第88話 紙の質は…
「原液に戻す作業にかかる人数と職種にもよるんじゃねぇか?」
「そこは多分、色に拘らなければ、そこまでではなく済むかと…」
「だとすれば、尚更、色に拘る必要ねぇ気がするがなぁ。今ある紙産業に喧嘩売りたいわけでもないんだろう?」
「住み分け出来るのが良いと私は思います」
「それなら、そういう意味でも見た目で差を付けとくのは悪くないと思うがなぁ」
声を抑えて交わす会話だが、部屋の中の2人が聞き耳を立てているのは明らかだ。
先までしていた物音すら聞こえてこない。
「紙の質が下がったとしても?」
「書けるんだろ?」
「ペン先が引っかかる感じはあるかもしれません」
「土に書いてる方が引っかかるだろ?」
「あれは引っかかるというよりは彫るように書いてますから……」
「そうだな。それに品質、というなら溶かし直す度に下がるんじゃないのか?」
「そこも検証中となります」
「検証、ねぇ」
「何度、溶かし直せるか。その度に品質、量はどう変化するか。そこから新品用の素材や溶かし直しの回数毎の混合比率を変えることで品質や量を保てるか、等ですね」
「研究機関かよ…そんなの専門職に任せとけよ…」
「故に紙産業の方を招いております」
「…そうじゃなく、丸投げしちまえよって事だ」
「丸投げするには手探り過ぎて…」
「あぁ…出来もしないかもしれない事業に手を出してる場合じゃねぇと?」
「今でも安定している、とは言い難いようで…」
「それ、材料の調達問題じゃねぇのか? だとすれば、この誘いを蹴るのは商機を逃す行為だと思うんだがなぁ」
「人材確保との兼ね合いもありそうですが…」
「いや、競合しそうでしない事業だろう?」
「それ故の新たな人材確保や雇用形態と諸々、構築しなくてはならない事が多く、手を付けられないようでして…」
「あぁ…余裕がないとこにそれはキツいか……」
「はい…ですので、作業内容くらいは、こちらで確立すべきではないか、という話になりまして」
「言い出しっぺだからか?」
「それもありますが…」
「専売か?」
「いえ、逆かと…」
「あぁ、広めたいのか」
「広く周知出来ないと回収も出来ないだろうと…」
「確かに、そういう意味でも秘匿するより公開する方が良い、と」
「…そういう意味でも?」
「作業内容の確立を秘匿に近い形でやってんのは公開時の要項を決める時の優位性の為かと思ったんだがな…?」
……流石の先読みだな。
本当に何故、この人、ただの冒険者、なのだろうか?
内心で首を傾げていると足音がした。
「何故、そんなところで内緒話をしているのです?」




