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20.その他教養

――――ゴトゴトゴト・・・・・

――――ガタガタ・・・・・ゴトゴト・・・



「アリステアちゃん?大丈夫?」

「アリステア、気持ち悪いの?」

「久しぶりだから馬車酔いしてしまったかしら?」



「え?ううん。大丈夫よ!ママ、レオナお兄さま。ちょっと・・・考え事してたの!」

「そう?気持ち悪くなったらちゃんと言うのよ」

「うん」



正確に言うなら、気持ち悪くはなっている。ただ、原因は馬車酔いではない。


私は今日、『その他教養』とやらで、交代制の講師陣と共に屋敷の外で授業と称する観劇に行くと聞いていた。

所謂、野外学習だ。


昨日の内に聞いてい予定は、神話を元に作られた定番の恋愛物語を観劇する予定だった。

しかし、今日の朝食時にお母さまから予定変更を告げられた。


「アリステアちゃん。今日の予定は観劇だったわよね」

「はい」

「予定変更しましょ」

「へ?何か別の用事でもあるのですか?」

「急でごめんなさいね。近々お茶会が開かれることが決まったのよ」

「お・・・お茶会で、ですか?」

「そうなのよ~、困っちゃうわよね。本当に驚いたわ。こんな急に決まることなんてなかったから・・・お断りしたくてもできないお相手ですし」


ま、まって。

まだ、お茶会に参加できるような知識や、マナーも『良い子』レベルに達しているとは思えない。

それに、急に決まるっ事は大体、危険なイベントな気がする。


しかも『お断りしたくてもできないお相手』って、三大公爵家のディルタニア家が断れないっていうと・・・


「あ、その、そのお相手って・・・」

「もちろん王族よ」

「おう・・・」


「スターニャ王妃からのお誘いなのだけど・・・とても小規模のお茶会みたいなのよね」

「珍しいこと・・・なのですか?」

「小規模のお忍びのお茶会は時々あるわよ。でも、今回は正規の手続きのお茶会なのに小規模なの」

「どんな違いがあるのです?」

「そうね~、簡単に言うと、堂々と秘密のお話をしますよって宣伝する感じかしら」

「?」


「うふふ、アリステアちゃんはまだマナーのお勉強中ですものね」


嫌な予感で、冷や汗が止まらない。


「お忍びの時は、双方の専属の中でも隠密に特化した使用人やメイドを通して、秘密裏にスケジュールを組んで行われるの。そのお茶会は公式の面会とは記録されずに、あくまで私的な場として扱われて、マナーも公式のものではなくなるわ」


なるほど。お茶会にも種類があるのね。


「そして、今回は公式な手順を踏んだお茶会の招待状。多くの人の目に触れる形で招待状が送られているの。その意味はわかるかしら?」


お茶会が公式のものとして、扱われる。マナーも。そして公式に記録される。あえて人の目に触れるように・・・


「えっと、そのお茶会事態を人に知らせる必要がある?知った人たちに影響があることだから?」

「ええ、そうね」


「つまり、他の人達に影響が出るような、王族からお茶会参加者へ何かしらの命令や約束が交わされるから・・・」

「正解よ。良く分かったわね」


正解であってほしくなかったよ・・・それって、もはや逃げられない命令じゃない!!


「でも。そんなに心配しないでいいわ。招待状は小規模と言ったでしょ。ということは、変更可能な内容ということよ」

「変更可能?」


「ええ。強制的な決定事項として推し進めたいときは、逆に大規模にして大勢の証人をつくるの。でも、今回は小規模。意味は分かるかしら?」

「決定事項ではない・・・事前調整みたいなことですか?ただし、拒否権はない」


「本当にアリステアちゃんはいい子ね。その通りよ。逃げられない様に呼び出して、半分決定事項のようなことを話す場ってことね。半分というのは、王族にとって描いている理想的な結果はあるけれど、状況によってはその結果の判断が変わるということ」


絶望的だ。どちらにしろ、王族の思惑通りになる場と言うことだ。

そして、そんなお茶会の話を、私にするなんて・・・まさか


「そして、今回は私とアリステアちゃん、レオナが招待を受けているの。でも、アルフェは呼ばれていない。どういうことかしら?」

「私とレオナお兄さまに関わる何かを話す場・・・でも公爵家として正式な答えを求めていない?」


「その通り!もう!アリステアちゃんったら優秀なんだから!」

「あ、はははは」


これは、教養の授業だったみたいね。


「ね?ちょっとは安心できたかしら。つまり、無理難題を突き付けられても、アルフェの判断が必要と言って逃げ道があるということなの」

「なるほど・・・」

「まぁ、大体どんな内容かはわかるけど」

「え?どんな内容です?」

「顔合わせよ」

「だ、だれと?」

「第2皇子と第3皇子」

「ひっ」


恐れていた事態だ!!

これは今後婚約者候補云々のイベントへつながる布石にちがいない。


「アリステアちゃんったらぁ、公式の場にいる王族はそんなに怖くないわよ。形式通りのマナーを守って、余分なことを言わなければいいの。無害そうな笑顔が大事よ」


王族に対する言い回しが少々・・・

聖母のように微笑むお母さまの『社交界の女帝』の片鱗が見えた気がした。


「今回は私、ちょぉーっとだけ思うところがあるの。だから、万全の態勢で備えたいの。協力してくれるかしら、アリステアちゃん」

「は、はい!」


お母さま、怒っているのかしら・・・一体何が・・・



と、いうことで、本日の『その他教養』の時間は急遽お茶会に備えるため、服の調達の時間となった。



そして私は馬車の中で、お茶会イベントについて考えすぎて、非常に気持ち悪くなっているというわけだ。




――――コンコン



「奥様、到着いたしました」


「ありがとう。では、行きましょう。レオナ、アリステアちゃん」

「はい!」

「・・・はぁい」



着いたお店は、オーダーメイドドレスのお店で、今一番の人気店らしい。

本来は、お店の人たちが注文をとりに屋敷に来るのだが、今回は時間がないためお店に直接行くことになったそうだ。


そこからは、採寸して、ひたすら着せ替え人形となった。

普段の授業や散歩はキッチリ休憩を挟むのに、着せ替えは別らしい。

何をどう選んだのか、もう記憶にない。


疲れ果てた私は、お店の人と詳細をつめているお母さま達から離れて、くつろぎスペースとして用意されているソファへ避難した。

レオナお兄さまもお母さまと一緒に何やらお話中。お兄さま、儚げなのにすごい・・・。



「はぁ・・・」

「甘いミルクティです」

「え?」


ソファによじ登って、一息ついていると、お店の店員さんと同じ制服を着た少女が、優しい甘い香りがするミルクティをテーブルに置いた。


「ありがとうございます」


しまった。

ここは屋敷の外だ。まだ『アリステア』の噂が残っているはずだ。『良い子計画』を実行しなければ。

ソファに寄りかかっていた姿勢を正す。


「お茶菓子もどうぞ。奥様達はもう少しお話されると思いますので・・・」

「ええ。いただくわ」


ニコリと外向きの笑顔で微笑みながら答える。


私と目があったお店の少女は顔を赤らめて固まってしまった。


あー・・・私、見た目だけは一級品なのよね。

中身は30過ぎだけど。


でもこの子もすごい美少女。

薄いけど、銀髪よね。瞳は紫色かな?レオナ兄さまやランスより年上っぽいから13歳くらいかな。

全体的に淡い色合いね。肌も白いし、スレンダーでパンツスタイルもよく似合う。



パンツスタイル・・・あれ?この世界では皆女性はスカートで男性はパンツスタイルだった気がする。

他の店員さんも皆男女で制服を分けているみたいだし。


美少女にしか見えないけど、少年だったりするの?!

レオナお兄さまも天使だけど、男の子ってわかる。

こんな中性的な子もいるのか。


「あ、あの・・・」


しまった。見つめ過ぎたか。


「あなた、とてもき・・・」

「き?」


しまった。男の人に綺麗は禁句だった。ユリウスの眉間のシワを思い出しちゃった。


「あ、いえ。えっとー、とてもカッコイイですね」

「へ?!、ぼ、僕がカッコイイ?」


あ、僕ってことは男の子で合ってたのかな?

一人称僕っていう女の子だったら申し訳ない。

っていうか、きれいの別の表現が思いつかなくてカッコイイしか出てこなかった。自分の語彙力が残念過ぎる。


「え、ええ。丁寧な対応がとてもステキです」

「っ・・・そ、そんなこと、はじめて言われました」」


容姿についての発言は、何が失礼になるのかわからないので、無難なことを言ってみた。


うーん、本当は可愛いって言いたいけど、反応から察するに、カッコイイ方が好みっぽいね。

赤い顔でもじもじしてる。


「あら?小さな店員さんがアリステアの相手してくださってたのね。ありがとう」

「はっ!、奥様とお坊ちゃまもお茶はいかがでしょうか」

「お願いしますわ」

「うん!僕もミルクティがいいな」

「はい。すぐにお持ちます」


「お嬢様、ルドリーがご迷惑をお掛けしませんでしたか?」


お母さまとレオナ兄さまが戻ってくると、接客をしていた店員さんも一緒に来て、心配そうに私に質問してきた。


「いいえ。先ほどの人はルドリーというの?」

「はい。まだ店頭に立って日が短いですが、衣装についての知識は豊富です」


ふむ。ずっと裏方にいたのかな?


「そうなのね。では、今度家に来てもらう時はルドリー君も一緒に来てもらおうかしら」

「ありがとうございます」


お母さまはルドリーを男の子ってすぐにわかったんだね・・・さすが。あ、パンツスタイルだったからか。


「お待たせしました」

ルドリーがお茶を持ってきた。

テーブルにお茶を置きながら、ルドリーがチラチラこちらを窺っているような気がするが、気のせいだろう。


「ルドリー、奥様のご厚意で今度納品の際に一緒にお屋敷に伺えることになりました」

「ぼ、僕がですか?ありがとうございます!!誠心誠意努めさせていただきます」

「ふふっ、こちらこそよろしくね。レオナとアリステアと歳も近いから意見をもらえると嬉しいわ」

「はい!」


おや?こうしてシャキッと話していると、凛々しくもみえる。不思議。


「ルドリー、僕の選んだリボンは、僕と同じくらいの歳の女の子に好まれると思う?」

レオナ兄さまがルドリーにリボンの絵が描かれたデザイン画を見せた。


青色の生地のリボンに、金色の刺繍がされている。色合いはディルタニア家を意味するのだろうが、刺繍のデザインが花や蝶、鳥と随分と可愛らしい模様だ。

ん?女の子?


「はい。好まれると思います。特にこちらの小鳥は新しいデザインなので、話題にもなると思います。ご婚約者様への贈り物ですね」


デザインをちらりと見ただけで、ルドリーはさらりと回答する。


「うん。あたり。これからよろしくね。ルドリー」

「はい」


へぇ。レオナ兄さまって人を試すようなことするんだ。見た目天使で『アリステア』に弱虫とか呼ばれて泣いてたけど、やっぱり公爵家の男の子なのね。


・・・・・・あれ?なんか今、なんか聞きなれない言葉が・・・婚約者・・・だと?


「レオナ兄さま・・・こ、婚約者って」

「アリステアはまだ会ったことなかったよね!すごく・・・かわいいんだ。今度家にくるから会えるよ!これはその時に渡す予定なんだ」


お兄さま・・・そんなテレテレして・・・かわいい。

じゃない!婚約者いたんかい!!


「アリステア、大丈夫?顔色が悪い気が・・・」

「だ、大丈夫です」


お母さまが私の様子が変わったのに気が付いて心配してくれたが、それどころではない。

ものすごく婚約者のことについて質問したいが、ここは屋敷の外。

話をするにしても、屋敷に戻ってからだ。


ううっ。なんてことだ。油断してた・・・レオナ兄さまは私の1つ上の年齢。

いつから婚約者がいたの?私にもすでにいる・・・なんてことはないわよね?!


「オーナー、アリステア様を奥で休ませて差し上げてもよろしいですか?」

「そうですね。よろしいですか?奥様」

「ええ。お願いできるかしら」


「お母さま、私、大丈夫ですわ」

「アリステア、あなた顔色が悪すぎるわ。帰る準備ができるまで休ませていただきなさい」


「ルドリー、お嬢様をご案内して」

「はい。お嬢様、失礼いたします」

「え?」


驚いた。

華奢な身体のルドリーが私をサッと抱えると、奥の部屋に歩き出す。



奥の部屋は個室のようになっていた。

ベッドはないが、大きな長椅子があった。

ルドリーはその長椅子にそっと寝かせるように私を降ろした。


「お、お嬢様、急にすみません。大丈夫ですか?」

「大丈夫です。やはりルドリーは力強くてカッコイイですね」

「うっ・・・お嬢様は羽のように軽いですから・・・」


いやいや、そんなわけない。

確かに太ってはいないが、軽いわけがない。ドレスも重いし。

あ、裏方作業は布を運ぶことが多いだろうから、見た目に反して力持ちなのかも。


それに今度は自然とカッコイイと言えた。


「休んでいてください。お掛けする布をお持ちします」


真っ赤な顔で、逃げるように部屋を出て行ってしまった。




ふぅ・・・・・・

頭が混乱しているので、1人で休ませてもらえるのはありがたい。


「婚約者か・・・」



――――ギィ・・・


「ルドリー?」


じゃ、ない。


空いた扉の傍に立っていたのは、ピンクの髪を綺麗に巻いた、お人形みたいな女の子だった。


だれ?


「お人形さん?」


こちらのセリフだが?


「人形?」

「きゃっ!!」


声をだしたら驚かれた。


――――トコトコ


どうしよう・・・と迷っていたら、ピンク髪の女の子が近づいてきた。

私より小さい・・・3,4歳?


「妖精さん?」

「いいえ」

「天使さま?」

「いいえ」


「うーん?」


小首をかしげる姿はとても可愛い。

ピンクの髪に、真っ赤な大きな瞳はウサギのよう。

服はとても仕立てが良く、明らかに良いところのお嬢さん。



「あ!わかった!精霊さんね!」

「いい・・・」


――――ガチャ・・・


「リリアン様?!」

「きゃぁ!!」


ルドリーが部屋に戻ってきて、驚いたようにピンク髪の女の子を呼んだ。


「どうしてこちらに?」

「ちょっと・・・えっと・・・」

「リリアン様のお母様が心配されますよ」

「ごめんなさい。もどるね!精霊のお姉さんまたね!!」


ルドリーは顔なじみのようだ。

リリアン様とやらは常連なのだろうか?

ん?精霊のお姉さん?


――――パタパタ・・・


走って行ってしまった。


「失礼いたしました・・・鍵をかけておけばよかったですね」

「ふふっ、いいえ。とても可愛らしい方でいたね」

「ええ。トゥルクェル家のお嬢様です」

「・・・トゥルクェル家というと精霊の?」

「はい」


ゆっくりと体を起こす。


「もう少し休まれた方が」

「大丈夫よ」


そもそも、身体は元から元気なのだ。問題は心労だ。


ルドリーは持ってきた布を私の肩にそっとかけてくれた。


トゥルクェル家の色は赤やピンク。

直系のお嬢様ってことか。


・・・つまり危険人物!可愛くで小さいから油断するところだった。

姿は覚えたから、今後は回避可能ね。



――――ガチャ・・・


「アリステア、体調はどう?」

「お母さま。大丈夫です」


「ルドリー、アリステアを看てくれてありがとう。帰る準備ができたわ、行きましょう」

「とんでもございません、奥様。アリステア様、失礼いたします」


再びルドリーに抱き上げられて馬車まで運ばれてしまった。

不甲斐ない。


「ありがとう。ルドリー」

肩にかけられた布を返そうとすると、首を振られてしまった。


「もしよろしければお持ちください」

「でもこんな素敵な布・・・」


よく見れば、紫の布地に銀の刺繍が細かく施された大きめの肩掛けだった。

見るからに高そう。


「アリステア、せっかくのご厚意よ。もらっておきなさい」

「はい・・・ありがとうございます。大切にしますね」

「っ・・・光栄です」

「ふふっ。さすがアリステアね」

「?」

「では、納品の際はよろしくね」

「はい!必ず」


何がさすがなのだろう。




馬車が屋敷に向かって動き出すと、レオナ兄さまが不満顔でつぶやいた。


「僕も・・・リボンより肩掛けの方が良かったかなぁ」

「レオナ兄さま?」

「だってルドリーの肩掛けをみたら・・・」

「まぁ!ふふっ肩掛けは、また別の機会になさい」

「はぁい」


「この肩掛けがどうしたのです?レオナ兄さま」

「アリステア、それはルドリーからの好意でしょ?」

「そうですね。でもお兄さまの選んだリボンとは関係ないですよね?」

「?」


「ふふっ二人とも、話がかみ合っていないわよ」

「どういう意味です?お母さま」

「アリステア、異性が自分の色を贈るのは、特別な好意って意味よ」

「特別な好意?」

「レオナは、ルドリーがあなたに贈った肩掛けがとても素敵だったから、特別な好意を示すのにリボンより良いのではかっと迷ってしまったのよ」

「え」


「ルドリーは平民の子だから、普通には贈れないものね~。機会を逃さない賢い子だこと」

「え、それって」


「アリステアちゃんたら顔を赤くしちゃってかわいいわね~。いい女はたくさん贈られるものよ。慣れなさい」


あう・・・そういえば、異世界あるあるだった。

すっかり忘れていたよ・・・


まぁ、上客を逃さないための一手ってことか。

ルドリー確かにやり手になりそう。



なんだかすごく疲れる買い物だったね。

はやく屋敷に帰って婚約者について聞きださなきゃ!

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