緋色の華は、青い夢を見る
ゆらゆらと、暖かく心地よい場所でまどろむ様に漂う。
時々、流れてくる外の様子。
実体のないただの精神体の私は、この世に実体をなすその時をただゆっくりと待つ。
私には、私のほかに10体の兄弟姉妹がいる。
ときどき追加される情報からそのことを知る。
一人また一人と兄弟達が、実体を得て去ってゆく。
私は、一番最後に創られた。
故に、実体を持つことができるのは一番最後だろう。
ごめんね
その声を私はまどろんだ意識の中で聞いた。
悲しそうな声で、謝罪の言葉が私にむかってかけられた。
研究が、次の段階に移行したんだ
悔しそうにそう声は説明する。
君だけ、体を作ってあげられなかった
本当に、せつない声でそう告げる。
― 私は、どうなるの?
そう、聞くと、
君を破棄なんてさせない
強い意志が、宿る声でそう声が答える。
君をこれから僕の私的の研究施設に移行させる
― そんなことできるの?
自分みたいな存在は、とてもデリケートなモノだ。
おいそれと移行できないはず。
大丈夫、もうほどんど移行は完了しているあとは意識体の君だけ
すでに移行が、進んでいるとは露とも知らずまどろんでいた自分に少し驚く。
― どうやって、私を移すの?
そう、疑問を投げかけると
君は、眠っているだけでいい
優しい声で、声の主は言い、
次に目が覚めたときにはもう新しい場所にうつされているから
と、心配することはないと安心させる言葉をかけてくれる。
君に、贈り物をしよう
― 贈り物?
君に実体をあげられなかったお詫び
そう、前置きをして、
昔、見た風景映像のような青空色をした、君を愛し守ってくれる存在を君だけのために
― あ、おいそ、ら? 青い空 … …
次第に、意識が薄れてゆく。
意識に映し出されるのは、暖かくやわらかい日差しと雲ひとつない澄んだ青空。
その空の色を移した紺碧の海に漂う私。
ゆらゆらと穏やかな波にゆられ潮騒の音を聞きながら次第に意識が遠のく。
君が、実体を得るその時に必ず
その声を最後に私の意識は眠りに付いた。
断章であり過去のお話
※一応ここまでで完結とします