その者、青き空の色を持ちし者 6
「『ひいろ』のコ みつけたよ 」
サクラが、退出したあとすぐ俺は、Na-Beを召喚した。
緑竜型の相棒、Q-Me二九三こと『ニクス』が病室に転移してくる。
俺は、居てもたっても居られず、ニクスにあの緋色の薬人の少女の探索を頼んだ。
あのコがこの病室を出てからそう時間はたっていない。
まだ、院内のどこかにいるはずだ。
彼女がまだ無事であるようにと祈るように、ニクスの検索結果を待つ。
ニクスは、その俺の焦りを感じとったのか即、俺の精神回路にリンクして彼女の特徴を把握し、サーチし始める。
探索結果は直ぐに出た。
「 あのコは このフロアにある『センターガーデン』の しげみのなか で 泣いてるよ? 」
首をちょっと傾けながらニクスは、そう探査結果を報告する。
泣いている、俺が、泣かせてしまった
罪悪感が、広がった。
『モノ』扱いされている薬人。
それが、嫌いだった俺。
なにか禁忌に触れる気がして、いままで専属の薬人を倦厭していた。
姿容は、人と変わらず、感情があり、人格があり、痛みもかんじる。
彼らを『モノ』として見ることがどうしてもできなかった。
他人のために、自己を犠牲にして献身的に治癒を施すその姿を見るのが痛ましくて、辛くて、どうしても好きになれなかった。
けれど
彼女に出会ってから、俺の中で何かが変わった。
風と緑と青の安らぎと癒しの空間での邂逅。
精神世界での声だけの触れ合い。
あの安らぎが、ずっと欲しかった。
ずっと求めて、手に入らなかったもの。
これからもずっとあの安らぎを感じていたい。
彼女を手に入れたら、あの安らぎはずっと自分のものになる。
それは、確信
右腕の管を力任せに引き抜くと、医療機器から警告音がけたたましく鳴り響いた。
俺はベッドから降り、ふらつく体を叱咤して病室を出た。
壁伝いに中庭へと向う。
俺のいた病室から中庭はすぐのところに存在していた。
中庭、というより、ちょっとした温室のような感じだ。
適度な茂みと木々の合間に休憩用のベンチがあり、空調が整えられた空間。
天井には温室のように見えるように擬似天井が映し出されている。
そこに俺以外の人影はない。
それは、中庭だけではなくこのフロア全体的に言えることだった。
あまりにも人の気配も物音もなさすぎる。
そんな状況下で、そうたいして広くないこの空間で、彼女を見つけ出すことは簡単なことだった。
茂みの陰に小さな体を折るようにしゃがみ隠れていた。
きっと、あの医師の元から逃げ出してきたのだろうと予測できる。
彼女の体は痛ましいぐらいに小刻みに振るえ、声を殺して泣いていた。
俺は、たまらずそっと彼女を抱き上げ、抱きしめ、
「……すまなかった」
と彼女の耳元で、俺は謝罪の言葉を告げる。
彼女は、目に涙を浮かべたまま呆然とした顔で俺を見つめていた。
知らなかったでは済まされない。
大量生産製の薬人とはちがい、彼女はどこから見ても専属用の薬人だ。
生きながら、薬剤還元処理を施され、破棄される。
痛みがわかり、感情を持つ彼女にとっては気が狂いそうな恐怖の末に命を絶たれるのだ。
ぞっとする。
彼女を抱きしめる腕の力を少し強め、
「赦してくれ、『緋蓮』」
もう一度、謝罪の言葉を言いながら俺が名付けた彼女の名前をそっと告げる。
彼女が一瞬震えた。
そっと、抱きしめる腕を緩めて彼女の顔をのぞくと、彼女は目に涙を浮かべながら俺の目を覘くように見上げた。
「俺と契約してくれ、緋蓮」
そう、俺は懇願する。
彼女は、一瞬きょとんとした表情を浮かべた。
が、俺の言ったことを理解したのか、彼女は肯定するように首を縦に振り、花がほころぶ様な笑顔を浮かべ、「了解しました。 私のご主人様」そう、答えた。
もうすこしでこの章が終わります
【用語補足】
Na-Be
・情報、医療、話し相手等、登録された主人のサポートをするロボット
・使える主人によって調整される
・超AIを備えており感情表現は豊富でまれに擬似人格をもつものも居る