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12.閑話ルーファ①

――――トントントン・・・・


考え事をする時のいつもの癖で、机を人差し指で叩いていた。


旦那様からアリステアお嬢様の教育担当となることの許可が下りてから、毎日教育カリキュラムを考え続けている。

明日はお嬢様にカリキュラムの説明と担当講師たちとの顔合わせを行う日だ。


これがベストだろうか。

いや、もう一度考え直してみようか・・・



私の感が・・・いや、真贋の力が正しければ、アリステアお嬢様はこの世界に変化をもたらす存在となるはずだ。

その変化が良いものなのか悪いものなのかは、私には判断できなかった。

だが、その変化を良いものにするには、正しき知識が必要だと思う。

善なる心と知識を持って平和へ導く者となるか、無知で我欲のままに力を振るう者となるか。


アリステアお嬢様はどの様な人となるのか、私は側で見ていたい。




私、ルーファ・ダナテはディルタニア家に仕える司書だ。

今年で21歳になる。

血筋としては貴族ではあるが、私の親の時代に一族は滅んだ。

滅んだ要因の事件は、私が物心つく前だったため、覚えているのは炎の海と、人々の悲鳴だけだ。

そう、私の一族は『無知で我欲のままに力を振るう者』達だった故に滅んだと聞いている。


私を火の海から救い出したのは、ディルタニア家現当主の旦那様だ。

一族の最後の生き残りとなった当時の私はまだ幼く、脅威にはならないと旦那様が強く主張し生かされることとなった。

そして私は、一代限りの貴族としてディルタニア家の加護の下、今も生きながらえている。


歳の近い、イデュール様やサラ様とは多くの時間を共にした。

お二人とも私を兄弟のように思っていると言ってくださっているが、その一線を越えてはならないのはわかっている。

たとえ大切に思う人がディルタニア家の人たちでも、私はダナテの血を持つ人間なのだ。


ダナテの一族は『真贋の力』を持っていた。

一般的な属性による魔法を操る力とは別に、特殊能力というものが血により受け継がれていた。

『真贋の力』は文字道理、そのものが持つ真の性質を見抜く力だ。

その特殊な能力で、ダナテ一族は真実を語る者、強いては神の言葉を伝える者と歪曲し、教会で権力を持つようになった。


正しく力を使えば、毒物など体に害のあるものもわかるし、病気の原因もわかった。

しかし、嘘をついてもそれが正しいのか、偽りであるかはダナテ一族同士でなくてはわからなかった。

その事実を悪用したのが私の親だ。

当時でも十分すぎるほどの権力を持っていたにも関わらず、金や酒、性欲に溺れ、多くの人をだまし、苦しめた。

そして、越えてはならない一線を踏み越えた。

いつでも危機は回避できると己の力を過信し、他国の誘いにのり、王家への反逆を企てた。

しかし、王家にはダナテ一族が知らない特殊な能力を持つ者がいた。

どの様な特殊能力かは今も王家の秘密として明かされていない。


結果としてダナテ一族は私を残し、王家と国を代表する公爵三家によって滅ぼされた。


事件の詳細を記した記録が王族の書庫に厳重に保管されているという。

全容を知るのは王族のごく一部でのみで、一族の生き残りの私も詳細は知ることができない。

私が知ることができたのは、公爵家に残された記録や書物を読み、情報を組み合わせた結果だ。


私が司書をしているのは、公爵家の文献を読み漁っていることを知った旦那様が、

「そんなに本が好きなら我が家の司書をやらないか?」と言ってくださったからだ。


私自身、ダナテ一族の力を知ったのは、最近のことだ。

『真贋の力』から得られる結果は、魔素のレベルに左右される。


私はナイト級。

特殊能力である『真贋の力』はクラウン級でなければ正しく扱えないらしい。

私が生き残ることができた理由の一つでもある。

どうせ『真贋の力』など使えぬからと。


だが、私は一般の人よりカンが良かった。

なんだか嫌な予感がするときは、決まって良くないことがおこり、逆に良いことも事前に感じることが多かった。

力のことを知る前は、それが特殊な能力の片鱗とは思いもしなかった。

しかし、能力による力と知ってからは、その力を伸ばすことに尽力した。

一族は力を正しく使わなかったから滅んだが、能力自体が悪ではないのだ。

私なら力を正しく使えると思った。そして、ディルタニア家の助けとなりたいと。


5年ほどで、出会った人物がどんな人間か、またどんな運命を持つか朧げに感じることができるようになった。

そして直近に迫る危機などが分かるようにもなった。


「この人は明るく誠実で、温かな家庭を築くだろう。3日以内は馬に注意」みたいなくらいだ。

まだ具体的なことまではわからないが、カンがいいくらいからは能力が伸びているような気がする。

おそらく本来の力は使えないが、ある程度の伸びしろはあると思いたい。



そんな私が、アリステアお嬢様と出会う日がやってきた。



居住スペースは書庫とつながる場所にある。

普段は書庫から出ることもなく、ひたすらに情報を集め、整理し、己の力を高めることしかしてこなかった。


そのため、屋敷内の使用人やメイド達ですら、接点がほとんどなかったが、イデュール様とサラ様と共に学んだ教養は身についているので、必要とあらばそれなりに人付き合いもできる。ただ、必要性を全く感じてこなかったので、できるだけ避けてきた。


だが、その日は朝から不思議な感覚があった。

何か、何かがが始まるような気配。


いつも通り書庫で資料を整理していると、公爵家のメイド長、ヒルデが書庫にやってきた。

奥様の使いだろうと思い放っておいたが、ふと、私に関わる何かをヒルデから感じた。


「珍しいですね、ヒルデ。何か用ですか?」

「珍しいのは、あなたの方ですよ、ルーファ様。いつもは声を掛けられない様に姿を隠してしまわれるのに」

「なんとなく、私を探しているように感じたからですよ。で、どうしたのですか?」


「・・・まぁいいです。あなたが素っ気ないのはいつものことですから。では簡潔に。一刻後、奥様とアリステアお嬢様が書庫にいらっしゃいます。書庫でアリステアお嬢様の勉強に必要な本を探すためです。イデュール様とサラ様がお使いになられた教材を参考に何冊か用意しておいてくださるかしら?」

「・・・アリステアお嬢様が勉強を?」

「そうです。ご本人のご希望です」

「噂は本当だったのですね・・・」


アリステアお嬢様と言えば、見た目はディルタニア家の血筋に間違いないらしいが、その精神はまったくの別物で、悪辣な話しか聞かない人物だったはずだ。

それが、何日も高熱が続き生死の境をさ迷った後に回復すると、人格が変わったようにディルタニア家にふさわしい人間になったという。


「1つの身体に2つの魂でしたか?ルーク大司教がおっしゃてた要因というのは」

「そうです。そして旦那様のお認めとなった事実です」

「旦那様が・・・」


その噂を聞き、文献を漁ってみたが、ルーク大司教の言う、『太古の神話として語られている一節』とやらは見つけられなかった。

かなり疑わしいが、公爵家の書庫にないとなると、他の公爵家か、王族、教会で調べる必要がある。


本当は私がルーク大司教に会えば少なくとも真実かどうかはわかる。

だが、私がダナテ一族であることは知られており、因縁のある教会関係者には基本的に会うことは叶わない。


私の能力には制限がある。

それは、真贋の力を使うには対象を直接見る必要があるというもの。

だから、会ったこともないアリステアお嬢様やルーク大司教のことはわからない。


「ルーファ様、では、頼みましたよ」

「まってください、ヒルデ。勉強用の教材ということは、今後お嬢様は書庫を利用するのですか?」

「しますよ。司書であるルーファ様もお力をお貸しくださいね」


ヒルデから食事の時に交わされた話の内容を共有された。


「では、頼みましたよ」


ヒルデは伝えるべきことは伝えたとばかりに、すぐに書庫を出て行った。


アリステアお嬢様か。

ディルタニア家にとってどんな存在となるか確かめる必要がある。


悪となるのであれば排除し、善となるのであれば、書庫の案内くらいはして、あとは放置しよう。


そう思って一刻後に迫った初対面に備えることにした。



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