109.変化①
「・・・もうすぐにもどるって言われて半刻たつけど・・・すぐってどのくらいなんだろ」
ローキが書斎を出て半刻。
1人で情報を整理しながら、紙に考えをまとめて時間をつぶしていたけれど、まだ魔法が解けない。
大人の姿は動きやすいけれど、このままでは書斎から出れない。
――――コンコン
「アリステア様、そろそろ休憩になさいませんか?」
まずい。
ルーリーだ。
慌てて扉に近づき、開けられないようにドアノブを抑えながら答える。
「も、もう少し・・・やりたいことがあるの」
「承知いたしました。ですが、もう半刻後は休憩していただきます」
半刻後に強制休憩・・・
私はついつい本を読み続けてしまったりするので、ルーリーとリナはしっかり私に休憩を取らせることになれている。
つまり、私がここで籠城しようとしても、時間が来たらルーリーとリナは部屋に入ってくるはずだ。
「わかった・・・ルーリー、『さっき相談した件で確認したいことがあるから、手が空いたら来て欲しい』ってローキに伝えてくれる?」
「かしこまりました。すぐにお伝えいたします」
ルーリーは仕事ができるから、きっとすぐにローキに伝えてくれるはず。
半刻後の強制休憩までに元の7歳児の姿に戻れないのはこまる。
魔法をかけたローキなら、解く方法も知っているよね。
――――コンコン
「アリステア様、ローキです」
はやっ!!
感覚的に5分も経ってないので、再びルーリーかリナが来たのかと身構えたが、待ち人の声に驚いた。
よかった・・・
「入って」
――――ガチャ
「アリステア様、いったい・・・」
「えっ」
「なっ!!!」
「・・・・・・」
――――バタン!!
私の姿を見たローキは反射的に扉を閉じたけれど、ローキと共に書斎に入って来たシキは、私の姿を見て固まっている。
あちゃー・・・
ローキはシキ達に話をしに行ったんだった・・・
そこに私から『さっき相談した件で確認したいことがあるから、手が空いたら来て欲しい』なんて連絡が入ったら、シキにも話を共有する方が良いって判断で連れてくるよね。
一緒に来たのがシキだけでよかったとポジティブに考えるべきか・・・
「なんで魔法が解けてないんだよ!」
それは、私が聞きたい。
困惑したローキの表情から、やはり本来はこの魔法は解けていなけれないけない時間を過ぎていたようだ。
「この件で呼んだの。部屋から出れなくて・・・どうして魔法が解けないんだと思う?」
「本来この魔法は半刻ほどで自然に解けるんだ。だから俺が部屋を出て数秒後には戻るものだと・・・」
まぁ、すぐって言ったらやっぱり数秒だよね。
となると、これは予想外の異常事態ってことか。
「うーん・・・本来の使い方と違う目的で使用したから、その副作用的なものなのかなぁ」
「本来あり得ませんが・・・今起きている以上、それも可能性の一つ・・・」
「この・・・方は、アリステア様なのか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私を凝視したまま固まっていたシキが、独り言のようにぽそりと言葉を発した。
現実逃避したい。
ローキも同じだったのだろう。
片手で顔を覆って頭を振っている。
「そう、ね・・・あー・・・アリステアよ、シキ」
「なぜ・・・その様なお姿に?先ほど魔法と聞こえましたが、体格を変えるような変身の魔法は高度で、大量の魔素と手順などが必要です。それを半刻以上維持できているという事ですか?いや・・・本来の使い方と違うとも言っていましたね・・・まさか!身体に影響するような魔法実験を2人で行ったのですか?」
「っつ、ま、まてシキ!違う!」
固まっていたから話を聞いていないと思ったけれど、さすが『影』。
驚愕でフリーズしていても周りの音はしっかり聞いていたんだね。
今回は聞こえないでほしかったけれど・・・
自分の頭の中を整理する様に早口で話しだしたシキは、私とローキが危ない魔法実験を行ったと思い、怒りの表情でローキの胸倉をつかんだ。
「何が違う?!実際何らかの魔法をアリステア様に使ったのだろ!」
「そ、そうだが、身体に影響があるはずがない魔法というか、未知の魔法ではない」
「ならどんな魔法だ!体形を変化させるほどの魔法は限られている。しかも、服装が今朝から変わっていない!あの服は素材からアリステア様に合わせて作られた特注品だ。その服が体形に合わせて変化しているなんて、そんな魔法なんてないぞ!」
・・・まぁ、貴族の服は大方オーダーメイドだから特注品なんだろうけども、シキの言い方からして、私の服の詳細をすべて把握してそうだ。
恥ずかしがっている場合ではないけれど、男の人に服を把握されるってなんか恥ずかしい。
「身体が変化したように見えて、服も変化する魔法・・・あるだろ『精神の具現化』だ」
「『精神の具現化』?アリステア様に使用しても変化は起きるわけないだろ」
「いや・・・俺もそう思って使ったんだ」
「ならなぜ、アリステア様にそんな魔法を使ったんだ!本来どんな使われ方をするのか知っていたら、アリステア様に使うなんてありえないだろ!」
「っ!!」
「シキ!まって。ローキは悪くないの・・・あの、事情がありまして・・・」
シキは掴んだ服をねじってローキの首を絞め始めたので、慌てて話に割り込んで止めた。
私の声に反応して、シキはローキの首を絞めるのをやめたが、胸倉からは手を離す気はないらしい。
「アリステア様、その事情について、詳しくご説明いただけますか?」
ローキにだけ話して、後は隠し通そうと思っていたのに、まさか話した当日に他の人に話すことになるとは・・・
というか、このまま魔法が解けないなんてことになったら、みんなに話さなきゃいけないことになってしまうのではないだろうか・・・
「・・・話すよ・・・だからローキを離して」
シキは頷くと、ローキから手を離したが、厳しい視線は変わらない。
さて、何から話すべきか・・・
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