探検と襲撃
「やっぱりそうだ! これって、もしかしてもしかしなくてもアイテムボックス的なあれよね〜〜!」
持っていた透明な石が一瞬消えて、そう叫びながら空っぽになった手を見つめる。
「ええと、だけどどうやったら出せるんだろう?」
今度は少し考えてまた口を開く。
「さっきの透明な石、出てこい!」
……沈黙。
「あれ? ええと、じゃあ……最初の透明な石、出てこい! 出た〜〜〜!」
今度は、最初に消えて無くなったあの透明な石が手の中に戻っている。
「ああ、何となく分かった気がする」
そう呟いてもう一度その石をアイテムボックスに入れてみる。もう入れるのは楽に出来る。そして確かに何となくだけど、中に入ったのが分かる。
言ってみれば、自分の背後に大きな戸棚があるみたいな感覚だ。
「じゃあ、これも入れてみよう」
そう呟き、パンの木の所へ行って、ちょっと苦労して茶色いのと白いのを二個ずつ確保した。
「時間が経つとどうなるか。これは検証してみないとね」
そう言って、次にあのレッドベリーの茂みへ向かう。
そこでは全部で二十粒集めてそのまま収納した。これはパンの実と同様にどの粒って認識は無かったらしく、何度か出し入れをしてみてそれを確認した。
それから、泉へ行ってあの綺麗な透明の石も全部で十個集めて収納した。これは一から十まで数を言いながら収納してみた。
「一番の石出ろ! よし出た!」
どうやらあの石は個別に認識しているらしく、二番、三番って感じに名前を言えば出し入れする事が出来た。
「じゃあ、お弁当が出来たところで、あとは飛ぶ練習ね」
少し見慣れてきた綺麗な瑠璃色の空を見上げて深呼吸をすると、翼を大きく広げて飛び上がった。
その後は、何度か森の外周をゆっくりと弧を描くみたいにして飛び回り、練習を兼ねて周囲の様子を観察した。
だけど少なくとも私が飛んで見える範囲には、あの祠のような人口の造形物はどこにも見当たらなかった。
太陽が高くなったので、一旦祠に戻って昼休憩をしてパンの実とレッドベリーを収穫して食べる。それから泉でしっかりと水を飲んだ。
「どうしようかなあ。迂闊に島から離れてまた上昇気流に乗ったりしたら……」
ここにいれば生きていくために必要な最低限の水も食料も、それから寝る場所も確保出来ている。だけど少なくとも見える範囲に何もないと分かった以上、ここにいてもこれ以上の未来は無い。
「よし、何とか戻れる範囲で飛ぶ練習をしつつ、周囲の島も見てまわろう。もし、戻れないくらいに飛んじゃったら、その時はその時よ!」
正直安全なこの島から離れるのは怖いけど、ここにいても仕方がない以上選ぶ道は一つしかない。
喝を入れるみたいに自分の頬を叩き、瑠璃色の空を見上げる。
「じゃあ、次は思いっきり飛んでみよう!」
そう言って大きく翼を広げて地面を蹴って飛び上がる。
そのまま力一杯羽ばたいて島から飛び出す。
「やっぱり、上昇気流がある〜〜〜!」
最初は島の周辺を飛び回っていたんだけど、ある程度島から離れると突然上昇気流に捕まって、私の体ははるかに高い上空まで一気に舞い上がった。
「じゃあ、あの滝がある島へ行ってみよう!」
目の前に迫った、小さいけれど一つだけ滝が流れる浮き島目指して羽ばたく。最悪でも水は確保しよう作戦だ。
「よし、着地成功!」
かなり飛ぶ事にも慣れてきたみたいで、今度はなかなか上手く着地する事が出来た。そして、飛んでも怖く無くなってきた。
「ううん、ここは案外小さな浮き島みたいね」
中央部分に直径5メートルくらいの水が湧く泉があり、そこから流れた水がそのまま川になり滝になって流れ落ちている。周囲はまばらに木が生えているだけで、レッドベリーの茂みも、パンの木も見当たらなかった。
「ここの泉にも、あの透明な石が沢山ある……」
一見ただの透明な泉だけど、手を突っ込んでみて分かった。水面すぐ下まで、あの透明な石がぎっしりと泉を埋め尽くしているのだ。
「これ、綺麗だけど何なのかしらね? 冷たくないから、氷ってわけでもなさそうだし」
疑問に思いつつも、ここでも適当に透明な石を幾つか収納してみた。
「ううん、入れられる容量は相当あるみたいね。全然いっぱいになった気がしないわ」
ここで水を飲んで喉を潤してから、少し休憩してまた別の浮き島へ行ってみる。
「あの、かなり高い位置にある大きな浮島を目指してみよう。いかにも誰かいそう」
多分、昨日私が夜を過ごしたあの滝のある浮き島よりも巨大な浮き島。
人がいる可能性が高い気がして、今日はあそこまで上昇するのを最終目的に決めた。
「ううん、一直線にあの浮き島まで飛ぶのはかなり無理がありそう。となると、向こうに見える小さな浮き島に一度着地して休憩してから、あの奥の滝のある小さな浮き島へ行くのが正解……かなあ。まあ上昇気流があれば、もっと高くまで飛べるだろうから、頑張って飛んでみよう」
立ち上がって服についた枯れ草を払った私は、また翼を広げてまずは中継地点に定めた小さな浮き島目指して思いっきり羽ばたいて飛び上がった。
二箇所の中継地点の浮き島を無事にクリアーして水を飲んで一息ついた私は、さっきよりもかなり近くなった巨大な浮島を目指して改めて一気に飛び上がった。
「ううん、この辺りは上昇気流が無いよお」
島の周辺を何度か周回してみたが、あの一気に体が持って行かれるような強い風の流れが無い。
「もう少し離れてみるか。じゃあ……あ、ちょっと大きな浮き島発見! 緑もあるしあそこへ行ってみよう」
適当に見回していて目に入った割と大きな浮き島を目指して飛んでみる。
その時、突然すぐ近くで羽ばたく音がして私の体は何かに捕まえられた。
もう完全に体を捉えられていて全く身動きが取れない。当然羽ばたく事なんて不可能。
「ええ! 何!」
何が起こったのか全く分からずに悲鳴をあげようとした瞬間、大きな手に口を塞がれた。
「静かに。声を上げるな」
低い、間違いなく男性の声。
そして完全に捕まえられて身動きも取れない私の体。
だけど、また羽ばたきの音がした直後、いきなりものすごい速さで飛び始めた。
そして。背後から聞こえる何かの雄叫びのような物凄く大きな鳴き声。
あんな恐ろしい鳴き声を私は知らない。
まるでジェットコースターに乗っているみたいな突然の浮遊感といきなり感じる強い重力。ただ振り回されるしかない、口を塞がれたまま身動きの取れない私はパニック寸前だ。
恐らく、私を捉えた誰かがものすごい速さで上下しながら飛んでいるらしい事だけは分かったけど、そんなの何の慰めにもならない。
急に方向転換していきなり垂直に上昇する。一際強い重力を感じて、あまりの衝撃に意識が遠くなる。
ここで気絶でもしようものなら、最悪、このまま殺されても抵抗出来ない。
目の前の硬い何かに捕まって、私は必死になって意識を保てるように歯を食いしばっていたのだった。




