16.お勉強②
『基礎文字と言語』から始まった勉強は順調・・・だと思う、たぶん。
翌日の『算術』は『基礎文字と言語』に続き、ルーファが講師。
そして、覚悟はしていたけど、算術の一からやり直しはなかなか厳しい。
もちろん難しいのではなく、知らないフリをすることだ。
「ここに1枚の紙があります。さらに1枚の紙を増やすと2枚になります。これが基本の加算、足し算という考え方です」
・・・・1+1=2
いきなり掛け算とか割り算できたらだめだよね・・・やっぱり。
ひたすら元気よく返事をする時間になってしまった。
次は『歴史』これは面白かった。講師は引き続きルーファ。
歴史というより、子供向けの世界の成り立ちと国の神話だった。
安らぎの闇の中に光が生まれた。
導きの光の輝きはあらゆるものを生み出した。
火は燃え上がり、力を。
水は流れ、浄化を。
木は成長し、希望を。
金は学び、繁栄を。
土は育み、豊穣を。
そしてすべてが揃った世界に生き物が生まれた
「詳しくは『魔法』の授業で説明があると思いますが、これが魔素の属性が持つ象徴的意味です」
「ルーファの属性は何ですか?」
「私は木です。私の髪は緑色をしていますよね。その人に適した属性は多くの場合、身体に色として現れます」
「ルーファの瞳は黄色ですよね?では光?の属性も相性がよいのですか?」
「いいえ。黄色は土または金属性です。お嬢様のような金色が光属性の象徴になります」
「私は金色と緑色だから、光と木属性が適しているということ?」
「そうです。ですが、基本的に生き物はすべての属性を扱うことができます。身体に現れる色は、あくまでどの属性が特に適しているかという目印のようなものです」
「そうなのね・・・となると、お父さまの銀色は?」
「旦那様は闇と水の属性です。銀は闇で瞬く星々の色とされています。瞳の青は水ですね。この組み合わせの方は氷の魔法を得意とすると言われています。実際に旦那様は氷を得意とされています」
「適性が分かりやすいのは良いですね!でも、姿をみるだけでわかってしまうのは、大変ですね・・・」
「・・・なぜです?」
「弱点も姿を見ればわかってしまうではないですか。あとは、対策をとられてしまいます」
お父さまは今は騎士団長から宰相のポジションになっているが、イデュール兄さまやサラお姉さまは戦場に行くのだ。
それでは色が明確な人は不利ではないか。
「・・・やはりお嬢様は、1を聞いて10を考えられ方なのですね・・・」
「え?」
「お嬢様は、戦いにいかれるご家族がご心配なのですね」
「はい」
最初の方が聞こえなかったが、ルーファは笑顔で会話を続けてくれたので、気にしないことにする。
「旦那様の契約魔獣をご存知ですか?」
「はい。たしか火竜ですよね」
「はい。火竜はその名の通り、火属性です。水と対局となる属性を持ちます」
「あ、得意ではない属性の契約魔獣をもつことで、スキがなくなるということですね!」
「その通りです。しかし、旦那様の場合、基本魔素保有量もクラウン級ですし、すべての属性を簡単に扱うことができる特異な方です。ですから、火竜も契約できたのです」
お父さまが化け物だった。
「イデュールお兄さまは、闇属性の銀髪で、木属性の緑の瞳。契約魔獣はクリスタルドラゴン?クリスタルは光属性ですか?」
「はい。奥様の光属性の相性を継承されていたのでしょう」
「サラお姉さまは、光属性の金髪に、水属性の青色の瞳。契約魔獣はペガサスですよね。ペガサスも光属性ですか?」
「ペガサスは珍しく2つの属性に特化しています。金と木属性です」
「え?なんだかイメージが・・・ペガサスなら飛びますよね?」
「そうですね。翼がありますので」
「あ、そうか翼があるから飛ぶのは魔法ではないのですね」
「半分正解です。翼があるので、翼と風と相性が良い木属性の魔素で飛ぶことができるのです」
なるほど・・・木属性は風と相性がいいのか。植物かと思ってた。
「お気づきかと思いますが、1つの属性でも、他に相性が良いものがあります」
「では、金属性は?」
「ペガサスの場合、とても硬度が高いのです」
「硬度?えっと、とっても堅いのですか?」
「はい。角が一番硬度がありますが、全身鎧をまとっているような生き物です」
なんかペガサスって儚いイメージだったけど、全然ちがうのね。
「話がそれてしまいましたね。では、次に建国の神話についてお話しますね。大きく2つの物語になっています」
大いなる調和の世、強大な闇の力の化身が生まれる。
闇の化身は力により争いを生み、すべての生き物に恐怖をもたらした。
生きる為、知恵を持つ人が他の生き物を先導し、闇の化身を倒した。
そして再び調和の時が訪れた
「ここまでが、1つ目の神話です。人と他の生き物の関係がこの時に出来上がったと伝わっています」
「『知恵を持つ人が他の生き物を先導し』というところですね?契約魔獣の関係がこの部分に関係するということであっていますか?」
「ふふっ。本当にお嬢様は理解が早いので授業が楽しいですね」
イケメンの笑顔で私は眼福です。
「ご認識の通りです。魔獣や精霊にとって、人と契約することは、調和とつながると認識しているようです。ただ、力が釣り合わないと正しく力が使えないので、契約ができるのはナイト級以上の魔素を保有していないと難しいとされています」
「ルーファも契約魔獣はいるのですか?」
「はい。こちらです」
「・・・か、可愛いですね」
「ふふっ、無理をしなくてよいですよ」
ルーファがスッと片手をあげると、いつの間にか手に緑色の蛇が巻き付いていた。
び、びっくりした・・・
爬虫類が苦手ではないが、突然現れたので驚いた。
「触っても?」
「え・・・もちろん大丈夫ですが・・・あまり女性は・・・」
「私、蛇は好きなんです」
「好き・・・」
ちょっとしたいたずらが成功して微笑んでいたルーファが、私の提案に驚いた。
笑顔と真剣な顔以外見たことがなかったので新鮮だ。
そっと手を伸ばすと、蛇の魔獣も私の方に頭を伸ばして、おとなしく触らせてくれた。
頭をなでていると、気持ち良かったのか、私の手にするりと巻き付いた。
「うっ・・・」
苦しそうな声に目線をあげると、ルーファが赤い顔で顔を背け、空いている片方の手で口を押えていた。
魔獣を出現させるのは、身体に負担になるのだろうかと心配になって、ルーファの方を窺うと、目が合った。
「だいじょ・・・」
「お嬢様は魔獣と相性が良さそうですね。さすがディルタニア家のお嬢様です」
ルーファは蛇の魔獣が絡む腕をさっと引いて、魔獣を消して、早口で気になることを言った。
体調が心配だったが、言葉を途中で重ねられてしまい、聞きづらくなってしまった。
「えっと、ディルタニア家は魔獣と相性が良いのですか?」
「はい。魔獣契約と言えばディルタニア家、精霊契約と言えばトゥルクエル家、魔法工学のグレイシャー家といいまして、国の三大公爵家のと特徴として表現されます」
「グレイシャー家?」
「はい。魔法講師のユリウス・グレイシャーはグレイシャー家に属しています」
「え!公爵家の人が講師になって下さったのですか?」
「ユリウスの場合は、直系ではありませんし、実力はありますが、末席の末席なので、お嬢様が気にかけるような人間ではありません」
・・・ルーファってユリウスさんのこと嫌いなのかな・・・なんか棘を感じる。
「では、続きをお話しますね」
調和の時代が続いたが、1000年の後に再び闇の化身が形を持った。
闇の化身は美しき光の乙女を攫い、己がものとした。
しかし、光の乙女を救うべく、闇の力を持つ男が立ち上がり、多くの生き物の力を合わせ闇の化身を打ち滅ぼした。
闇の化身を滅ぼした男は、後に光の乙女と共に国の王となった』
・・・なんというか、the物語だね
「闇の化身を倒したのが、現王家の祖先とされています。その証拠として、王家の色は黒で、髪も瞳も黒です。そしてすべての力を統べるがごとく、特別特化した力というものがありません」
「?髪も瞳も黒なら闇属性そうなのに、特化した属性がない?」
「はい。特化した属性がなく、どの力も同等に使えると言われています。その代わり、王族の血筋のみに継承さる特別な力があるそうです」
「特別な力?」
「あくまで伝承ですが」
いつも通りの優しい表情だけど、なんだかルーファの目が・・・
「どうしましたか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
いつものルーファだ・・・気のせいか。
「闇の化身とは・・・倒したと言うからには、概念ではなく何か存在した物なんですよね」
「・・・お嬢様は難しい言葉を自然に使いますね。時々ご年齢を忘れてしまいます」
「え、あ、ははは。そうかしら?」
「・・・・・・・お嬢様のおっしゃる通り、闇の化身はブラックドラゴンと言われています」
「ドラゴン。お父様やイデュールお兄さまが契約している魔獣の?」
「そうです。ですが、ブラックドラゴンは神話の中の生き物で、実際に存在したという記録や証言はありません。今では、強大な力を持ったドラゴンを表現しているというのが一般的な認識です」
闇属性があって、王家の色が黒なのに、ブラックドラゴンは存在しない方が違和感があるけど・・・
「では、次に王家の歴史をお教えしますね」
そのあとは、たくさんの王族の名前とともに、その人たちがどんな功績を残したかの話が永遠と続いた。