お茶会も急遽設定されることはなかったかもしれません」
「え」
「アリステアお嬢様の噂を・・・1つの身体に2つの魂という特殊な事情と、その後の性格の変化が王族にも伝わったのかと。それで興味をもったというところでしょう」
「そんな・・・」
『アリステア』の悪辣な噂がまさかの婚約者決めの防波堤になっていたなんて!!
「アリステアお嬢様・・・」
ショックで俯いたら、ルーファが私の顔に手を伸ばし、そっと頬に触れた。
「本当に許せないですよね・・・王族はお嬢様をなんだと思っているのでしょう・・・ちっ」
ん?舌打ち?
思わず顔をあげたら、至近距離に美しいルーファの笑顔があった。
うぐっ・・・イケメン。
「・・・アリステアお嬢様に命の危機はなさそうですね。多少心臓に負荷はかかるようですが、病ではないので一時的なものですね・・・とりあえずですが、よかった」
「へ?どういう・・・」
「なんでもないですよ」
ニコニコニコ・・・・
とってもきれいな笑顔ですね・・ごまかす気満々の。
なんか不気味な予言みたいなことを言っていたけど、まぁ、魔法か何かよね・・・
「厄介なことに王族のお茶会は基本的に拒否権はないですが、目的ははっきりしているので王族の思惑に対策はできます」
「そうね」
「そこで、対策の方針を考えるにあたり、アリステアお嬢様の考えを教えていただきたいのです」
「私の考え?」
「はい。お嬢様は王族の婚約者をのぞみ・・・」
「望みません!!!」
しまった。食い気味に反対してしまった。
「そ、そうですか。それを聞いて安心しました。では、婚約回避の方向で対策を考えましょう」
「はい!婚約回避したいです!」
「やはりアリステアお嬢様も王族はお嫌なのですね・・・」
「王族だけではないですが・・・」
「王族だけではない?・・・あ!私としたことが・・・たしかにそうですね。今回のお茶会には他の公爵家も参加される。もし他の公爵家の子どもがアリステアお嬢様に興味を持ってしまう可能性もありますね。そちらの婚約も回避の方向でよろしいですね?」
「はい!」
なんかちょっとニュアンスは違う気がするけど、私の望む結果と同じなので問題ない。
私の力強い同意に、ルーファはうなづいた。
「それでは、今回お茶会に参加する王族、公爵家の情報を『歴史』現代史としてお教えしましょう」
「お願いします!」
私にとって緊急かつ重要な授業が始まった。