107.情報整理と確認⑤:ユリウス
「やはりか・・・」
テオドールと共に得た資料と、すでに集まっていた情報を照らし合わせると不穏な動きが見えてきた。
出入国記録の手書きの方には記録がなく、自動記録の方には改ざんの後がある。
輸入品には、私がこれまでいくら研究に必要だと申請をしても拒否された品々が並んでいた。
よく見比べないとわからないほど徐々に、他国の入国人数が増加し、滞在日数が伸びている。
商人や役人など多種多様な立場の人間なので、一見交流が盛んになっただけだのようにも見えるが、1人出国すると、1人入国していて、常に一定の人数が国内に滞在している。
それが1国だけでなく、複数国・・・同時期に同じくらいの人数。
過去5年の記録をさかのぼって、この動きが見えはじめるのが約3年前から。
1年をかけて入国者を増やして、2年前から一定の人数をキープしている。
そして、いままで輸入に制限がされていた品のやりとりも同時期にはじまっている。
私が申請していたのは魔法に関する珍しいものや貴重な品ばかり。
それが平民の手に渡っている。
通常はそんな品であれば権力と金のある貴族にわたるはず。
くっ・・・2年も見逃していたのか。
きっと平民では高価で使用する機会がないため、流通しなかったのだろう。
私であれば、2年もあれば色々な研究が進んだというのに。
平民には無意味で不要なもの。
だが、どこかの誰かが忍んで手に入れるには好都合の状況。
・・・明らかに人為的。
複数の国に同じ動きをしていることから、同じ人物か組織の指示か意見に従っている可能性がある。
その先導者になりえるのはどちらの管理も行っている王族。
そして、不自然に入国者が必ず訪れているところがある。
聖パトラディユス教会。
他国の人間が他国の教会を観光がてら訪れるのは珍しくないが、皆複数回訪ねている。
これはおかしい。
数日前に王族の命令で動いている祖父のヤミス師から手紙が届いていた。
『任務を強化しろ』
任務・・・グレイシャー家の任務のことだろう。
王族の監査役。
もはや形ばかりの任務であり役目。
報告すべき相手もいなければ、誰のためになるとも思えないもの・・・と祖父は言っていたのに。
私はその役目の持つ力が魅力的で祖父の後を引き継いだが、こうやって任務を求められることになるとは思ってなかった。
「厄介な・・・」
任務の強化と言うことは、王族絡みの何かを警戒すべきだと。
そして怪しい動きをはじめた他国と教会。
そこにディルタニア家の事件。
国内では役に立たないはずのキルネル国の暗殺人形。
いままでに輸入されることがなかったファクタ国の糸とストル国の糸。
町中に現れた魔獣かピード国の獣人族のクロヒョウ。
テオドールの手紙から、姉のイーディスが他国の王族や権力者とつながりを持っていると報告が来ている・・・
十中八九、イーディスから国の情報を得るのが目的だろう。
あとは、エアルドラゴニア国内にいる内通者で先導者の隠れ蓑にされるかもしれない。
情報が足りない現時点では安易に考えるべきではないが、各国が共闘してエアルドラゴニア国を狙いにきている。
そしてそれを煽っている存在が国内にいる。
長きにわたり戦争をせずにいた歴史が揺らぐのか・・・
これまでにも他国からの暗殺者が着たり、輸入や入国禁止して経済的な攻撃はあったが、エアルドラゴニア国は優秀な人材も武力も経済力、資源もあるので揺るぎもしなかった。
だから、エアルドラゴニア国を狙った攻撃は長続きしなかったし、何より、複数の国が共闘するようなことはなかった。
まもなく開催されるアルティミア祭。
「いままでの様にはいかないだろうな」
考えをまとめながら資料を作成をすすめるが、どう考えても後手に回っている。
祖父はどの程度把握してうるのだろうか・・・
「はぁ、明日にでもディルタニア家と話しておいたほうが良さそうだ」
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